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見学二日目

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翌日、午前中は一般教養の時間なので私たちは特別寮でのんびり過ごした。
セイは白虎様と剣の稽古をしていたようだし、私は厨房で料理の仕込みをして過ごした。
食いしん坊な聖獣様たちがいるとちょいちょいおやつをねだられて、気づけばインベントリ内のストックが減っていたのよね。
黒銀くろがね真白ましろ、ミリアにも手伝ってもらって色々作ったわ。
それはまたいずれ出すとして、今日の昼食は定番のおにぎりと具沢山のオーク汁に玉子焼きよ。
皆で昼食をとり、食後のお茶を飲んだら移動しなくちゃ。それにしても……
「今日の午後もずっと見学なのよね。いつになったら授業に参加できるのかしら」
一般教養は免除されているから授業が始まったとはいえ、あまり実感がないのよねぇ。学園生活とは……って感じよ。
「今日の見学で選択コースを決めかねていた生徒もどこにするか決めるだろうし、もう間もなくじゃないかな」
「そうねぇ……」
むしろ私は昨日の見学で迷いが生じているのだけど。
だって、魔導具コースの講師のロドニー先生がニール先生と同類だなんて思わないでしょ……
でも、よくよく考えたら領地で魔導具屋を経営している例の魔導具師も「魔導具狂い」と言われていたんだったわ。
ロニー様といい、魔導具好きはちょっと一般の人とズレているような気がする。
魔導具コースを選択して、料理に役立つ道具を作りたかったんだけど、馴染めるか不安になったのは確かよ。
あと、実習室の空気を見て悟ったの。
前世がオタクだった私だからわかる。
魔物学や魔導具コースは、きっとどちらもハマれば抜け出せない沼だ。
のめり込めばのめり込むほど、ズブズブとハマっていく底無し沼。
オタク気質の私が、その沼に足湯程度のつもりで、軽率に踏み入れたが最後、取り返しのつかないことになってしまうのは目に見えている。
実習棟にいた生徒の、のめり込みっぷりがそれを証明しているわよね。
私の場合、料理のためという目的があるから、そこまで酷くならない……と思いたいけれど。
オタクは、極めようとする生き物だから……!
「主、どうした?」
私が悶々と悩んでいる様子を見て黒銀くろがねが私の顔を覗き込んだ。
「えっ、ああ、ちょっとね。コースの選択で悩んでて……」
「ん? クリステア嬢はもう決めたのではなかったか?」
「そうなんだけど……昨日の見学で魔導具コースを選択すべきか逆に迷っちゃって」
「ああ……」
昨日の先生たちのやりとりを思い出したのか、セイが苦笑した。
「あそこでやりたいことがあるなら、選択しておいたほうがいいかもしれないが……今回見送って、やはり選択したいと思うなら来年度からという手もあるし」
「……来年度からだと、下級生と一緒に取ることになるわよね?」
「そうなるな」
私のことを知らない子たちと一緒に学ぶほうが気が楽かしら?
いや、今年の騒動を知らない、聖獣様に興味津々な子たちにまたまとわりつかれないとも限らないし……それは避けたい。
「あと、魔導具コースのロドニー先生の甥で、ええと……」
「ロニー様?」
「そう、彼はクリステア嬢に敵対心を持っていだろう?」
「ああ……あれね。彼は魔導具作りの第一人者としてのマーレン師を尊敬しているそうなんだけど、私が入学前にマーレン師を家庭教師として独り占めしていたことが気に入らないみたいなの」
まあ、私が生まれてから魔力制御のための魔導具を作っていただいたりしていたし、なんならお兄様の家庭教師でもあったのだけど。
私から見れば、家庭教師の仕事以外ではのんびり隠居生活を楽しんでいたおじいちゃんよ?
「そういうことか。でもマーレン先生は今年から学園に戻られたんだから、問題ないはずだろう?」
セイが呆れたように言った。
まあね、ロニー様のそれは単なる嫉妬だもんね……
「そうなんだけど……マーレン師は魔物学や魔導具コースの講師に戻ったわけじゃないから、直接指導していただく機会は少ないんじゃないかしら」
今はニール先生やロドニー先生がいらっしゃるのだから、マーレン師はアドバイザー的な立ち位置になるのよね。多分。
「うーん、それでも全く機会がないわけじやないんだし、気にする必要はないんじゃないかな」
「そうだといいけれど……あ、いけない。もうそろそろでないと」
時計を見ると、そろそろ出ないと間に合わない時間になっていた。
「本当だ、行こう」
セイも私の言葉に慌てて食器を片付けて玄関に急いだ。

特別寮を出て少し歩いたところでマリエルちゃんが待っていた。マリエルちゃんも一般教養免除組だから、午前中特別寮に誘えばよかった。
「クリステア様、セイ様こんにちは!」
「おはようマリエルさん」
「おはよう」
挨拶を交わしてから並んで歩き始める。
「今日は聖獣の皆様は同行されないのですね」
「ええ、今日は魔物学の見学もあるでしょう? 魔物たちが怯えたり暴れたりしては困るから」
本当はついてきたがったのだけど、弱い魔物がショック死したり、逃げようとパニックになって暴れたりする可能性があるからとニール先生からもお願いされたのだ。
以前、朱雀様が「実習棟の魔物たちを躾けてきましたわ」なんて言ってたけど……朱雀様以外の聖獣たちが押しかけたらどうなるかなんてわからないもの。
白虎様たちに対する輝夜かぐやの反応を思い出せば想像に難くない。
黒銀くろがね真白ましろは「く……っ、こんなことなら我も予め制圧しておくべきだった」とか「んー、あばれてもおさえつけてだまらせたらよくない?」とか言ってたし。
嫌な予感しかしないから「今日は絶対ついてこないこと!」と厳命しておいたのよ。
白虎様だけは「面倒だし、俺らは行かなくていーだろ。やばいと思ったら呼べよ」って昼寝を決め込んでいた。自由だ……
でもそのくらいのスタンスで見守ってもらうくらいでいいのよ。
うちの子たち過保護すぎると思うの。
「そうですかぁ……確かに、魔獣が暴れたりしたら危ないですもんね」
「そうだな。もしかしたら俺たちがいるだけでも怯えさせてしまうかもしれないし」
えっ? どういうこと?
「怯えさせるって、どうしてですか?」
マリエルちゃんも疑問に思ったらしい。
「俺たちには聖獣と生活しているから聖獣たちの気配というか、痕跡が強く残っているんだ。それを察知して怯えたり暴れたりする可能性がある」
あ! そうだ、マーキング!
この人間は自分の契約者だから近寄んな! とばかりにマーキングしてるのよ。
以前そうしてるって真白ましろ黒銀くろがねたちが言ってたわ。
「え、じゃあ私たち魔物学の見学はできないのでは……?」
「ああ、そのことなんだが、朱雀からこれを預かっている」
セイがそう言って懐から取り出したのは、緋色の羽根だ。
「これは……?」
「わあ、きれい……!」
「朱雀の羽根だ。これを身につけておけば魔物たちは怯えないだろうと言っていた」
セイが手渡してくれた羽根をまじまじと見る。
光の加減でゆらゆらと揺れる炎のようにも見えて、とても美しかった。
真白ましろ様と黒銀くろがね様は嫌がるだろうが、しばらくそれを身につけて行けば魔獣たちも俺たちのことを聖獣の気配ごと覚えて落ち着くだろうと言っていた。落とさないよう身につけておいてくれ」
「わあ、ありがとうございます……!」
私は無くさないようスカートのポケットに羽根をしまい込んだ。

教室に入ると、まだ全員揃っていないようで、人はまばらだった。
エイディー様は他の生徒と話していたのだけど、私たちが入ってきたのに気づいて「よう!」と声をかけて手を振ってきた。
セイは「やあ」と軽く手を振り、私たちと一緒に席についた。
まだ来ていなかった他の生徒が教室に駆け込んできたところで、ニール先生がふらりと教室に入ってきた。
「やあ、全員揃ってるかな? 今日は貴族コースからスタートして魔法学の上級コースに騎士コース、最後に魔物学の専攻コースを回るからね、ついておいで~」
ニール先生がのほほんと見学コースの説明をしてから、そのまま教室を出ようとしたので皆は慌てて立ち上がり、先生の後を追った。

「まずは貴族コースだけど、この時間は王族の生徒もいるから、騒いだり失礼がないようにね」
昨日とは別の実習棟に連れられてきたところで、ニール先生がそんなことを言った。
え、王族の生徒ってもしかして……
嫌な予感がしたところで、ニール先生が教室の扉をゴンゴンとノックした。
「すいませーん! 新入生の特別クラスが見学にきましたー」
いや、ニール先生。失礼がないようにと言ったばかりだよね⁉︎
青ざめる生徒たちなど意にも介さず、さらにノックしようとしたところで扉が開いた。
「ニール先生、貴方という人は……もっとエレガントに訪問することはできないのかしら?」
銀縁メガネをかけ濃い茶色の髪をアップにまとめた、いかにも教師といった雰囲気の女性が不機嫌そうにニール先生を嗜めていた。
あれ、なんだか見覚えがあるような……
既視感を覚えたのも束の間、先生らしき女性がこちらを見て淑女らしい作り笑いを浮かべた。
「まあ、よくいらっしゃいました。先輩方をよく見学していらしてね」
そう言って扉を大きく開けて私たちを中に誘導した。
ゾロゾロと入っていくと、中に見慣れた人物がいた。
「クリステア嬢?」
「テア⁉︎」
……やっぱり。
レイモンド王太子殿下とお兄様が私を見て驚いていた。

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2月10日(木)にコミカライズ版「転生令嬢は庶民の味に飢えている」23話が更新されました。
コミックス3巻の続きになります!

コミカライズ版「転生令嬢は庶民の味に飢えている」は1~3巻発売中!
文庫版庶民の味も同じく3巻まで発売中ですので、あわせてお楽しみいただければ幸いです( ´ ▽ ` )
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