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上客ルビィ様
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しばらく職人二人とルビィで話し込んだり、マリエルちゃんの手のサイズを測ったりした後、最終的な仕様が決定したようで、オーウェンさんとルビィの握手というシュールな場面が展開された。
「よし、じゃあこの仕様で製作するとして……ガルバノが素体となるステッキを作ってから俺が術式を組み込むから、しばらく時間をもらうぜ?」
「ええ、いいわ。あ、そうそう、これ前金として渡しておくわね」
ルビィがインベントリから取り出した魔石をザララッとテーブルの上置くと、オーウェンさんが口をあんぐりと開けてそれを眺めた。
「こ……これは?」
「あら、報酬は魔石がいいって聞いてたんだけど、もしかしてお金のほうがよかったかしら? それなら……」
ルビィがお金が詰まっているらしき大きな包みをジャラジャラ言わせながらインベントリから取り出しかけるとオーウェンさんがまったをかけた。
「い、いや魔石がいい! ま、前金ってことは納品の時も……?」
「ええ。これらはワタシにとっては大した魔石じゃないし。納品時は同程度のものをこの倍……そうねぇ、出来によってはもっと質のいい魔石を渡すのもやぶさかではないわ」
「誠心誠意、作らせていただきますッ!」
オーウェンさんはガンッとおでこをテーブルにぶつけながら頭を下げた。
「……オーウェン、その態度はちと大袈裟じゃないか?」
「馬鹿野郎! これだけの品質の魔石なんて近頃はそうそう出てこねぇんだ。上客も上客だぞ⁉︎」
「おほほ、丁重にもてなしなさぁい?」
ルビィが胸を張って高らかに笑うのをマリエルちゃんが慌てて止めて「す、すみません!」とペコペコ謝りながら抱き上げた。
「いや、こっちこそオーウェンがすまんな。じゃあ今日のところは帰ろうかの」
ガルバノおじさまがよっこらせと立ち上がるとオーウェンさんが待ったをかけた。
「まだ時間はあるだろ? せっかく魔導具談義ができる機会なんだからゆっくりして行けよ、な?」
「いやいや。嬢ちゃんたちも暇じゃないんじゃ。魔導具狂いに付き合っとる時間なんぞないわい」
ガルバノおじさまが盾になっている間に私たちはそそくさと店から出た。
「主、ここにいたか」
店から出た途端に黒銀が転移してきた。
あっ、そうだった。オーウェンさんのお店は内緒のお客も来店するからって結界の魔導具を置いてるんだった。
「ごめんね、黒銀。探させちゃって」
「いや。ティリエが目的から察するに大方ここだろうと予測はしておったのだ」
なるほど。
「そうなの……で、そのティリエさんは?」
「ん? ああ……先刻まで彼奴の執務室で一緒にいたが?」
あ、置いてきたのね。
今頃ティリエさんが取り残されて嘆いているに違いないわ。
「おおい、嬢ちゃんたち。さっさと行くぞい」
ガルバノおじさまが「閉店」の札を下げて扉を閉め、スタスタと歩き始めた。
「あ、あの? オーウェンさんは?」
追いかけてくる様子がないのが逆に不安になって聞いてみると、おじさまがフン、と鼻を鳴らした。
「ヤツならぶん殴って寝かせてきた。寝不足で気が昂っておったようだしちょうどええわい」
いやよくないです。え、いま昏倒してるってこと?
「どうせティリエが黒銀殿を追いかけてここへくるじゃろうからあいつにまかせとけばええ」
そうおじさまに促され、気になりつつもおじさまの店に戻ったのだった。
おじさまの店に戻ると、おじさまがセイの武器の見立てをすると申し出た。
その間ぼんやり待つのはつまらなかろうということで私とマリエルちゃんで市場に買い物に出ることにした。
ルビィはマリエルちゃんの影に潜んで、人型の黒銀と真白、そして女性の付き添いも必要だろうと朱雀様がついてくることになった。
「……朱雀様、その格好は?」
「普段の姿では少々目立ちますので地味にしたつもりですけれど?」
朱雀様はメイド服に鮮やかな赤毛を三つ編みで一つにまとめた姿で、変装のつもりだろうか、かけた眼鏡をくい、と上げた。
いやいやいや。服装は地味でもダイナマイトボディはそのままじゃないですか。
めちゃくちゃ人目引いてますけど?
クエストを終え戻ってきた冒険者たちが朱雀様を見て「ヒュウ」と口笛を吹いたり、声をかけようとこちらをチラ見している。
だけど、黒銀がジロリと睨みつけた途端にそそくさと立ち去った。
黒銀ったら、殺気を飛ばしてるんじゃないの?
いかん、このままじゃ埒が明かない。
私は開き直って市場のある方へ歩き出した。
「マリエルさんは何か見たいものはある?」
「うーん、特には。今日はもう気疲れしちゃってそれどころじゃないっていうか。強いて言うならエリスフィード家謹製のベーコンかな」
それはわざわざ冒険者ギルドに行ってまで買わなくても我が家で作ってるからね?
まあ、王都なら大抵のものは揃うからしかたないか。
「クリステアさんは欲しいものはないの? 食材とか……」
「そうねぇ、香辛料の追加は欲しいかな」
カレーの材料になる香辛料は薬草の扱いになっているものが多いから薬草を置いている店や薬師ギルドに行かないといけないのだ。
王都では個人的に買いにいったことがないし、エリスフィード家が頻繁に発注して品薄にするのも気が引けるからここで買い足しておくのも手よね。
そう話すとマリエルちゃんが「カレーのことなら最優先ですよ!」と賛成してくれたので香辛料を買い漁ってから、行列ができていたベーコン入りスープの屋台でポトフもどきをいただいたりした。
ポトフもどきは薄いベーコンが数切れ入っていただけで、マリエルちゃんがしょんぼりしながら食べていたから近々分厚いベーコンがたっぷり入ったポトフを作ることにしたのだった。
その後はおじさまの店に戻ってセイを拾い、待機させていた馬車に乗り込んで屋敷に戻ったのだった。
---------------------------
あけましておめでとうございます。
本年も無理せず地道に書いていきますのでよろしくお願いいたします。
「よし、じゃあこの仕様で製作するとして……ガルバノが素体となるステッキを作ってから俺が術式を組み込むから、しばらく時間をもらうぜ?」
「ええ、いいわ。あ、そうそう、これ前金として渡しておくわね」
ルビィがインベントリから取り出した魔石をザララッとテーブルの上置くと、オーウェンさんが口をあんぐりと開けてそれを眺めた。
「こ……これは?」
「あら、報酬は魔石がいいって聞いてたんだけど、もしかしてお金のほうがよかったかしら? それなら……」
ルビィがお金が詰まっているらしき大きな包みをジャラジャラ言わせながらインベントリから取り出しかけるとオーウェンさんがまったをかけた。
「い、いや魔石がいい! ま、前金ってことは納品の時も……?」
「ええ。これらはワタシにとっては大した魔石じゃないし。納品時は同程度のものをこの倍……そうねぇ、出来によってはもっと質のいい魔石を渡すのもやぶさかではないわ」
「誠心誠意、作らせていただきますッ!」
オーウェンさんはガンッとおでこをテーブルにぶつけながら頭を下げた。
「……オーウェン、その態度はちと大袈裟じゃないか?」
「馬鹿野郎! これだけの品質の魔石なんて近頃はそうそう出てこねぇんだ。上客も上客だぞ⁉︎」
「おほほ、丁重にもてなしなさぁい?」
ルビィが胸を張って高らかに笑うのをマリエルちゃんが慌てて止めて「す、すみません!」とペコペコ謝りながら抱き上げた。
「いや、こっちこそオーウェンがすまんな。じゃあ今日のところは帰ろうかの」
ガルバノおじさまがよっこらせと立ち上がるとオーウェンさんが待ったをかけた。
「まだ時間はあるだろ? せっかく魔導具談義ができる機会なんだからゆっくりして行けよ、な?」
「いやいや。嬢ちゃんたちも暇じゃないんじゃ。魔導具狂いに付き合っとる時間なんぞないわい」
ガルバノおじさまが盾になっている間に私たちはそそくさと店から出た。
「主、ここにいたか」
店から出た途端に黒銀が転移してきた。
あっ、そうだった。オーウェンさんのお店は内緒のお客も来店するからって結界の魔導具を置いてるんだった。
「ごめんね、黒銀。探させちゃって」
「いや。ティリエが目的から察するに大方ここだろうと予測はしておったのだ」
なるほど。
「そうなの……で、そのティリエさんは?」
「ん? ああ……先刻まで彼奴の執務室で一緒にいたが?」
あ、置いてきたのね。
今頃ティリエさんが取り残されて嘆いているに違いないわ。
「おおい、嬢ちゃんたち。さっさと行くぞい」
ガルバノおじさまが「閉店」の札を下げて扉を閉め、スタスタと歩き始めた。
「あ、あの? オーウェンさんは?」
追いかけてくる様子がないのが逆に不安になって聞いてみると、おじさまがフン、と鼻を鳴らした。
「ヤツならぶん殴って寝かせてきた。寝不足で気が昂っておったようだしちょうどええわい」
いやよくないです。え、いま昏倒してるってこと?
「どうせティリエが黒銀殿を追いかけてここへくるじゃろうからあいつにまかせとけばええ」
そうおじさまに促され、気になりつつもおじさまの店に戻ったのだった。
おじさまの店に戻ると、おじさまがセイの武器の見立てをすると申し出た。
その間ぼんやり待つのはつまらなかろうということで私とマリエルちゃんで市場に買い物に出ることにした。
ルビィはマリエルちゃんの影に潜んで、人型の黒銀と真白、そして女性の付き添いも必要だろうと朱雀様がついてくることになった。
「……朱雀様、その格好は?」
「普段の姿では少々目立ちますので地味にしたつもりですけれど?」
朱雀様はメイド服に鮮やかな赤毛を三つ編みで一つにまとめた姿で、変装のつもりだろうか、かけた眼鏡をくい、と上げた。
いやいやいや。服装は地味でもダイナマイトボディはそのままじゃないですか。
めちゃくちゃ人目引いてますけど?
クエストを終え戻ってきた冒険者たちが朱雀様を見て「ヒュウ」と口笛を吹いたり、声をかけようとこちらをチラ見している。
だけど、黒銀がジロリと睨みつけた途端にそそくさと立ち去った。
黒銀ったら、殺気を飛ばしてるんじゃないの?
いかん、このままじゃ埒が明かない。
私は開き直って市場のある方へ歩き出した。
「マリエルさんは何か見たいものはある?」
「うーん、特には。今日はもう気疲れしちゃってそれどころじゃないっていうか。強いて言うならエリスフィード家謹製のベーコンかな」
それはわざわざ冒険者ギルドに行ってまで買わなくても我が家で作ってるからね?
まあ、王都なら大抵のものは揃うからしかたないか。
「クリステアさんは欲しいものはないの? 食材とか……」
「そうねぇ、香辛料の追加は欲しいかな」
カレーの材料になる香辛料は薬草の扱いになっているものが多いから薬草を置いている店や薬師ギルドに行かないといけないのだ。
王都では個人的に買いにいったことがないし、エリスフィード家が頻繁に発注して品薄にするのも気が引けるからここで買い足しておくのも手よね。
そう話すとマリエルちゃんが「カレーのことなら最優先ですよ!」と賛成してくれたので香辛料を買い漁ってから、行列ができていたベーコン入りスープの屋台でポトフもどきをいただいたりした。
ポトフもどきは薄いベーコンが数切れ入っていただけで、マリエルちゃんがしょんぼりしながら食べていたから近々分厚いベーコンがたっぷり入ったポトフを作ることにしたのだった。
その後はおじさまの店に戻ってセイを拾い、待機させていた馬車に乗り込んで屋敷に戻ったのだった。
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あけましておめでとうございます。
本年も無理せず地道に書いていきますのでよろしくお願いいたします。
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