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不審な行動 その2
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「クリステア様ったら…一体何処にいるのかしら?」
またクリステアが行方不明だ。
屋敷中をくまなく探し歩いているのだが、一向に見つかる気配がない。
「毎度毎度、マナー学の時間を狙って逃げるんだから…もう。あれだけ見張っててもいつの間にか消えてしまうのだから、一種の才能だわね。」
ふう…とため息をもらすミリア。
ため息をつくと幸せが逃げてしまうわよ、と言ったのはクリステアだが、ため息の原因のほとんどはクリステア自身であることに、いつになったら気づいてくれるのか…。そんなことを考えているうちに図書室のドアから呑気に出てくるクリステアを見つけた。
「クリステア様!」
駆け寄るミリアに、げっ!見つかった!みたいな顔をするクリステア。
「お探ししたのですよ、マナー学の時間はとっくに過ぎていますよ!」
「むしろ終わってていいんだけどな…。」
あは、と笑いながら答えるクリステア。
「クリステア様?」
「ごめんなさい。」
ミリアの絶対零度の微笑みを向けられては、クリステアに謝る以外の選択肢はない。
「まったくもう…レティア様はまたお怒りのままお帰りになりましたわ。」
レティアの不在を知ってよっしゃ!と喜ぶクリステア。
「ご安心なさるのはまだお早いですよ。レティア様から宿題を申しつかっておりますから。」
にっこり笑って言うミリアに死刑宣告を受けたような顔をするクリステア。
「え…もしかして、また…」
「ええ、また。」
がっくりと項垂れるクリステア。
レティアから出された宿題と言うのは例を挙げるなら、お礼状の書き取りなどである。
貴族たるもの、お茶会や夜会など色々な場に招かれることが多々ある。その度にお礼状を書くのがマナーだが、それにはある程度の定型文というものが存在し、季節や場面に合わせてふさわしいものをチョイスし、本人らしさを盛り込み、アレンジして書くのが「教養ある淑女の証」のひとつなんだそうだ。
その内容が、毎度同じようなものであると、「教養なしのおばかさん」と相手に侮られるため、皆頭を悩ませつつお礼状をしたためるのだ。
定型文といっても膨大にあり、それをここからここまで書き取りしなさい、というのが今回の宿題だ。レティアお得意の「ひたすらシリーズ」だ。
ひたすらと言ってもただ書くだけではない、優美な字で書くことはもちろんである。
人によっては教養あるものを雇い、代筆する者もいるらしいが、公爵家たるもの、その位は息をするのと同じように簡単にこなせないでどうします、と言うのがレティアの持論だ。
こんな時はネットで例文を検索してコピペしてちゃちゃっと書き加えてメール、でどうにかなっちゃう前世が懐かしいと思うクリステアだった。前世でもそういう場合は手書きでお礼状をしたためるのが本来のマナーではあるが…。
「仕方ありませんね、今から頑張ります…。」
諦めてとぼとぼと自室へ向かうクリステア。
「はじめから素直にマナー学を受けていたらこんなことにはならないのですよ。」
「確かに。」
うんうん、と頷きながら答えるクリステアにミリアは頭が痛くなるのだった。
「まったくもう…今までどこにいたのですか?」
「…えっ?…と、図書室にいましたけど…?」
だってそこから出てきたでしょう?と答えるクリステア。
「先ほど探した時にはいらっしゃいませんでしたわ。屋敷中探しましたもの。」
「えーと、じゃあその時はきっとお手洗いに行ってたのかかしら?」
うふふ…と笑ってごまかすクリステア。
「さっ!早く戻って書き取りしないと!」
そそくさとミリアの前を横切るクリステアからまたあの匂いがした。
(またあの匂い…。でも図書室にあんな匂いが移るようなものなどないはず…?)
クリステアは何か隠している、そう確信するミリアなのだった。
またクリステアが行方不明だ。
屋敷中をくまなく探し歩いているのだが、一向に見つかる気配がない。
「毎度毎度、マナー学の時間を狙って逃げるんだから…もう。あれだけ見張っててもいつの間にか消えてしまうのだから、一種の才能だわね。」
ふう…とため息をもらすミリア。
ため息をつくと幸せが逃げてしまうわよ、と言ったのはクリステアだが、ため息の原因のほとんどはクリステア自身であることに、いつになったら気づいてくれるのか…。そんなことを考えているうちに図書室のドアから呑気に出てくるクリステアを見つけた。
「クリステア様!」
駆け寄るミリアに、げっ!見つかった!みたいな顔をするクリステア。
「お探ししたのですよ、マナー学の時間はとっくに過ぎていますよ!」
「むしろ終わってていいんだけどな…。」
あは、と笑いながら答えるクリステア。
「クリステア様?」
「ごめんなさい。」
ミリアの絶対零度の微笑みを向けられては、クリステアに謝る以外の選択肢はない。
「まったくもう…レティア様はまたお怒りのままお帰りになりましたわ。」
レティアの不在を知ってよっしゃ!と喜ぶクリステア。
「ご安心なさるのはまだお早いですよ。レティア様から宿題を申しつかっておりますから。」
にっこり笑って言うミリアに死刑宣告を受けたような顔をするクリステア。
「え…もしかして、また…」
「ええ、また。」
がっくりと項垂れるクリステア。
レティアから出された宿題と言うのは例を挙げるなら、お礼状の書き取りなどである。
貴族たるもの、お茶会や夜会など色々な場に招かれることが多々ある。その度にお礼状を書くのがマナーだが、それにはある程度の定型文というものが存在し、季節や場面に合わせてふさわしいものをチョイスし、本人らしさを盛り込み、アレンジして書くのが「教養ある淑女の証」のひとつなんだそうだ。
その内容が、毎度同じようなものであると、「教養なしのおばかさん」と相手に侮られるため、皆頭を悩ませつつお礼状をしたためるのだ。
定型文といっても膨大にあり、それをここからここまで書き取りしなさい、というのが今回の宿題だ。レティアお得意の「ひたすらシリーズ」だ。
ひたすらと言ってもただ書くだけではない、優美な字で書くことはもちろんである。
人によっては教養あるものを雇い、代筆する者もいるらしいが、公爵家たるもの、その位は息をするのと同じように簡単にこなせないでどうします、と言うのがレティアの持論だ。
こんな時はネットで例文を検索してコピペしてちゃちゃっと書き加えてメール、でどうにかなっちゃう前世が懐かしいと思うクリステアだった。前世でもそういう場合は手書きでお礼状をしたためるのが本来のマナーではあるが…。
「仕方ありませんね、今から頑張ります…。」
諦めてとぼとぼと自室へ向かうクリステア。
「はじめから素直にマナー学を受けていたらこんなことにはならないのですよ。」
「確かに。」
うんうん、と頷きながら答えるクリステアにミリアは頭が痛くなるのだった。
「まったくもう…今までどこにいたのですか?」
「…えっ?…と、図書室にいましたけど…?」
だってそこから出てきたでしょう?と答えるクリステア。
「先ほど探した時にはいらっしゃいませんでしたわ。屋敷中探しましたもの。」
「えーと、じゃあその時はきっとお手洗いに行ってたのかかしら?」
うふふ…と笑ってごまかすクリステア。
「さっ!早く戻って書き取りしないと!」
そそくさとミリアの前を横切るクリステアからまたあの匂いがした。
(またあの匂い…。でも図書室にあんな匂いが移るようなものなどないはず…?)
クリステアは何か隠している、そう確信するミリアなのだった。
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