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最大出力⁉︎

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的の存在がすっかりと消え失せた場所の地面は、これでもかというほどに抉れ、もうもうと土埃が舞っていた。
「これは……凄まじいな」
「……マジかよ。護身用の武器にしちゃえげつねえだろこれ。念のため結界張ってて正解だったぜ」
しばらくしてから、お父様が愕然とした様子で的のあった跡から目を離さないまま呟き、白虎様は顔をひきつらせながらマリエルちゃんの手元のステッキと的があった場所を交互に見つめていた。
白虎様、結界魔法を展開させてたのか……グッジョブすぎる!
道理で激しい爆発音がしたわりに屋敷の警備兵や使用人が駆けつけてこないはずだわ。

「ひ、ひえぇ……」
マリエルちゃんがヘナヘナとその場に座り込むと、バランスが悪くなったらしくマリエルちゃんの肩からルビィが飛び降りた。
「ちょっと! 何へたりこんでるのよ?」
「こ、ここ腰が抜けちゃって……」
「はあ? 魔法を打つ度に腰抜かしたりしてらんないのよ? シャキッとしなさい!」
「む、無理ぃ……!」
ルビィの喝にマリエルちゃんが涙目で答える。
いやそりゃ確かにアレは無理だわ……
大量殺人兵器になりかねないもの。

「うーん、とりあえず最大出力にしてみたけど、こりゃ使う場面が限られるな。同時に展開させてる防御魔法で反動は相殺できてるはずだから……嬢ちゃんにケガはねぇよな?」
オーウェンさんがへたり込んでいるマリエルちゃんにスタスタと近寄り、全身を観察してケガがないのを確認し、震える手から指を一本一本剥がすようにしてステッキを引き抜いた。
オーウェンさんのあまりに平常運転すぎるテキパキとした動きに唖然としていると、ガルバノおじさまがオーウェンさんの隣に立ち、手元のステッキを覗き込んた。
「だから言ったろうが。魔法を一回打ち込むのにあれだけの魔石ひとつ分の魔力をほぼ使い切ればこうなるのは目に見えとろうに」
ガルバノおじさまがフン! と鼻を鳴らす。
「しかしだな、最大値の結果を見てからじゃなきゃ最適値を判断するのは難しいだろ?」
「……おぬしがその程度の調整ができんはずないじゃろ。大方、最大値の威力がどんなもんか検証結果が知りたかっただけに決まっとる」
「ばれたか」
ばれたか、じゃないでしょ⁉︎ オーウェンさぁん⁉︎
あの特上の魔石一個分の魔力をほぼ全部使っての最大出力って、何考えてるの⁉︎
「まあアレだ、最大出力はとっておき、いざという場面で使うってことにして……じゃあ今度はこれでいってみよう!」
オーウェンさんが手元でゴソゴソとステッキのどこかを動かして、再びマリエルちゃんの手に握らせた。
「む、無理ですぅ! で、できません!」
マリエルちゃんはすっかり怯えてしまったようで、ステッキを取り落とし、半泣きで訴えた。

「マリエル、泣き言ほざいてんじゃないわよ! 大した攻撃手段や防御方法も持たないアンタに拒否権はないわよ。元々はワタシのために作ったステッキだけど、これはいざという時にアンタを護るためのものでもあるの!」
「だ、だって、こんなこわい武器になるなんて、思ってなくて……」
マリエルちゃんの目から今にも涙が溢れ落ちそうだ。
……変なトラウマになる前に止めたほうがいいかも。
オーウェンさんにはガルバノおじさまやティリエさんに後でこってり叱ってもらわなきゃ。
そう思った私がマリエルちゃんに近寄ろうとしたところ、ルビィがステッキを拾い、マリエルちゃんの手をそっと取り、ステッキを握らせた。

「……マリエル。ワタシはできる限り貴女を護りたいと思ってるわ。でも、何事にも完璧な護りはないの。ワタシが助けられない場面だってきっとあるわ。だからお願いよ、貴女にも自身を護る術を身につけてほしいの。ワタシにいざという時、貴女にこれを使えるようにさせておかなかったことを後悔させないでちょうだい」
「ルビィ……」
「それに、ワタシたちがお互いを護れるようになれたら、最高で最強だと思わない?」
ルビィが器用にウインクしてみせると、マリエルちゃんがぐっと潤んだ目元をぬぐい、立ち上がった。
「……わかりました。頑張ります!」
「うふふ、それでこそワタシの相棒よ! さあ、誰か早く新しい的を用意してちょうだい!」
ルビィがそう言ってお父様を見やると、ビクッと怯んだものの、お父様はすぐに諦めたように私を振り返った。
「クリステア。すまないが其方の土魔法で壁を作ってくれ……できる限り、最大限に、硬い壁を」
「えっ⁉︎」
わ、私が作るの?

「あら、お願いね、クリステア!」
ルビィが立ち上がったマリエルちゃんの肩に飛び乗り、早く早くと私を急かした。
うぐぅ……せっかくマリエルちゃんがやる気になったことだし、その気持ちを萎えさせるわけにはいかないか……
皆の注目を浴び、仕方なくテクテクと的のあった場所まで歩いていく。
土埃は落ち着いたものの、深く抉れた地面を見てゾッとした。
これは、人に向けていい威力の魔法じゃないでしょ……ステッキの防御魔法と白虎様の結界魔法で爆発した範囲は狭まっていたようだけど、結界魔法がなかったら的の向こうのさらに奥まで爆発の影響があったかもしれない。
オーウェンさんが王都から離れなきゃいけなくなったのは、魔導具愛だけじゃなくて、限度を知らないやり過ぎ&やらかし案件が多かったからなんじゃ……⁇

オーウェンさんの魔導具狂いの噂の真相を確認する必要性を感じながらも、的の手前でしゃがみ、地面に手を置く。
マリエルちゃんのために的を設置するための硬い土壁を作るべく完成形を詳細に想像する。
ええと、硬い壁……というと、ストーンウォールが一般的だと思うけど、前世でいうところの分厚いコンクリートとかそういうのがいいかな?
鉄筋コンクリートのほうがより頑丈そうだけど、生憎と鉄の素材はここにはないし……
うーん、硬い壁、硬い壁……手前の壁は垂直に、奥は下に向かって厚みを持たせて安定させる……
前世のコンクリートを想像しつつ、さらにギュッと土を圧縮し硬くなるイメージで魔力を流すと、ゴゴゴゴゴ……と地面がせりあがり、がっちりと硬そうな壁ができた。よし、前後の抉れた地面も均したし、これなら大丈夫でしょう。

「へ……? な、なんだアレ⁉︎ ストーンウォールにしちゃえらく頑丈そうなんだが⁉︎」
「はあ……クリステアちゃんったら、相変わらずすごいわねぇ」
「うむ。さすがは嬢ちゃんじゃ」
「ちょ、待てよお前ら⁉︎ あんなの見てその反応かよ? どう見てもおかしいだろ⁉︎ 普通あんなガキ……いやお子様……いやうら若きご令嬢があんなゴリッゴリに硬そうなストーンウォール作るとかねえだろ!」
オーウェンさんが放心しながらも即座に我にかえったものの、ティリエさんとガルバノおじさまのリアクションに納得できないようでギャアギャアと反論していた。
いや、あんな魔導具作る人に言われたくないんですけど⁉︎
どう見ても硬くて頑丈なだけの、ただの壁ですよ! おかしくないでしょ!

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文庫版はそれぞれ巻末に書き下ろし番外編が収録されております。
書き下ろし番外編が読めるのは文庫版だけですのでぜひぜひ!
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