上 下
272 / 382
連載

いかんいかん!

しおりを挟む
ガルバノおじさまたちが食事を終えた後、皆でマリエルちゃんたちが待つ店舗へ移動した。
「待たせてすまんかったのう。わしがガルバノじゃ」
「いっ、いえ! こちらこそ突然お邪魔して申し訳ありません」
「あらあ、ガルバノが貴女たちを待たせたことには変わりないんだから謝る必要なんてないわよ」
マリエルちゃんがぺこぺこと頭を下げるのをティリエさんが止める。
「ふぇっ? え、あの、は、はい!」
マリエルちゃんはガルバノおじさまの背後から突然現れたティリエさんを見てさらに挙動不審になった。顔が真っ赤だ。
そりゃあ目の前にいきなり見目麗しいエルフの男性が現れたら動揺もするわよね。
わかるわかる。
「え、あの、この方は……?」
マリエルちゃんが助けを求めるように私を見た。
「この方はエリスフィード領の冒険者ギルドのギルドマスターで、ええと……ティリエさんよ」
本名はティリエリエだけど、呼びづらいし、いいよね?
「ティリエよ。よろしくねぇ」
ティリエさんは気にする様子もなく、妖艶な笑みを浮かべてウインクした。
「は、はいっ! マ、マリエル・メイヤーで、です! よよ、よろしくお願いしましゅ、します!」
相変わらず人見知り発動すると噛み噛みなのよね、マリエルちゃん……
「で? そこにいる坊やたちは?」
ティリエさんが早速セイや白虎様をロックオンしたようだ。
「セイ・シキシマです。クリステア嬢の級友で、この度は鍛冶師のガルバノ殿を訪問すると伺い、同行させていただきました。隣にいるのは白虎と朱雀。僕の契約聖獣です」
「おう、白虎だ。よろしくな」
「朱雀ですわ。よしなに」
「あらまあ、貴方もクリステアちゃんと同じ、複数契約なのね。すごいわね」
「いえ、そんなことは……」
「でも貴方、どこかで見たことあるような……見た感じヤハトゥール人よね?」
ティリエさんがセイをまじまじと見つめて言う。
「え? はい、ヤハトゥールから来ましたが、それが何か……?」
「どこだったかしら……ああそうそう、バステア商会で貴方によく似た子を見たことがあるのよねぇ」
私はティリエさんの言葉にぎくりとした。
それはおセイちゃんの姿をしていた時にセイと会ったことがあるってことよね?
「……そうですか。バステア商会には一時期僕の従妹が滞在していましたからきっと彼女でしょう。従妹なだけあって、僕とよく似ていますから」
セイは動じることなくにこやかに答えた。
ヤハトゥール人は見分けがつきにくいからそれで押し通すつもりね。
「従妹ねぇ……ふうん。まあいいわ、よろしくね」
ティリエさんは何やら含みのある笑みを返した。
……ティリエさん、何か勘づいてそうなんだけど。こわっ!
「ティリエよ、おぬしも仕事があるだろうが。早よう行け」
ガルバノおじさまはティリエさんの肩をぐい、と押して出ていくよう促す。
「あん、もう! ちょっとぐらい遅れても大丈夫よぉ。別に来客の予定はないしぃ?」
ティリエさんはよろける様子も見せず、居座る気満々の様子だ。
むう……仕方ないな。
「あの、ティリエさん。黒銀くろがねが冒険者ギルドで素材を納品するために待っているのですが……」
「えっ⁉︎ ちょ、ちょっとそういうことはもっと早く言ってちょうだい! やだもうめちゃくちゃ待たせてるじゃないのおぉ! クリステアちゃんたち、また後でねえぇ!」
私の発言にティリエさんは激しく反応したかと思うと「待ってたわあぁ! 黒銀くろがね様ああああ!」と叫びながら、風のように走り去って行った。
……あれ、どう見ても身体強化魔法かけてるわよね。
皆が呆気に取られていると、ガルバノおじさまがゴホン、と咳払いした。
「まあアレのことはほっとけ。それで? 誰の装備を作りたいんじゃ?」
「あ、それは……」
「ワタシよ。ワタシの装備が欲しいの!」
マリエルちゃんが言いかけたところで、ルビィがマリエルちゃんの影から飛び出た。
「うおっ? なんじゃ、まだ聖獣がおったのか⁉︎」
ガルバノおじさまがルビィの出現に驚いたのを満足そうに見ながら、ルビィはリボンタイをちょちょいと直した。
「ええ。ワタシはマリエルと契約してるルビィよ。よろしくねぇ? ガ・ル・バ・ノ♪」
「……この聖獣、なんだかティリエのやつに似とらんか?」
あ、ガルバノおじさまも私と同じ事考えてるっぽい?
ルビィにしろティリエさんにしろ、オネエ臭漂ってるもんねぇ……
「は? あのエルフとワタシが似てるですって? バカ言ってんじゃないわよ。ワタシのほうがキュートでセクシーなんだから、一緒にしないでよねっ!」
ルビィはダンダン! と床を踏み鳴らして不満を漏らすけれど、どう見ても同族嫌悪的なアレですね……
ティリエさんがいる時に姿を見せなかったのはわざとかもしれないな、これは。
「そうかそうか。そりゃすまんかった。それで? わしゃ何を作ればええんかの?」
ガルバノおじさまはルビィを軽くいなして依頼の確認にかかる。
さすが、ティリエさんとの付き合いが長いだけあって似たタイプのあしらい方というかスルースキルがすごい。
「んもう。ちゃんとわかってるんでしょうね、まったく……ま、いいわ。マリエル、例のものを見せてあげなさい」
「あ、はいっ!」
このコンビ、どっちが主だかわからないわね……
マリエルちゃんがあたふたと持参したスケッチをガルバノおじさまに出して見せた。
「作っていただきたいのは、このステッキなんです」
「どれ。ふむ……ステッキというより、魔法杖と言うべきかの? この色石は魔石じゃろ?」
魔法杖とは、ファンタジー世界で魔法使いがよく手に持っている魔石が埋め込まれている杖のことだ。
魔法を使うときにそれを使えば、相乗効果でより強い魔法が行使できるので、大抵の宮廷魔法使いは自分に合った魔法杖を持っている……らしい。
「ええまあ……ルビィの手持ちの魔石を出すそうなんですけど、これは特に魔法杖の機能が必要なわけではなくて、あくまで飾りというか……」
「そうね、ワタシは別に魔法杖なんて必要ないしい。ねえほら、この服装で、これを使った杖を持ってたら素敵じゃない?」
……ステッキだけに? というツッコミを入れそうになるのを辛うじて抑えて、ルビィがジャラジャラと魔石を取り出すのを見守っていると、ガルバノおじさまが目を見張った。
「こ、こりゃあ……! 高ランクの魔石ばかりじゃないか! いかんいかん! こんなええ魔石をただの飾りにするとかもったいないじゃろが!」
「えー? こんなの腐るほど持ってるもの」
「バカなこと言うもんじゃねぇ。この魔石にふさわしい土台つえにせんと、うっかり魔力を通した途端、杖そのものが壊れてしまうわい」
えっ、そうなの⁇
「色の違う魔石を組み合わせちょるようじゃが、ただの杖にこんなもん組み込んだら、魔力を通した途端、性質の違う魔法がぶつかりあって下手すりゃ腕ごと粉砕するわい」
えええ、何それこわっ!
「ええ……? 面倒ねぇ。じゃあどうすればいいっていうのよ?」
ルビィが苛立ったようにタンタン、と床を踏む。
「ふむ、そうじゃの……魔石ごとに魔導回路を刻んで、魔力の流れを固定して……素材は……」
ガルバノおじさまがぶつぶつと呟きながら手元の用紙に書き込み始めると、あっという間に魔法杖の設計図が完成した。す、すごい……
「はーん、なるほどねぇ……確かに、それなら魔石も活かせるし、杖も粉砕しないってわけね」
ルビィがおじさまの横から設計図を覗き込み、納得したように頷いた。
「じゃろ? 使う魔法に合わせて魔石へ流れ込む魔力の方向を振り分け、発動できるようにすればええ。素材は魔鋼石とミスリルでいけるじゃろ。サイズは……お前さんに合わせるなら……」
おじさまがルビィに定規を当てて設計図にサイズを書き込んでいく。
「よし、これでええじゃろ。しかし、ひとつ問題がある」
「な、なんでしょう……? 材料の時点で、すでに問題だらけなんですが……!」
マリエルちゃんが青ざめながら聞いた。
確かに魔鉱石とミスリルだもんね……
なんちゃって杖を作るだけのつもりがかなり高額な魔法杖になってしまったので、マリエルちゃんのお小遣いではどうにもならないのでは……あ、そういえば仕立て屋のサリーからアイデア料が入るって言ってたから大丈夫かしら?
「材料? 魔鉱石とミスリルならあるわよぉ?」
ルビィはそう言うと、インベントリからガラガラっと音を立ててそれらを取り出した。
ルビィ……魔石といい、鉱石といい、どれだけ溜め込んでるのよ⁉︎
「うおっ? たまげたのぉ……お前さんのステッキならこんなにいらんじゃろうが、報酬がわりにいくらかいただいてもええかの? そろそろ素材を補充したかったところなんじゃよ」
「いいわよぉ、別に。特に使い道はないけど持ってただけだし。じゃあ、交渉成立ね?」
「うむ、しかしまだ問題がある」
素材は揃ったのに、まだ問題が?
「わしは杖を作るところまではできるが、ここまで緻密な魔導回路を書き込むのは専門の知識があるやつに頼まにゃならん」
「専門……ですか?」
「頼めばいいじゃない」
マリエルちゃんとルビィが同時に発言した。
「嬢ちゃん、あいつにおまえさんたちの素性を明かして頼むことになるが、ええかの?」
「あいつって……」
もしかして、あの人……⁉︎
しおりを挟む
感想 3,364

あなたにおすすめの小説

私が死んで満足ですか?

マチバリ
恋愛
王太子に婚約破棄を告げられた伯爵令嬢ロロナが死んだ。 ある者は面倒な婚約破棄の手続きをせずに済んだと安堵し、ある者はずっと欲しかった物が手に入ると喜んだ。 全てが上手くおさまると思っていた彼らだったが、ロロナの死が与えた影響はあまりに大きかった。 書籍化にともない本編を引き下げいたしました

うたた寝している間に運命が変わりました。

gacchi
恋愛
優柔不断な第三王子フレディ様の婚約者として、幼いころから色々と苦労してきたけど、最近はもう呆れてしまって放置気味。そんな中、お義姉様がフレディ様の子を身ごもった?私との婚約は解消?私は学園を卒業したら修道院へ入れられることに。…だったはずなのに、カフェテリアでうたた寝していたら、私の運命は変わってしまったようです。

【完結】家族にサヨナラ。皆様ゴキゲンヨウ。

くま
恋愛
「すまない、アデライトを愛してしまった」 「ソフィア、私の事許してくれるわよね?」 いきなり婚約破棄をする婚約者と、それが当たり前だと言い張る姉。そしてその事を家族は姉達を責めない。 「病弱なアデライトに譲ってあげなさい」と…… 私は昔から家族からは二番目扱いをされていた。いや、二番目どころでもなかった。私だって、兄や姉、妹達のように愛されたかった……だけど、いつも優先されるのは他のキョウダイばかり……我慢ばかりの毎日。 「マカロン家の長男であり次期当主のジェイコブをきちんと、敬い立てなさい」 「はい、お父様、お母様」 「長女のアデライトは体が弱いのですよ。ソフィア、貴女がきちんと長女の代わりに動くのですよ」 「……はい」 「妹のアメリーはまだ幼い。お前は我慢しなさい。下の子を面倒見るのは当然なのだから」 「はい、わかりました」 パーティー、私の誕生日、どれも私だけのなんてなかった。親はいつも私以外のキョウダイばかり、 兄も姉や妹ばかり構ってばかり。姉は病弱だからと言い私に八つ当たりするばかり。妹は我儘放題。 誰も私の言葉を聞いてくれない。 誰も私を見てくれない。 そして婚約者だったオスカー様もその一人だ。病弱な姉を守ってあげたいと婚約破棄してすぐに姉と婚約をした。家族は姉を祝福していた。私に一言も…慰めもせず。 ある日、熱にうなされ誰もお見舞いにきてくれなかった時、前世を思い出す。前世の私は家族と仲良くもしており、色々と明るい性格の持ち主さん。 「……なんか、馬鹿みたいだわ!」 もう、我慢もやめよう!家族の前で良い子になるのはもうやめる! ふるゆわ設定です。 ※家族という呪縛から解き放たれ自分自身を見つめ、好きな事を見つけだすソフィアを応援して下さい! ※ざまあ話とか読むのは好きだけど書くとなると難しいので…読者様が望むような結末に納得いかないかもしれません。🙇‍♀️でも頑張るます。それでもよければ、どうぞ! 追加文 番外編も現在進行中です。こちらはまた別な主人公です。

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」

音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。 本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。 しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。 *6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

婚約破棄の後始末 ~息子よ、貴様何をしてくれってんだ! 

タヌキ汁
ファンタジー
 国一番の権勢を誇る公爵家の令嬢と政略結婚が決められていた王子。だが政略結婚を嫌がり、自分の好き相手と結婚する為に取り巻き達と共に、公爵令嬢に冤罪をかけ婚約破棄をしてしまう、それが国を揺るがすことになるとも思わずに。  これは馬鹿なことをやらかした息子を持つ父親達の嘆きの物語である。

勘当された悪役令嬢は平民になって幸せに暮らしていたのになぜか人生をやり直しさせられる

千環
恋愛
 第三王子の婚約者であった侯爵令嬢アドリアーナだが、第三王子が想いを寄せる男爵令嬢を害した罪で婚約破棄を言い渡されたことによりスタングロム侯爵家から勘当され、平民アニーとして生きることとなった。  なんとか日々を過ごす内に12年の歳月が流れ、ある時出会った10歳年上の平民アレクと結ばれて、可愛い娘チェルシーを授かり、とても幸せに暮らしていたのだが……道に飛び出して馬車に轢かれそうになった娘を庇おうとしたアニーは気付けば6歳のアドリアーナに戻っていた。

義母に毒を盛られて前世の記憶を取り戻し覚醒しました、貴男は義妹と仲良くすればいいわ。

克全
ファンタジー
「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。 11月9日「カクヨム」恋愛日間ランキング15位 11月11日「カクヨム」恋愛週間ランキング22位 11月11日「カクヨム」恋愛月間ランキング71位 11月4日「小説家になろう」恋愛異世界転生/転移恋愛日間78位

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
番外編を閲覧することが出来ません。
過去1ヶ月以内にレジーナの小説・漫画を1話以上レンタルしている と、レジーナのすべての番外編を読むことができます。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。