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レシピのプレゼンです!
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私たちは料理長の案内で開店前のカフェテリア内にある個室に通された。
「さすがですね、クリステア様。昨日の今日でレシピが完成しているとは!」
料理長が崇拝の目で私を見つめるので、慌てて訂正した。
「いえあの、勘違いなさらないで? 商業ギルドに登録していないレシピから使えそうなものを持ってきただけですわ」
「な、なんと! 未登録の……エリスフィード公爵家秘蔵のレシピということですか⁉︎」
興奮して前のめりになる料理長を見て黒銀と真白が私の前に進み出てガードする。
料理長、落ち着いて?
じゃないとレシピを紹介する前に真白が料理長を「きょうせいはいじょ」しちゃうからね?
「こほん、秘蔵のレシピというわけではございません。一般家庭の食卓には向かないレシピというだけですわ」
ビッグホーンブルのスジ肉なんて本来なら貴族には需要がない部位だし、下拵えの手間がかかるからね。
「そうなのですか……いや、しかし未公開のレシピであることに違いはないですよね! それで、いったいどんな料理なのですか⁉︎」
料理長は黒銀と真白のガードの隙間から期待たっぷりの顔を覗かせる。
料理長と呼ばれる人たちは、どうしてこうもぐいぐいくるのか……!
「ひ、ひとまずこちらを試食していただけますか?」
そう言って私がインベントリから取り出したのは、私たちにはお馴染みの牛丼だ。
「おおっ⁉︎ こ、これは?」
「説明は後で。まずは召し上がってみてくださいませ」
箸とスプーンの両方を出してみたけれど、料理長は迷わず箸を手にし、検分しはじめた。
「ふむ……肉の煮込みをごはんの上にかけたのですね。しかし、この肉は一体……?」
ビッグホーンブルよりおとなしい気性のミルクーンという種類の牛系の魔物をテイムして増やして酪農をしている牧場があるので、牛肉らしいものは市場に出回っているけれど、ミルクーンのお肉はここまでスジばかりではないから、料理長もなかなか答えに辿りつかない様子。
「それは、ビッグホーンブルのスジ肉を煮たものですわ」
「ええっ⁉︎ ビッグホーンブル⁉︎ 高級食材の?」
「高級なのは、筋張っていて食べられる部位が少ないためですわ。ですが、これは固くて食べられないと言われていたスジ肉を柔らかく加工してから煮込んでいるのです」
「確かに、ビッグホーンブルのスジ肉は固くて食べられたものじゃないと聞きますが……それが、こんなにも柔らかくなるのですか⁉︎」
料理長は驚きながらも箸が止まらない様子で、ガッツいているわけでもないのにあっという間に牛丼を完食してしまった。
「ええ。本来なら捨ててしまうような部位……下拵えに手間はかかりますが、工夫すれば安く提供できると思います」
私はそう言ってビッグホーンブルのスジ肉の下拵え方法をざっくりと説明し、採用するのであれば詳細を書きこんだレシピを料理長に渡すと伝えた。
「なるほど……下拵えは見習いの仕事にするとして……」
ぶつぶつと段取りを考える様子の料理長にさらに提案するためにもう一皿をインベントリから取り出した。
「料理長、ビッグホーンブルの他の部位でこんなものはいかがですか?」
「これは……ステーキ? それにしては塊のままですが……」
「これは、こうして薄く切り分けるのですわ」
私は塊肉をスッスッと薄くスライスし、別の皿に並べていった。
「クリステア様、これはまだ生焼けではありませんか⁉︎ しっかり火を通さなければ!」
肉の中を見て料理長がギョッとした。まあ気持ちはわかる。
「いいえ。これは中が赤く見えるので生焼けに見えますが、ちゃんと火は通っているのです」
そう、私が次に出したのは、ローストビーフだ。
生食が敬遠される世界で、この見た目の肉を提供するのはハードルが高いため、登録するのを断念したメニューのひとつだ。
エリスフィード家ではもう普通に食べられているのだけれどね。
「こちらは、ローストビーフです。今回はソースをニンニク……ガーリィをすりおろし醤油と合わせたものにしましたが、赤ワインなど色んなソースを試しても面白いですよ」
料理長の前に皿を出すと、一瞬怯んだものの、ごくり、とのどを鳴らして箸でつまんだ。
「……本当に、大丈夫なのですね?」
「ええ。私が食べられないものをお出ししたりはしませんわ。ほら、このように」
そう言って私は数切れ残していたお肉を食べて見せた。
……ああ、美味しい。お肉の味がしっかりと感じられる。
にんにく醤油のソースが更に食欲をそそって、もう一枚、また一枚と食べたくなるのよね。
私が食べたのをきっかけに真白や黒銀もローストビーフをつまみはじめた。こらこら、貴方たちは昨日散々食べたでしょう⁇
白虎様たちもおかわりをしたがって今日の分を確保するのが大変だったんだからね?
私たちの様子を見ていた料理長が、震える箸を口元に持っていき……バクッと一息に食べた。
「……ッ!」
恐る恐る咀嚼していたかと思うと、カッと目を見開き、次の一切れへ箸が動いた。
「本当だ。生のように見えて、生ではない。これは、いったい……?」
「はじめに表面を焼いて肉汁を閉じ込め、魔導オーブンで焼くのです」
手順としては常温に戻したお肉に塩コショウをすり込み、弱火のフライパンでお肉を動かしながら全体を温めるように焼いたら、少し休ませて全体に余熱で火が通るようにして、それからオーブンでじっくり火を通してまた休ませて、金串を中心まで刺して少し待ち、引き抜いた金串の先がほんのり温かいようなら完成。冷たいようならもう少しオーブンに。ソースは肉を焼いた時のフライパンを使って赤ワインソースを作るもよし、たまねぎのすりおろしと醤油を合わせたのもいいし、わさびがあればわさび醤油でも食べたいところ。
「なんと柔らかい……それに、このソースがなんとも食欲をそそりますな」
こちらもあっという間に平らげた料理長は、名残惜しそうに、残った塊肉を見つめている。
「これは、今のように一皿で提供するもよし、ご飯の上にのせて、ローストビーフ丼にしても良いのです」
「な……なんと! これが、ご飯の上に……⁉︎ そんな、贅沢な……」
ワナワナと震える料理長。
うん、よし。これは堕ちたな。
「それで、こちらのレシピはどうなさいますか? 不安なようでしたら諦めますが」
「もちろんどちらも買います! 当店の看板メニューになるに違いありません!」
特別レシピということで、商業ギルドに登録しているレシピよりも少し色をつけて買い取っていただきました。やったー!
毎度ありがとうございます!
翌週、例のカフェテリアで牛丼とローストビーフ丼が飛ぶように売れていたとマリエルちゃんから教えてもらった。
早速食べに行こうと誘われたけれど、散々試食したので、しばらくはいいかなぁ……
---------------------------
14日にコミカライズ版「転生令嬢は庶民の味に飢えている」25話が更新されております!
住吉先生の描くニール先生がイキイキとしていて必見です!w
「さすがですね、クリステア様。昨日の今日でレシピが完成しているとは!」
料理長が崇拝の目で私を見つめるので、慌てて訂正した。
「いえあの、勘違いなさらないで? 商業ギルドに登録していないレシピから使えそうなものを持ってきただけですわ」
「な、なんと! 未登録の……エリスフィード公爵家秘蔵のレシピということですか⁉︎」
興奮して前のめりになる料理長を見て黒銀と真白が私の前に進み出てガードする。
料理長、落ち着いて?
じゃないとレシピを紹介する前に真白が料理長を「きょうせいはいじょ」しちゃうからね?
「こほん、秘蔵のレシピというわけではございません。一般家庭の食卓には向かないレシピというだけですわ」
ビッグホーンブルのスジ肉なんて本来なら貴族には需要がない部位だし、下拵えの手間がかかるからね。
「そうなのですか……いや、しかし未公開のレシピであることに違いはないですよね! それで、いったいどんな料理なのですか⁉︎」
料理長は黒銀と真白のガードの隙間から期待たっぷりの顔を覗かせる。
料理長と呼ばれる人たちは、どうしてこうもぐいぐいくるのか……!
「ひ、ひとまずこちらを試食していただけますか?」
そう言って私がインベントリから取り出したのは、私たちにはお馴染みの牛丼だ。
「おおっ⁉︎ こ、これは?」
「説明は後で。まずは召し上がってみてくださいませ」
箸とスプーンの両方を出してみたけれど、料理長は迷わず箸を手にし、検分しはじめた。
「ふむ……肉の煮込みをごはんの上にかけたのですね。しかし、この肉は一体……?」
ビッグホーンブルよりおとなしい気性のミルクーンという種類の牛系の魔物をテイムして増やして酪農をしている牧場があるので、牛肉らしいものは市場に出回っているけれど、ミルクーンのお肉はここまでスジばかりではないから、料理長もなかなか答えに辿りつかない様子。
「それは、ビッグホーンブルのスジ肉を煮たものですわ」
「ええっ⁉︎ ビッグホーンブル⁉︎ 高級食材の?」
「高級なのは、筋張っていて食べられる部位が少ないためですわ。ですが、これは固くて食べられないと言われていたスジ肉を柔らかく加工してから煮込んでいるのです」
「確かに、ビッグホーンブルのスジ肉は固くて食べられたものじゃないと聞きますが……それが、こんなにも柔らかくなるのですか⁉︎」
料理長は驚きながらも箸が止まらない様子で、ガッツいているわけでもないのにあっという間に牛丼を完食してしまった。
「ええ。本来なら捨ててしまうような部位……下拵えに手間はかかりますが、工夫すれば安く提供できると思います」
私はそう言ってビッグホーンブルのスジ肉の下拵え方法をざっくりと説明し、採用するのであれば詳細を書きこんだレシピを料理長に渡すと伝えた。
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「料理長、ビッグホーンブルの他の部位でこんなものはいかがですか?」
「これは……ステーキ? それにしては塊のままですが……」
「これは、こうして薄く切り分けるのですわ」
私は塊肉をスッスッと薄くスライスし、別の皿に並べていった。
「クリステア様、これはまだ生焼けではありませんか⁉︎ しっかり火を通さなければ!」
肉の中を見て料理長がギョッとした。まあ気持ちはわかる。
「いいえ。これは中が赤く見えるので生焼けに見えますが、ちゃんと火は通っているのです」
そう、私が次に出したのは、ローストビーフだ。
生食が敬遠される世界で、この見た目の肉を提供するのはハードルが高いため、登録するのを断念したメニューのひとつだ。
エリスフィード家ではもう普通に食べられているのだけれどね。
「こちらは、ローストビーフです。今回はソースをニンニク……ガーリィをすりおろし醤油と合わせたものにしましたが、赤ワインなど色んなソースを試しても面白いですよ」
料理長の前に皿を出すと、一瞬怯んだものの、ごくり、とのどを鳴らして箸でつまんだ。
「……本当に、大丈夫なのですね?」
「ええ。私が食べられないものをお出ししたりはしませんわ。ほら、このように」
そう言って私は数切れ残していたお肉を食べて見せた。
……ああ、美味しい。お肉の味がしっかりと感じられる。
にんにく醤油のソースが更に食欲をそそって、もう一枚、また一枚と食べたくなるのよね。
私が食べたのをきっかけに真白や黒銀もローストビーフをつまみはじめた。こらこら、貴方たちは昨日散々食べたでしょう⁇
白虎様たちもおかわりをしたがって今日の分を確保するのが大変だったんだからね?
私たちの様子を見ていた料理長が、震える箸を口元に持っていき……バクッと一息に食べた。
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「これは、今のように一皿で提供するもよし、ご飯の上にのせて、ローストビーフ丼にしても良いのです」
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うん、よし。これは堕ちたな。
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