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放課後のお誘い

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魔導具コースの見学を終えたところで本日の見学は終了したため、皆で教室に戻った。
「明日の午前中は一般教養の時間だから、免除されている生徒はその間自習だね。この教室にいなくても自室や図書館、好きな場所で自習していいよ。本人の自主性にまかせるから。そして午後からは魔法学の上級コースと騎士コース、最後に魔物学の専攻コースを見にいくからね」
ニール先生がざっと明日の予定を黒板に書き出していくと、生徒の一人が手を挙げた。
「先生、貴族コースは見学しないのですか?」
「貴族コースはクラス全員が受講するみたいだから特に必要ないかなと思ったんだけど……見学したいかい?」
特別クラスの生徒のほとんどが貴族や大店の商会の子ということもあって、貴族のマナーをはじめとした貴族に関するあれやこれやを学ぶ貴族コースは必須だけど、見学しない理由にはならないと思う。
一応、どんな雰囲気なのか事前に見ておきたいのが人情ってもんじゃない?
皆もそう思ったのか、無言でうんうんと頷いていた。
「そっかー、じゃあはじめにさらっと見てから他のコースを回ることにしよっか」
ニール先生が黒板にガシガシとコースを追加しているけれど、そんなに簡単に組み込んで大丈夫なの?
「これ、ニールよ。見学の申請をしておらんのに勝手に決めるでない。せめて今すぐに打診せんか。アイスロック」
杖の届かない位置にいたマーレン師が氷魔法を発動して拳大の氷の塊をニール先生の頭に落とした。
「痛っ! え、冷たっ⁉︎」
ニール先生の頭を直撃した氷は後頭部をすべり落ちながら砕けてシャツの襟に入っていってしまった。
ニール先生が氷の冷たさに身体をくねらせているのが、まるでコントを観ているようだったものだから、皆が押し殺すように震えているとマーレン師がこちらを見ながらニヤリと笑った。
「笑っておるのも今のうちじゃて。目に余るようなら、お主らとて同じ目にあわせるぞい。もちろん、避けられるのなら避けてもかまわんがの」
……マーレン師ったら、無茶を仰る。
詠唱を省略した魔法を避けるなんてまだまだ魔法に慣れてない生徒には至難の業だと思うよ……?
ほぼ同時に詠唱省略か、無詠唱で対抗しないと発動が間に合わないもの。
私なら無詠唱で発動できるし、咄嗟でも小さな結界を展開すれば何とかなりそうだけど……
案の定、他の生徒たちは「え、避けるとか無理だろ」とか言ってるよ。
「なぁに、真面目に勉学に励んでおる分には問題ないんじゃから心配することなかろうて」
呵呵と笑うマーレン師を真顔で見つめる生徒たちと「マーレン先生、酷いですよ~うう、冷たい!」とシャツの裾をばたつかせて背中に入った氷を落とすニール先生の温度差がすごかった。
それから、ニール先生はその場で手紙を送る魔法で見学の打診をし、無事貴族コースの見学の予定を組み込むことができたところで、今日は終了となった。
「主、今日はこれで終いか?」
「くりすてあ、いっしょにりょうにかえろー!」
おとなしく見学していた二人がサッと近づいてきて両サイドに立ったかと思えば、黒銀くろがねは私の荷物を小脇に抱え、真白ましろは私の手を取った。
す、素早い。
今日は早めに終わったし、もう少し放課後を楽しみたいんだけどなぁ。
でも、このまま教室に残って、また誰かに絡まれたりするのも嫌だし……そうだ。
「マリエルさん、夕食の時間にはまだ早いし、特別寮で自習しながらお茶でもしない?」
「します! 行きます! お願いします!」
私の誘いにマリエルちゃんはビシッと手を挙げて応えた。
「セイも一緒にいかが?」
「そうだな。ご一緒させていただこう」
話がまとまったところで移動をはじめると、前方にアリシア様が一人で歩いているのが見えた。
「あ、アリシア様だ。取り巻きの方は皆AクラスやBクラスらしいですよ」
マリエルちゃんがコソッと耳打ちして教えてくれた。
ああ、だから教室でも一人でいたのね。
それでも毅然とした態度で前を向いていた。
心細いだろうに、それをおくびにも出さずにいるアリシア様ってすごいな。
私なら隅っこで目立たず周囲に溶け込めるよう気配を消したいと思うもの。
……根っからモブ思考なもので。
彼女に嫌われていなければ、お茶にでも誘ってお友達に……と思うところだけど、さすがに誤解とはいえ、敵対心剥き出しにしている相手に声をかける勇気なんてない。
「お断りですわ!」なんて拒否されたらって思うとねぇ……
「よっ、セイ! もう寮に帰るのか?」
後ろからエイディー様が駆け寄ってきた。
「エイディー。ああ、そのつもりだ」
お? もう呼び捨てで呼び合う仲に?
エイディー様が貴族にしては気さくなタイプってこともあるけど、男の子ってこういう時すぐに仲良くなれるよね。羨ましい。
「明日見学する騎士コースのこととか話したくてさぁ。今からどうだ?」
セイはエイディー様の誘いに一瞬嬉しそうな顔を見せたものの、すぐに私たちとの約束を思い出したのか、困った様子で答えた。
「すまない、先約があるから……」
「え、もう寮に帰るんだろ?」
エイディー様が「じゃあいーじゃん!」と詰め寄ってくる。
エイディー様、押しが強い。陽キャ、つおい!
……マリエルちゃん、ボソッと「ヤンチャ騎士見習いと美人テイマー……いやいや、うーむ」とか呟かない! 身内で掛け算やめい!
マーレン師みたいに氷の塊をお見舞いするわよ? 私のは無詠唱だから防げないわよ?
肘でマリエルちゃんを突くと、ハッと我に返ったようで、私を見てエヘヘ……と笑った。
まったくもう、しかたないわね。
「エイディー様、これから特別寮でお茶にしようと話していたところでしたの。よろしかったらエイディー様もいかがですか?」
「クリステア嬢……いいのか?」
セイが戸惑いながら私を見る。
「ええ。夕食までの短い時間ですけど」
マリエルちゃんに燃料投下してしまうような気がするけど、セイの交友関係も広げてあげたい。でも、ドリスタン王国の貴族についての知識のないセイだけでエイディー様の相手をさせるのは心許ない。
エイディー様を特別寮に入れるのはまだ早いような気もするけど、あそこなら白虎様や朱雀様も同席できるから何かあっても安心よね。
「わかった。じゃあお邪魔させてもらうよ! さあセイ、早く行こうぜ!」
「廊下を走るのは禁止されてるだろ」
「ちぇっ、かたいこと言うなよ」
セイとエイディー様が楽しそうに話しながら寮に向かうのを微笑ましく眺めつつ、私とマリエルちゃんも後を追った。
……マリエルちゃん、私に注意されないように気をつけてるのはわかるけど、二人を見つめる慈愛に満ちた眼差しが色々と雄弁に語ってるからね?
時折「ぐふふ……」てほくそ笑んでるし。
他の皆は気づかなくても、私はまるっとお見通しだからね⁉︎
……マリエルちゃんの業は深そうだわ。
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