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テイムする? しない?
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セイと並んで見学席に座ると、ニール先生が生徒たちの待機場所として結界を展開する魔導具を設置していた。
「召喚に挑戦する生徒以外はこの結界の範囲外に出ないように。じゃあこれから一人ひとり召喚の魔法陣に魔力を注いでもらうよ。魔力を多く注いだからといって強い魔物が召喚されるわけじゃないから無理をしないこと。今回はあくまでお試しだからね」
ニール先生はそう言って生徒の一人を魔法陣の前まで誘導した。
「小型から中型の魔物しか出ないように設定されているといっても攻撃されないわけじゃないから気をつけるように。いざという時は僕やマーレン先生が対処するけど油断しないこと。あ、気に入った子と契約するのは構わないけど、自分で世話をするのが条件だから。できなければ送還するからそのつもりで。決まりだからね」
ニール先生の合図で一人目の生徒が魔法陣の指定された位置に手を置き、魔力を注ぎ始めた。
手を置いたところから魔法陣がふわりと光り始め、魔法陣に光が全て行き渡ると柔らかな光からパアッと一瞬強い光に変化した。
「わ、すご……え、あれは」
次の瞬間、魔法陣の中心にスーッと光が集まり、その光が球体となってふわんと空中に浮かび上がった。
そしてその球体が少しだけ膨らんだ後、ぱちんと弾けて小さな魔物が飛び出し、ドテッと鈍い音を立てて落下した。
ワッと皆の歓声が上がる中、ニール先生はまじまじと魔物を観察して言った。
「ビッグハンドモウルだね。穴掘りが得意な魔物で使い方によっては重宝するけど、油断してるとそこらじゅう穴だらけにして、酷いときは家が倒壊しちゃうのが難点……かな?」
……いやそれモグラだよね?
見た目は前脚が大きなモグラそのものだった。でも意外ともふもふしててかわいいかも。
「どうする? このままテイムするかい?」
ニール先生がにこやかにビッグハンドモウルを召喚した生徒に尋ねた。
「……いいです。いらないです」
召喚前の期待たっぷりな表情から一転、明らかにがっかりした様子で答えていた。
「そうかい? つぶらな瞳がかわいい子なんだけどなぁ……じゃあ、元の場所に還してあげようか」
ニール先生はいきなり召喚された衝撃で固まっているビッグハンドモウルをひとなでし、召喚した生徒にさっきとは違う位置に手を置いて魔力を注ぐようにしじした。
生徒が魔力を注ぐと、ビッグハンドモウルは再び光に包まれ、それから光の粒に変化して魔法陣に溶けていった。
おお……あれで元の場所に戻るのか。
「さ、次は誰かな?」
「ハイッ! 俺がやります!」
ニール先生の声にバッと張り切って手を挙げたのはエイディー様だった。
ああ、魔物を召喚するの楽しみにしてたもんねぇ……
「はい、じゃあ君こっちにきて手を置いて。あ、終わった君は結界の中に戻ってね」
一番手の生徒と入れ替わるようにエイディー様が意気揚々と魔法陣の前まで進んだ。
「エイディー様はどんな魔物を召喚するのかしらね」
「さあ……でも、小型から中型の魔物なら、エイディーの目的には合わないから送還することになんじゃないかな」
私の疑問にセイはそっけなく答えるけれど、視線はエイディー様から離れなかった。
その真剣な眼差しで、エイディー様を心配しているのがよくわかった。
エイディー様、がっかりするような結果にならなきゃいいけど……
エイディー様は見学席からでもわかるくらいスゥー、ハー……と、大きく深呼吸して、魔法陣の指定位置に手を置いた。
前の生徒よりも速いスピードで魔法陣に光が行き渡り、ふわりと浮かび上がった球体はさっきよりほんの少しだけ大きい。
球体がさっきと同じようにぱちん、と弾けて大きな尻尾の生き物が空中でくるりと回ってから音も立てずに着地した。
「かっ……!」
かわいい!
大きな耳とふさふさの大きな尻尾が特徴的な中型犬サイズの魔物が、周囲を警戒するかのように姿勢を低くして唸り声をあげていた。
ニール先生が「おおっ!」と興奮気味に魔法陣の前でまじまじと魔物を観察していた。
「これはいいね! 火狐だ。小型の魔物だけど火属性の魔法が使える珍しい個体だよ」
火狐かあ。大きなお耳がフェネックみたいでかわいい。
いきなり知らない場所に召喚されてパニックになりかけていたようだったけど、エイディー様を見て唸り声を止め、尻尾を振り始めた。
「おっ、いいねいいね! 火狐のほうは君の魔力に惹かれてるようだよ。このままテイムするかい?」
ニール先生は楽しそうに問うと、エイディー様は僅かに動揺した様子を見せてから「いえ、送還します」と答えた。
えっ? テイムしないの⁉︎
あんなに楽しみにしてたのに。
「そっかー。じゃあ、こっちに手を置いて魔力を流してね」
ニール先生が残念そうに言うと、一瞬だけ躊躇したようだけど、迷いを振り切るようにニール先生の指示に従って火狐を送還してしまった。
えええ……せっかくのかわいいもふもふだったのに。
エイディー様はわかりやすくがっくりと肩を落として結界の中へ戻っていった。
「あーあ、もったいないことしたな、あいつ」
「え……ぅえっ⁉︎」
私たちが座っている席の後ろに白虎様が悠然と座っていた。
「シーッ、せっかく魔力を抑えて気配を消してんだから騒ぐなって。一応遮音魔法はかけたけど見るからに騒いでたら意味ねーだろ」
「は? トラ、お前どうしてここに⁉︎」
「お前たちになんかあっちゃいけねーから俺が代表で護衛にきたんだ。独占欲が強くて心配症な黒いのと白いのはお嬢がまた新しいのと契約しないかとやきもきして魔力を抑える気もねぇみたいだからこっちに来ないよう朱雀に見張らせてんだ。他の生徒たちの迷惑になるしな」
えええ……? 私、黒銀と真白に信用なさすぎない?
……まあ、輝夜のこともあるし、しかたないのか……な?
「そうか。もったいないこととは、どういう意味だ?」
セイは先程の白虎様の言葉が気になったようだ。
「あー、さっきニールのやつが火狐と言ってたが、あれが成体と思われているが実は幼体だ。幼体の頃は好奇心が強いからまれに人里に出没して狐火を出しては人を脅かしたりしてしまいにゃ討伐されてる。成体になれば警戒心も魔力も強くなり、魔力量に応じて尾の数が増えて妖狐となる。そんで、個体によっては神獣……この国じゃ聖獣か。変化するやつもいるな」
「えええ⁉︎ それってかなりすごい魔物なんじゃ?」
前世で言うところの九尾の狐とかそういう感じだよね⁉︎
「だから言ったろ、もったいないって」
「エイディーは魔物の背に乗って闘ったりしたいと言っていたが……」
「あー、成体ならまあ騎乗できなくもないだろうな。成体は気位が高いから主人ですら背に乗せるかはわかんねーけど」
あちゃー。エイディー様が千載一遇のチャンスを逃したと知ったら今よりさらに落ち込むんじゃないかな?
セイも同じことを考えたみたい。
「二人とも、このことはエイディーには内密に……」
『まあでも、大丈夫だろ』
白虎様が子虎の姿に変化してくつろぎはじめた。
あれ? 護衛しにきたんじゃなかったっけ?
「大丈夫って、何がだ?」
セイが不満げに問うと、白虎様はくわぁ、と欠伸をしてこてん、と寝る体勢になった。
護衛する気全くないよね⁇
『どうやらさっきの火狐はあいつの魔力に興味がある様子だったからな。いずれまた出会うことがあればやつから近寄ってくるだろ』
「……そうか」
白虎様の言葉にセイの表情が明るくなった。
「じゃあ、後でこっそり教えて悔しがらせてやろうかな?」
「セイ、それはかわいそうよ」
珍しくセイがニヤリと意地悪そうに笑うので、私まで思わず笑ってしまった。
まったくもう。さっきまで心配していたくせに!
「はい、次の子は誰かな~」
白虎様と話している間に何人か召喚を済ませたようだ。マリエルちゃんは……まだみたいね。
今のところ誰もテイムしている様子はないようだ。
まあ、お試しみたいなものらしいし、お世話するつもりがなければ気軽にテイムなんてしないわよね。
「はい、私が」
そう言って前に進み出たのはアリシア様だった。
---------------------------
5月12日(木)はコミカライズ版「転生令嬢は庶民の味に飢えている」第26回が更新予定です!
皆様お見逃しなく~!( ´ ▽ ` )
「召喚に挑戦する生徒以外はこの結界の範囲外に出ないように。じゃあこれから一人ひとり召喚の魔法陣に魔力を注いでもらうよ。魔力を多く注いだからといって強い魔物が召喚されるわけじゃないから無理をしないこと。今回はあくまでお試しだからね」
ニール先生はそう言って生徒の一人を魔法陣の前まで誘導した。
「小型から中型の魔物しか出ないように設定されているといっても攻撃されないわけじゃないから気をつけるように。いざという時は僕やマーレン先生が対処するけど油断しないこと。あ、気に入った子と契約するのは構わないけど、自分で世話をするのが条件だから。できなければ送還するからそのつもりで。決まりだからね」
ニール先生の合図で一人目の生徒が魔法陣の指定された位置に手を置き、魔力を注ぎ始めた。
手を置いたところから魔法陣がふわりと光り始め、魔法陣に光が全て行き渡ると柔らかな光からパアッと一瞬強い光に変化した。
「わ、すご……え、あれは」
次の瞬間、魔法陣の中心にスーッと光が集まり、その光が球体となってふわんと空中に浮かび上がった。
そしてその球体が少しだけ膨らんだ後、ぱちんと弾けて小さな魔物が飛び出し、ドテッと鈍い音を立てて落下した。
ワッと皆の歓声が上がる中、ニール先生はまじまじと魔物を観察して言った。
「ビッグハンドモウルだね。穴掘りが得意な魔物で使い方によっては重宝するけど、油断してるとそこらじゅう穴だらけにして、酷いときは家が倒壊しちゃうのが難点……かな?」
……いやそれモグラだよね?
見た目は前脚が大きなモグラそのものだった。でも意外ともふもふしててかわいいかも。
「どうする? このままテイムするかい?」
ニール先生がにこやかにビッグハンドモウルを召喚した生徒に尋ねた。
「……いいです。いらないです」
召喚前の期待たっぷりな表情から一転、明らかにがっかりした様子で答えていた。
「そうかい? つぶらな瞳がかわいい子なんだけどなぁ……じゃあ、元の場所に還してあげようか」
ニール先生はいきなり召喚された衝撃で固まっているビッグハンドモウルをひとなでし、召喚した生徒にさっきとは違う位置に手を置いて魔力を注ぐようにしじした。
生徒が魔力を注ぐと、ビッグハンドモウルは再び光に包まれ、それから光の粒に変化して魔法陣に溶けていった。
おお……あれで元の場所に戻るのか。
「さ、次は誰かな?」
「ハイッ! 俺がやります!」
ニール先生の声にバッと張り切って手を挙げたのはエイディー様だった。
ああ、魔物を召喚するの楽しみにしてたもんねぇ……
「はい、じゃあ君こっちにきて手を置いて。あ、終わった君は結界の中に戻ってね」
一番手の生徒と入れ替わるようにエイディー様が意気揚々と魔法陣の前まで進んだ。
「エイディー様はどんな魔物を召喚するのかしらね」
「さあ……でも、小型から中型の魔物なら、エイディーの目的には合わないから送還することになんじゃないかな」
私の疑問にセイはそっけなく答えるけれど、視線はエイディー様から離れなかった。
その真剣な眼差しで、エイディー様を心配しているのがよくわかった。
エイディー様、がっかりするような結果にならなきゃいいけど……
エイディー様は見学席からでもわかるくらいスゥー、ハー……と、大きく深呼吸して、魔法陣の指定位置に手を置いた。
前の生徒よりも速いスピードで魔法陣に光が行き渡り、ふわりと浮かび上がった球体はさっきよりほんの少しだけ大きい。
球体がさっきと同じようにぱちん、と弾けて大きな尻尾の生き物が空中でくるりと回ってから音も立てずに着地した。
「かっ……!」
かわいい!
大きな耳とふさふさの大きな尻尾が特徴的な中型犬サイズの魔物が、周囲を警戒するかのように姿勢を低くして唸り声をあげていた。
ニール先生が「おおっ!」と興奮気味に魔法陣の前でまじまじと魔物を観察していた。
「これはいいね! 火狐だ。小型の魔物だけど火属性の魔法が使える珍しい個体だよ」
火狐かあ。大きなお耳がフェネックみたいでかわいい。
いきなり知らない場所に召喚されてパニックになりかけていたようだったけど、エイディー様を見て唸り声を止め、尻尾を振り始めた。
「おっ、いいねいいね! 火狐のほうは君の魔力に惹かれてるようだよ。このままテイムするかい?」
ニール先生は楽しそうに問うと、エイディー様は僅かに動揺した様子を見せてから「いえ、送還します」と答えた。
えっ? テイムしないの⁉︎
あんなに楽しみにしてたのに。
「そっかー。じゃあ、こっちに手を置いて魔力を流してね」
ニール先生が残念そうに言うと、一瞬だけ躊躇したようだけど、迷いを振り切るようにニール先生の指示に従って火狐を送還してしまった。
えええ……せっかくのかわいいもふもふだったのに。
エイディー様はわかりやすくがっくりと肩を落として結界の中へ戻っていった。
「あーあ、もったいないことしたな、あいつ」
「え……ぅえっ⁉︎」
私たちが座っている席の後ろに白虎様が悠然と座っていた。
「シーッ、せっかく魔力を抑えて気配を消してんだから騒ぐなって。一応遮音魔法はかけたけど見るからに騒いでたら意味ねーだろ」
「は? トラ、お前どうしてここに⁉︎」
「お前たちになんかあっちゃいけねーから俺が代表で護衛にきたんだ。独占欲が強くて心配症な黒いのと白いのはお嬢がまた新しいのと契約しないかとやきもきして魔力を抑える気もねぇみたいだからこっちに来ないよう朱雀に見張らせてんだ。他の生徒たちの迷惑になるしな」
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セイは先程の白虎様の言葉が気になったようだ。
「あー、さっきニールのやつが火狐と言ってたが、あれが成体と思われているが実は幼体だ。幼体の頃は好奇心が強いからまれに人里に出没して狐火を出しては人を脅かしたりしてしまいにゃ討伐されてる。成体になれば警戒心も魔力も強くなり、魔力量に応じて尾の数が増えて妖狐となる。そんで、個体によっては神獣……この国じゃ聖獣か。変化するやつもいるな」
「えええ⁉︎ それってかなりすごい魔物なんじゃ?」
前世で言うところの九尾の狐とかそういう感じだよね⁉︎
「だから言ったろ、もったいないって」
「エイディーは魔物の背に乗って闘ったりしたいと言っていたが……」
「あー、成体ならまあ騎乗できなくもないだろうな。成体は気位が高いから主人ですら背に乗せるかはわかんねーけど」
あちゃー。エイディー様が千載一遇のチャンスを逃したと知ったら今よりさらに落ち込むんじゃないかな?
セイも同じことを考えたみたい。
「二人とも、このことはエイディーには内密に……」
『まあでも、大丈夫だろ』
白虎様が子虎の姿に変化してくつろぎはじめた。
あれ? 護衛しにきたんじゃなかったっけ?
「大丈夫って、何がだ?」
セイが不満げに問うと、白虎様はくわぁ、と欠伸をしてこてん、と寝る体勢になった。
護衛する気全くないよね⁇
『どうやらさっきの火狐はあいつの魔力に興味がある様子だったからな。いずれまた出会うことがあればやつから近寄ってくるだろ』
「……そうか」
白虎様の言葉にセイの表情が明るくなった。
「じゃあ、後でこっそり教えて悔しがらせてやろうかな?」
「セイ、それはかわいそうよ」
珍しくセイがニヤリと意地悪そうに笑うので、私まで思わず笑ってしまった。
まったくもう。さっきまで心配していたくせに!
「はい、次の子は誰かな~」
白虎様と話している間に何人か召喚を済ませたようだ。マリエルちゃんは……まだみたいね。
今のところ誰もテイムしている様子はないようだ。
まあ、お試しみたいなものらしいし、お世話するつもりがなければ気軽にテイムなんてしないわよね。
「はい、私が」
そう言って前に進み出たのはアリシア様だった。
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