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なんだったんだ……
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金髪縦巻きロールの御令嬢が控室から退室すると、室内はすっかり静かになった。
「……彼女、クリステア嬢の知り合い?」
私と同じく呆然としていたセイが、ポツリと質問してきた。
「いえ……初めてお会いした方だと思いますけれど……」
もしかしたら、新年の交流パーティーにいたかもしれないが、私はほら、交流する暇なんて無かったから……
「初対面なのに、負けないって啖呵切られるのは、ドリスタン王国ではよくあることなの? ……そういう文化なのかな?」
「そ、それはさすがにないかと……」
……多分。
え……そうだよね? そんな文化なんて聞いたことない。
私が誰なのか確認しておきながら、自らは名乗らず戦線布告していくだなんて、普通に考えてもマナー違反だと思うよ?
「うーん、それじゃあ昨日の入学式で目立ったから……かな?」
「えぇ……?」
そんなことでいちいちライバル視されて喧嘩売られてたら私の学園生活、平穏無事に過ごすとか無理じゃないの……?
「……これからここでやっていけるのか不安になってきた」
「ええと……頑張って? お……いや僕も力になるし」
「ありがとう……」
どう頑張ればいいのか私にもわからないけどね。
「百十二番、こちらへ」
「はい」
私たちの順番がやってきて、まずはセイが呼ばれた。
緊張した様子のセイを見送りながら、私は落ち着かない気持ちで自分の番を待った。
「百十三番、こちらへ」
私の番号を呼ばれ、すっくと立ち上がればちょうどセイが奥の部屋から出てきたところだった。
「また後で」
「ええ」
セイが控室から出て行くのと同じタイミングで、私は奥の部屋へと進んだ。
「百十三番のええと……」
「クリステア・エリスフィードです」
「はい、それじゃここに手を当てて、魔力を込めるように」
係員の示したテーブルに置かれた金属の板には魔法陣が描かれており、その外周を取り巻くように魔石が配置されていた。
テーブルの向こう側には、記録担当らしき係員が筆記具片手に座って待機している。
へえぇ……昔、マーレン師が検査したとものとは違う魔導具なのね。あれは小型だったし、簡易的な測定器だったのかな?
あ、マーレン師は魔導具の製作もするから、あれはオリジナル品だったのかも……?
私はそんなことを考えながら、係員に言われるままに魔法陣の中央に恐る恐る手を置き、魔力を流した。
「わ……」
手元から魔法陣が広がるように光っていき、魔石のいくつかが光った。
そこまで確認したのだけど、魔法陣がカッと光り輝き、あまりの眩しさに目を閉じてしまった。
「そ、そこまで! 君、手を……手を離して!」
「えっ?」
係員に声をかけられて、咄嗟に魔法陣から手を離した。するとすぐに眩しさを感じなくなったので、そうっと目を開けた。
魔法陣を見ると、もう光ってはいなかった。
もう、終わりなのかしら?
「これは……」
「ええ、これはちょっと……」
係員たちがボソボソと何か話している。
「あの……?」
「あっ、ちょ、ちょっと待っててくれるかな? 魔導具の調子が悪いみたいだ。すぐに予備を持ってくるから」
係員の一人が早足で部屋を出てしばらくするとすぐに同じ魔導具を持って戻ってきた。
係員は素早くテーブルに置いてあった魔導具とそれを差し替えた。
「待たせたね。じゃあ、もう一度やろうか」
私は係員の指示に従い、もう一度同じように手を置いた。
魔導具は先程と同様に光り輝き、眩しさに目を閉じて合図を待った。
「も……もういい! 君、終了だ!」
「は、はい!」
係員の言葉に咄嗟に手を離して目を開けた。
……初めの時と特に変わらないように感じたけど……何が壊れてたんだろう?
係員を見ると、二人とも真剣な表情で何やら話し合っている。
「先程の魔導具と結果は変わらなかったのでどうやら故障してはいないらしい。しかし、この結果は……」
「ええ、成人の魔力量を超えてます」
……なるほど。魔力量が異常値だったから故障してると思われたってことね。
すみません。私、魔力お化けらしいので多分間違いじゃないです……
「属性も多いし、かなりの練度のようだ」
ええ、料理のために色々頑張りました。
係員の困惑は今までお父様や大人たちの反応を見ているからよくわかる。
なんか、すみませんとしか言えない……
「……そういえば、エリスフィード……公爵家か! ということは、噂の……」
えっ? 噂って何⁉︎ まだ悪評が消えてないの?
「ああ! 昨日入学式で紹介されたっていう……なるほどな」
あ、聖獣契約のほうね。ほっ。
しかし、一体どんな噂が広まっているのやら……
「ええと、待たせてすまないね。特に故障でなはかったようだ。席に戻っていいよ」
「え、あの、結果は……」
金髪縦巻きロールさんは結果が納得いかない様子だったけど。
「筆記試験の結果と一緒に渡すことになっている。大体の結果は魔導具の光り方でわかっただろう?」
え、わかりませんけど。
普通ならあれで大体わかるってこと?
「時間が押しているから早く席に戻りなさい」
「は、はい」
私はそれ以上追求できず、試験後に結果がわかるのならそれを見るまで我慢しようと諦めて部屋を出た。
席に戻ると、セイが心配そうにこちらを見た。
「遅かったね。何かあった?」
「ええ、ちょっとね……」
魔導具が壊れたと疑いをかけられる結果を出しました、なんてここではちょっと説明しづらい。
しばらく待っていると全員の魔力検査が終わったらしく、前方の席から筆記試験の用紙が配られ始めた。
私たちは急いで筆記用具の準備をして試験開始の合図を待った。
ざわざわとした空気が徐々に静まっていき、壇上に試験官の先生が立つ頃にはシーンと静まりかえっていた。
「合図を聞いてから用紙を捲るように。不正行為を発見したら、直ちに退出させるのでそのつもりで。それでは、試験開始」
合図と同時にバッと用紙を捲る音が響き、カリカリと回答を書く音に変わった。
うわぁ、懐かしい。前世の学生時代に戻ったみたい。
まあ、試験内容は小学生低学年のソレだけど……
私はさっさと終わらせてしまおうと、試験に集中したのだった。
「そこまで。筆記具を置いて係員が回収するまで回答用紙に触れないように」
試験官の終了の合図を聞いて、皆がペンを置いていった。
はあ、やっと終わったよ。
暇だから見直しを三回したけどそれでも時間が余ったもんなぁ……
淑女たるもの机に突っ伏して寝るわけにもいかない。
仕方なく回答用紙を伏せ、姿勢を正して行儀よく待っているしかなかったので、ある意味苦行だった。
途中から今夜の夕食の献立から朝食の仕込みまで段取りを考えてたのでそれからはあっという間だったけどね。
「試験結果は後日発表する。それまでは全員同じ講座を受けることになるのでそのつもりで。今日はこれで終了するので寮に戻り食事を摂りなさい。午後からは授業がある上級生がいるので、君たちは構内をうろついて邪魔をしないように。以上、解散」
試験官の説明後、生徒たちは席を立ち、それぞれ友人たちと連れ立って講堂を出ていった。
私とセイは混雑を避けるためそのまま席についていると、背後から人の流れに逆らってやってくる人物がいた。
「クリステア様!」
「マリエルさん! お久しぶりね」
同じ学園にいるというのに、寮が違うせいでなかなか会えないのって、本当に不便だわ。
「本当ですよぉ! ……あ、セ、セイ様もお久しぶりです!」
「やあ、マリエル嬢」
マリエルちゃんはセイ相手だと、まだ打ち解けていないみたいね。
「あの、クリステア様に色々お話したいことがあって……今日お時間取れませんか?」
ん? なにやら深刻そうな様子……いやいや、マリエルちゃんのことだから「備蓄が尽きましたああぁ!」って泣きついてきたりとかそんなのかもしれないわ、うん。
仕方ないなぁ……ああ、でも今日はお兄様たちと約束があるんだった。
「あの、今日は先約があって……」
「ちょっと、通行の邪魔よ! 退いてくださる?」
鋭い声に目を向けると、例の金髪縦巻きロールさんがこちらを睨んでいた。
「あっ、す、すみません……」
マリエルちゃんが通路を塞ぐ形で立っていたので、慌てて飛び退いた。
「ふん!」
金髪縦巻きロールさんは、マリエルちゃんではなく私を睨んでから、ツンと顔を背けて出入り口へ向かっていった。
本当にあの子、なんなんだろう……私、何もしてないよねぇ?
「あの、お話したいのは彼女のこともでして……」
マリエルちゃんが小声で私に言った。
「え?」
マリエルちゃんは何か知ってそうね。話を聞きたいけど、お兄様たちが先約だし……
「何か揉めていたみたいだけど、大丈夫だった?」
「お兄様! それに、殿下まで!」
「ノ、ノノノーマン様にレイモンド王太子殿下⁉︎」
いつの間にかお兄様が私たちの近くに立っていた。出入り口近くで「キャー!」と黄色い声が聞こえる。
出入り口を見ると、係員がうるさそうに生徒たちを誘導して退出させているところだった。
「お兄様、どうなさったのですか?」
「ああ、今日は僕たち午後の授業はないんだ。試験の後、校内を案内するって言っただろう?」
いや、だからって試験会場までお迎えに来なくてもいいんですよ⁇
「あ、そうなのですか……じゃあクリステア様、お話はまた後日に」
私はそそくさと出て行こうとするマリエルちゃんの腕をガシッと掴んで止めた。
「お兄様、マリエルさんも一緒でもいいですわよね?」
「ええぇ⁉︎」
「ああ、別に構わないよ。今日はサロン棟で昼食にしよう。部屋を予約してあるから」
「サロン棟?」
……て、食堂がある棟だよね?
「サロン棟の上階は個人的なお茶会を開けるように専用の個室があるんだよ。貴族用の部屋を予約しておいたから、そこを使って昼食にしようと思ってね」
お兄様の説明にそういえばそんなところがあったなと思い出した。
「俺の部屋なら年間契約してあるから、そこを使おうって言ったんだけどな」
レイ殿下は不満げに言うけれど、年間契約してるっていうその部屋は、もしかしなくても王族専用の個室ですよね?
そんなVIPなお部屋は食事しづらいから結構です!
「いえ、私も今後使うことになると思いますから普通のお部屋でお願いします!」
「うん。そう思って説明がてら予約したんだ。さ、行こう。セイとマリエル嬢も一緒にね」
さすがお兄様、そつないわぁ。
「はい」
「は、ははははいぃ! お言葉に甘えてお邪魔します!」
こうして私たちはお兄様に連れられてサロン棟へ向かったのだった。
「……彼女、クリステア嬢の知り合い?」
私と同じく呆然としていたセイが、ポツリと質問してきた。
「いえ……初めてお会いした方だと思いますけれど……」
もしかしたら、新年の交流パーティーにいたかもしれないが、私はほら、交流する暇なんて無かったから……
「初対面なのに、負けないって啖呵切られるのは、ドリスタン王国ではよくあることなの? ……そういう文化なのかな?」
「そ、それはさすがにないかと……」
……多分。
え……そうだよね? そんな文化なんて聞いたことない。
私が誰なのか確認しておきながら、自らは名乗らず戦線布告していくだなんて、普通に考えてもマナー違反だと思うよ?
「うーん、それじゃあ昨日の入学式で目立ったから……かな?」
「えぇ……?」
そんなことでいちいちライバル視されて喧嘩売られてたら私の学園生活、平穏無事に過ごすとか無理じゃないの……?
「……これからここでやっていけるのか不安になってきた」
「ええと……頑張って? お……いや僕も力になるし」
「ありがとう……」
どう頑張ればいいのか私にもわからないけどね。
「百十二番、こちらへ」
「はい」
私たちの順番がやってきて、まずはセイが呼ばれた。
緊張した様子のセイを見送りながら、私は落ち着かない気持ちで自分の番を待った。
「百十三番、こちらへ」
私の番号を呼ばれ、すっくと立ち上がればちょうどセイが奥の部屋から出てきたところだった。
「また後で」
「ええ」
セイが控室から出て行くのと同じタイミングで、私は奥の部屋へと進んだ。
「百十三番のええと……」
「クリステア・エリスフィードです」
「はい、それじゃここに手を当てて、魔力を込めるように」
係員の示したテーブルに置かれた金属の板には魔法陣が描かれており、その外周を取り巻くように魔石が配置されていた。
テーブルの向こう側には、記録担当らしき係員が筆記具片手に座って待機している。
へえぇ……昔、マーレン師が検査したとものとは違う魔導具なのね。あれは小型だったし、簡易的な測定器だったのかな?
あ、マーレン師は魔導具の製作もするから、あれはオリジナル品だったのかも……?
私はそんなことを考えながら、係員に言われるままに魔法陣の中央に恐る恐る手を置き、魔力を流した。
「わ……」
手元から魔法陣が広がるように光っていき、魔石のいくつかが光った。
そこまで確認したのだけど、魔法陣がカッと光り輝き、あまりの眩しさに目を閉じてしまった。
「そ、そこまで! 君、手を……手を離して!」
「えっ?」
係員に声をかけられて、咄嗟に魔法陣から手を離した。するとすぐに眩しさを感じなくなったので、そうっと目を開けた。
魔法陣を見ると、もう光ってはいなかった。
もう、終わりなのかしら?
「これは……」
「ええ、これはちょっと……」
係員たちがボソボソと何か話している。
「あの……?」
「あっ、ちょ、ちょっと待っててくれるかな? 魔導具の調子が悪いみたいだ。すぐに予備を持ってくるから」
係員の一人が早足で部屋を出てしばらくするとすぐに同じ魔導具を持って戻ってきた。
係員は素早くテーブルに置いてあった魔導具とそれを差し替えた。
「待たせたね。じゃあ、もう一度やろうか」
私は係員の指示に従い、もう一度同じように手を置いた。
魔導具は先程と同様に光り輝き、眩しさに目を閉じて合図を待った。
「も……もういい! 君、終了だ!」
「は、はい!」
係員の言葉に咄嗟に手を離して目を開けた。
……初めの時と特に変わらないように感じたけど……何が壊れてたんだろう?
係員を見ると、二人とも真剣な表情で何やら話し合っている。
「先程の魔導具と結果は変わらなかったのでどうやら故障してはいないらしい。しかし、この結果は……」
「ええ、成人の魔力量を超えてます」
……なるほど。魔力量が異常値だったから故障してると思われたってことね。
すみません。私、魔力お化けらしいので多分間違いじゃないです……
「属性も多いし、かなりの練度のようだ」
ええ、料理のために色々頑張りました。
係員の困惑は今までお父様や大人たちの反応を見ているからよくわかる。
なんか、すみませんとしか言えない……
「……そういえば、エリスフィード……公爵家か! ということは、噂の……」
えっ? 噂って何⁉︎ まだ悪評が消えてないの?
「ああ! 昨日入学式で紹介されたっていう……なるほどな」
あ、聖獣契約のほうね。ほっ。
しかし、一体どんな噂が広まっているのやら……
「ええと、待たせてすまないね。特に故障でなはかったようだ。席に戻っていいよ」
「え、あの、結果は……」
金髪縦巻きロールさんは結果が納得いかない様子だったけど。
「筆記試験の結果と一緒に渡すことになっている。大体の結果は魔導具の光り方でわかっただろう?」
え、わかりませんけど。
普通ならあれで大体わかるってこと?
「時間が押しているから早く席に戻りなさい」
「は、はい」
私はそれ以上追求できず、試験後に結果がわかるのならそれを見るまで我慢しようと諦めて部屋を出た。
席に戻ると、セイが心配そうにこちらを見た。
「遅かったね。何かあった?」
「ええ、ちょっとね……」
魔導具が壊れたと疑いをかけられる結果を出しました、なんてここではちょっと説明しづらい。
しばらく待っていると全員の魔力検査が終わったらしく、前方の席から筆記試験の用紙が配られ始めた。
私たちは急いで筆記用具の準備をして試験開始の合図を待った。
ざわざわとした空気が徐々に静まっていき、壇上に試験官の先生が立つ頃にはシーンと静まりかえっていた。
「合図を聞いてから用紙を捲るように。不正行為を発見したら、直ちに退出させるのでそのつもりで。それでは、試験開始」
合図と同時にバッと用紙を捲る音が響き、カリカリと回答を書く音に変わった。
うわぁ、懐かしい。前世の学生時代に戻ったみたい。
まあ、試験内容は小学生低学年のソレだけど……
私はさっさと終わらせてしまおうと、試験に集中したのだった。
「そこまで。筆記具を置いて係員が回収するまで回答用紙に触れないように」
試験官の終了の合図を聞いて、皆がペンを置いていった。
はあ、やっと終わったよ。
暇だから見直しを三回したけどそれでも時間が余ったもんなぁ……
淑女たるもの机に突っ伏して寝るわけにもいかない。
仕方なく回答用紙を伏せ、姿勢を正して行儀よく待っているしかなかったので、ある意味苦行だった。
途中から今夜の夕食の献立から朝食の仕込みまで段取りを考えてたのでそれからはあっという間だったけどね。
「試験結果は後日発表する。それまでは全員同じ講座を受けることになるのでそのつもりで。今日はこれで終了するので寮に戻り食事を摂りなさい。午後からは授業がある上級生がいるので、君たちは構内をうろついて邪魔をしないように。以上、解散」
試験官の説明後、生徒たちは席を立ち、それぞれ友人たちと連れ立って講堂を出ていった。
私とセイは混雑を避けるためそのまま席についていると、背後から人の流れに逆らってやってくる人物がいた。
「クリステア様!」
「マリエルさん! お久しぶりね」
同じ学園にいるというのに、寮が違うせいでなかなか会えないのって、本当に不便だわ。
「本当ですよぉ! ……あ、セ、セイ様もお久しぶりです!」
「やあ、マリエル嬢」
マリエルちゃんはセイ相手だと、まだ打ち解けていないみたいね。
「あの、クリステア様に色々お話したいことがあって……今日お時間取れませんか?」
ん? なにやら深刻そうな様子……いやいや、マリエルちゃんのことだから「備蓄が尽きましたああぁ!」って泣きついてきたりとかそんなのかもしれないわ、うん。
仕方ないなぁ……ああ、でも今日はお兄様たちと約束があるんだった。
「あの、今日は先約があって……」
「ちょっと、通行の邪魔よ! 退いてくださる?」
鋭い声に目を向けると、例の金髪縦巻きロールさんがこちらを睨んでいた。
「あっ、す、すみません……」
マリエルちゃんが通路を塞ぐ形で立っていたので、慌てて飛び退いた。
「ふん!」
金髪縦巻きロールさんは、マリエルちゃんではなく私を睨んでから、ツンと顔を背けて出入り口へ向かっていった。
本当にあの子、なんなんだろう……私、何もしてないよねぇ?
「あの、お話したいのは彼女のこともでして……」
マリエルちゃんが小声で私に言った。
「え?」
マリエルちゃんは何か知ってそうね。話を聞きたいけど、お兄様たちが先約だし……
「何か揉めていたみたいだけど、大丈夫だった?」
「お兄様! それに、殿下まで!」
「ノ、ノノノーマン様にレイモンド王太子殿下⁉︎」
いつの間にかお兄様が私たちの近くに立っていた。出入り口近くで「キャー!」と黄色い声が聞こえる。
出入り口を見ると、係員がうるさそうに生徒たちを誘導して退出させているところだった。
「お兄様、どうなさったのですか?」
「ああ、今日は僕たち午後の授業はないんだ。試験の後、校内を案内するって言っただろう?」
いや、だからって試験会場までお迎えに来なくてもいいんですよ⁇
「あ、そうなのですか……じゃあクリステア様、お話はまた後日に」
私はそそくさと出て行こうとするマリエルちゃんの腕をガシッと掴んで止めた。
「お兄様、マリエルさんも一緒でもいいですわよね?」
「ええぇ⁉︎」
「ああ、別に構わないよ。今日はサロン棟で昼食にしよう。部屋を予約してあるから」
「サロン棟?」
……て、食堂がある棟だよね?
「サロン棟の上階は個人的なお茶会を開けるように専用の個室があるんだよ。貴族用の部屋を予約しておいたから、そこを使って昼食にしようと思ってね」
お兄様の説明にそういえばそんなところがあったなと思い出した。
「俺の部屋なら年間契約してあるから、そこを使おうって言ったんだけどな」
レイ殿下は不満げに言うけれど、年間契約してるっていうその部屋は、もしかしなくても王族専用の個室ですよね?
そんなVIPなお部屋は食事しづらいから結構です!
「いえ、私も今後使うことになると思いますから普通のお部屋でお願いします!」
「うん。そう思って説明がてら予約したんだ。さ、行こう。セイとマリエル嬢も一緒にね」
さすがお兄様、そつないわぁ。
「はい」
「は、ははははいぃ! お言葉に甘えてお邪魔します!」
こうして私たちはお兄様に連れられてサロン棟へ向かったのだった。
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