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おやつを作ろう!

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調理場の裏口からこっそり中を覗いてみると、料理長が出入り口の方をチラチラと目を向けながら設備のチェックをしていた。
……あれって、もしかしなくても私が来るか見張ってるんじゃない?
そりゃ私が入ってすぐに駆けつけるわけだよ。
料理長も貴重な休憩時間なんだから、来るかどうかもわからない私を待つのはやめようよ……あとストーカーっぽくて怖いから。
でもこれ、私が来ないと仕事再開までこのままなのかも。
そう思うとかわいそうな気もするので、このまま回れ右したい衝動を抑えつつ、自分たちにクリア魔法をかけて、裏口からそのまま中に入った。
「えっ? クリステア様⁉︎ 裏口からいらっしゃるだなんて、どうなされたのですか⁉︎」
料理長は意外なところから入ってきた私に驚きながらも駆け寄ってきた。
「庭から菜園を見て、そのままこちらにきたのだけどお邪魔だったかしら」
「いえ、とんでもございません! クリステア様ですから!」
私だからって……大丈夫な理由になってませんけど?
「何かお作りになられますか? 私めが助手をいたしますので道具の用意など何なりとご命令ください!」
「あ、ありがとう……では……」
料理長に準備してもらったのは小麦粉、砂糖、バター、卵に紅茶の葉と抹茶。
紅茶の葉は黒銀くろがね真白ましろにお願いしてすり鉢で粉々にしておく。
ボウルを二つ用意して、それぞれに室温に戻したバター、砂糖、卵を割り入れ、小麦粉を入れる。一つのボウルには細かく砕いた紅茶の葉、もう一つには抹茶を加えてダマが無くなるまでヘラで混ぜる。
ひとまとめにしたら冷蔵室で十~十五分程度寝かせている間に料理長に魔導オーブンを予熱しておいてもらう。
待っている間に使った道具類を皆で手分けして片付ける。
料理長は恐縮していたけれど、作るだけ作って、後片付けを他人まかせにするのは気が引けるからね。
寝かせた生地を麺棒でのばして、厚みを均一にしたらナイフで切り分けて天板に並べて焼けば……
「紅茶と抹茶風味のクッキーのできあがり!」
時間を置いてしっとりしたクッキーも美味しいけれど、焼きたてのクッキーの試食は作った人の特権だ。
まあ、インベントリに入れておけば焼きたてのままなんだけど。
たくさん作ったから、焼きたてと冷ましたのと分けて保管しとこう。
私は試食するために紅茶を淹れ、焼きたてのクッキーを数枚ずつ皆に配った。
「さあ、いただきましょう」
まだほんのりあたたかいそれを口にする。
まずは紅茶のクッキーから。
うん、素朴なクッキーだけど茶葉を加えたことでふわりと香りが広がって、華やかさが増したように感じる。
紅茶との相性もいいし、前世ではティーバッグを使えば簡単だったからよく作っていたのよね。
抹茶の方は……独特の風味は好き嫌いがあると思うけれど、慣れたら病みつきになる味。
こっちもよく作っていたっけなぁ
「はあ……同じ茶とはいえ、性質の違うものを同じ材料で作ると、違いが楽しめてよいですねぇ……」
しみじみといった様子で紅茶を飲む料理長は完全にリラックスしていた。
結局助手として働かせちゃったから、いまのこの時間が休憩になるといいけど。
そう思った私はゆっくりクッキーとお茶をいただいた。
その間、夕食のメニューや料理に関して質問ぜめにあったけど、料理長が楽しそうだったからよしとしよう……でもあの期待に満ち溢れた、崇拝にも似た視線が怖いと思うのは私だけだろうか……(げっそり)
とりあえず、明日には寮に戻るのでもう料理はしないこと、できれば明日の午前中に備蓄用のご飯を炊いておいてほしいこと、後でリストを渡すから寮に持ち帰るための食材を用意してほしいことを伝えて調理場を後にした。
クッキーは焼きたての状態でインベントリに収納しておいたから、後で一部だけ小分けしてラッピングしようっと。

自室に戻ると、ミリアからお母様が探していたと教えられた。
戻ったらすぐにお母様の部屋にくるようにとのことだったので、ミリアにクッキーのおすそ分けをしてからお母様の私室に向かった。
「お母様、クリステアです」
ノックして声をかけると、お母様付きの侍女が扉を開けてくれた。
お母様に座るよう促されたのでお母様の対面に座ると、お母様の侍女がテキパキとお茶の準備を始めた。
「庭の散策にしては長かったのね」
「申し訳ございません。そのまま調理場でお菓子を作っていたものですから」
「……お菓子ですって?」
お母様が鋭い目でこちらを見た。ひえっ!
「え、ええ。簡単なクッキーなのですけど」
お母様がお菓子と聞いてスルーするわけがなかったよ。
横で紅茶を淹れていた侍女さんもピクッと一瞬だけど動きが止まっていた。
これは出さなきゃいけない流れだね、うん。
侍女さんにお皿を出してもらい、インベントリからニ種類のクッキーをざらりと出した。
「一つは紅茶の茶葉、もう一つは抹茶を混ぜ込んだクッキーですわ」
小皿をもらって数枚ずつ取り分けて「試食をお願いしますね」と侍女さんに渡したらキラキラした目で受け取ってくれたからよかったわ。
「まああ……この黒っぽい粒が茶葉なのかしら? 見た目はちょっとよくないけれど、お味はふわりと紅茶のかおりがして素敵ねぇ」
お母様は嬉しそうに紅茶を飲んでから今度は抹茶を手にした。
「ほろ苦さの中にほんのりとバターの香り……甘すぎなくて食べやすいのね。これはヤハトゥールのお茶にも合いそうね」
やっぱり、お父様のいない時は語りますね。いつもはお父様が全部言っちゃうから同じ感想になるのを避けているのかもね。
「お口にあったようで何よりですわ。あの、それでお呼びになったご用件とは……?」
「え? あ、あらそうだったわね、ほほ……」
お母様……クッキーに夢中になって忘れてましたね?
「……コホン。とりあえず、現状届いている招待状の選別を行いました」
お母様がそう言って手をやった先を見ると、山と積まれた招待状が今にも雪崩を起こしそうになっていた。
「え」
早い。あの量を選別し終わったというの?
てか、まさかあれだけの招待を受けなきゃいけないとか、そんなことないわよね?
「お、お母様あれは……?」
「全て受けなくて結構よ。私からお断りの返事を出しておきますからね」
「へ?」
いやいや、あれだけあったらいくつかは「出席しなきゃまずいから出なさい!」てのがあるもんじゃないの? だから呼んだんじゃないの⁉︎
「どれも中立や敵対派閥からなのよ。私たちの派閥の者たちはスチュワードがどれだけ貴女を溺愛しているか日頃からの言動で十分理解しているから『良き巡り合わせの機会がございましたら是非ともお目通りさせてください』といった内容のお手紙が届いただけなの。彼らはいずれ我が家のお茶会に招待するつもりだから、その時は必ず参加しなさいね」
「は、はい……」
なんだ、ちょっとだけホッとしたのに、結局お茶会には出ないといけないのか。
「後はもう、あわよくば我が家に……とよからぬことを目論んでいるのが丸わかりの方からばかりだもの。あの人がそんなもの許すわけがないでしょう?」
あ……ああー。はい、お父様ね。
娘馬鹿のお父様がそんな家の招待に応じるのを許すわけがなかったね?
例え許したとしてもお目付役として、お兄様同伴とかそんなことになるんだろうな。
「ただでさえ王家の招待すら辞退しているのに、それを差し置いて許可するわけにもいきませんからね」
なるほど、それもそうか。
王家のアピールを固辞しているからこそ、狙い目と思っている人は少なからずいそうではあるけれど。
「ですから、学園に戻っても気軽にお茶会の招待に応じることのないようにしなさい。ああ、学園のサロン棟での茶会はその限りではないけれど、気をつけなければならない家のリストを後で渡しますから、参加する時の参考になさいね」
「は、はーい……」
お母様の視線の先に書きかけのリストらしきものがチラッと見えた。
お茶会に行かなくて済んだのはありがたいけれど、そのリストを覚えるのが大変かも……うぐぐ。

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14日(木)にコミカライズ版「転生令嬢は庶民の味に飢えている」第21話更新されております!
ついにマリエルちゃんの正体が……!
未読の方はぜひお読みくださいませ!
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