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カフェごはん?

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「ねえクリステアさん、今日のお昼はカフェテリアにいってみませんか? セイ様も!」
昼休みに入り、特別寮に戻ろうとしたらマリエルちゃんに学園内に点在するカフェテリアでのランチに誘われた。
「ええ、いいけど……」
味は大丈夫なの? と思わなくもなかったけれど、それをそのまま言っちゃうと、周囲には「私の舌に合う、まともな料理が出るんでしょうね?」なんて嫌味を言っているとしか思われないだろうからなあ……
でも、さすがにお昼からゴテゴテ&こってりなランチは勘弁願いたい。
マリエルちゃんはためらう私の様子にピンときたのか、にこりと笑って言った。
「クリステアさんとセイ様にも食べていただきたいメニューがあるんです! さ、行きましょう!」
私とセイは顔を見合わせてから、マリエルちゃんの後をついていったのだった。
道中、念話で昼休みは他で食べると黒銀くろがね真白ましろに伝えたら拗ねてしまった。
後でおやつとブラッシングしてご機嫌をとらないとだわ……やれやれ。

「あっ、ここです! 実は私も初めて来たんですけど、お値段もお手頃でおすすめらしいんですよ~」
マリエルちゃんの先導でたどり着いたカフェテリアは、教員室や学園長室のある教員棟のすぐ近くにあった。
客層は教員棟が近いだけあって職員が多めだけど、生徒たちの姿もそれなりに見えた。
「寮の先輩に教えていただいたんですけど、気になるメニューが追加されたみたいで……あ、これだわ!」
マリエルちゃんが指差した先にあったボードには手書きのメニューが掲示されていて、そこに書かれていたのは……
「ごはんセット?」
メニューの一番最後にあった文字を見て我が目を疑った。
メニューには、ラースの殻を剥いたものを煮たと説明書きされたごはんと日替わりミソスープ、そして野菜たっぷりの肉野菜炒めが今日のメインと書かれていた。
「え、これって……」
「今、クリステアさんとセイ様のことが話題になってるじゃないですか。それで、その人気にあやかろうとここの料理長がクリステアさんのレシピやバステア商会で食材を取り寄せて試作したところ、その美味しさにハマったらしくて。新メニューとして追加されたばかりなんだそうですよ」
「えええ……?」
「セットの名前にクリステア様セットとか検討されたそうですけど、不敬になるかもしれないから断念したとかなんとか」
「それは、不敬とか関係なくやめてほしい」
「あはは、そうですよね! で、いち早く情報をゲットしたからには試してみたいじゃないですか」
「そうかもしれないけど……」
マリエルちゃんが注文のための列に並び、私たちもそれに続いた。
ネーミングの経緯はともかく、どんなものが出てくるのかは興味があるわね。
変にアレンジされていないといいなあ……
マリエルちゃんの説明によると、ここではまず食券の役割となるカードサイズのプレートを購入し、テーブルにある魔道具にプレートを置くと注文したメニューがテーブルまで届けられるのだそう。
前世にも似たようなシステムがあったけれど、魔導具って本当に便利ね。
行列はスムーズに進み、いよいよ私たちの番になった。
「クリステアさんとセイ様はどうします? 私はごはんセットにしますけど……」
「もちろん、私もごはんセットにするわ」
「自分もそれで」
私たちがマリエルちゃんの問いに答えると、レジにいた従業員が大きな音を立てたかと思ったら、そのまま震えながら後退った。
「……? あの、注文を……」
マリエルちゃんが不審そうに注文しようとした途端、従業員が厨房に向かって大声を出した。
「料理長ーッ! エリスフィード公爵令嬢がいらっしゃいましたああああ!」
はあああぁ⁉︎
「何ーッ⁉︎」
その声と同時にガッシャーン! と厨房から何かが落ちた音がしたと思うと、厳つい顔をした料理人がドタバタと駆け寄ってきた。
「エ、エエエリスフィード公爵令嬢様におかれましては、ごご機嫌麗しゅう……ごございままま……」
ガチガチやんけ。じゃない、めっちゃ怯えられてるんですけど、どういうこと⁉︎
「はあ、あの……このごはんセットを……」
「大変申し訳ございませんんんん!」
料理長らしき人物がコック帽をもぎ取り、すごい勢いで頭を下げた。
「え⁉︎」
「お嬢様のレシピを勝手にメニューとして販売してしまい……ま、まさかこんなに早くお叱りを受けるとは……」
あー……なるほど。そういうことか。
ごはんやみそ汁は私が登録したレシピだから、それを勝手にメニューに組み込んだことに対して抗議しにきたと思われたっぽい。
「あの、頭を上げてくださいませ。何か誤解されていらっしゃるようですが、私の販売したレシピそのものを転売することは禁止しておりますけれど、自分で考案したと吹聴したりするのでなければレシピを元に作った料理を販売することを禁じておりせんわ」
「で、ですが……よ、よろしいのですか……?」
そろそろと頭を上げてビクビクと怯えながら私を見るので、周囲の目が痛い。
やめて、なんだか私が悪役令嬢みたいじゃないのよおおおお!
「もちろんですわ。私、ごはんセットをいただくのを楽しみにしてきたんですの」
いや、ここに来るまで知らなかったけどね。嘘も方便っていうか……
私の言葉に料理長らしき人物はパアアッと笑顔になりバッと頭を下げた。
「ありがとうございますっ! お嬢様に召し上がっていただけるとは、なんと光栄な……すぐお持ちします! おい、すぐこの御三方の分を用意しろ! ささ、このプレートをお持ちになってお好きなお席でお待ちください。お代は結構ですので!」
レジの従業員を急かしてプレートを発行させると、マリエルちゃんに押し付けた。
「あ、ありがとうございます……?」
私たちの後ろに並んでいた人や周囲のテーブルにいる人たちが私たちに注目していることに気づき、そそくさと空いている席を探すために移動した。
少しでも目立たない席を……とキョロキョロしていると、艶やかな声で呼びかけられた。
「クリステア様、こちらへどうぞ」
声のしたほうへ目を向けると……
「パメラさん⁉︎」
学園長秘書のパメラさんが手を振っていた。

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コミカライズ版「転生令嬢は庶民の味に飢えている」3巻が12月末に刊行されます!
コミカライズ版の連載は2月までお休みとなりますが、コミックスには描き下ろし番外編も収録されますのでお楽しみに!!!!
いやもうほんとに面白かったから……読んで……!
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