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採取の森へ

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「隠れてるって……どこに?」
きょろきょろと周囲を見渡すも、姿は見えない。
「ばっかねぇ。内緒でついてきてるのに、アンタたちが気づけるわけないでしょ?」
ごもっとも……聖獣の皆様が本気で気配を消したら私たちにはさっぱりわからないからね。
しかたないので念話で二人に問いかけることにした。
真白ましろ黒銀くろがね。近くにいるの?』
『うん、いるよー。あーあ、ばれちゃったかー』
『暴露されては仕方あるまい。主、我らは密かに護衛するつもりゆえ、主は我らのことなど気にせず行動するといい』
当たり前のように返事が返ってきた。
気にするなと言われても……

「まあいいじゃない。主人が心配でついてきてるんだから。アンタたちに怒られないように姿を隠してまでして見守ろうなんて可愛いじゃないの。ま、一番キュートなワタシは彼らと違って嵩張らないし、薬草採取には役立つからこのままついていってあげるわ」
ルビィはそう言って胸を張った。
人よりも嗅覚が優れているし、視点も低いため薬草を見つけるのは得意なんだとか。
それを聞いたマリエルちゃんが、ルビィの前足をガシッと掴んで縋るように見つめた。
「ルビィ……頼りにしてますから!」
「んふふ、ワタシにまっかせなさぁい!」
「ありがとう! ルビィ……!」
……マリエルちゃん、薬草覚えるの苦労してたし自信が無さそうだったからね……
「……なんと……心が洗われるようだ……」
背後からぼそっとつぶやく声に目を向けると、ヘクター様がブルブルと震えながらマリエルちゃんとルビィを凝視していた。
……ヘクター様って、マリエルちゃんと趣味嗜好は異なるものの、萌えに忠実なあたり似た者同士かもしれない。

……あれ?
ヘクター様の向こうに見えるアリシア様も、俯いてブルブル震えてらっしゃる……
あ、さっきの「なんだ」発言からほったらかしになってたからもしかして怒ってるとか?
やばい、今日はアリシア様も一緒の班なのに、機嫌を損ねたままで行動するのは気まずいわよね。
ルビィのことにしたって「こんな時に聖獣を連れてくるなんて非常識ですわ!」とか怒られるかも。
「あの、アリシア様……ルビィを同行させても大丈夫でしょうか?」
アリシア様にルビィの同行を了承してもらおうと声をかけると、アリシア様はバッと顔を上げてこちらを見た。
え、顔が赤い……?
「しっ、しかたないですわね! 聖獣様がはぐれないよう貴女方がしっかり見張っておいてくださいまし!」
アリシア様は早口でそう言い放つと、プイッと顔を背けてしまった。
ん……? んん……?
顔はそっぽを向けながらも、視線はちらっ、ちらっとルビィを見ている……?
……もしかして、アリシア様も可愛いものが好き?
「……ったく、アリーは素直じゃねぇなあ。ルビィ様がついてくるのはすごく嬉しいって言えばいいのに」
「エッ、エイディー様はひとこと余計なんですのよ! お黙りになって⁉︎」
エイディー様がやれやれとばかりに肩をすくめて言うと、アリシア様がさらに顔を赤くして噛み付くように言った。
え、アリシア様ってもしかしてツンデレさんだった⁉︎
いや、まだデレはほとんど拝めてないけど……
そういえば召喚した魔獣を送還する時も寂しそうにしてたし。
可愛いもの好きなのは確定でしょ。

「おーい、そこの班! 君たちが最後だぞ!」
職員に声をかけられてハッと周囲を見渡せば、他の生徒たちは転移魔法陣で採取の森の近くへ転送してしまっていた。
「話はここまでにして採取の森に向かおう。さ、行くよ」
お兄様の先導で、私たちは慌てて採取の森行きの転移魔法陣へ移動したのだった。

採取の森は学園の敷地内にあり、生徒や職員なら誰でも採取は可能だけど、かなり広い森のため、いくつかのポイントが設けられた転移魔法陣を使用する。
その際、誰がどの転移ポイントを使用するのか、転移前に記録することになっている。
というのも、採取に夢中になって日が暮れたのにも気づかず、暗い森の中で動けなくなりプチ遭難……みたいなことが年に何回かあるからなのだとか。
そんな時、行方不明者が利用した転移ポイントを中心に捜索するんですって。
私たちも利用する転移先専用のリストに名前を記入し、採取の森を管理する職員のチェックを受けてから転移魔法陣の中に入った。
「採取の際は転移ポイントからあまり離れないように。時間になったら必ず転移ポイントに戻ること」
職員が簡単に注意事項を告げてから転移魔法陣に魔力を流して起動させると、ぐにゃりと景色が歪み、一瞬で周囲は深い森に変わった。

「ここが、採取の森……」
転移ポイントには石板が敷き詰められ、そこに魔法陣が刻まれていた。
「この周辺には結界魔法が施されているので何かあればここに逃げ込めばいい。今から渡すペンダントは結界を通り抜けるための魔導具だから紛失したりしないようにね」
お兄様が説明しながら私たちに職員から預かったペンダントを配っていく。
ペンダントトップには魔石が嵌め込まれており、その側面に見える細かな模様に見せかけたものが結界を通るための呪文のようだった。
私たちはペンダントを首にかけてから無くさないようにシャツの中にたくし込んだ。
「よし、じゃあまず基本の薬草から探していこうか」
私たちはお兄様の先導で転移陣を出て森の中へ入ったのだった。

「……あっ、真白ましろたちを置いてきちゃった……?」
転移魔法で跳んできたので、真白ましろたちを連れてくることはできなかったのだ。
おそらく、白虎様たちも近くにいたのだろうけれど……まとめて置いてけぼりにしてしまった。
「心配しなくても平気よぉ。結界の中とかじゃない限りアンタたちの居場所はすぐわかるから、今頃移動を始めてるはずよ」
隣を歩くマリエルちゃんに抱かれて移動するルビィが私の呟きを聞いて、安心しなさいとウインクした。
そういやそうだった。
以前、私が領内の冒険者ギルドから一時的に行方不明になった時も、魔導具師のお店の結界から出た途端、文字通り跳んできたもの。
よかった。なんだかんだ言っていつも採取の時には一緒にいたから、二人の姿が見えないのは心細かったのよね。よかったぁ。
ほんの少し気が楽になった私は、採取に集中することにしたのだった。
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