249 / 343
連載
実習?
しおりを挟む
デザートもいただき、そろそろ午後からの授業のために移動しなくてはというところで、学園長が「いかん、言い忘れとったわい」と慌てたように私たちを引き止めた。
「そろそろ通達があると思うが、毎年この頃に採取の実習があるはず。学園内とはいえ屋外での作業になるので、くれぐれも気をつけるのだよ」
「屋外で実習……ですか? わかりました。気をつけます」
私たちは学園長とパメラさんに挨拶してから教室に向かった。
「……あの、さっきの実習って……?」
マリエルちゃんがおずおずと尋ねてきた。
「ああ、魔法学の授業が今日から魔法薬の作り方の章に入るだろ? 薬草の種類を座学で学んだら、実際に森で採取をするんだって兄貴が言ってた」
「森……」
「あ、心配しなくていいぞ。学園の奥にある森だから。とはいえ広いから、迷うと大変だけどな」
「ひええ……!」
エイディー様、安心させようとして逆に不安がらせてどうするんですか……
「マリエルさん、大丈夫よ。あまり奥に行かないようにすればいいんだし、私は採取に慣れているから一緒に行動すればいいのよ」
「ク、クリステアさぁん……!」
目を潤ませてしがみつくマリエルちゃん。
うむ、くるしゅうないぞよ。
「クリステア嬢は公爵令嬢なのに採取に慣れてるのか? なんでだ?」
「え、あの、それは……」
食材探しに領地内を散策しまくってたからです、とは言いづらい……!
「あ、そうか。マーレン先生が家庭教師してたんだよな。その時に採取の授業もあったんだな!」
「え、ええまあ。そうですわ、ほほ……」
エイディー様が一人で納得しているのをいいことに、敢えて訂正しないでおく。
セイは領地での私を知っているからか疑わしいと言わんばかりの視線を向けてくるけれど、何も言わないでくれるのでありがたい。
「え、それじゃクリステアさんの授業は免除になるのでは……?」
マリエルちゃんが不安そうな表情を浮かべると、先を歩いていたエイディー様が振り向いた。
「いや、それはないと思うぞ。今後授業で使う魔法薬の素材は定期的にその森で採取することになるんだ。薬草ってのはモノによっては鮮度が大事らしいぞ」
そうよねぇ。乾燥させて保存できるものもあれば、鮮度が落ちれば効果も落ちる薬草は確かにある。
私やマリエルちゃんはインベントリがあるから鮮度は保てるけれど、他の人はそうはいかないから、度々採取に行くことになるんでしょうね。
「まあ、生徒によっては金を出して平民の生徒に採取に行かせたりするやつもいるみたいだけど。魔法薬の精製の下手なやつは数が必要だから買ってばかりはいられねーだろうしな」
あー……貴族の子たちは採取とかやりたがらないでしょうからねぇ。
これも平民の生徒たちの収入源の一つなのだろうから、良いか悪いかは別としても必要なことなんだろうな。
ちょっとモヤッとしなくとないけど。
「俺は騎士団に入るって決めてるから、いざという時のために薬草のことを覚えないとな!」
「あの……騎士団で魔法薬が支給されるのではないのですか?」
マリエルちゃんが質問すると、エイディー様はよくぞ聞いてくれた! とばかりに得意気な顔を向けてきた。
「そりゃあもちろん支給されるさ。でもそれらを使い切ったら? うっかり瓶を割ってしまったら? そういう時のために応急処置としてそのままでも使える薬草はあるんだ。それを知っておけば生存率が上がるからちゃんと勉強しとけって言われたんだ」
騎士団にいらっしゃるお父様やお兄様のアドバイスなのだろう。
パパっ子かお兄ちゃんっ子かはわからないけれど、キラキラした目で語るエイディー様が眩しい。
食材探しのために領地の森を散策する私とはえらい違いだ。
いやでも私だって、もし遭難して食料が無くなったら採取でどうにかできるし、野営料理だってなんとかなるんだからね!
……って、サバイバル能力に長けた公爵令嬢とは……?
貴族としての自分に疑問を持ちつつ教室に向かう私なのだった。
午後からの魔法学の授業はエイディー様のお話通り魔法薬作りの前段階として薬草に関する講義が始まった。
採取に必要な道具の説明や根こそぎ採ったりしないという採取の心得から始まり、薬草の色や形、効能の他に採取可能な時期や保存方法、特定の条件下でないと採取できないものなど、現時点で解明されていることを事細かに説明された。
中にはハーブとして料理に使ったりしているものもあり、知らなかった効能も知ることができたのは収穫だったわ。
それに、媚薬きのこの説明はなかったので、実習でうっかりその知識を披露しなくてすんだのは本当によかったわ。
「なんでそんなもの知ってるんだ?」なんて思われ、終いには『破廉恥令嬢』という不名誉な称号を獲得するところだった。
危なかった……
授業の終わりに「近々、学園内の森で採取の実習を行うので、準備を進めておくこと」と先生が予告したので、その後の教室内はざわめき浮き足立っていた。
主に「ああもう、採取なんて行きたくありませんわ」と嘆く貴族のお嬢様組や「やった、小遣い稼ぎのチャンス……!」と燃える商人&平民組の発言が多かった。
エイディー様の説明通りだな、と思いながら私とセイとマリエルちゃんの三人は特別寮に帰ったのだった。
「そろそろ通達があると思うが、毎年この頃に採取の実習があるはず。学園内とはいえ屋外での作業になるので、くれぐれも気をつけるのだよ」
「屋外で実習……ですか? わかりました。気をつけます」
私たちは学園長とパメラさんに挨拶してから教室に向かった。
「……あの、さっきの実習って……?」
マリエルちゃんがおずおずと尋ねてきた。
「ああ、魔法学の授業が今日から魔法薬の作り方の章に入るだろ? 薬草の種類を座学で学んだら、実際に森で採取をするんだって兄貴が言ってた」
「森……」
「あ、心配しなくていいぞ。学園の奥にある森だから。とはいえ広いから、迷うと大変だけどな」
「ひええ……!」
エイディー様、安心させようとして逆に不安がらせてどうするんですか……
「マリエルさん、大丈夫よ。あまり奥に行かないようにすればいいんだし、私は採取に慣れているから一緒に行動すればいいのよ」
「ク、クリステアさぁん……!」
目を潤ませてしがみつくマリエルちゃん。
うむ、くるしゅうないぞよ。
「クリステア嬢は公爵令嬢なのに採取に慣れてるのか? なんでだ?」
「え、あの、それは……」
食材探しに領地内を散策しまくってたからです、とは言いづらい……!
「あ、そうか。マーレン先生が家庭教師してたんだよな。その時に採取の授業もあったんだな!」
「え、ええまあ。そうですわ、ほほ……」
エイディー様が一人で納得しているのをいいことに、敢えて訂正しないでおく。
セイは領地での私を知っているからか疑わしいと言わんばかりの視線を向けてくるけれど、何も言わないでくれるのでありがたい。
「え、それじゃクリステアさんの授業は免除になるのでは……?」
マリエルちゃんが不安そうな表情を浮かべると、先を歩いていたエイディー様が振り向いた。
「いや、それはないと思うぞ。今後授業で使う魔法薬の素材は定期的にその森で採取することになるんだ。薬草ってのはモノによっては鮮度が大事らしいぞ」
そうよねぇ。乾燥させて保存できるものもあれば、鮮度が落ちれば効果も落ちる薬草は確かにある。
私やマリエルちゃんはインベントリがあるから鮮度は保てるけれど、他の人はそうはいかないから、度々採取に行くことになるんでしょうね。
「まあ、生徒によっては金を出して平民の生徒に採取に行かせたりするやつもいるみたいだけど。魔法薬の精製の下手なやつは数が必要だから買ってばかりはいられねーだろうしな」
あー……貴族の子たちは採取とかやりたがらないでしょうからねぇ。
これも平民の生徒たちの収入源の一つなのだろうから、良いか悪いかは別としても必要なことなんだろうな。
ちょっとモヤッとしなくとないけど。
「俺は騎士団に入るって決めてるから、いざという時のために薬草のことを覚えないとな!」
「あの……騎士団で魔法薬が支給されるのではないのですか?」
マリエルちゃんが質問すると、エイディー様はよくぞ聞いてくれた! とばかりに得意気な顔を向けてきた。
「そりゃあもちろん支給されるさ。でもそれらを使い切ったら? うっかり瓶を割ってしまったら? そういう時のために応急処置としてそのままでも使える薬草はあるんだ。それを知っておけば生存率が上がるからちゃんと勉強しとけって言われたんだ」
騎士団にいらっしゃるお父様やお兄様のアドバイスなのだろう。
パパっ子かお兄ちゃんっ子かはわからないけれど、キラキラした目で語るエイディー様が眩しい。
食材探しのために領地の森を散策する私とはえらい違いだ。
いやでも私だって、もし遭難して食料が無くなったら採取でどうにかできるし、野営料理だってなんとかなるんだからね!
……って、サバイバル能力に長けた公爵令嬢とは……?
貴族としての自分に疑問を持ちつつ教室に向かう私なのだった。
午後からの魔法学の授業はエイディー様のお話通り魔法薬作りの前段階として薬草に関する講義が始まった。
採取に必要な道具の説明や根こそぎ採ったりしないという採取の心得から始まり、薬草の色や形、効能の他に採取可能な時期や保存方法、特定の条件下でないと採取できないものなど、現時点で解明されていることを事細かに説明された。
中にはハーブとして料理に使ったりしているものもあり、知らなかった効能も知ることができたのは収穫だったわ。
それに、媚薬きのこの説明はなかったので、実習でうっかりその知識を披露しなくてすんだのは本当によかったわ。
「なんでそんなもの知ってるんだ?」なんて思われ、終いには『破廉恥令嬢』という不名誉な称号を獲得するところだった。
危なかった……
授業の終わりに「近々、学園内の森で採取の実習を行うので、準備を進めておくこと」と先生が予告したので、その後の教室内はざわめき浮き足立っていた。
主に「ああもう、採取なんて行きたくありませんわ」と嘆く貴族のお嬢様組や「やった、小遣い稼ぎのチャンス……!」と燃える商人&平民組の発言が多かった。
エイディー様の説明通りだな、と思いながら私とセイとマリエルちゃんの三人は特別寮に帰ったのだった。
応援ありがとうございます!
11
お気に入りに追加
13,921
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。