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授業初日

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私たちが講堂に入ると、すでにほとんどの席が埋まっていた。
講堂の前方と後方に空席はなく、中間の席だけちらほらと空いているように見えた。
「ええと……あ、あそこが空いてるみたいですよ」
空席をめざとく見つけたマリエルちゃんが指したのは教壇側から見て中央からやや左寄りにある席だった。
そこ以外に並んで座れそうな席はないようだったので、私たちは互いに目配せして急いでその席に移動した。
セイ、私、マリエルちゃんの順で並んで座り、各々が筆記用具などをすぐに使えるよう準備し始めた。
「ふう、明日はもう少し早く来たほうが良さそうね」
早めに出たつもりだったけれど、授業初日ということもあり、皆はりきって来たみたい。
「そうですねぇ。ちなみに、前方と後方どちらの席がいいですか?」
「私は特にこだわりはないけれど……」
前方の列の席に目を向けると、シンプルな制服姿の子が多い。
どうやら平民の生徒がほとんどの様子。
自分の将来がかかってることもあり、真剣に学ぼうと気合いが入っているようだ。
変わって後方の席はというと……
仕立てのよい、装飾過多な制服の群れが並んでいて、皆いかにもお貴族様って感じ。
「……あ」
一番後ろの中央寄りの席に例の金髪縦巻きロールさんことアリシア・グルージア様が取り巻きの皆さんと一緒に陣取っていた。
アリシア様は私が見ていたのに気づいたようで、一瞬キッと睨まれたと思うと、すぐさまツン! とそっぽを向かれた。
それに気づいた周囲の取り巻きがこちらを見てくすくすと笑っているのは、私が公爵令嬢なのにも関わらずお約束の派手な制服を着ないで席も中ほどに座っているからみたい。
ひそひそ話の中でそんな話をしているのが切れ切れに聞こえた。
いや別に、席にこだわりはないし、制服は気に入ってるからいいんだけどね。
でも私、一応公爵令嬢だからね?
身分に関係なく学ぶ場だと理解しているから、私は特に咎める気はないけど。
たとえ私が気にしなくても、場合によってはお兄様やお父様が黙ってないかもしれないから、言動には気をつけたほうがいいと思うよ……?
とりあえずお兄様たちには口出し&手出し無用と念押しはするけど、大概私の知らないところで処されてるから、その時は私には止めようがないからね⁉︎
いやもう本当頼むよ? 知らないうちに同級生が(退学して)消えていくのが私のせいとかまじ勘弁だからね……
そんなことを願いつつ、後方の他の席を観察すると、すでに仲の良いグループができているようで、何人かで固まってそれぞれおしゃべりに興じている様子。
お兄様やマリエルちゃん情報によると貴族の子どもの交友関係のほとんどは、親の派閥をそのまま子ども版にしたような感じらしい。
だから、仲良くしているようでも親の力関係が影響してるんだって。
例外もいるにはいるけど、マリエルちゃんみたいに新興貴族で貴族との付き合いがそもそもほとんどなかったり、ごく稀に身分差関係なく気が合って仲良くなったりとそのほとんどがレアケースで、大抵は派閥のミニチュア版なのだそう。
私はその中でもさらにレアなケースなのよね。
物心つく前から領地に引きこもっていたし、魔力のコントロールができていなければ学園に入学するかどうかも怪しかったから、どこの家も自分の子を私の友人にさせようとは思わなかったんだろうな。
気持ちはわかる。
レイモンド王太子殿下の婚約者候補については、早々に辞退して候補者レースから外れていたし。
公爵家の娘とはいえ、私の取り巻きになる利点は少ないだろうからね。
それよりかは将来性のある他の御令嬢と仲良くなっておくほうがいいよね、うん。
今は私が色々と目立ってしまったせいで、どう関係を持つべきか、どの家も悩んでいるみたい。
うーん、お友達はほしいけど、派閥とかそういうのは遠慮したいなあ……
今のところは遠巻きに様子見されているみたいだし、友達づくりに関しては焦らず気の合う子と仲良くなれたらいいなってスタンスでいくしかないかな。
……それにしても、ミリアの言う通り付け襟と付け袖を装着してきてよかったかも。
生地や仕立てはさりげなく豪華にしてるものの、あれに比べたら私の制服なんてどシンプルもいいとこだったわ……私としてはそれがいいんだけど。
付け襟と付け袖は様子を見て徐々に外していくことにしようっと……お母様に叱られない程度にね。
おっと、話が逸れたわね。そんなわけで後方はそこそこ位の高いだろう貴族とその取り巻きが占領している状態。
中間に位置する席は平民と商家の子供、そして低位から中位の貴族の子がまばらに座ってるみたい。
本当に制服で大体のお家事情がわかるのね。
お母様が私の希望に難色を示したわけだわ。
助け船を出してくれた仕立て屋のサリーに感謝しなくちゃ。
「ええと……クリステア様?」
私がいつまで経っても答えないものだから、マリエルちゃんが不安そうに首を傾げた。
「……え? あ、ああ、そうね。特にこだわりはないけれど、前すぎず、後ろすぎず、でいいと思うわ」
「そうですねぇ」
前列は熱心に学びたい人に譲りたいし、後ろは……あの中に入ると逆に浮いてしまいそうだから、ほどほどの位置がベストよね。
「セイ様はどう思う?」
セイは留学生だし、もっと前の席で学びたいとかあるかもしれない。
「僕も特にこだわりはないかな。この席でも見やすいし」
「じゃあ、明日以降も中央辺りの席でいいかしら?」
「ええ、そうしましょう」
「そうだな」
そんなことを話していると、講師が教壇に立ったので居住まいを正して教壇に目を向けた。
「皆、静かに。本日より一般教養の講義を始める」
いよいよ授業が本格的にスタートするのね!
私はワクワクしながらノートを広げた。

「それでは、本日はここまで。午後は復習と明日の予習に充てるように。以上」
講師が講堂を出た途端、ワッと皆がしゃべり始めたので、一気に騒々しくなった。
男子生徒なんかはバタバタと走って講堂を出て行く子もいた。
じっとして講義を聞くだけとか、小学生ダンスィの年齢の子には苦行だろうからねぇ。
それに、お昼前だからきっとお腹を空かせた子は食堂に急ぐのだろう。なんたって食べ盛りだもんね。
「クリステアさん、お昼はどうします? 寮に帰るんですか?」
マリエルちゃんが筆記用具を片付けながら聞いてきた。
「ええ、真白ましろ黒銀くろがねが待ってるし、そのつもりよ」
「そうですかぁ……もう少しお話したかったんですけど」
マリエルちゃんが残念そうに私を見る。
「今朝の話の続きじゃないならいいわよ? 午後からサロン棟で一緒に勉強する?」
図書館でもいいけど、それじゃおしゃべりができないものね。
「サロン棟でもいいですけど、大丈夫ですか? 昨日のこともありますし……」
マリエルちゃんは昨日私がアリシア様に絡まれたことを心配しているのだろう。
今日も睨まれたりしたし、できればエンカウントは避けたいといえばそうだけど……
「寮の談話室を使えばいいんじゃないか?」
私が悩んでいると、セイが特別寮を使うことを提案してくれた。
「そうね……でもニール先生に寮生以外は入れないように言われているけど、いいのかしら?」
「もう僕たちのことは学園内に周知されているんだし、マリエル嬢は入学前からの友人なんだから問題ないさ。それに、寮内なら護衛せいじゅうもいるし、むしろ安全だろう?」
「そうね……マリエルさん、そうしましょう? お昼も特別寮で食べるといいわ」
「……! はい! 喜んでー!」
マリエルちゃんが喜色満面の笑顔で、どこぞの居酒屋のような返事をしたので私は思わず吹き出してしまったのだった。

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コミカライズ版「転生令嬢は庶民の味に飢えている」2巻がいよいよ3月30日出荷予定です!
一部書店ではイラストカードの特典もあるそうです。

https://www.alphapolis.co.jp/book/appendix/7206

モフ度もアップした2巻です!
よろしくお願いいたします!
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