266 / 382
連載
出てくる、出てくる……!
しおりを挟む
インベントリを習得したセイが何を収納しているのか問いただしてみると、出るわ出るわ、刀剣や木刀、暗器など武器の山……
え、セイって武家の養子だったと聞いていたけれど、忍者の養子の間違いとかじゃないわよね?
「ええと、いや、なに。暗殺に備えているうちに数が増えてしまって……」
ヤハトゥールからドリスタン王国までは白虎様のインベントリに収納して隠し持っていてもらっていたそうな。
それって、手荷物検査にもひっかからない、絶対に見つからない、いわゆる密輸ってやつでは……?
インベントリって便利だけど、使い方によっては非常に危ういのね。
私は食糧が腐らなくていいわぁ、としか思ってなかったけれど、悪い人に悪用されないように気をつけないと。
「あの、セイさんって、もしかして戦闘狂……?」
……と、あまりの武器の数にドン引きしているマリエルちゃんを見て、この際だからセイと相談の上、ルビィ同伴で秘密を打ち明けることにした。
セイの事情を知れば、マリエルちゃんのことだからきっと協力してくれると思うし。
「セイさんが、ヤハトゥール国の帝のご落胤……?」
「ふぅん……なるほどねぇ。神獣クラスの白虎様や朱雀様が守護するわけだわ」
衝撃の告白にマリエルちゃんは言葉もなく、ルビィは合点がいったとばかりに頷く。
「俺は……正直なところ帝になんてなりたくない。俺を育ててくれたのは今の両親だし、死んだ生みの母の記憶なんてないから。でも、腹違いの兄を帝にしたいがために、正妃が俺を暗殺しようと付け狙ってくるのは止められない。それで、義父上や義母上を危険な目に合わせたくなくて、ヤハトゥールを出て海を越えてきたんだ」
「あらぁアナタ、若いのに苦労してるのねぇ……」
「そんな……セイさん、大変だったんですね……!」
「ああ、いや。今は毎日が楽しいから大丈夫だ」
痛ましそうに声をかけるルビィやマリエルちゃんに、セイは笑顔で答えた。
そっか……今は楽しいのならよかった。
少なくとも学園内、特にこの特別寮は安全だし、皆セイの味方だから安心してほしい。
それでも、こうして武器を持ち歩くほど毎日暗殺の影に怯えて暮らしていたのかと思うと切ないな……
「……というわけで、暗殺に備えてある程度の武装は必要だと思うから……」
「「いやダメでしょ」」
セイがインベントリに武器の数々を収納しようとそっと手を伸ばしたのを、私とマリエルちゃんでビシッと止めた。
いやこれ怯えてなんてないな。
単にセイが武器マニアだったという疑惑が浮上してきたわ……
そうは言っても、セイの不安もわからなくもないので、普段は絶対に出したりしないのを条件にインベントリに収納していることを皆で秘密にすることにしたのだった。
その後は「ヤハトゥールの刀剣に興味があって……」と遠慮がちに言ったマリエルちゃんに、セイが満面の笑顔で武器を一つひとつ説明していくという「ヤハトゥールの武器講習会」が開催された。
マリエルちゃんが「ああなるほど、ここはこういう作りだったのか……」とか「あ……あの時あの素材を使えば上手く再現できたのかも……」などとぶつぶつ呟いていたのはきっと前世のレイヤー時代を思い出していたに違いない。日本刀を題材にしたアニメとかあったもんね。
さしずめ「三つ子の魂百まで」ならぬ「前世の魂異世界(転生後)まで」ってところかしら。
武器とか戦闘に興味のなかった私は講義の途中で自室に戻ったのだけど……
翌日、げっそりしたマリエルちゃんとご機嫌な様子のセイを見て、途中退室した私は英断だったと確信した。
「アナタ、途中で切り上げて正解よぉ? あの子たち夜遅くにセンセが戻ってくるまで話し込んでたもんだから慌てて武器をしまったり誤魔化したりで大変だったのよぉ。マリエルに付き合ったお陰でワタシもすっかり寝不足になったんだから」
ご機嫌ななめのルビィの発言にマリエルちゃんがちょっとまった! とばかりに反応した。
「いやいや、ルビィは途中すやすや寝てましたよね⁉︎」
「何言ってんのよ。ちゃんと寝床で寝ないと熟睡できないから美容に悪いじゃないの。ワタシのこの艶やかな毛並みがパッサパサになったらどうしてくれるのよ? ええ?」
「う……ごめんなさい」
「よろしい。今日はお詫びとしてワタシの服のお仕立て頼むわね?」
「ええっ⁉︎ 今日は早く寝ちゃダメですか……?」
「うーん、しかたないわねぇ。アナタのお肌を荒れさせるわけにもいかないし……なる早で頼むわよ? あのデザイン画が形になるのを楽しみにしてるんだから!」
「うう、はぁい……」
どうやらルビィはマリエルちゃんに衣装を作ってもらう約束を取り付けているみたいね。
マリエルちゃんは渋々といった風に返事をしながらもルビィの期待の込もった言葉が嬉しいようで口元がすぐさま笑み崩れていた。
マリエルちゃんは自作レイヤーだっただけあって裁縫が得意らしいから羨ましいなぁ。
私も真白や黒銀に何か作ってあげられたらいいのだけど、創作方面の才能はからっきしだからね……芸術的センスをお母様のお腹の中に忘れてきたんだわ、きっと。
いいなあ、私も得意な料理談義に花を咲かせたりしたいなぁ……って、ああだめだ。
想像で話し相手を思い浮かべたら領地の料理長や王都の館の料理長やカフェの料理長が詰め寄ってくる風景しか思い浮かばなかった。
何はともあれ、どんなジャンルでもオタクって生き物は世代どころか世界を超えて熱く語るものなのだなとしみじみ思う私なのだった。
---------------------------
実のところクリステアのパパンも創作方面のセンスは皆無なので、クリステアはパパ似という説……
え、セイって武家の養子だったと聞いていたけれど、忍者の養子の間違いとかじゃないわよね?
「ええと、いや、なに。暗殺に備えているうちに数が増えてしまって……」
ヤハトゥールからドリスタン王国までは白虎様のインベントリに収納して隠し持っていてもらっていたそうな。
それって、手荷物検査にもひっかからない、絶対に見つからない、いわゆる密輸ってやつでは……?
インベントリって便利だけど、使い方によっては非常に危ういのね。
私は食糧が腐らなくていいわぁ、としか思ってなかったけれど、悪い人に悪用されないように気をつけないと。
「あの、セイさんって、もしかして戦闘狂……?」
……と、あまりの武器の数にドン引きしているマリエルちゃんを見て、この際だからセイと相談の上、ルビィ同伴で秘密を打ち明けることにした。
セイの事情を知れば、マリエルちゃんのことだからきっと協力してくれると思うし。
「セイさんが、ヤハトゥール国の帝のご落胤……?」
「ふぅん……なるほどねぇ。神獣クラスの白虎様や朱雀様が守護するわけだわ」
衝撃の告白にマリエルちゃんは言葉もなく、ルビィは合点がいったとばかりに頷く。
「俺は……正直なところ帝になんてなりたくない。俺を育ててくれたのは今の両親だし、死んだ生みの母の記憶なんてないから。でも、腹違いの兄を帝にしたいがために、正妃が俺を暗殺しようと付け狙ってくるのは止められない。それで、義父上や義母上を危険な目に合わせたくなくて、ヤハトゥールを出て海を越えてきたんだ」
「あらぁアナタ、若いのに苦労してるのねぇ……」
「そんな……セイさん、大変だったんですね……!」
「ああ、いや。今は毎日が楽しいから大丈夫だ」
痛ましそうに声をかけるルビィやマリエルちゃんに、セイは笑顔で答えた。
そっか……今は楽しいのならよかった。
少なくとも学園内、特にこの特別寮は安全だし、皆セイの味方だから安心してほしい。
それでも、こうして武器を持ち歩くほど毎日暗殺の影に怯えて暮らしていたのかと思うと切ないな……
「……というわけで、暗殺に備えてある程度の武装は必要だと思うから……」
「「いやダメでしょ」」
セイがインベントリに武器の数々を収納しようとそっと手を伸ばしたのを、私とマリエルちゃんでビシッと止めた。
いやこれ怯えてなんてないな。
単にセイが武器マニアだったという疑惑が浮上してきたわ……
そうは言っても、セイの不安もわからなくもないので、普段は絶対に出したりしないのを条件にインベントリに収納していることを皆で秘密にすることにしたのだった。
その後は「ヤハトゥールの刀剣に興味があって……」と遠慮がちに言ったマリエルちゃんに、セイが満面の笑顔で武器を一つひとつ説明していくという「ヤハトゥールの武器講習会」が開催された。
マリエルちゃんが「ああなるほど、ここはこういう作りだったのか……」とか「あ……あの時あの素材を使えば上手く再現できたのかも……」などとぶつぶつ呟いていたのはきっと前世のレイヤー時代を思い出していたに違いない。日本刀を題材にしたアニメとかあったもんね。
さしずめ「三つ子の魂百まで」ならぬ「前世の魂異世界(転生後)まで」ってところかしら。
武器とか戦闘に興味のなかった私は講義の途中で自室に戻ったのだけど……
翌日、げっそりしたマリエルちゃんとご機嫌な様子のセイを見て、途中退室した私は英断だったと確信した。
「アナタ、途中で切り上げて正解よぉ? あの子たち夜遅くにセンセが戻ってくるまで話し込んでたもんだから慌てて武器をしまったり誤魔化したりで大変だったのよぉ。マリエルに付き合ったお陰でワタシもすっかり寝不足になったんだから」
ご機嫌ななめのルビィの発言にマリエルちゃんがちょっとまった! とばかりに反応した。
「いやいや、ルビィは途中すやすや寝てましたよね⁉︎」
「何言ってんのよ。ちゃんと寝床で寝ないと熟睡できないから美容に悪いじゃないの。ワタシのこの艶やかな毛並みがパッサパサになったらどうしてくれるのよ? ええ?」
「う……ごめんなさい」
「よろしい。今日はお詫びとしてワタシの服のお仕立て頼むわね?」
「ええっ⁉︎ 今日は早く寝ちゃダメですか……?」
「うーん、しかたないわねぇ。アナタのお肌を荒れさせるわけにもいかないし……なる早で頼むわよ? あのデザイン画が形になるのを楽しみにしてるんだから!」
「うう、はぁい……」
どうやらルビィはマリエルちゃんに衣装を作ってもらう約束を取り付けているみたいね。
マリエルちゃんは渋々といった風に返事をしながらもルビィの期待の込もった言葉が嬉しいようで口元がすぐさま笑み崩れていた。
マリエルちゃんは自作レイヤーだっただけあって裁縫が得意らしいから羨ましいなぁ。
私も真白や黒銀に何か作ってあげられたらいいのだけど、創作方面の才能はからっきしだからね……芸術的センスをお母様のお腹の中に忘れてきたんだわ、きっと。
いいなあ、私も得意な料理談義に花を咲かせたりしたいなぁ……って、ああだめだ。
想像で話し相手を思い浮かべたら領地の料理長や王都の館の料理長やカフェの料理長が詰め寄ってくる風景しか思い浮かばなかった。
何はともあれ、どんなジャンルでもオタクって生き物は世代どころか世界を超えて熱く語るものなのだなとしみじみ思う私なのだった。
---------------------------
実のところクリステアのパパンも創作方面のセンスは皆無なので、クリステアはパパ似という説……
118
お気に入りに追加
14,172
あなたにおすすめの小説
私が死んで満足ですか?
マチバリ
恋愛
王太子に婚約破棄を告げられた伯爵令嬢ロロナが死んだ。
ある者は面倒な婚約破棄の手続きをせずに済んだと安堵し、ある者はずっと欲しかった物が手に入ると喜んだ。
全てが上手くおさまると思っていた彼らだったが、ロロナの死が与えた影響はあまりに大きかった。
書籍化にともない本編を引き下げいたしました
【完結】家族にサヨナラ。皆様ゴキゲンヨウ。
くま
恋愛
「すまない、アデライトを愛してしまった」
「ソフィア、私の事許してくれるわよね?」
いきなり婚約破棄をする婚約者と、それが当たり前だと言い張る姉。そしてその事を家族は姉達を責めない。
「病弱なアデライトに譲ってあげなさい」と……
私は昔から家族からは二番目扱いをされていた。いや、二番目どころでもなかった。私だって、兄や姉、妹達のように愛されたかった……だけど、いつも優先されるのは他のキョウダイばかり……我慢ばかりの毎日。
「マカロン家の長男であり次期当主のジェイコブをきちんと、敬い立てなさい」
「はい、お父様、お母様」
「長女のアデライトは体が弱いのですよ。ソフィア、貴女がきちんと長女の代わりに動くのですよ」
「……はい」
「妹のアメリーはまだ幼い。お前は我慢しなさい。下の子を面倒見るのは当然なのだから」
「はい、わかりました」
パーティー、私の誕生日、どれも私だけのなんてなかった。親はいつも私以外のキョウダイばかり、
兄も姉や妹ばかり構ってばかり。姉は病弱だからと言い私に八つ当たりするばかり。妹は我儘放題。
誰も私の言葉を聞いてくれない。
誰も私を見てくれない。
そして婚約者だったオスカー様もその一人だ。病弱な姉を守ってあげたいと婚約破棄してすぐに姉と婚約をした。家族は姉を祝福していた。私に一言も…慰めもせず。
ある日、熱にうなされ誰もお見舞いにきてくれなかった時、前世を思い出す。前世の私は家族と仲良くもしており、色々と明るい性格の持ち主さん。
「……なんか、馬鹿みたいだわ!」
もう、我慢もやめよう!家族の前で良い子になるのはもうやめる!
ふるゆわ設定です。
※家族という呪縛から解き放たれ自分自身を見つめ、好きな事を見つけだすソフィアを応援して下さい!
※ざまあ話とか読むのは好きだけど書くとなると難しいので…読者様が望むような結末に納得いかないかもしれません。🙇♀️でも頑張るます。それでもよければ、どうぞ!
追加文
番外編も現在進行中です。こちらはまた別な主人公です。
愛された側妃と、愛されなかった正妃
編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。
夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。
連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。
正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。
※カクヨムさんにも掲載中
※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります
※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。
うたた寝している間に運命が変わりました。
gacchi
恋愛
優柔不断な第三王子フレディ様の婚約者として、幼いころから色々と苦労してきたけど、最近はもう呆れてしまって放置気味。そんな中、お義姉様がフレディ様の子を身ごもった?私との婚約は解消?私は学園を卒業したら修道院へ入れられることに。…だったはずなのに、カフェテリアでうたた寝していたら、私の運命は変わってしまったようです。
勘当された悪役令嬢は平民になって幸せに暮らしていたのになぜか人生をやり直しさせられる
千環
恋愛
第三王子の婚約者であった侯爵令嬢アドリアーナだが、第三王子が想いを寄せる男爵令嬢を害した罪で婚約破棄を言い渡されたことによりスタングロム侯爵家から勘当され、平民アニーとして生きることとなった。
なんとか日々を過ごす内に12年の歳月が流れ、ある時出会った10歳年上の平民アレクと結ばれて、可愛い娘チェルシーを授かり、とても幸せに暮らしていたのだが……道に飛び出して馬車に轢かれそうになった娘を庇おうとしたアニーは気付けば6歳のアドリアーナに戻っていた。
(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」
音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。
本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。
しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。
*6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。
婚約破棄の後始末 ~息子よ、貴様何をしてくれってんだ!
タヌキ汁
ファンタジー
国一番の権勢を誇る公爵家の令嬢と政略結婚が決められていた王子。だが政略結婚を嫌がり、自分の好き相手と結婚する為に取り巻き達と共に、公爵令嬢に冤罪をかけ婚約破棄をしてしまう、それが国を揺るがすことになるとも思わずに。
これは馬鹿なことをやらかした息子を持つ父親達の嘆きの物語である。
義母に毒を盛られて前世の記憶を取り戻し覚醒しました、貴男は義妹と仲良くすればいいわ。
克全
ファンタジー
「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。
11月9日「カクヨム」恋愛日間ランキング15位
11月11日「カクヨム」恋愛週間ランキング22位
11月11日「カクヨム」恋愛月間ランキング71位
11月4日「小説家になろう」恋愛異世界転生/転移恋愛日間78位
過去1ヶ月以内にレジーナの小説・漫画を1話以上レンタルしている
と、レジーナのすべての番外編を読むことができます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
番外編を閲覧することが出来ません。
過去1ヶ月以内にレジーナの小説・漫画を1話以上レンタルしている
と、レジーナのすべての番外編を読むことができます。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。