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【兄視点】これに決めた

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「…先ほどそこにいた女性が見ていたのは、一体何なのだ?」
レイ殿下も気にしていたようで、従業員に尋ねる。
「ああ…彼女が見ていたのはおそらくこちらでしょう。」
先ほどの女性が手にしていたものよりかなり大きな壺を取り出した。
フタを開けて中を見たが、中身が何なのか見当もつかなかった。

「こんなものが最近の女性の流行りなのか…?」
レイ殿下も訳がわからなかったようで、匂いをかいで顔をしかめていた。

「いえ、これは最近エリスフィード公爵家で探されていた品なのです。」
「えっ?」
「エリスフィード公爵家ご令嬢のクリステア様は当商会を贔屓にしてくださっておりまして…。かの令嬢がかねてより探していた品なのだそうです。」
僕がエリスフィード公爵家の者と知らないのか、セールストークに我が公爵家の名前を出すとは…。

聞くところによるとこのバステア商会は、エリスフィード公爵家御用達の店としてすでに王都でも周知されているらしい。
それならば名を出そうとするのも無理はないか…。

「そうか。ではこれは俺が全て買い取ろう。」
「えっ?で、ですがこれは…。」
焦る従業員にレイ殿下が言い放つ。
「こいつはその公爵家嫡男だ。俺は友人で、現在公爵家に滞在しているんだが、これを世話になっている礼として贈りたいのだ。」
「さ、左様でございましたか!それでは贈答品としてお包みいたします。ささ、お待ちいただく間にお茶をお出ししますので、こちらへどうぞ!」
こちらが公爵家の者と知り、あたふたと慌てふためきながら対応に追われている。

そんな従業員の様子を眺めながら、店内をうろついた僕は、ある一角に目が止まった。

ヤハトゥールの装飾品のコーナーだ。
引き寄せられようにそこへ向かい、一つ一つを手に取り、吟味した。
その中に一つ、クリステアに似合いそうなものを見つけた。

…うん、これならきっとクリステアも喜ぶだろう。

「すまないが、これを包んでもらえるだろうか?贈り物なんだ。」
そばを通りかかった従業員にこっそり、商品と代金を手渡した。

クリステアの魔力の気配は先ほどから感じない。おそらく僕たちの存在に気づいて転移したのだろう。クリステアの買い物の邪魔をして申し訳なく思いながら、それでも良い買い物ができたのでここへきて良かったと思った。

戻ってきた従業員から、可愛らしく包装されたそれを受け取り、そっと懐へしまい込んだ。

…喜んでくれるといいけれど。

クリステアの喜ぶ顔を思い浮かべて、思わず笑みがこぼれた。
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