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お待ちかねのアレがやってきた!

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私が歓喜に打ち震えていると、その様子を不審に思った皆が木箱の周囲に寄ってきた。
「クリステアさん、いったいどうしたんですか……わあ、青い実がいっぱい⁉︎」
「ん? これは……」
マリエルちゃんとセイが木箱いっぱいの青い実にびっくりしている。

そう、木箱の中身は青々とした梅……青梅!
「お嬢が前に梅干しを買った時に約束してたとかなんとか言ってたけど……」
「ええ! 梅の実をいただく約束をしていたの」
「そんならいいけどよ。去年も渡そうとしたけど、熟したのを渡そうとしたらヤハトゥールから荷物を運んできたばかりのやつが王都に運んでる間に傷むし、材料や道具が足りねえからって止められたらしい」
「材料?」
白虎様の言葉にはて? と思っていると、白虎様はインベントリからたくさんの大きな平たい盆ザルや甕に竹串、赤黒い葉がわさわさと繁った束を取り出した。
「あと、粗塩な」
どすん、とこれまた大きな甕に入った粗塩が床に置かれた。
「こ、これは……!」
確かに梅干しを漬けるのに不可欠なものばかり!

「今回は梅の季節に合わせてヤハトゥールから持ってきたんだとさ。こいつは鉢植えで枯らさないようにするのが大変だったってよ」
バサッと手渡された先ほどの葉っぱの束は赤じそだ。
青じそは採取で見つけたことがあるけど、赤じそは確かに見つけられなかったのよね。
うんうん、梅干しにはこれがないとね!
「一応、こいつの種子も渡しとくってさ。気が向いたら栽培してくれだと」
うわぁい! 赤じそのタネ!
これは来年用に領地か王都の屋敷で栽培しなくては!
それに、梅干し用の甕や干すための盆ザルまで用意してもらえたのは本当にありがたい。
これがなければ何で代用するかまず考えるところから始めなきゃいけなかったもの。

「そっか、これ梅かぁ……そういえば梅酒にこんなの入ってたっけ……」
マリエルちゃんがポツリとつぶやいた。
前世で飲んでいたのを覚えていたらしい。
マリエルちゃん、青梅見たことないのかな?
「クリステア嬢、梅干しなんて作れるのか?」
セイが心配そうに私を見る。
まあそうよね、セイから見た私は相当なヤハトゥールかぶれだと思われているだろうけれど、梅干しまで作れるとは思うまい。
まあ、ちょっと記憶が曖昧な部分はあるけど何とかなるでしょ。うん。
「ああ、それについちゃこれを渡してくれって預かった」
白虎様がセイの発言で思い出したように懐から手紙らしきものを取り出し、私に差し出した。

パラリと開いてみると、梅干しの作り方がドリスタン語で書かれていた。
青梅を追熟して完熟梅にしてから漬ける方法と青梅のままアク抜きをして漬ける方法も書いてあった。
「わあ、これがあればばっちりね! ……あら?」
二枚目には梅酒の作り方が書いてあった。
これはぜひお父様に作って差し上げてください、とあった。
そうよね、これだけあれば梅干しだけじゃなくて梅酒や梅シロップを作ってもいいかも。

……ん? 作り方の最後に「お渡しした酒は酒精が強いので決して成人するまでは飲まれませんよう。また、ドリスタンの酒精の強い酒で作ってもよろしいかと思います」とある。
「……白虎様。お酒も預かっていませんか?」
「へ? あ、あー。そういや酒も渡されたっけな? でも、ガキンチョのお嬢たちは飲めねぇんだから、俺が飲もうかと……」
ぎくりとした様子の白虎様をセイが睨みつけると、しどろもどろで言い訳を始めた。
「トラ。渡されたものを全部出せ」
「うぐ、わかったよ……ほら」
白虎様が渋々出したお酒は、匂いからして焼酎らしきものだった。
うん、これとドワーフが好きな火酒で作ってみようかな。

砂糖はこちらで手に入るものだからか、さすがに用意されていなかったけれど、そこまで甘えちゃうのは申し訳ないものね。
それにしても、この辺りで採れるのは岩塩が主だから粗塩……海の塩はありがたいわ。
……もしかして、頼めばにがりも用意してもらえるのかしら?
あれがあれば、豆腐が作れるのよねぇ。
今度聞いてみようっと。
そう思いながらヤハトゥール産の焼酎をインベントリにしまうと、白虎様があからさまにガッカリした顔で私を見ていた。
……いやあげませんよ? 梅酒用だもの。
梅酒が完成した暁にはおすそ分けしますから、今は我慢してください。

「さあ、これから忙しくなるわよ! 皆、手伝ってくださいね!」
ふふふふふ……と、怪しい笑みを浮かべて皆を見ると、セイはわかっているとばかりに頷き、マリエルちゃんや真白ましろたちはキョトンとしていた。
「もしかして、セイは梅仕事をしたことがあるの?」
「ああ、この季節には義母上ははうえやばあやたちがせっせと漬けていたのを手伝っていたからな」
セイが懐かしそうに言った。
育ての親である武家のお家でも梅仕事はあったのか。
セイの様子を見るにいい思い出のようだから、そのお家でセイは大切に育てられたんだろうな。

「梅仕事って、何ですか?」
マリエルちゃんがハイ! と手を挙げて質問してきた。
うむ、いい質問だね、マリエルくん。
「梅仕事……それは、美味しい梅干しや梅酒を作る上で手間ひまをかけて行う、大切なプロセス。皆で頑張りましょうね!」
ガシッとマリエルちゃんの両手を握るとひくりと頬をひきつらせた。
「ぐ、具体的には何をするの……⁉︎ 私でも、できること?」
ああ、マリエルちゃんは料理が苦手だから、それを危惧していたのね。
「そんなに難しいことじゃないわ」
私は青梅をひとつ手に取り、竹串を一本つまみ取った。

「ここの……ほら、黒いのが見えるでしょう? このヘタをひとつずつ竹串で実を傷つけないように取るだけよ?」
私が実際に竹串で梅のヘタを取って見せると、マリエルちゃんが安堵したように笑った。
「なあんだ。それなら私でも簡単にできそう」
マリエルちゃんの言葉に、セイが少し真顔になった。
「ああ、そうだな。簡単だ。だが……」
「え?」
「あの箱の中身……全部、だぞ?」
「あの中身……ぜ、全部⁉︎」
マリエルちゃんが強張った顔でぎっしり詰まった木箱を見た。
うん。そうだね、全部だね。
「さあ、ぐずぐずしてると実が傷んでしまうわ! 総出で梅仕事頑張りましょう?」
皆の顔が引きつったように見えたけど、美味しい梅干しのためだもの。
皆でやればあっという間に終わっちゃうわよ。大丈夫、大丈夫! ……多分!
さあ、頑張ろー!

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木箱いっぱいの梅……梅仕事の途中から、皆の目が しんで いたのは きっと 気のせいじゃ ない……
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