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【王太子視点】この出会いは必然か4

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…今、俺の目の前には妖精がいる。
細くてちびっこくて、食べたら甘そうな色をまとったふんわりした金髪に、濃い空の青を思わせる大きな瞳。
少しばかり緊張した面持ちのカーテシーは、何かと点数の辛いご婦人方からも問題なく及第点が取れそうな美しいものだった。
…ノーマンめ、こんなに可愛いなんて聞いてないぞ!…いや、可愛いとはいつも言ってたな。
しかし…こんなに可愛い娘が…。

「ああ、お前が噂の悪食令嬢か。」
しまった。つい…。
「噂の、あ、あく…?」
信じられない言葉を耳にしたような顔をして聞き返してくる。…知らなかったのか?
「馬の餌だろうが、どんなもんでも躊躇なく食う悪食令嬢って噂だが?」
「あ、悪食…っ!?」
ショックだったのか、呆然としている。…やばい。つい噂と見た目のギャップが気になってしまって口をついて出てしまった。
いつもノーマンから、王族が簡単に思ったことを口にするのはやめるようにと散々言われているのに。

「…殿下。私の妹を侮辱するのはやめてくださいませんか?」
「…すまん。」
やばい。周囲の空気がヒヤリとしてきた。相当怒ってるなこれは。おいおい、クリステア嬢も怯えてるぞ?

「すまないね、クリステア。こう見えても殿下は今回クリステアの料理を楽しみにしてきたんだよ?」
おお…!なんだかんだとフォローしてくれている。さすがだ、ノーマン。
「…まあ、俺が直々に食べて美味ければ、俺のお墨付きってことでそんな噂も消えるだろう。」
そうだ、俺が美味かったと言えば皆悪食令嬢だなんて陰口は叩かなくなるだろうから心配するな。…そもそも、そんな影口を叩く輩は身内ですでに排除してるみたいだしな…。

公爵がお茶の支度のある部屋へと誘導する。クリステア嬢は同行しないようだ。色々と話してみたかったんだが…。晩餐の時に話せばいいか。
「ああ。クリステア嬢、今日の晩餐は楽しみにしてるからな!」
「…ええ、腕によりをかけて作りますわ。楽しみになさっていてくださいませ。」
フォローも兼ねての激励に、にこやかに答えるクリステア嬢。いい子じゃないか。

お茶とともに出されたケーキが信じられないほど美味かった。みるくれーぷとか言うそうだ。これもクリステア嬢考案らしい。普段菓子は甘すぎて嫌になるのだが、これは程よい甘さでいくらでも食べられる。というか、あっと言う間になくなった。まだ食べたかったのだか残りはもう無いらしい。がっかりしたところに、クリステア嬢がまだ食べていないからと自分のを譲ってくれた。なんて心根の優しい娘なんだ。俺に嫉妬したノーマンや公爵にみるくれーぷを奪われそうになったが、それもクリステア嬢が諌めてくれた。
どらやきとかいうのも気になったが、せっかくの晩餐が食べられなくなるのは失礼になるだろうから諦めた。そのうち食べてみたいものだ。

そうこうするうちに、クリステア嬢が晩餐の支度のために離席した。本当に本人が作っているのか?公爵令嬢なのに?
作るところを見たいと言うと、今回は新作レシピで門外不出だと言う。
これは期待するしかない。

晩餐がますます楽しみになった。
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