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食後は話を蒸し返すことなく、皆でお茶と会話をゆったりと楽しみ、当初の予定通り学園内のことを色々と教わってからお開きとなった。
私たちはマリエルちゃんが女子寮に向かうのを見送り、お兄様とレイモンド殿下にご挨拶してから寮に帰ろうとしたのだけれど、お兄様がスッと私の隣に立った。
「クリステア、寮に帰り着くまでに変な輩に絡まれないとも限らないから送るよ」
「お、俺も行く!」
「……護衛される立場の殿下が付いてきてどうするんですか。僕の仕事が増えるだけですよ」
「うぐ……」
レイモンド殿下もバッと手を挙げて名乗り出たものの、お兄様にあっさり一蹴されてしまった。
そりゃそうよね、お兄様ならともかく、王太子殿下が臣下の妹を送るのに同行するなんて聞いたことないよ。
「お兄様、寮はすぐ近くですから大丈夫ですよ?」
「そうですよ、ノーマン先輩。僕もいますからお気になさらず」
セイがスッと前に出てきたけれど、お兄様は譲らなかった。
「いや、心配だから送るよ。このまま帰したら無事か気になってしかたないからね」
「お兄様……」
これはアレだ、心配性を拗らせて以前のように魔力探知で私が無事に寮に辿り着いたか探りかねないやつだ……
しかたない。引く気はなさそうだから、お兄様の気の済むようにさせてあげよう。
男子寮と特別寮は近いから、お兄様もすぐ戻れるんだし。
全くもう、心配性なんだから。
「……それではお願いいたします」
「うん。では、お手をどうぞ、お姫様」
お兄様が戯けて手を差し出したので、私は苦笑して手を取った。
恐れ多くもレイモンド殿下に見送られ、サロン棟を出て特別寮に向かった私たちは目と鼻の先の距離ということもあり、送る必要があったのかと思うほどあっという間に寮の扉の前に到着した。
「お兄様、送っていただきありがとうございました。お兄様こそ近いとはいえ、お気をつけてお帰りくださいね」
「ノーマン先輩、今日はありがとうございました」
私とセイがお礼を言って寮に入ろうとしたのだけれど、お兄様が私の手を離さなかった。
「……お兄様?」
「クリステア、もう少し話したいことがあるんだ。セイ、君はもう寮に入りなさい」
「……はい」
お兄様の言葉に、セイは気掛かりな様子を見せながらも寮の中に入っていった。
「お兄様、お話って何でしょう?」
「うん。あの場では言いにくかったからね。ええと、僕とテアは従兄妹の関係だったわけだけど……」
お兄様が言い淀むのを見て、私はピンときてお兄様を安心させるために笑顔で答えた。
「ええ。でもお兄様はわたしのお兄様ですもの。これまでどおりですよね?」
「うん……いや、その、そうじゃなくて……」
「……?」
目を泳がせていたお兄様を不思議に思いながら見つめていると、お兄様が思い切った様子で私を見つめ返した。
「……テア、君が小さい頃、僕とした約束を覚えてる?」
「約束……ですか?」
え、何かしたかな?
お兄様は学園に入ってからはあまり帰ってこなかったから、その前にしたってことよね。
お兄様は戸惑う私を見て困ったように笑った。
「大きくなったら、僕のお嫁さんになるって……覚えてない?」
「え……」
お、お嫁さん?
……そういえばそんなこと話したことある……かも?
でもそれって、おままごとの延長で「あたくち、おにいちゃまとけっこんするの~」とか言ってたこと、よね?
お兄様もそれに付き合って「そうだね、テアは僕と結婚するんだよね」って答えてたけど……え? それ?
「はい、あの……」
「僕はね、その約束を守りたいとずっと思っていたよ。父上にもお願いしてるんだ。学園を卒業して、殿下の側近としてやっていけるようなら従兄として君に求婚してもいいかって」
「きゅ、きゅうこん⁉︎」
きゅうこん……球根……じゃなくて、求婚⁉︎
「父上に従兄妹同士が結婚するのは可能とはいえ、クリステアはまだ幼いのだから、そんな話は早い! と止められていたんだけど……殿下の他にもライバルがいるみたいだからね。呑気に構えていられなくなったよ」
「え?」
ライバルって、誰が?
「視察の時以来、殿下がテアのことを気に入っているのは知っていたし、テアが王太子妃になりたいのなら何も言わずに諦めるつもりだったんだ。だけど……クリステアにはその気はなさそうだし、僕も諦めなくていいかなって思ってね」
お兄様が艶やかな笑みを浮かべてウインクしたけれど、私は気が動転していて見惚れる暇すらなかった。
「あ、あの……」
「ごめんね、テア。驚いただろう? でも従兄妹だから結婚できるし、僕は本気だよ」
お兄様はそう言うと、握ったままだった私の手を持ち上げ、手の甲にキスをした。
「ふわぁっ⁉︎」
「ふふ。今は急な話で混乱しているだろうから、返事はまだ先でいいよ。僕の卒業までゆっくり時間はあるんだから、今は僕の気持ちだけ知っておいて? じゃあね」
お兄様は身を翻すと駆け足で男子寮に戻っていった。
え、なにそれどういうこと?
お兄様が従兄だったって事実だけでもパニックだったのに、お兄様が私をお嫁さんにしたいって⁉︎
「……えええ⁉︎」
「……ふん、ついに告げおったか。まったく気に食わん奴め」
「ずっとへたれたままでよかったのにね」
「ひゃああ⁉︎ 黒銀に真白⁉︎ いつからそこに⁉︎」
いつの間にか背後に立っていた二人にびっくりした。
二人は私が驚いているのを気にすることもなく、お兄様が男子寮に入って行くのを睨みつけていた。
「主が戻ってくる気配は感じておった。セイが寮に入ってきたというのに主がなかなか入ってこんので扉の向こうから様子を伺っていたのだ」
「くりすてあとのーまんは、はなしがあるみたいだからって、せいがいうからしかたなくまってたんだ」
「ええ? じゃ、じゃあ今の話も聞いてたの⁉︎ それに、ついにって……?」
黒銀たちはこのことを知ってたっていうの?
「主と彼奴が血縁関係であるが真の兄妹ではないことは鑑定でわかっておった。主がその事を知らぬとは思わなんだったが。しかし、彼奴が主を好いておるのは一目瞭然だったろう?」
「うん。あいつはじめっからくりすてあにべったりでやなやつだった」
いやいや、ちょっと待って⁉︎
黒銀は鑑定でわかってたって⁉︎ 鑑定ってめっちゃ便利だね⁉︎
……って、そうじゃなくて。
お兄様が私を好きだって一目瞭然って⁉︎
お兄様って、度を超えたシスコンだなぁとは思ってたけど、まさかそんなふうに私のことを想っていただなんて知らなかったよ⁉︎
側から見たらバレバレだった……だと⁉︎
私はさっぱりわからなかったよ!
だって、本当のお兄様だとばかり思っていたんだもの……まさか、求婚されるとは思わないじゃない。
そうだ。きゅ、求婚されたんだ、私。
前世でもされたことなかったプロポーズを……ひゃあああ⁉︎
……い、いやあれはまだプロポーズとは違うよね? いずれするよって宣言だよね?
え、どうしよう? 私、どうしたらいい?
「……主、どうした? 顔が赤いぞ。熱でもあるのではないか?」
「……へ? あ、あの、なんでもないわ」
「くりすてあ、たいへん! はやくへやにいこう!」
「だ、大丈夫! 平気だったら!」
私が顔を真っ赤にしているのを見て、慌てた黒銀と真白の珍しく息のあった連携プレーにより、私は部屋にかつぎこまれたのだった。
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「お兄様……」
これはアレだ、心配性を拗らせて以前のように魔力探知で私が無事に寮に辿り着いたか探りかねないやつだ……
しかたない。引く気はなさそうだから、お兄様の気の済むようにさせてあげよう。
男子寮と特別寮は近いから、お兄様もすぐ戻れるんだし。
全くもう、心配性なんだから。
「……それではお願いいたします」
「うん。では、お手をどうぞ、お姫様」
お兄様が戯けて手を差し出したので、私は苦笑して手を取った。
恐れ多くもレイモンド殿下に見送られ、サロン棟を出て特別寮に向かった私たちは目と鼻の先の距離ということもあり、送る必要があったのかと思うほどあっという間に寮の扉の前に到着した。
「お兄様、送っていただきありがとうございました。お兄様こそ近いとはいえ、お気をつけてお帰りくださいね」
「ノーマン先輩、今日はありがとうございました」
私とセイがお礼を言って寮に入ろうとしたのだけれど、お兄様が私の手を離さなかった。
「……お兄様?」
「クリステア、もう少し話したいことがあるんだ。セイ、君はもう寮に入りなさい」
「……はい」
お兄様の言葉に、セイは気掛かりな様子を見せながらも寮の中に入っていった。
「お兄様、お話って何でしょう?」
「うん。あの場では言いにくかったからね。ええと、僕とテアは従兄妹の関係だったわけだけど……」
お兄様が言い淀むのを見て、私はピンときてお兄様を安心させるために笑顔で答えた。
「ええ。でもお兄様はわたしのお兄様ですもの。これまでどおりですよね?」
「うん……いや、その、そうじゃなくて……」
「……?」
目を泳がせていたお兄様を不思議に思いながら見つめていると、お兄様が思い切った様子で私を見つめ返した。
「……テア、君が小さい頃、僕とした約束を覚えてる?」
「約束……ですか?」
え、何かしたかな?
お兄様は学園に入ってからはあまり帰ってこなかったから、その前にしたってことよね。
お兄様は戸惑う私を見て困ったように笑った。
「大きくなったら、僕のお嫁さんになるって……覚えてない?」
「え……」
お、お嫁さん?
……そういえばそんなこと話したことある……かも?
でもそれって、おままごとの延長で「あたくち、おにいちゃまとけっこんするの~」とか言ってたこと、よね?
お兄様もそれに付き合って「そうだね、テアは僕と結婚するんだよね」って答えてたけど……え? それ?
「はい、あの……」
「僕はね、その約束を守りたいとずっと思っていたよ。父上にもお願いしてるんだ。学園を卒業して、殿下の側近としてやっていけるようなら従兄として君に求婚してもいいかって」
「きゅ、きゅうこん⁉︎」
きゅうこん……球根……じゃなくて、求婚⁉︎
「父上に従兄妹同士が結婚するのは可能とはいえ、クリステアはまだ幼いのだから、そんな話は早い! と止められていたんだけど……殿下の他にもライバルがいるみたいだからね。呑気に構えていられなくなったよ」
「え?」
ライバルって、誰が?
「視察の時以来、殿下がテアのことを気に入っているのは知っていたし、テアが王太子妃になりたいのなら何も言わずに諦めるつもりだったんだ。だけど……クリステアにはその気はなさそうだし、僕も諦めなくていいかなって思ってね」
お兄様が艶やかな笑みを浮かべてウインクしたけれど、私は気が動転していて見惚れる暇すらなかった。
「あ、あの……」
「ごめんね、テア。驚いただろう? でも従兄妹だから結婚できるし、僕は本気だよ」
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「……ふん、ついに告げおったか。まったく気に食わん奴め」
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いつの間にか背後に立っていた二人にびっくりした。
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いやいや、ちょっと待って⁉︎
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……って、そうじゃなくて。
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私はさっぱりわからなかったよ!
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