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さあ、戻ろうか
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「そろそろ時間だから戻ろうか」
お兄様の合図で、私たちの班は薬草採取を切り上げて転送魔法陣のある場所へ引き返すことにした。
あの後、数回魔物や蛇などが出てきたけれど、護衛役であるヘクター様が全て倒したり逃がしたりしてくださったので、私たちは安心して採取することができた。
蛇が出てくるたびにアリシア様が飛び上がって悲鳴を上げていたり、蛇は種類によっては薬にもなるから殺さないという説明にアリシア様が卒倒しそうになったのは本当に気の毒だった。
慣れたら蛇も案外可愛いですよ、なんて言ったら余計に嫌われそうなので言えないし……
はあ、アリシア様との適切な距離感がわからないよ……
転移魔法陣に魔力を流して集合場所近くの転移魔法陣へ移動した私たちは、職員に結界を抜けるためのペンダントを返却し、全員欠けることなく戻ったことを報告してから集合場所へ向かうと、まだ戻っていない班が大半だったようで、人の姿は疎だった。
専科に所属する先輩方が帰還した生徒たちの点呼をとっていたのでそこへ向かうと、その中の一人が私たちに気づいて近寄ってきた。
「やあ、早かったね。薬草は予定数量採取できたかな? 各自ここに並べてみてくれ」
指定された台の上に各々が採取した薬草を広げると、先輩は一つひとつ状態を検分していく。
「……うん。どれも良い状態で採取しているようだね。特に君と……君の分は量といい、採取のしかたといい素晴らしい。僕が買い取らせてほしいくらいだよ」
そう言って私とアリシア様の採取した薬草の状態が良いことを誉められた。
私の場合、採取に慣れていたこともあるけれど、バッグに入れると見せかけてインベントリに収納してるから鮮度は抜群なのよね。
マリエルちゃんも密かにインベントリ持ちだけど、採取のしかたが少し雑だったからか、高評価には少し届かなかったみたい。
アリシア様の採取用ポーチは時間経過なしのアイテムバッグだったらしく、これまた鮮度は抜群だったし、ピシッと綺麗に揃えられた薬草は見事としか言いようがなかった。
セイはきれいに採取していたけれど、少し萎れていたりしたので、今後のことを考えて、是非ともインベントリを習得してほしいところだわね。
寮に戻ったら提案してみようかな。
エイディー様は……採取を始めてしばらくは雑草との区別ができなかったために数量が予定数ギリギリだったけれど、最後の追い込みで採取した分、鮮度がよかったためなんとか及第点といった感じ。
だけど、ホッとしているエイディー様に先輩が「しかし、この量じゃ本当にギリギリ過ぎて、魔法薬作りで失敗続きだと確実に足りなくなるぞ。明日も採取に行くほうがいいかもしれないな」とアドバイスしたため、エイディー様は明日も他の班に同行して追加採取することが決定したのだった。
エイディー様はがっくりと肩を落としていたけれど、明日は今日よりいいペースで採取できるはずだから頑張ってほしい。
……私やセイに泣きついても、ついていきませんからね!
捨てられそうな子犬のような目で見つめるのはやめてくださいませんか⁉︎
明日こそは自力で頑張ってください!
先生たちはまだ戻ってくる様子のない生徒たちを連れ戻すために手分けして採取場所をまわっているそうで、時間通りに戻ってきた私たちをぼんやりその場に待たせるわけにもいかないからとその場で解散となった。
毎年初回は採取に熱が入りすぎてなかなか帰りたがらない生徒が続出するため、こんなことは珍しくないのだそう。
「初めての採取だからね。後もう少しって思ってしまうのはしかたがないかな。だから、採取に慣れた上級生の僕たちが引率するんだよ。まあ、ついつい下級生と一緒に採取に夢中になる者もいるみたいだけど……」
「あら、そういえばお兄様は採取していらっしゃいませんでしたよね?」
私がお兄様にそう問いかけると、ふわりと柔らかな笑みを浮かべ、ウインクした。
「僕はいつも必要数は確保しているからね。今日僕のやるべきだったのはテアたちの引率とアドバイスだよ」
さすがお兄様! イケメンすぎるぅ!
できる男はやっぱり違うわね。
「……そんな基本的なことを忘れて帰ってこないのは、担当の上級生の責任だと思うよ」
そう言ってお兄様はさらににっこりと笑みを深めたのだけど、少しだけ周囲の気温が下がったのはきっと気のせいだよね、うん。
ボソッと「やっぱりテアの班の担当に捩じ込んで正解だった」って聞こえたのも多分気のせい……!
お兄様と男子寮の前で別れて特別寮に戻ると、ホールで人型の黒銀と真白が待ち構えていた。
「くりすてあ、おかえりっ! あーあ、おれもいっしょにさいしゅしたかったなぁ」
「主、疲れただろう。茶の準備をさせたから皆で休むといい」
右は真白が腕を組み、左は黒銀が私から荷物を取り上げ背を支えながらベッタリとくっつくようにして談話室へ誘導した。
「あらあら、聖獣の独占欲ってホントに厄介よねぇ」
ルビィがうふふっと笑いながら談話室のソファに飛び乗り、その隣に座ったマリエルちゃんに余裕の表情でもたれかかった。
「お前は人前で堂々と主人を独占できるからそのように余裕でいられるのだ」
「くりすてあをしゅじんにしたらうわきしないかしんぱいだからたいへんなんだよ」
真白さんや、別に私は浮気なんてする気はないのだけど……ただ、もふもふが好きなだけで。
真白たちからしてみればそのことが心の浮気に見えるのだろうけれど、私が大切に思っているのは真白や黒銀に輝夜だし、これ以上契約することなんてないわよ。
……しないわよね?
「させないよ?」
「当然だな」
え……今、声に出してた⁉︎
……いや、マリエルちゃんたちは二人の発言にきょとんとしてるわね。
ちょっと二人とも、私の心を読んでるんじゃないでしょうね⁉︎
「くりすてあがかんがえてそうなことはおみとおしだよ」
「うむ。その上で我らが尽力するより他あるまい」
「じゃまものはてっていはいじょ」
「その通り」
「二人とも物騒な発言はやめようか⁉︎」
私が慌てている姿にマリエルちゃんは焦ったように私たちを見た。
「え、え⁉︎ 皆さんどうしたんです⁇」
「マリエル嬢、契約獣は独占欲が強いというのは知っているだろう? 複数契約しているクリステア嬢はいつもその独占欲に晒されているわけだ」
セイの説明にマリエルちゃんは納得がいったような顔をした。
「な、なるほど……三角関係的な?」
いやマリエルちゃん、それちょっと違うから。
「うふふ、美形って嫉妬する姿も絵になるから見てて楽しいわぁ」
ルビィだけはルビィ専用のおやつとして出されたにんじんスティックをポリポリと齧りつつ高みの見物をしていた。ぐぬぬ。
はあ、しばらく試験のために放ったらかしにしていたせいもあるんだろうな。
今夜は寂しがらせたお詫びにごはんは腕によりをかけて作って、それから夜は皆を念入りにブラッシングしてあげなきゃだわ……
私はミリアが淹れてくれた紅茶をいただきつつ、夜ふかしする覚悟を決めたのだった。
お兄様の合図で、私たちの班は薬草採取を切り上げて転送魔法陣のある場所へ引き返すことにした。
あの後、数回魔物や蛇などが出てきたけれど、護衛役であるヘクター様が全て倒したり逃がしたりしてくださったので、私たちは安心して採取することができた。
蛇が出てくるたびにアリシア様が飛び上がって悲鳴を上げていたり、蛇は種類によっては薬にもなるから殺さないという説明にアリシア様が卒倒しそうになったのは本当に気の毒だった。
慣れたら蛇も案外可愛いですよ、なんて言ったら余計に嫌われそうなので言えないし……
はあ、アリシア様との適切な距離感がわからないよ……
転移魔法陣に魔力を流して集合場所近くの転移魔法陣へ移動した私たちは、職員に結界を抜けるためのペンダントを返却し、全員欠けることなく戻ったことを報告してから集合場所へ向かうと、まだ戻っていない班が大半だったようで、人の姿は疎だった。
専科に所属する先輩方が帰還した生徒たちの点呼をとっていたのでそこへ向かうと、その中の一人が私たちに気づいて近寄ってきた。
「やあ、早かったね。薬草は予定数量採取できたかな? 各自ここに並べてみてくれ」
指定された台の上に各々が採取した薬草を広げると、先輩は一つひとつ状態を検分していく。
「……うん。どれも良い状態で採取しているようだね。特に君と……君の分は量といい、採取のしかたといい素晴らしい。僕が買い取らせてほしいくらいだよ」
そう言って私とアリシア様の採取した薬草の状態が良いことを誉められた。
私の場合、採取に慣れていたこともあるけれど、バッグに入れると見せかけてインベントリに収納してるから鮮度は抜群なのよね。
マリエルちゃんも密かにインベントリ持ちだけど、採取のしかたが少し雑だったからか、高評価には少し届かなかったみたい。
アリシア様の採取用ポーチは時間経過なしのアイテムバッグだったらしく、これまた鮮度は抜群だったし、ピシッと綺麗に揃えられた薬草は見事としか言いようがなかった。
セイはきれいに採取していたけれど、少し萎れていたりしたので、今後のことを考えて、是非ともインベントリを習得してほしいところだわね。
寮に戻ったら提案してみようかな。
エイディー様は……採取を始めてしばらくは雑草との区別ができなかったために数量が予定数ギリギリだったけれど、最後の追い込みで採取した分、鮮度がよかったためなんとか及第点といった感じ。
だけど、ホッとしているエイディー様に先輩が「しかし、この量じゃ本当にギリギリ過ぎて、魔法薬作りで失敗続きだと確実に足りなくなるぞ。明日も採取に行くほうがいいかもしれないな」とアドバイスしたため、エイディー様は明日も他の班に同行して追加採取することが決定したのだった。
エイディー様はがっくりと肩を落としていたけれど、明日は今日よりいいペースで採取できるはずだから頑張ってほしい。
……私やセイに泣きついても、ついていきませんからね!
捨てられそうな子犬のような目で見つめるのはやめてくださいませんか⁉︎
明日こそは自力で頑張ってください!
先生たちはまだ戻ってくる様子のない生徒たちを連れ戻すために手分けして採取場所をまわっているそうで、時間通りに戻ってきた私たちをぼんやりその場に待たせるわけにもいかないからとその場で解散となった。
毎年初回は採取に熱が入りすぎてなかなか帰りたがらない生徒が続出するため、こんなことは珍しくないのだそう。
「初めての採取だからね。後もう少しって思ってしまうのはしかたがないかな。だから、採取に慣れた上級生の僕たちが引率するんだよ。まあ、ついつい下級生と一緒に採取に夢中になる者もいるみたいだけど……」
「あら、そういえばお兄様は採取していらっしゃいませんでしたよね?」
私がお兄様にそう問いかけると、ふわりと柔らかな笑みを浮かべ、ウインクした。
「僕はいつも必要数は確保しているからね。今日僕のやるべきだったのはテアたちの引率とアドバイスだよ」
さすがお兄様! イケメンすぎるぅ!
できる男はやっぱり違うわね。
「……そんな基本的なことを忘れて帰ってこないのは、担当の上級生の責任だと思うよ」
そう言ってお兄様はさらににっこりと笑みを深めたのだけど、少しだけ周囲の気温が下がったのはきっと気のせいだよね、うん。
ボソッと「やっぱりテアの班の担当に捩じ込んで正解だった」って聞こえたのも多分気のせい……!
お兄様と男子寮の前で別れて特別寮に戻ると、ホールで人型の黒銀と真白が待ち構えていた。
「くりすてあ、おかえりっ! あーあ、おれもいっしょにさいしゅしたかったなぁ」
「主、疲れただろう。茶の準備をさせたから皆で休むといい」
右は真白が腕を組み、左は黒銀が私から荷物を取り上げ背を支えながらベッタリとくっつくようにして談話室へ誘導した。
「あらあら、聖獣の独占欲ってホントに厄介よねぇ」
ルビィがうふふっと笑いながら談話室のソファに飛び乗り、その隣に座ったマリエルちゃんに余裕の表情でもたれかかった。
「お前は人前で堂々と主人を独占できるからそのように余裕でいられるのだ」
「くりすてあをしゅじんにしたらうわきしないかしんぱいだからたいへんなんだよ」
真白さんや、別に私は浮気なんてする気はないのだけど……ただ、もふもふが好きなだけで。
真白たちからしてみればそのことが心の浮気に見えるのだろうけれど、私が大切に思っているのは真白や黒銀に輝夜だし、これ以上契約することなんてないわよ。
……しないわよね?
「させないよ?」
「当然だな」
え……今、声に出してた⁉︎
……いや、マリエルちゃんたちは二人の発言にきょとんとしてるわね。
ちょっと二人とも、私の心を読んでるんじゃないでしょうね⁉︎
「くりすてあがかんがえてそうなことはおみとおしだよ」
「うむ。その上で我らが尽力するより他あるまい」
「じゃまものはてっていはいじょ」
「その通り」
「二人とも物騒な発言はやめようか⁉︎」
私が慌てている姿にマリエルちゃんは焦ったように私たちを見た。
「え、え⁉︎ 皆さんどうしたんです⁇」
「マリエル嬢、契約獣は独占欲が強いというのは知っているだろう? 複数契約しているクリステア嬢はいつもその独占欲に晒されているわけだ」
セイの説明にマリエルちゃんは納得がいったような顔をした。
「な、なるほど……三角関係的な?」
いやマリエルちゃん、それちょっと違うから。
「うふふ、美形って嫉妬する姿も絵になるから見てて楽しいわぁ」
ルビィだけはルビィ専用のおやつとして出されたにんじんスティックをポリポリと齧りつつ高みの見物をしていた。ぐぬぬ。
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