転生令嬢は庶民の味に飢えている

柚木原みやこ(みやこ)

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梅仕事がひととおり終わり、後は時の経過にまかせるだけの状態となってからしばらくして、お父様を経由してガルバノおじさまから例の物ステッキが完成したと連絡が入った。

「そういうわけで、またこの週末は領地に行こうと思うのだけど。皆の予定はどうかしら?」
夕食の席で尋ねると特に予定はないとのことなので、前回と同じように週末の外出許可を取り、授業が終わり次第我が家へ向かうことになった。

ステッキを受け取るだけなら我が家の使用人がおじさまのお店に受け取りに行き、転移陣で荷物を転送してもらえばいいのだけど、動作確認が必要だからマリエルちゃんとルビィが行かなくちゃいけない。

当然ながらマリエルちゃんたちだけで我が家の転移部屋を使わせるわけにはいかないので私や黒銀くろがねたちの付き添いは確定。

セイもガルバノおじさまとの武器談義が楽しかったようで、私たちがよければ同行したいとのことでもちろん快諾。
……となれば、白虎様と朱雀様が護衛として付き添うわけで……はい、いつも通りのメンバーですね!

お兄様もお誘いしたけれど、王太子殿下の護衛兼付き添いで今回はやむなく欠席。
「週末に殿下が体調を崩せば……」なんて物騒なことを呟いていたけれど、まさか……一服盛ったりしたりなんてことは……ないわよね⁉︎
私が不安そうにお兄様を見ていると「ああ、殿下は鑑定スキル持ちだし、暗殺対策に解毒や回復効果のある魔導具を常に身につけているから体調を崩すことはないよ。だからいつも健康そうだろう?」とのこと。
今回ばかりは残念ながらね、とポソリと呟いたのはきっと空耳だろう。

「そういえば、ステッキを手に入れたら修練場の使用許可を取らないとね」
マリエルちゃんの膝に座ったルビィがおやつの野菜スティックをポリポリと齧りながら言った。
「え、え? 修練場って……なぜ?」
ルビィは修練と聞いてビクッと反応したマリエルちゃんにもたれかかるようにして見上げ、呆れたように食べかけのにんじんを最後までポリポリポリッと齧って口の中に収めた。

「むぐむぐ……ん、前に言ったでしょう? ワタシのステッキをマリエルが武器として使えるように連携込みで特訓するわよ」
ルビィはそう言ってカットされたキャベツを手に取り、バリバリと食べ始めた。
「えええ……そんな武器とか物騒な……」
「丸腰のほうがよっぽど危ないわよ。ワタシと契約したことで変なのに狙われるかもしれないんでしょ? いざという時の対策はしとかないとね」
「うう……いざという時なんて、学園ここにいたら早々起きませんよぉ」
学園ここに引きこもってるわけにもいかないでしょうに。つべこべ言わずに許可を取っときなさいよ」
「ふぁい……」

がくりと項垂れるマリエルちゃんの髪がバサリとルビィに降りかかると「ちょっと、邪魔よ!」とルビィの耳がビビビッと震えてマリエルちゃんの顔に当たった。
「ぶぶっ⁇ ご、ごめんルビィ」
「アンタはワタシのご主人様なんだから、堂々としてなさいよね。変な輩に捕まったりなんてのも許さないわよ。しっかりしなさい!」
ルビィの喝でマリエルちゃんの背筋がビシッとなった。
「は、はいっ!」
「それでよし」
ルビィは満足そうに頷くと再びにんじんスティックを手にしたのだった。
あの二人は主従関係が逆転してる気がしてならないわね……

「修練場の使用許可?」
ルビィとのやりとりがあった翌日。
今日は授業が終わればミリアに手配をお願いしていた迎えの馬車が正門で待機しているはずだ。
休み前の今日のうちに申請しておかないと休み明けすぐに使えないかもしれないとセイのアドバイスを受けたマリエルちゃんに付き添い、朝食を摂りにきたニール先生を捕まえて質問した。

「は……はい。私たちで魔法の訓練がしたくて」
「ふむ。確か休み明けの午後は修練場を使う授業はなかったと思うけど……君たちも午後の授業はなかったよね?」
「はい!」
「じゃあ後で申請書を渡すよ。付き添いは誰か決まってる?」
「付き添い……ですか?」
「うん。新入学生たちだけで修練場の使用許可は出せないよ。修練場の結界魔法の起動や魔法の暴走など、いざという時のために監督役が必要だ」
「監督役……」
「基本は上級生か院生、後はその時間に授業中がない教師の誰かだね」
ニール先生の言葉に心当たりがないマリエルちゃんがオロオロしている。
うーむ、監督かぁ……お兄様にお願いしてみる? 
無理そうなら他の上級生……王太子殿下は論外だし、ええと……ヘクター様とか?
いや、ヘクター様はやめとこう。
マリエルちゃんが疲弊しそうだ。

後は、ええと……
「えー、ゴホン。何なら僕が監督をしても……」
「え、ニール先生は午後から上級生の授業がありましたよね?」
ニール先生の申し出に私は反論した。
確か本人から上級生の授業も受けないかと誘われたことがあるから覚えている。
「え? あ、いやあ……たまには休講にしてもいいかなって……」
「……ニール先生は! お仕事を! してください!」
「は、はい……」
しょんぼりと肩を落とすニール先生を無理矢理教員棟へ送り出し、私たちも身支度を整えて教室へ向かった。
ニール先生のことだから、私たちの修練を監督する合間に聖獣の皆様との交流を目論んでいだのだろうけれど……まったくもう。

教室で授業が始まるのを待っていると、ニール先生とマーレン師……先生がやってきた。
マーレン先生がニール先生から何やら紙切れを引ったくると、私たちのところへやってきた。
「おお、クリステア嬢にマリエル嬢。修練場の件じゃが、わしが監督してやろう」
「えっ、よろしいのですか?」
「構わんよ。あの時間はわしも暇しとるでな。クリステア嬢の成長具合も確かめられて元家庭教師としてはちょうどいいわい」
マーレン先生が呵呵と笑いながら請け負ってくださったので訓練をサボり気味な元生徒の私は嫌な汗をかきつつもこれ幸いとお願いし、そのまま申請書を書き上げ提出したのだった。

背後から「マーレン先生の、監督? 直接指導……⁉︎」と声変わりがまだのはずのロニー様が発した低い声が聞こえたのは……気のせいじゃない。ひえっ⁉︎

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レジーナブックスの新刊情報に書影がアップされましたのでご報告!
二月上旬に文庫版「転生令嬢は庶民の味に飢えている」四巻が発売します!
書き下ろし番外編も掲載されていますので是非!
今回の書き下ろしの主役は誰なのか、ぜひ予想してみてくださいね。

ちなみに文庫版一巻はミリア、二巻はティリエ、三巻はマリエル視点の書き下ろし番外編が収録されております!

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