転生令嬢は庶民の味に飢えている

柚木原みやこ(みやこ)

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班分け

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しばらくの間、魔法学の授業は薬草の知識を増やすための講座が続いた。
葉の特徴だの効能だの、間違えやすい毒草や採取の際に気をつけることなど、これでもかと叩き込まれた。
正直、子どもにここまで詰め込むかなって思うぐらいに。
取り扱うのが薬草だから真剣にやらなきゃ命に関わる場合もあるわけで、指導側も厳しくなるんだろうけど……
そんな中、平民や商人の子たちはビジネスチャンスとばかりにメモを取ったりして真剣に取り組んでいたのが印象的だった。
貴族の子たちは入学前から家庭教師をつけているだけあって、ある程度のことは学習済みらしく、筆記試験のために応用的な内容だけ押さえておくか……みたいな感じだった。
私はというと、料理に使える未知のハーブやスパイスがないかと真面目に勉強したわよ。
今後食材を採取する時に毒草や毒きのこを間違えたりしないようにね。
特にきのこ。前世でもそうだったけど、迂闊に見た目じゃ判断できないからね!

「うう……もうしばらく薬草は見たくないです……」
マリエルちゃんは入学前に家庭教師をつけなかったツケが今回ってきているようで、覚えることがてんこ盛りでかなり消耗していた。
「……マリエル嬢。むしろこれからが本番だぞ? 筆記試験の後は採取の実習だからな」
ふらふらしながら歩くマリエルちゃんを見てセイが苦笑しつつツッコミを入れる。
「うう……だって、葉っぱのギザギザ加減とか、葉の裏の色の違いとか、どれも微妙すぎてわかりませんよぅ……」
「確かに。俺も覚えきれるか心配だな……」
気持ちはわかる。
私も採取し始めた頃は黒銀くろがね真白ましろに何度も雑草や毒草を摘みかけて止められたことがあったもの。
でも不思議なもので、何度も採取しているうちにパッと見ただけで見分けられるようになったのよね。
もしかして探索サーチスキルでも身につけたのかと思ったけれど、前世でじいちゃんやばあちゃんと山菜やタケノコ取りに行った時にそんな感じだったなというのを思い出してぬか喜びに終わったのだった。
じいちゃん曰く「慣れたらそういうになる」のだそうだ。
土の盛り上がりや、周囲の環境からなんとなくここにあるなってのが勘でわかるようになるんだって。
経験値あっての「達人のスキル」ってやつだよね。
だからマリエルちゃん、実際に採取するようになれば、きっと見分けがつくようになるよ、多分。
……大丈夫かな。

……と言うわけで、放課後はマリエルちゃんとセイのために聖獣の皆が先生になって、私の手持ちや実際に採取してきてもらったサンプルを見ながら復習をした。
そのおかげか、筆記試験では三人とも高得点で合格したのだった。えへん。

筆記試験の結果が出てから数日後。
合格者から採取の実習に向かうことになった。
あまりにも筆記試験の結果が悪いものは採取そのものが危険なため、再試験で合格しないと危なっかしくて行かせられないし、採取する森の浅い部分で一気に採取したら加減を知らない子たちに薬草を根こそぎにされる恐れがあるからだ。
学園内にある採取の森は癒しの魔法陣を施してあるので、時間が経過したら摘み取られた薬草がある程度回復するそうなのだけど、根こそぎにしてしまったら回復どころではない。
そのため、魔法学の専科にいる上級生を監督に、騎士団に入団が決まっている騎士科の生徒を護衛役として何班かに編成し、一週間で何回かに振り分けて採取の実習を行うのだそう。
そういう内容の説明を受け、実際に班分けをすることになった。
私たち特別寮の生徒は別れると護衛が大変になるとのことで、同じ班に決められていた。
嬉しいけれど、黒銀くろがねたちがいれば護衛はいなくても大丈夫だと思うんだけど……
そう思ってマーレン師に相談してみたら渋い顔をされた。
「うーむ、確かにそのほうが安全じゃから聖獣様を連れていくのは構わんが……騎士科の生徒は護衛の訓練も兼ねとるし、他の生徒たちの気が散りそうじゃなあ。極力姿や気配を消しておいてもらえるかの?」
そう言われてしまうと無理に連れていくのも気が引ける。
いざとなったら結界魔法や転移魔法もあるし、念話で呼べばなんとかなるか。
せっかく皆に教えてもらったから実際にその成果を見てもらいたかったのだけど、留守番しててもらうとしよう。残念。
そして他に同じ班になったメンバーは、エイディー様とアリシア様だった。
エイディー様は筆記試験がギリギリの成績だったため、成績の良かった私たちがサポートできるだろうとの判断から。
アリシア様は取り巻きの子たちが筆記試験に合格できなかったらしく、他の班では男子生徒ばかりになるため、体力的に厳しかろうと女子生徒が多い私たちの班に振り分けることになったようだった。
「よお! 同じ班になってよかったぜ! 当日は色々教えてくれよな!」
エイディー様はセイの肩に手を回してがっつり肩を組んだ。
「離せって。薬草はちゃんと覚えるんじゃなかったのか?」
「あー……何かいまいち見分けがつかなくってなー。でも大丈夫! 実際に見たら覚えるって皆言ってたし!」
どうやらエイディー様のお父様やお兄様からアドバイスされたみたいだけど……
うーん、エイディー様のご家族も脳筋の気配が……と疑いの目を向けてしまう。
「ふおお……眼福ぅ……」
マリエルちゃん、ノートで口元を隠してるけれど、隣の私からは緩んだ口元が丸見えだからね? 自重しよう?
マリエルちゃんにそれとなく注意しようとしたところでアリシア様がこちらを見ているのか視界の端に映った。
同じ班になったことだし、挨拶しておいたほうがいいかしら。
そう思ってアリシア様のほうに視線を向けるとバチっと目が合った。
「……っ!」
アリシア様は目が合うと思っていなかったようで、一瞬怯んだ様子を見せてから縦巻きロールを振り回しながらふいっとそっぽを向いてしまった。
ありゃ、避けられちゃった。
うう、あそこまであからさまに避けられちゃうと声をかけづらいなぁ……
「……ったく、アリーのやつ。ごめんな、感じ悪くて。後で俺から言っとくよ」
エイディー様がしかたねぇなあいつは、という表情でこちらを見ようとしないアリシア様を見つめながら言った。
エイディー様が絡むとややこしくなりそうな気がするのでちょっと遠慮したいんだけど……
「それよりさ、装備とか揃えたか? 俺、兄貴が使ってたやつを譲ってもらったんだ!」
エイディー様は気を取り直して実習の準備について話題を変えた。
お兄ちゃん子のエイディー様は、わざわざお兄様のおさがりをおねだりしたらしい。
私はほほえましさに、マリエルちゃんは兄弟愛の尊さにほっこりしたのだった。





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