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魔物学

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魔物学の授業が始まってからしばらくの間は座学ばかりが続いていた。
私としてはいろんな魔獣のことを知れて満足していたのだけど、魔獣契約を熱望しているエイディー様にとっては焦ったくてしかたなかったようだ。
「いつになったら魔獣契約できるようになんのかなぁ……」
エイディー様はカフェテリアで牛丼の大盛りをぺろりと平らげた後、テーブルに突っ伏しながらぼやいた。お行儀悪いですよ。
「そうは言うが、魔物学はまだ始まったばかりだぞ。今学ぶべきことをしっかり学ばなければ、望む成果は得られないのではないか?」
セイも牛丼を完食し、食後をお茶を啜りながら言った。うむ、正論だ。
私とマリエルちゃんはローストビーフサンドを頬張りながら頷き、セイに賛同した。
「それはそうだけどさあ……座学ばっかじゃつまんねーじゃん」
エイディー様は不貞腐れた様子で顔を上げる。
「いいよなぁ、セイとクリステア嬢は。聖獣様と契約してるんだもんな」
そうは言われましても……
セイも私も、狙って聖獣契約したわけじゃないからなぁ。
セイの場合、継母に命を狙われてやむを得ず故郷であるヤハトゥールを離れ、海を越えてドリスタン王国まで逃れてきたことを考えれば、白虎様たちは今一番心強い味方だろうけれど。
本音を言えば、世継ぎ問題に巻き込まれることなく故郷の義父母の元にいたかっただろうなと思うと、エイディー様の言葉には引っかかるものがあった。
私? 私の場合はほら、白虎様の私利私欲によって連れられてきた真白ましろ黒銀くろがねによる押しかけとはいえ棚ぼた契約みたいなものだからね……
「人を羨んだところで聖獣契約は狙ってできるものじゃない。それよりも魔獣に関する知識を増やしてさらなる研鑽をし、成功率を上げる努力をすべきだろう」
セイは淡々とエイディー様を諭す。大人だ。
エイディー様はセイの言葉に耳を傾けていたけれど、ゴン! と額をテーブルに打ちつけた。
「……わーってるよ、そんなの。でも同い年なのに聖獣契約してるやつが二人もいると思うとさ……焦るだろ?」
それは確かに。無理だ、奇跡だと言われている聖獣契約を成し遂げた人物が身近に、しかも二人もいれば自分だって……と気が逸ってもしかたないとは思う。
「俺は、エイディーならきっと魔獣と契約して夢を叶えられると思ってる。だから、いつか来るその時のために、やるべきことには全力を尽くすべきだ」
セイがそう言って再びお茶を啜ると、エイディー様はしばらく黙り込み、いきなりテーブルからバッと顔を上げた。
「……だよな。俺ならできるよな⁉︎ よっしゃあ、やるぞぉ!」
エイディー様はガタタッと席を立つと「さあ、午後の授業も頑張ろうぜ!」と張り切って行ってしまった。
ええと、私たちまだ食べ終えていないんだけど……?
困惑する私たちにセイが困ったような笑顔を向けて席を立った。
「しかたないな、エイディーは。すまないが先に行くよ」
「ええ、じゃあ後でね」
セイを見送ってから、隣の席にいるマリエルちゃんが静かなことに気づいた。
「マリエルさ……?」
「……ッ! と、ととと尊い……! どうして今、この時、私の手元にカメラがないの⁉︎ あああああ動画で保存したかったあぁ……魔導カメラの開発はよ……!」
マリエルちゃんは天を仰ぎ、目を塞いで震えていた。
うん、いつものマリエルちゃんだね。
「マリエルさん、早く食べないと遅刻しちゃうわよ」
「ハッ! そうだわ、早く食べ終えて二人の後を追わなくちゃ!」
呆れながらも促すと、マリエルちゃんは小動物を思わせる早さでローストビーフサンドをはむはむと頬張った。
いかん、最近マリエルちゃんの奇行に慣らされつつある……!

昼食を終えて教室に戻ると、午後からの魔物学は魔法学でも使っている訓練場に向かうようにと黒板に書かれていた。
「あっ! きた来た。二人とも待ってたんだぞ。早く行こうぜ!」
エイディー様が期待を抑え切れない様子でソワソワしながら待っていた。
「さっきニール先生が来て、午後は実習にするから訓練場に来るようにと言ってきたんだ」
「実習って……何をするのかしら?」
魔物のお世話の仕方とか、躾け方とか?
前世の犬の訓練を思い浮かべたものの、多分違うだろう。
「さあ。俺とクリステア嬢は見学って行ってたけど……」
ああ。てことは実際に小型の魔物と触れ合ったりとかするのかしらね。
一応朱雀様の羽根はインベントリに収納しているから大丈夫とは思うけれど……

訓練場に着いた私たちが生徒たちの集まっている場所に近寄ってみると、群がる彼らの足元の側に大きな魔法陣のようなものが描かれていることに気づいた。
「これは……?」
「召喚術の魔法陣だよ。さあ、今日は実際に魔物を召喚してみるからね!」
「わっ⁉︎」
ニール先生、いつの間に背後に⁉︎
先生の言葉に生徒たちが待ってました! とばかりに沸き立つ。
「この魔法陣に君たちがそれぞれ魔力を注ぐことで召喚魔法が完成するんだ。」
へえ、そんな便利なものがあるんだ。
ニール先生の説明によると、魔力量とその魔力の質に合った魔物が召喚されるのだそう。
新入生の魔力量は大したことないから召喚されてくる魔物も小型ばかりなので問題ないんですって。
一部、新入したてでも私のように魔力量の多い生徒がいるけれど、魔法陣自体小型から中型の魔物しか出てこないように制限がかけられているので安全みたい。
「小型とはいえ攻撃してくる魔物もいるから念のため、僕とマーレン先生が側に控えているから安心してね」
へえ……一応考えられているのね。
小型から中型の魔物かぁ……どんな子が召喚されるのかしら。楽しみ!
「まあ、クリステア嬢やセイ君の場合、聖獣契約してるからどう頑張っても召喚できないんだけどね!」
ニール先生はアハハ、と笑った。
え? は? なんで⁉︎
「なっ、なぜですか⁉︎」
「なぜって……聖獣様の気配が強すぎて小型の魔獣は近寄れもしないから召喚に応じないんだよ。だから君たちはこの実習は見学だけで免除になるから。一応他の生徒の召喚に影響が出ないように見学席で見てるようにね」
はああああ⁉︎ なんでえぇ⁉︎
ちっちゃいもふもふを召喚してみたいと思ったのに!
ニール先生の説明には納得だけど、もふもふスキーな私としては納得がいかなかった。
でも、もふもふを召喚してうっかり契約でもしようものなら真白ましろ黒銀くろがねが拗ねてしまうのが目に見えていることもあり、泣く泣くセイと一緒に結界の張られた見学席に移動したのだった。

くうぅ……もふもふぅ……!
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