上 下
243 / 373
連載

あああたまらん!

しおりを挟む
アリシア様は魔法陣の前へ進み出るとふわりと跪き手を置いた。
アリシア様がすっと目を閉じて魔力を流しはじめると、魔法陣に光がさーっと満ちて光の球が浮かび上がりすぐにぱちんと弾けた。
そこからポンッと膨らんでポテン、テン、テン……と弾んで転がったのは……もふもふの……毛玉?
「おっと、これはパッフルラビットだね! 一時期ふわふわの毛皮が貴族の装飾品に使われるのが流行って乱獲されたために数が減った魔物だ。今は愛玩動物ペットとして貴族の間で人気が高まってきたため、生息地がある領地ではどうにか繁殖させようとする動きがあるみたいだよ。全身を覆うもふもふとした毛で外敵から身を守っていて、性格は比較的穏やかで人懐こいのが特徴だね。換毛期だけ気が荒くなることだけ気をつければ世話は簡単なはずだ」
パッフルラビットと呼ばれた毛玉はぽんぽんと魔法陣の中を飛び跳ねていた。
か、か……可愛いー! たまらん可愛さ!
あのもふもふの毛玉、すんごく触り心地がよさそう!
『……おい、お嬢。白いのと黒いのを暴走させたくなきゃ落ち着け、な?』
はっ! 白虎様の呆れたような声で気づいたけれど、ついつい立ち上がって前のめりで見ていたわ。
「ほほ……あまりの可愛さに、つい……」
笑って誤魔化しながらそろそろと席に座ると白虎様はやれやれとため息を吐いて再び寝る体勢になった。護衛とは。
『お嬢があんなのをうっかりテイムした日にゃ、あいつらのどっちかがパクッとひと口で平らげちまうぞ? かわいそうだろうが』
そ、そうよね。気をつけなきゃ。
それに真白ましろに「くりすてあ、うわき……? おれのこと、どうでもよくなった……?」なんて嘆かれちゃうのは目に見えているもの。
ああでも、アリシア様がもしテイムしたら、お願いして少しだけもふらせていただけたりは……しないだろうなぁ。はあ。
もふもふの毛玉ちゃんが魔法陣の中をぽんぽん飛び跳ね、アリシア様の前で止まった。
身体をゆらゆらと左右に揺らしながらアリシア様を見ている……もふもふすぎてどこが顔がわからないから多分だけど。
アリシア様は顔を綻ばせて思わずといった様子で毛玉ちゃんに手を伸ばしかけたけれど、ハッと顔を上げてこちらを見た。
え、何かしら?
私と目があったと思うと、アリシア様はキュッと唇を引き結び、出しかけていた手を引っ込めてすっくと立ち上がった。
「……送還いたしますわ」
ええーっ⁉︎ あんなに可愛いのにテイムしないの⁉︎
「おや、そうかい? じゃあこっちに手を置いて魔力を流してね」
ニール先生の指示に従ってアリシア様が送還用の位置に移動すると毛玉ちゃんもテンテンと跳ねながらついてきた。うわあ、可愛い!
あああ、送還前に一度でもいいからもふってみたかったな……
未練タラタラで眺めていると、アリシア様は優雅に跪いて魔法陣に手を置いた。
アリシア様は魔力を流す前に毛玉ちゃんに向かって何か話しかけていたようだけれど、囁くような声だったから、なんと言ったのかは全く聞こえなかった。
だけど、見学席の私たちから見えた口の動きは「ごめんなさい」と言っているように見えたけど……気のせいかしら。
アリシア様はそのまま魔力を流し、毛玉ちゃんことパッフルラビットは光に包まれて消えてしまった。
アリシア様は最後まで目を逸らすことなく見送ると、スッと立ち上がり皆のいる結界に戻っていった。
あああ……もふもふがぁ……
「……どうしてクリステア嬢がガッカリしてるんだ?」
セイが私が落ち込むのを不思議そうに見る。
「ああ……いえその、一回だけでもいいからもふもふしてみたかったなと思いまして」
「……黒銀くろがね殿と真白ましろ殿の機嫌を損ねないようにな」
セイは私のもふもふ好きと二人の独占欲の強さを知っているから、呆れた様子で忠告してくれた。
うん、わかってますって。
今日もこの後特別寮に戻ったら浮気しなかったか、とか色々言及されるだろうし。
私とセイが話している間にも数人の生徒たちが小型の魔物を召喚しては送還するを繰り返していた。
「じゃあ、あと残っているのは……と」
ニール先生がまだ体験していない生徒はいないかと見渡していると、控えめに手を挙げるマリエルちゃんの姿が見えた。
「わ……私、まだです……」
「ええと、君が最後かな? じゃあこっちにおいで」
「は、はい!」
マリエルちゃんはニール先生に手招きされて慌てて前に進み出ると、何もないところで躓いた。
マリエルちゃん、しっかり!
どうもマリエルちゃんは人から注目されるのが苦手みたいなのよね。
すぐに真っ赤になったり、緊張してしまったりしているし。
前世はコスプレイヤーだったと聞いてるけど、ああいうのって人から注目されたりするものなんじゃないの?
イベントとか撮影会とか、どうしてたのかしら?
そんな私の疑問をよそに、マリエルちゃんは顔を真っ赤にしながら魔法陣の前に進み出て、他の生徒たちと同様に魔力を流しはじめた。
私のアドバイスでマリエルちゃんもヨガを始めたことで魔力循環が上手くなって魔力量も増えたと聞いていたのだけれど、その話通り、すぐに魔法陣に魔力が満たされて光の球が浮かび上がった。
……あれ?
他の生徒たちより球が大きいような……?
今まで見た中で一番大きな球体にマリエルちゃんがぽかんと眺めていると、その球がぱちんと弾けた。
「はああ、窮屈だったわぁ……て。なによ此処って、子供だらけじゃないの! ヤダァ!」
……は? え? 今喋ったのはもしかして、召喚された魔物⁉︎

---------------------------
5/12(木)に26話前編が更新されております!
気になる展開ですが待て、次号!てやつですね……!
ぜひお楽しみくださいませ~!
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました

氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。 ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。 小説家になろう様にも掲載中です

初夜に「俺がお前を抱く事は無い!」と叫んだら長年の婚約者だった新妻に「気持ち悪い」と言われた上に父にも予想外の事を言われた男とその浮気女の話

ラララキヲ
恋愛
 長年の婚約者を欺いて平民女と浮気していた侯爵家長男。3年後の白い結婚での離婚を浮気女に約束して、新妻の寝室へと向かう。  初夜に「俺がお前を抱く事は無い!」と愛する夫から宣言された無様な女を嘲笑う為だけに。  しかし寝室に居た妻は……  希望通りの白い結婚と愛人との未来輝く生活の筈が……全てを周りに知られていた上に自分の父親である侯爵家当主から言われた言葉は──  一人の女性を蹴落として掴んだ彼らの未来は……── <【ざまぁ編】【イリーナ編】【コザック第二の人生編(ザマァ有)】となりました> ◇テンプレ浮気クソ男女。 ◇軽い触れ合い表現があるのでR15に ◇ふんわり世界観。ゆるふわ設定。 ◇ご都合展開。矛盾は察して下さい… ◇なろうにも上げてます。 ※HOTランキング入り(1位)!?[恋愛::3位]ありがとうございます!恐縮です!期待に添えればよいのですがッ!!(;><)

断腸の思いで王家に差し出した孫娘が婚約破棄されて帰ってきた

兎屋亀吉
恋愛
ある日王家主催のパーティに行くといって出かけた孫娘のエリカが泣きながら帰ってきた。買ったばかりのドレスは真っ赤なワインで汚され、左頬は腫れていた。話を聞くと王子に婚約を破棄され、取り巻きたちに酷いことをされたという。許せん。戦じゃ。この命燃え尽きようとも、必ずや王家を滅ぼしてみせようぞ。

美しい姉と痩せこけた妹

サイコちゃん
ファンタジー
若き公爵は虐待を受けた姉妹を引き取ることにした。やがて訪れたのは美しい姉と痩せこけた妹だった。姉が夢中でケーキを食べる中、妹はそれがケーキだと分からない。姉がドレスのプレゼントに喜ぶ中、妹はそれがドレスだと分からない。公爵はあまりに差のある姉妹に疑念を抱いた――

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

《勘違い》で婚約破棄された令嬢は失意のうちに自殺しました。

友坂 悠
ファンタジー
「婚約を考え直そう」 貴族院の卒業パーティーの会場で、婚約者フリードよりそう告げられたエルザ。 「それは、婚約を破棄されるとそういうことなのでしょうか?」 耳を疑いそう聞き返すも、 「君も、その方が良いのだろう?」 苦虫を噛み潰すように、そう吐き出すフリードに。 全てに絶望し、失意のうちに自死を選ぶエルザ。 絶景と評判の観光地でありながら、自殺の名所としても知られる断崖絶壁から飛び降りた彼女。 だったのですが。

僕の家族は母様と母様の子供の弟妹達と使い魔達だけだよ?

闇夜の現し人(ヤミヨノウツシビト)
ファンタジー
ー 母さんは、「絶世の美女」と呼ばれるほど美しく、国の中で最も権力の強い貴族と呼ばれる公爵様の寵姫だった。 しかし、それをよく思わない正妻やその親戚たちに毒を盛られてしまった。 幸い発熱だけですんだがお腹に子が出来てしまった以上ここにいては危険だと判断し、仲の良かった侍女数名に「ここを離れる」と言い残し公爵家を後にした。 お母さん大好きっ子な主人公は、毒を盛られるという失態をおかした父親や毒を盛った親戚たちを嫌悪するがお母さんが日々、「家族で暮らしたい」と話していたため、ある出来事をきっかけに一緒に暮らし始めた。 しかし、自分が家族だと認めた者がいれば初めて見た者は跪くと言われる程の華の顔(カンバセ)を綻ばせ笑うが、家族がいなければ心底どうでもいいというような表情をしていて、人形の方がまだ表情があると言われていた。 『無能で無価値の稚拙な愚父共が僕の家族を名乗る資格なんて無いんだよ?』 さぁ、ここに超絶チートを持つ自分が認めた家族以外の生き物全てを嫌う主人公の物語が始まる。 〈念の為〉 稚拙→ちせつ 愚父→ぐふ ⚠︎注意⚠︎ 不定期更新です。作者の妄想をつぎ込んだ作品です。

婚約者に消えろと言われたので湖に飛び込んだら、気づけば三年が経っていました。

束原ミヤコ
恋愛
公爵令嬢シャロンは、王太子オリバーの婚約者に選ばれてから、厳しい王妃教育に耐えていた。 だが、十六歳になり貴族学園に入学すると、オリバーはすでに子爵令嬢エミリアと浮気をしていた。 そしてある冬のこと。オリバーに「私の為に消えろ」というような意味のことを告げられる。 全てを諦めたシャロンは、精霊の湖と呼ばれている学園の裏庭にある湖に飛び込んだ。 気づくと、見知らぬ場所に寝かされていた。 そこにはかつて、病弱で体の小さかった辺境伯家の息子アダムがいた。 すっかり立派になったアダムは「あれから三年、君は目覚めなかった」と言った――。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
番外編を閲覧することが出来ません。
過去1ヶ月以内にレジーナの小説・漫画を1話以上レンタルしている と、レジーナのすべての番外編を読むことができます。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。