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憂鬱だあ……
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黒銀と真白によって自室に担ぎ込まれた私は、そのままベッドに押し込まれそうになったのだけれど、どうにか二人を説得した。
「主、休んでいたほうがよいのではないか?」
「くりすてあ、ねてないとだめだよ?」
「もう……私はなんともないんだってば。二人とも心配性なんだから。さっきはちょっと驚いてただけよ」
そう、ただお兄様の告白にびっくりして顔が赤くなっちゃっただけだからね⁉︎
病気じゃないんだから寝込んだりしないってば。
「あの、クリステア様? お身体の具合がよろしくないのですか……?」
食堂から戻ってきたミリアが心配そうに私を見た。私やセイはお腹が空いていないので、白虎様たちや先生の夕食は私の備蓄から提供することにしたので届けてもらったのだ。
黒銀と真白は私の側にいると言うので今ここで食べている。
「ううん、大丈夫。なんでもないわ」
「ですが……」
ミリアが黒銀たちをチラッと見た。二人が珍しく心配しているから気になるのだろう。
「大丈夫だってば。ちょっと色々あってね……」
「そうですか……今日の試験で何かございましたか?」
「うーん、試験は問題なかったんだけど……」
まあ、適正検査用の魔法陣の光り方が普通よりちょっと……いや、かなり強かったみたいだけど……
「試験後にちょっとね」
私がサロン棟であったことを話すと、ミリアは顔を曇らせた。
「クリステア様……申し訳ございません。お館様に口止めされておりましたので私からはお伝えできませんでした……」
「いいのよ、気にしないで。お兄様も卒業まで伝えるつもりはなかったそうだし。そうじゃなくても噂話か何かでいつか知ることになったでしょうから、早いか遅いかの違いだわ。ねえミリア、喉が渇いたからお茶をお願いできる?」
もうしわけなさそうに頭を下げるミリアを慌ててなだめ、お茶を頼んだ。
「あの……それで、クリステア様はどうなさるおつもりですか?」
ミリアがお茶を差し出しながら聞いてきた。
「どうって?」
「卒業したらノーマン様とご結婚なさるのですか?」
「……ッ! ゲホッ、え、け、けっこん?」
お兄様と結婚と聞いて、思わずむせてしまった。
いやいや、ちょっと急展開すぎない⁉︎
「ええ。クリステア様は王太子妃になるのはお嫌なのでしょう? 他にお好きな方がいらっしゃるわけでもないのでしたら、ノーマン様を選ばれるのかと思いまして」
「あのね……私は今日初めてお兄様とは従兄妹の関係だったと聞いたばかりなの。まだそんなことまで考えられないわよ」
「あ……そうですね。浅慮でした……もうしわけございません。ですが、私はクリステア様のお相手にノーマン様は最適だと思いますよ?」
「え?」
「考えてもみてください。ノーマン様はお料理が大好きで自由奔ぽ…いえ、柔軟なお考えのクリステア様のことを十分理解していらっしゃいますから、ご結婚後も叱られこそすれ頭ごなしに反対される心配はございません。ですが、他の家に嫁ぐ場合は今のように自由に料理できるとは思えません」
「そ、そうかもしれないわね」
ミリア……さりげにディスってないかな⁉︎
「それに、生半可なお相手ですとお館様やお兄様がお許しにならないかと」
「た、確かに……」
我が国のお婿さん候補としては最高峰であるはずのレイモンド王太子殿下でさえ、お父様は渋るくらいだもの。
お父様は昔から国王陛下に手を焼いてるようだから、私を義理の娘にさせてなるものかと思ってるみたいだから無理もないけど。
「しかし、我らがいるのだから主が無理に嫁ぐ必要はないのではないか?」
「くりすてあはおれたちといっしょにいたらいいよ!」
黒銀と真白が不機嫌さを隠さず言う。
「黒銀様、真白様。クリステア様は貴族のお嬢様です。聖獣たるお二方がお護りになるとはいえ、どこにも嫁がないわけにはまいりません」
そうよねぇ……お父様やお兄様はともかく、お母様は私が独身のままなんて絶対に許さないだろうし。
今でも私が王太子妃になることを諦めてないみたいだからなぁ……
「ノーマン様の場合、黒銀様や真白様のことをご存知なわけですから、お二人ともクリステア様の側でのびのびと過ごすことができるかと思いますが……」
「ぐ……」
「むむ……」
ミリアの提案に二人は黙り込んでしまった。
確かに、お兄様なら今と環境が変わることがない。二人もそれがわかるから反対材料がないのだろう。
私としては、本当に行き遅れたら領地内のどこかで黒銀や真白と一緒にひっそりと暮らすとか、宿屋や食事処を経営したりするのもいいよね! とか考えているのだけど……やっぱりそういうわけにはいかないのかなぁ。
「ミリア、このことは私も今日知ったばかりなのだから、これからゆっくり落ち着いて考えることにするわ。学園だって入学したばかりなのだもの。これからいい出会いがあるとも限らないでしょう?」
「え? ええ、まあ、そうですけれど……」
ミリアが私のためを思って言ってくれているのはよくわかる。
だけど、私まだ十歳だよ?
そりゃあ、精神年齢は前世の記憶があるからとっくに成人済みだけども。
前世喪女で現ちびっこの私にはハードルが高すぎるんだよ……!
お願いだから、もっとゆっくり考えさせて⁉︎
「それよりも、明日からの授業が憂鬱なのよね……」
例の金髪縦巻きロールさんことアリシア・グルージア様に会うのが憂鬱だわ。
「ああ……先ほどおっしゃっていたアリシア・グルージア様ですか?」
「そう。これからも敵対心燃やして噛み付いてくるかもしれないと思うと面倒で……」
精神的に大人なこちらが我慢することになりそうだけど、あまりに度を超えたことをすればお兄様が黙ってなさそうだから、そうならないように気をつけなきゃならないのも面倒だもの。相手は侯爵令嬢だから揉めたりすると拗れそうだしなぁ。
それでも、お父様やお兄様は容赦なくやらかしそうだから本当に気をつけなきゃ。
さすがに、入学早々学園を去ることになるとか外聞がよろしくないからね……
「そのような無礼者は我が始末してやろう」
「そうだよ、くりすてあにいやなおもいをさせるようなやつはきょうせいはいじょ!」
「いやダメだから! お願いだからそういう物騒な発言はやめてね⁉︎」
二人とも、お願いだから大人しくしてよう⁉︎
私が二人を宥めていると、ミリアがお皿を片付けながら思い出したように言った。
「グルージア侯爵家のお嬢様ですよね。確か、上にはお兄様がお二人いらっしゃいますが、アリシア様はかなり遅くにお生まれになったこともあって家族の皆様からかなり溺愛されてお育ちになったそうですが……」
「く、詳しいわね……」
「女子寮で働いているメイドたちが扱いにくい方だと噂して……いえ、申し送りしていましたから」
誤魔化すように笑っているけど、彼女は相当噂になってるってことかしら。
恐ろしや、メイドネットワーク。
私が女子寮にいたら、なんと噂されていたことやら……特別寮に移動になってよかったかもしれないわね。
「クリステア様の魔力が安定して、料理のことなどで噂になるまではアリシア様がレイモンド王太子殿下の婚約者候補として上位にいらしたそうです。そのせいか、クリステア様が候補に上がったのではと噂され始めた頃、グルージア侯爵家はかなり反発なさったみたいですよ」
「……お父様がよく黙っていたわね」
あの頃、私の悪評を広めた家は、お父様によってかなり痛い目にあったのではないかと思うけど……
「グルージア侯爵家は貴族の中でもかなり力のある派閥のひとつですから、お館様は変に手出しはなさらなかったのでしょう。それに……」
そこでミリアが言い淀んだ。
「それに?」
「クリステア様を婚約者候補筆頭に挙げるのは反対だという意見については大いに賛成のようでしたから、特に手を出す必要もなかったそうで……」
「……」
お、お父様ったら!
今度屋敷に帰ってもご飯作ってあげませんからね⁉︎
「とにかく、クリステア様にその気がないことをアリシア様に理解していただくより他にないかと思いますよ」
「それしかなさそうね……明日マリエルさんにも相談してみることにするわ」
「そうなさいませ」
私はミリアに彼女用の夕食分を渡して下がるように伝え、今日の疲れを癒すべくお風呂に向かったのだった。
「主、休んでいたほうがよいのではないか?」
「くりすてあ、ねてないとだめだよ?」
「もう……私はなんともないんだってば。二人とも心配性なんだから。さっきはちょっと驚いてただけよ」
そう、ただお兄様の告白にびっくりして顔が赤くなっちゃっただけだからね⁉︎
病気じゃないんだから寝込んだりしないってば。
「あの、クリステア様? お身体の具合がよろしくないのですか……?」
食堂から戻ってきたミリアが心配そうに私を見た。私やセイはお腹が空いていないので、白虎様たちや先生の夕食は私の備蓄から提供することにしたので届けてもらったのだ。
黒銀と真白は私の側にいると言うので今ここで食べている。
「ううん、大丈夫。なんでもないわ」
「ですが……」
ミリアが黒銀たちをチラッと見た。二人が珍しく心配しているから気になるのだろう。
「大丈夫だってば。ちょっと色々あってね……」
「そうですか……今日の試験で何かございましたか?」
「うーん、試験は問題なかったんだけど……」
まあ、適正検査用の魔法陣の光り方が普通よりちょっと……いや、かなり強かったみたいだけど……
「試験後にちょっとね」
私がサロン棟であったことを話すと、ミリアは顔を曇らせた。
「クリステア様……申し訳ございません。お館様に口止めされておりましたので私からはお伝えできませんでした……」
「いいのよ、気にしないで。お兄様も卒業まで伝えるつもりはなかったそうだし。そうじゃなくても噂話か何かでいつか知ることになったでしょうから、早いか遅いかの違いだわ。ねえミリア、喉が渇いたからお茶をお願いできる?」
もうしわけなさそうに頭を下げるミリアを慌ててなだめ、お茶を頼んだ。
「あの……それで、クリステア様はどうなさるおつもりですか?」
ミリアがお茶を差し出しながら聞いてきた。
「どうって?」
「卒業したらノーマン様とご結婚なさるのですか?」
「……ッ! ゲホッ、え、け、けっこん?」
お兄様と結婚と聞いて、思わずむせてしまった。
いやいや、ちょっと急展開すぎない⁉︎
「ええ。クリステア様は王太子妃になるのはお嫌なのでしょう? 他にお好きな方がいらっしゃるわけでもないのでしたら、ノーマン様を選ばれるのかと思いまして」
「あのね……私は今日初めてお兄様とは従兄妹の関係だったと聞いたばかりなの。まだそんなことまで考えられないわよ」
「あ……そうですね。浅慮でした……もうしわけございません。ですが、私はクリステア様のお相手にノーマン様は最適だと思いますよ?」
「え?」
「考えてもみてください。ノーマン様はお料理が大好きで自由奔ぽ…いえ、柔軟なお考えのクリステア様のことを十分理解していらっしゃいますから、ご結婚後も叱られこそすれ頭ごなしに反対される心配はございません。ですが、他の家に嫁ぐ場合は今のように自由に料理できるとは思えません」
「そ、そうかもしれないわね」
ミリア……さりげにディスってないかな⁉︎
「それに、生半可なお相手ですとお館様やお兄様がお許しにならないかと」
「た、確かに……」
我が国のお婿さん候補としては最高峰であるはずのレイモンド王太子殿下でさえ、お父様は渋るくらいだもの。
お父様は昔から国王陛下に手を焼いてるようだから、私を義理の娘にさせてなるものかと思ってるみたいだから無理もないけど。
「しかし、我らがいるのだから主が無理に嫁ぐ必要はないのではないか?」
「くりすてあはおれたちといっしょにいたらいいよ!」
黒銀と真白が不機嫌さを隠さず言う。
「黒銀様、真白様。クリステア様は貴族のお嬢様です。聖獣たるお二方がお護りになるとはいえ、どこにも嫁がないわけにはまいりません」
そうよねぇ……お父様やお兄様はともかく、お母様は私が独身のままなんて絶対に許さないだろうし。
今でも私が王太子妃になることを諦めてないみたいだからなぁ……
「ノーマン様の場合、黒銀様や真白様のことをご存知なわけですから、お二人ともクリステア様の側でのびのびと過ごすことができるかと思いますが……」
「ぐ……」
「むむ……」
ミリアの提案に二人は黙り込んでしまった。
確かに、お兄様なら今と環境が変わることがない。二人もそれがわかるから反対材料がないのだろう。
私としては、本当に行き遅れたら領地内のどこかで黒銀や真白と一緒にひっそりと暮らすとか、宿屋や食事処を経営したりするのもいいよね! とか考えているのだけど……やっぱりそういうわけにはいかないのかなぁ。
「ミリア、このことは私も今日知ったばかりなのだから、これからゆっくり落ち着いて考えることにするわ。学園だって入学したばかりなのだもの。これからいい出会いがあるとも限らないでしょう?」
「え? ええ、まあ、そうですけれど……」
ミリアが私のためを思って言ってくれているのはよくわかる。
だけど、私まだ十歳だよ?
そりゃあ、精神年齢は前世の記憶があるからとっくに成人済みだけども。
前世喪女で現ちびっこの私にはハードルが高すぎるんだよ……!
お願いだから、もっとゆっくり考えさせて⁉︎
「それよりも、明日からの授業が憂鬱なのよね……」
例の金髪縦巻きロールさんことアリシア・グルージア様に会うのが憂鬱だわ。
「ああ……先ほどおっしゃっていたアリシア・グルージア様ですか?」
「そう。これからも敵対心燃やして噛み付いてくるかもしれないと思うと面倒で……」
精神的に大人なこちらが我慢することになりそうだけど、あまりに度を超えたことをすればお兄様が黙ってなさそうだから、そうならないように気をつけなきゃならないのも面倒だもの。相手は侯爵令嬢だから揉めたりすると拗れそうだしなぁ。
それでも、お父様やお兄様は容赦なくやらかしそうだから本当に気をつけなきゃ。
さすがに、入学早々学園を去ることになるとか外聞がよろしくないからね……
「そのような無礼者は我が始末してやろう」
「そうだよ、くりすてあにいやなおもいをさせるようなやつはきょうせいはいじょ!」
「いやダメだから! お願いだからそういう物騒な発言はやめてね⁉︎」
二人とも、お願いだから大人しくしてよう⁉︎
私が二人を宥めていると、ミリアがお皿を片付けながら思い出したように言った。
「グルージア侯爵家のお嬢様ですよね。確か、上にはお兄様がお二人いらっしゃいますが、アリシア様はかなり遅くにお生まれになったこともあって家族の皆様からかなり溺愛されてお育ちになったそうですが……」
「く、詳しいわね……」
「女子寮で働いているメイドたちが扱いにくい方だと噂して……いえ、申し送りしていましたから」
誤魔化すように笑っているけど、彼女は相当噂になってるってことかしら。
恐ろしや、メイドネットワーク。
私が女子寮にいたら、なんと噂されていたことやら……特別寮に移動になってよかったかもしれないわね。
「クリステア様の魔力が安定して、料理のことなどで噂になるまではアリシア様がレイモンド王太子殿下の婚約者候補として上位にいらしたそうです。そのせいか、クリステア様が候補に上がったのではと噂され始めた頃、グルージア侯爵家はかなり反発なさったみたいですよ」
「……お父様がよく黙っていたわね」
あの頃、私の悪評を広めた家は、お父様によってかなり痛い目にあったのではないかと思うけど……
「グルージア侯爵家は貴族の中でもかなり力のある派閥のひとつですから、お館様は変に手出しはなさらなかったのでしょう。それに……」
そこでミリアが言い淀んだ。
「それに?」
「クリステア様を婚約者候補筆頭に挙げるのは反対だという意見については大いに賛成のようでしたから、特に手を出す必要もなかったそうで……」
「……」
お、お父様ったら!
今度屋敷に帰ってもご飯作ってあげませんからね⁉︎
「とにかく、クリステア様にその気がないことをアリシア様に理解していただくより他にないかと思いますよ」
「それしかなさそうね……明日マリエルさんにも相談してみることにするわ」
「そうなさいませ」
私はミリアに彼女用の夕食分を渡して下がるように伝え、今日の疲れを癒すべくお風呂に向かったのだった。
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