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出てくる、出てくる……!

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インベントリを習得したセイが何を収納しているのか問いただしてみると、出るわ出るわ、刀剣や木刀、暗器など武器の山……
え、セイって武家の養子だったと聞いていたけれど、忍者の養子の間違いとかじゃないわよね?
「ええと、いや、なに。暗殺に備えているうちに数が増えてしまって……」
ヤハトゥールからドリスタン王国までは白虎様のインベントリに収納して隠し持っていてもらっていたそうな。
それって、手荷物検査にもひっかからない、絶対に見つからない、いわゆる密輸ってやつでは……?
インベントリって便利だけど、使い方によっては非常に危ういのね。
私は食糧が腐らなくていいわぁ、としか思ってなかったけれど、悪い人に悪用されないように気をつけないと。

「あの、セイさんって、もしかして戦闘狂……?」
……と、あまりの武器の数にドン引きしているマリエルちゃんを見て、この際だからセイと相談の上、ルビィ同伴で秘密を打ち明けることにした。
セイの事情を知れば、マリエルちゃんのことだからきっと協力してくれると思うし。
「セイさんが、ヤハトゥール国の帝のご落胤……?」
「ふぅん……なるほどねぇ。神獣クラスの白虎様や朱雀様が守護するわけだわ」
衝撃の告白にマリエルちゃんは言葉もなく、ルビィは合点がいったとばかりに頷く。
「俺は……正直なところ帝になんてなりたくない。俺を育ててくれたのは今の両親だし、死んだ生みの母の記憶なんてないから。でも、腹違いの兄を帝にしたいがために、正妃が俺を暗殺しようと付け狙ってくるのは止められない。それで、義父上や義母上を危険な目に合わせたくなくて、ヤハトゥールを出て海を越えてきたんだ」
「あらぁアナタ、若いのに苦労してるのねぇ……」
「そんな……セイさん、大変だったんですね……!」
「ああ、いや。今は毎日が楽しいから大丈夫だ」
痛ましそうに声をかけるルビィやマリエルちゃんに、セイは笑顔で答えた。
そっか……今は楽しいのならよかった。

少なくとも学園内、特にこの特別寮は安全だし、皆セイの味方だから安心してほしい。
それでも、こうして武器を持ち歩くほど毎日暗殺の影に怯えて暮らしていたのかと思うと切ないな……
「……というわけで、暗殺に備えてある程度の武装は必要だと思うから……」
「「いやダメでしょ」」
セイがインベントリに武器の数々を収納しようとそっと手を伸ばしたのを、私とマリエルちゃんでビシッと止めた。
いやこれ怯えてなんてないな。
単にセイが武器マニアだったという疑惑が浮上してきたわ……
そうは言っても、セイの不安もわからなくもないので、普段は絶対に出したりしないのを条件にインベントリに収納していることを皆で秘密にすることにしたのだった。

その後は「ヤハトゥールの刀剣に興味があって……」と遠慮がちに言ったマリエルちゃんに、セイが満面の笑顔で武器を一つひとつ説明していくという「ヤハトゥールの武器講習会」が開催された。
マリエルちゃんが「ああなるほど、ここはこういう作りだったのか……」とか「あ……あの時あの素材を使えば上手く再現できたのかも……」などとぶつぶつ呟いていたのはきっと前世のレイヤー時代を思い出していたに違いない。日本刀を題材にしたアニメとかあったもんね。
さしずめ「三つ子の魂百まで」ならぬ「前世の魂異世界(転生後)まで」ってところかしら。

武器とか戦闘に興味のなかった私は講義の途中で自室に戻ったのだけど……
翌日、げっそりしたマリエルちゃんとご機嫌な様子のセイを見て、途中退室した私は英断だったと確信した。
「アナタ、途中で切り上げて正解よぉ? あの子たち夜遅くにセンセが戻ってくるまで話し込んでたもんだから慌てて武器をしまったり誤魔化したりで大変だったのよぉ。マリエルに付き合ったお陰でワタシもすっかり寝不足になったんだから」
ご機嫌ななめのルビィの発言にマリエルちゃんがちょっとまった! とばかりに反応した。
「いやいや、ルビィは途中すやすや寝てましたよね⁉︎」
「何言ってんのよ。ちゃんと寝床で寝ないと熟睡できないから美容に悪いじゃないの。ワタシのこの艶やかな毛並みがパッサパサになったらどうしてくれるのよ? ええ?」
「う……ごめんなさい」
「よろしい。今日はお詫びとしてワタシの服のお仕立て頼むわね?」
「ええっ⁉︎ 今日は早く寝ちゃダメですか……?」
「うーん、しかたないわねぇ。アナタのお肌を荒れさせるわけにもいかないし……なる早で頼むわよ? あのデザイン画が形になるのを楽しみにしてるんだから!」
「うう、はぁい……」
どうやらルビィはマリエルちゃんに衣装を作ってもらう約束を取り付けているみたいね。
マリエルちゃんは渋々といった風に返事をしながらもルビィの期待の込もった言葉が嬉しいようで口元がすぐさま笑み崩れていた。
マリエルちゃんは自作レイヤーだっただけあって裁縫が得意らしいから羨ましいなぁ。
私も真白ましろ黒銀くろがねに何か作ってあげられたらいいのだけど、創作方面の才能はからっきしだからね……芸術的センスをお母様のお腹の中に忘れてきたんだわ、きっと。
いいなあ、私も得意な料理談義に花を咲かせたりしたいなぁ……って、ああだめだ。
想像で話し相手を思い浮かべたら領地の料理長や王都の館の料理長やカフェの料理長が詰め寄ってくる風景しか思い浮かばなかった。

何はともあれ、どんなジャンルでもオタクって生き物は世代どころか世界を超えて熱く語るものなのだなとしみじみ思う私なのだった。

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実のところクリステアのパパンも創作方面のセンスは皆無なので、クリステアはパパ似という説……
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