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連載
輝夜の受難
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『はーなーせえええぇ!』
ギニャアアァーッ! と喚き続ける輝夜を連行しつつ階下へ向かうと、ニール先生が階段下のホールで私たちを待ち構えていた。
「あっ! 待ってたよクリステア嬢! ビッグホーンブルの素材のことなんだけど……あれ? その黒猫はどうしたんだい? 聖獣様の食事かい?」
『んなっ⁉︎ アタシをこいつらの餌扱いするんじゃないよ! 失礼なヤツだね!』
「全くだ。こいつを食らっても食いでがない上に食えば腹をくだすに違いない」
「うん。かぐやなんておいしくないからいらない。くりすてあのごはんがいい」
『アンタらも大概失礼だよ! この……ッ! フギャ⁉︎』
黒銀と真白のあんまりな言いように輝夜が怒りにまかせて爪を出した途端、輝夜の首に取り付けられた魔導具が反応し、魔力を吸い取られてしまったようだ。
『ふにゃあ……あんまりだぁ』
輝夜はへろへろになって、黒銀に首根っこを掴まれたまま手足をだらんとさせてしまった。
攻撃したら魔力を奪われるってわかってるのに、輝夜ってば懲りないなぁ。
攻撃しようとしたんだから自業自得とも言えるけれど、今回は黒銀と真白が挑発したのが悪い。
二人の今日の夕食はおかわり禁止にしようと心に決めて、私は魔力切れ寸前の輝夜に自分の魔力を流し込むようにイメージして触れる。
少ししてなんとか復活したようでホッとした。
「んん? その首輪、魔力制御の魔導具……だよね? ただの猫にそんなもの必要あるわけがな……まさか⁉︎」
輝夜の首輪が魔導具だと気づいたニール先生がしげしげと観察し、ハッと気づいたように私を見た。
「ええと、その、この子……輝夜は魔獣で私の契約獣です。この子が部屋から引きこもって出てこなかったので紹介しそびれてしまい申し訳ございませ……」
「クリステア嬢はこの魔獣とも契約してるのかい⁉︎」
ニール先生は謝罪の言葉を終える前に被せ気味に聞いてきた。
「は、はい」
「魔力制御のバングルをつけてこの状態……本来ならもっと魔力が多いってことだね? そしてこの姿……」
ニール先生は輝夜を見つめてブツブツと呟き出した。
あ、これあかんやつだ。
『ちょ、ちょいと! なんなんだいコイツ⁉︎』
目をランランとさせて見つめられ、居心地が悪くなった輝夜が助けを求めるように私を見た。
ごめん輝夜、私にはその状態のニール先生を止められる気がしないよ……
「あら、かわいらしい黒猫ちゃん」
「あっ、朱雀様」
黒銀の背後から朱雀様がひょいと手を伸ばして輝夜を引き寄せた。
『ヒッ!』
「クリステア様の猫ちゃんですの? まああ、おとなしくていいこね。ねぇクリステア様、この子少しお借りしてもいいかしら? あら……ニール先生。貴方は素材の件でクリステア様にお話があるのではなくて?」
朱雀様が輝夜を抱えてにっこり笑った。
輝夜は一言も発しないで首を横にブンブン振っていたけれど、朱雀様にがっちりホールドされて逃げられないようだし……
「わかりました。夕食の時間には返してくださいね。輝夜、いいこにして朱雀様のいうことを聞くのよ?」
「ニャッ⁉︎」
「もちろんですわ。さあ輝夜ちゃん、お部屋にいきましょうねー」
私たちは朱雀様がご機嫌な様子で輝夜を抱いてセイの部屋に向かうのを見送ったのだった。
『この裏切り者おおおおぉー!』
ごめん輝夜。
でもいい機会だから、少しは朱雀様に慣れるといいよ……多分これから夕食の時間まで着せ替えごっこだろうけど。
頑張れ。頑張って耐えて、輝夜!
「ああ……残念。もう少し観察したかったなぁ。クリステア嬢、後であの首輪外してみてもいいかな? アレを外したら本来の姿に戻るんだろう?」
ニール先生が朱雀様たちを残念そうに見送り、気を取り直したように私を見た。
しまった、輝夜が消えたことで矛先が私に向いてしまった……!
「だ、ダメです! アレは人を襲わないよう無力化するためにつけてるんですから」
「え、せっかく契約してるのにどうして無力化してるの? それじゃ戦力にならないじゃないか」
「それは……」
私はなんとかはぐらかそうとしたけれど、しつこく質問責めにあったので、私の魔力目当てで襲ってきたのを捕らえ、契約に至ったことをざっくりと説明した。
「黒い大きな猫型の魔獣……ナイトウォークレオパードかノワールパンサーかな? 魔力不足になってたとはいえ、よくあの俊敏な魔獣を捕まえられたねぇ。黒銀様や真白様も生け捕りにするのは大変だっただろうに」
「はは……」
言えない、押さえつけられていたところを猫だましで怯ませ、たまたま採取中だった媚薬キノコを口の中に転移させてヘロヘロになったところを捕縛したなんて。
詳しく説明したところで理解してもらえるとは思えないし。
輝夜の名誉のためにもやっぱり黙っておくべきよね。
「クリステア嬢しか外せないんじゃしかたないな。あれじゃただの黒猫とさして変わらないから観察してもつまらないし……」
ニール先生はうーん……と何やら考えている様子。あ、危なかった……危うく輝夜がニール先生の研究対象になるところだった。
「あっ、魔導具の首輪について色々聞かせてもらってもいいかな? うまく無力化できてるようだし色々と応用が効きそうだ」
「あれはマーレン師作の魔導具で、元々魔力量が多かった私のために父がマーレン師に依頼したものだと聞いています。私では説明ができませんから、詳しくはマーレン師にお聞きください」
「マ、マーレン先生……そういえば前にそんなことを聞いたような……いや、えーと、うん。まあ機会があったら聞いてみるよ……はは。ああそうだ、素材のことなんだけど……」
ニール先生がいきなりトーンダウンした。
この前学園長室でお説教されたみたいだし、あまり近寄りたくないんだろうな。
わざと「マーレン師に質問があるとお伝えしましょうか?」と聞いたらものすごい勢いで固辞された。どんだけなの。
そのまま話題を変えるためか、ビッグホーンブルの素材について交渉がはじまったので、とりあえず夕食の準備があるからと皆で食堂に移動したのだった。
---------------------------
おうち時間を過ごすために
読書やゲーム、映画鑑賞など、色々手段はあると思いますが、自宅で異世界や飯テロを楽しみましょう( ´ ▽ ` )/
そのお供に「転生令嬢は庶民の味に飢えている」を加えていただけますと幸いです!
おうち時間を楽しみながら、頑張って乗り切りましょう!٩( 'ω' )و
ギニャアアァーッ! と喚き続ける輝夜を連行しつつ階下へ向かうと、ニール先生が階段下のホールで私たちを待ち構えていた。
「あっ! 待ってたよクリステア嬢! ビッグホーンブルの素材のことなんだけど……あれ? その黒猫はどうしたんだい? 聖獣様の食事かい?」
『んなっ⁉︎ アタシをこいつらの餌扱いするんじゃないよ! 失礼なヤツだね!』
「全くだ。こいつを食らっても食いでがない上に食えば腹をくだすに違いない」
「うん。かぐやなんておいしくないからいらない。くりすてあのごはんがいい」
『アンタらも大概失礼だよ! この……ッ! フギャ⁉︎』
黒銀と真白のあんまりな言いように輝夜が怒りにまかせて爪を出した途端、輝夜の首に取り付けられた魔導具が反応し、魔力を吸い取られてしまったようだ。
『ふにゃあ……あんまりだぁ』
輝夜はへろへろになって、黒銀に首根っこを掴まれたまま手足をだらんとさせてしまった。
攻撃したら魔力を奪われるってわかってるのに、輝夜ってば懲りないなぁ。
攻撃しようとしたんだから自業自得とも言えるけれど、今回は黒銀と真白が挑発したのが悪い。
二人の今日の夕食はおかわり禁止にしようと心に決めて、私は魔力切れ寸前の輝夜に自分の魔力を流し込むようにイメージして触れる。
少ししてなんとか復活したようでホッとした。
「んん? その首輪、魔力制御の魔導具……だよね? ただの猫にそんなもの必要あるわけがな……まさか⁉︎」
輝夜の首輪が魔導具だと気づいたニール先生がしげしげと観察し、ハッと気づいたように私を見た。
「ええと、その、この子……輝夜は魔獣で私の契約獣です。この子が部屋から引きこもって出てこなかったので紹介しそびれてしまい申し訳ございませ……」
「クリステア嬢はこの魔獣とも契約してるのかい⁉︎」
ニール先生は謝罪の言葉を終える前に被せ気味に聞いてきた。
「は、はい」
「魔力制御のバングルをつけてこの状態……本来ならもっと魔力が多いってことだね? そしてこの姿……」
ニール先生は輝夜を見つめてブツブツと呟き出した。
あ、これあかんやつだ。
『ちょ、ちょいと! なんなんだいコイツ⁉︎』
目をランランとさせて見つめられ、居心地が悪くなった輝夜が助けを求めるように私を見た。
ごめん輝夜、私にはその状態のニール先生を止められる気がしないよ……
「あら、かわいらしい黒猫ちゃん」
「あっ、朱雀様」
黒銀の背後から朱雀様がひょいと手を伸ばして輝夜を引き寄せた。
『ヒッ!』
「クリステア様の猫ちゃんですの? まああ、おとなしくていいこね。ねぇクリステア様、この子少しお借りしてもいいかしら? あら……ニール先生。貴方は素材の件でクリステア様にお話があるのではなくて?」
朱雀様が輝夜を抱えてにっこり笑った。
輝夜は一言も発しないで首を横にブンブン振っていたけれど、朱雀様にがっちりホールドされて逃げられないようだし……
「わかりました。夕食の時間には返してくださいね。輝夜、いいこにして朱雀様のいうことを聞くのよ?」
「ニャッ⁉︎」
「もちろんですわ。さあ輝夜ちゃん、お部屋にいきましょうねー」
私たちは朱雀様がご機嫌な様子で輝夜を抱いてセイの部屋に向かうのを見送ったのだった。
『この裏切り者おおおおぉー!』
ごめん輝夜。
でもいい機会だから、少しは朱雀様に慣れるといいよ……多分これから夕食の時間まで着せ替えごっこだろうけど。
頑張れ。頑張って耐えて、輝夜!
「ああ……残念。もう少し観察したかったなぁ。クリステア嬢、後であの首輪外してみてもいいかな? アレを外したら本来の姿に戻るんだろう?」
ニール先生が朱雀様たちを残念そうに見送り、気を取り直したように私を見た。
しまった、輝夜が消えたことで矛先が私に向いてしまった……!
「だ、ダメです! アレは人を襲わないよう無力化するためにつけてるんですから」
「え、せっかく契約してるのにどうして無力化してるの? それじゃ戦力にならないじゃないか」
「それは……」
私はなんとかはぐらかそうとしたけれど、しつこく質問責めにあったので、私の魔力目当てで襲ってきたのを捕らえ、契約に至ったことをざっくりと説明した。
「黒い大きな猫型の魔獣……ナイトウォークレオパードかノワールパンサーかな? 魔力不足になってたとはいえ、よくあの俊敏な魔獣を捕まえられたねぇ。黒銀様や真白様も生け捕りにするのは大変だっただろうに」
「はは……」
言えない、押さえつけられていたところを猫だましで怯ませ、たまたま採取中だった媚薬キノコを口の中に転移させてヘロヘロになったところを捕縛したなんて。
詳しく説明したところで理解してもらえるとは思えないし。
輝夜の名誉のためにもやっぱり黙っておくべきよね。
「クリステア嬢しか外せないんじゃしかたないな。あれじゃただの黒猫とさして変わらないから観察してもつまらないし……」
ニール先生はうーん……と何やら考えている様子。あ、危なかった……危うく輝夜がニール先生の研究対象になるところだった。
「あっ、魔導具の首輪について色々聞かせてもらってもいいかな? うまく無力化できてるようだし色々と応用が効きそうだ」
「あれはマーレン師作の魔導具で、元々魔力量が多かった私のために父がマーレン師に依頼したものだと聞いています。私では説明ができませんから、詳しくはマーレン師にお聞きください」
「マ、マーレン先生……そういえば前にそんなことを聞いたような……いや、えーと、うん。まあ機会があったら聞いてみるよ……はは。ああそうだ、素材のことなんだけど……」
ニール先生がいきなりトーンダウンした。
この前学園長室でお説教されたみたいだし、あまり近寄りたくないんだろうな。
わざと「マーレン師に質問があるとお伝えしましょうか?」と聞いたらものすごい勢いで固辞された。どんだけなの。
そのまま話題を変えるためか、ビッグホーンブルの素材について交渉がはじまったので、とりあえず夕食の準備があるからと皆で食堂に移動したのだった。
---------------------------
おうち時間を過ごすために
読書やゲーム、映画鑑賞など、色々手段はあると思いますが、自宅で異世界や飯テロを楽しみましょう( ´ ▽ ` )/
そのお供に「転生令嬢は庶民の味に飢えている」を加えていただけますと幸いです!
おうち時間を楽しみながら、頑張って乗り切りましょう!٩( 'ω' )و
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