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お兄様と私の関係
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小さな転移部屋を利用して目的の階に移動した私たちは、すぐに予約していた部屋にたどり着いた。
部屋の前で待機していたメイドが扉を開け、誘導されるまま中へ入ると、そこは質の良い調度が設えられた部屋だった。
お兄様はお茶の用意を済ませたメイドを下がらせ、呼ぶまで近づかないようにと告げた。
メイドが扉を閉めた後、お兄様は扉に書かれた魔法陣に触れた。すると、パァッと魔法陣が一瞬輝き、室内に何かしらの魔法が発動したのだと気づいた。
「念のため、遮音の魔法陣を発動させたよ。鍵や結界魔法は、密室になるからサロン棟の規則でかけられないけれど、情報の漏洩を避けたい時なんかはこれを使ってもよいことになっているんだ。メイドを呼ぶ際はこの魔導具を使って呼べばいいからね」
お兄様はテーブルの上にある魔導具を指して言った。
なるほど、あの扉に書かれている魔法陣は内緒話用の防音装置なのか。
鍵をかけたり、結界魔法を使うのはなんらかのトラブルがあった時危ないから使っちゃダメってことなんだろうな。
完全な密室にしてしまうとカップルの密会所になるかもしれないからね。
婚約者はいるかもしれないけれど、現状は未婚の方ばかりなわけだし……
そんで、いざとなったら魔導具でメイドを呼び出す、と。うん覚えた。
お兄様は簡単に設備の説明を終えると、私たちの対面のソファーに座り、ゆっくりと息を吐いた。
「……何から話すべきなのかな。クリステアは、誰に何を言われたの?」
……あ、お兄様かなり怒ってる。
いつもは、ちょっとのことなら笑顔のままで怒るのに、今のお兄様には表情が無い。
こんなお兄様を見るなんて滅多にないことなので、私は動揺した。
まずい、これはまずい。
こんな状態のお兄様に金髪縦巻きロールさんことアリシアさんが暴言を吐いたってことが知れたら、アリシアさんは入学早々学園を去ることになりかねないよ⁉︎
いやでも、いくら我が家が公爵家だからといって侯爵家のお嬢さんを破滅に導くとかそんな……ないよね? ……多分。
お父様とお兄様ならやりかねないのが怖い。
「ええと……あの、その……」
何を言ってもお兄様の逆鱗に触れそうで、言い淀んでしまう私を見て、マリエルちゃんが意を決したように発言した。
「あの! ……わ、私が言ったんです。クリステア様はノーマン様と婚約できますよねって。申し訳ありません! まさか、その……クリステア様がご存知なかったとは思わなくて……」
どういうこと? 私が知らないって、何のこと?
お兄様は固まっているし、隣に座っている王太子殿下もお兄様を見てなんだか焦っているみたい。
私が頭の中を疑問符でいっぱいにして、俯くマリエルちゃんを見ていると、お兄様は困ったような顔をして頭を振った。
「いや……君のせいじゃない。対外的に秘密にしていたことではないのだから。君はクリステアが知らないとは思わなかったんだろう? これはクリステアにきちんと伝えていなかった僕たちの責任だ」
え? 何? 何なの?
私は不安な気持ちを抑えきれず、お兄様とマリエルちゃんを交互に見つめた。
お兄様は一瞬だけぎゅっと目を閉じてから、私を真っ直ぐに見つめて言った。
「クリステア……僕たちは実の兄妹じゃないんだ」
「……え?」
私とお兄様が、実の兄妹じゃない⁉︎
まさか……私は、エリスフィード家の子じゃなかったの⁇ まさか、貰われっ子?
実は、橋の下で拾われた子だとかじゃないよね⁉︎
「クリステア、父上に妹がいたのを知っているよね?」
「え? ええ……確かお父様より二つ下の……でも、私が生まれる前に亡くなったと……」
「そう。その人が僕の生みの母だ」
「ええっ?」
お兄様は、お兄様じゃなくて、従兄だったの⁉︎
「僕の生みの母は、アデリア学園で自分より身分の低い子爵家の次男と恋仲になったんだ。そして、皆の反対を押し切り、駆け落ち同然で家を出た」
「……」
「しばらくは勘当に近い状態で田舎で暮らしていたそうだけど、僕が生まれたことでお祖父様たちと和解し、実の父は父上の補佐として働くとして話がまとまり、僕が二歳の時に勘当が解かれ公爵家に戻ることになったそうだ」
お兄様はそこで一旦言葉を切り、すっかりぬるくなっただろう紅茶をこくりと飲んで、そっとカップを置いた。
「その道中、馬車が崖崩れによる事故にあったんだ。僕たちが土砂の中から助け出された時、僕の両親はすでに息を引き取っていたそうだ。僕だけは二人に守られていたため、かろうじて生きていたんだって」
「そんな……」
お兄様にそんな辛い過去があっただなんて。
「当時、エリスフィード家を継いだばかりの父上と母上は結婚していたけれど、まだ子供がいなかった。それで、僕はエリスフィード家の養子になったんだ」
お兄様はずっとカップを見つめて、こちらを見ずに話を続けた。
「引き取られてしばらくの間、僕は両親を失ったショックで誰とも口を聞かなかった。いや、言葉を発することができなくなっていたんだ。父上と母上はそんな僕にとても優しくしてくれたけれど、お祖父様とお祖母様は娘を失ったショックと、母によく似た僕がそんな状態になっているのを見るのが辛かったようで、保養地にあるエリスフィード家の別荘に移住してしまい、こちらには来なくなってしまったんだ」
確かに、お祖父様やお祖母様とはお会いしたことがないわ。お祖母様のお身体が弱いからと。何回かお手紙だけはいただいたりしたけれど……そんな理由があったのね。
「僕がようやく父上たちと打ち解けて、親子としてやっていけるようになったかと思われた頃、母上が妊娠した。それがクリステア、君だよ」
「私が……」
私は貰われっ子ではなく、お父様とお母様の実の子だったのね。
お兄様はお父様に似ているから、てっきり私が? ……と思ったけれど、お兄様は叔母様の子で、私の従兄だったんだ。
知らなかった……
「僕は怖かった。二人の子が生まれたら、僕は愛されなくなるのではないかって。それからクリステアが生まれるまでの間、僕はすごく荒れて、父上と母上にはひどく迷惑を……いや、心配をかけたよ」
「お兄様を愛さないなんて、そんなことありえませんわ!」
私が思わず叫ぶように反論すると、お兄様はふふっと笑った。
「うん、そうだね。それは全くの杞憂だった。二人ともそれまでと変わりなく愛しんでくれたよ。そして君が生まれた時、母上が僕に抱かせてくれて、あなたも一緒に、私たちがあなたを愛するようにこの子を守って愛してあげてね、と言ってくれたんだ。僕はその時、一生この子を、クリステアを守ろうって決めたんだ」
「お兄様……」
私を真っ直ぐに見つめるお兄様の真剣な表情に、思わず見惚れてしまった。
「でもその後大変だったんだよ? クリステアの魔力が膨大だったことが判明して、癇癪を起こす度に部屋が大変なことになるし。僕は君を守る前に、自分の身を守る術を身につける必要に迫られたからね」
お兄様はそう言って、戯けたようにウインクした。
「もう……お兄様ったら、ひどいわ!」
私が不貞腐れたように言うと、真剣な顔で聞いていた皆が表情を和らげ、くすくすと笑ったのだった。
---------------------------
お兄様語り、もう少し続きます!
お待たせして申し訳ありません!
でもやっとこのエピソードが書ける~!(嬉)
2/11に更新されたコミカライズ版とちょっぴりリンクさせておりますので、お楽しみいただければ幸いです!
そして、コミカライズ版「転生令嬢は庶民の味に飢えている」二巻が三月下旬に発売予定です!(そのため、来月は刊行作業で休載となります。ご了承くださいませ)
二巻では、書き下ろしでのお楽しみもありますのでぜひお買い求めいただけると嬉しいです( ´ ▽ ` )
皆様のお手元に届くのを原作者の私も楽しみにしております♪
発売前にはTwitterなどでもお知らせします!
よろしくお願いいたします( ´ ▽ ` )
部屋の前で待機していたメイドが扉を開け、誘導されるまま中へ入ると、そこは質の良い調度が設えられた部屋だった。
お兄様はお茶の用意を済ませたメイドを下がらせ、呼ぶまで近づかないようにと告げた。
メイドが扉を閉めた後、お兄様は扉に書かれた魔法陣に触れた。すると、パァッと魔法陣が一瞬輝き、室内に何かしらの魔法が発動したのだと気づいた。
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お兄様はテーブルの上にある魔導具を指して言った。
なるほど、あの扉に書かれている魔法陣は内緒話用の防音装置なのか。
鍵をかけたり、結界魔法を使うのはなんらかのトラブルがあった時危ないから使っちゃダメってことなんだろうな。
完全な密室にしてしまうとカップルの密会所になるかもしれないからね。
婚約者はいるかもしれないけれど、現状は未婚の方ばかりなわけだし……
そんで、いざとなったら魔導具でメイドを呼び出す、と。うん覚えた。
お兄様は簡単に設備の説明を終えると、私たちの対面のソファーに座り、ゆっくりと息を吐いた。
「……何から話すべきなのかな。クリステアは、誰に何を言われたの?」
……あ、お兄様かなり怒ってる。
いつもは、ちょっとのことなら笑顔のままで怒るのに、今のお兄様には表情が無い。
こんなお兄様を見るなんて滅多にないことなので、私は動揺した。
まずい、これはまずい。
こんな状態のお兄様に金髪縦巻きロールさんことアリシアさんが暴言を吐いたってことが知れたら、アリシアさんは入学早々学園を去ることになりかねないよ⁉︎
いやでも、いくら我が家が公爵家だからといって侯爵家のお嬢さんを破滅に導くとかそんな……ないよね? ……多分。
お父様とお兄様ならやりかねないのが怖い。
「ええと……あの、その……」
何を言ってもお兄様の逆鱗に触れそうで、言い淀んでしまう私を見て、マリエルちゃんが意を決したように発言した。
「あの! ……わ、私が言ったんです。クリステア様はノーマン様と婚約できますよねって。申し訳ありません! まさか、その……クリステア様がご存知なかったとは思わなくて……」
どういうこと? 私が知らないって、何のこと?
お兄様は固まっているし、隣に座っている王太子殿下もお兄様を見てなんだか焦っているみたい。
私が頭の中を疑問符でいっぱいにして、俯くマリエルちゃんを見ていると、お兄様は困ったような顔をして頭を振った。
「いや……君のせいじゃない。対外的に秘密にしていたことではないのだから。君はクリステアが知らないとは思わなかったんだろう? これはクリステアにきちんと伝えていなかった僕たちの責任だ」
え? 何? 何なの?
私は不安な気持ちを抑えきれず、お兄様とマリエルちゃんを交互に見つめた。
お兄様は一瞬だけぎゅっと目を閉じてから、私を真っ直ぐに見つめて言った。
「クリステア……僕たちは実の兄妹じゃないんだ」
「……え?」
私とお兄様が、実の兄妹じゃない⁉︎
まさか……私は、エリスフィード家の子じゃなかったの⁇ まさか、貰われっ子?
実は、橋の下で拾われた子だとかじゃないよね⁉︎
「クリステア、父上に妹がいたのを知っているよね?」
「え? ええ……確かお父様より二つ下の……でも、私が生まれる前に亡くなったと……」
「そう。その人が僕の生みの母だ」
「ええっ?」
お兄様は、お兄様じゃなくて、従兄だったの⁉︎
「僕の生みの母は、アデリア学園で自分より身分の低い子爵家の次男と恋仲になったんだ。そして、皆の反対を押し切り、駆け落ち同然で家を出た」
「……」
「しばらくは勘当に近い状態で田舎で暮らしていたそうだけど、僕が生まれたことでお祖父様たちと和解し、実の父は父上の補佐として働くとして話がまとまり、僕が二歳の時に勘当が解かれ公爵家に戻ることになったそうだ」
お兄様はそこで一旦言葉を切り、すっかりぬるくなっただろう紅茶をこくりと飲んで、そっとカップを置いた。
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「そんな……」
お兄様にそんな辛い過去があっただなんて。
「当時、エリスフィード家を継いだばかりの父上と母上は結婚していたけれど、まだ子供がいなかった。それで、僕はエリスフィード家の養子になったんだ」
お兄様はずっとカップを見つめて、こちらを見ずに話を続けた。
「引き取られてしばらくの間、僕は両親を失ったショックで誰とも口を聞かなかった。いや、言葉を発することができなくなっていたんだ。父上と母上はそんな僕にとても優しくしてくれたけれど、お祖父様とお祖母様は娘を失ったショックと、母によく似た僕がそんな状態になっているのを見るのが辛かったようで、保養地にあるエリスフィード家の別荘に移住してしまい、こちらには来なくなってしまったんだ」
確かに、お祖父様やお祖母様とはお会いしたことがないわ。お祖母様のお身体が弱いからと。何回かお手紙だけはいただいたりしたけれど……そんな理由があったのね。
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「私が……」
私は貰われっ子ではなく、お父様とお母様の実の子だったのね。
お兄様はお父様に似ているから、てっきり私が? ……と思ったけれど、お兄様は叔母様の子で、私の従兄だったんだ。
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「僕は怖かった。二人の子が生まれたら、僕は愛されなくなるのではないかって。それからクリステアが生まれるまでの間、僕はすごく荒れて、父上と母上にはひどく迷惑を……いや、心配をかけたよ」
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私が思わず叫ぶように反論すると、お兄様はふふっと笑った。
「うん、そうだね。それは全くの杞憂だった。二人ともそれまでと変わりなく愛しんでくれたよ。そして君が生まれた時、母上が僕に抱かせてくれて、あなたも一緒に、私たちがあなたを愛するようにこの子を守って愛してあげてね、と言ってくれたんだ。僕はその時、一生この子を、クリステアを守ろうって決めたんだ」
「お兄様……」
私を真っ直ぐに見つめるお兄様の真剣な表情に、思わず見惚れてしまった。
「でもその後大変だったんだよ? クリステアの魔力が膨大だったことが判明して、癇癪を起こす度に部屋が大変なことになるし。僕は君を守る前に、自分の身を守る術を身につける必要に迫られたからね」
お兄様はそう言って、戯けたようにウインクした。
「もう……お兄様ったら、ひどいわ!」
私が不貞腐れたように言うと、真剣な顔で聞いていた皆が表情を和らげ、くすくすと笑ったのだった。
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お兄様語り、もう少し続きます!
お待たせして申し訳ありません!
でもやっとこのエピソードが書ける~!(嬉)
2/11に更新されたコミカライズ版とちょっぴりリンクさせておりますので、お楽しみいただければ幸いです!
そして、コミカライズ版「転生令嬢は庶民の味に飢えている」二巻が三月下旬に発売予定です!(そのため、来月は刊行作業で休載となります。ご了承くださいませ)
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