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お迎え
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談話室に入ると、すでにセイが支度を終えて待機していた。
セイは男子の制服をきっちりと着込み、髪は組み紐で後ろに一つにまとめていた。
シックな紺色ベースの配色の、光沢感が美しい組み紐はセイによく似合っていた。
「セイの制服は標準のままなのね」
生地は良いものを使っているようだけれど、仕様は平民のそれと変わらないようだった。
「ああ、別に服にこだわりはないからな。クリステア嬢はその……似合ってる」
セイは少し顔を赤らめて言った。
このくらいの年頃の男の子って女の子を褒めるのは照れちゃうよねぇ。うんうん。
それでも頑張って褒めてくれるのだから、セイは入学してから女の子にモテちゃうかもね。
おセイちゃんの時はきれいなお着物姿だったからてっきりおしゃれさんなのかと思っていたけれど、着物に関しては朱雀様のこだわりが強かったみたいで、セイ自身は服装に頓着しないタイプみたい。もったいない。
「ありがとう。私としてはもっと控えめでもいいと思うのだけど……家格的にそれなりの格好をしなくてはいけないのですって。面倒よね」
「あら! クリステア様は可愛らしいのですから、それでも控えめだと思いますわ! まあまあ! なんて繊細で素敵なレースなのかしら。あらこの刺繍も素晴らしいですわね……!」
朱雀様がすかさず近寄ってきて、レースや刺繍をしっかりチェックし始めた。
「あはは……」
「ニール先生はかなり前に出かけたよ。そろそろ俺たちの迎えがくる頃だと思う」
「そう……どんな方が迎えにいらっしゃるのかしら」
学園の職員かな? 怖い人じゃないといいなぁ。
「……主、迎えが来たようだ」
黒銀が気配を察知して談話室の扉に視線を向けた。
「私、見てまいります」
ミリアがサッと玄関ホールに向かうのを見送りながら、いよいよだと気合が入った。
程なくして扉が開き、ミリアが中に入ってきて大きく扉を開いた。
続いて入ってきたのは……
「やあ、クリステア。迎えにきたよ。入学おめでとう」
「お兄様⁉︎」
笑顔のお兄様だった。
「クリステアの迎えは僕が適任だろうって学園長が仰ったんだ。殿下も一緒に行きたそうにしていたけれど、殿下は入学式の指揮をとらなくてはいけないからね。先に会場に向かっていただいたよ」
よ、よかったー! お兄様がついていてくださるのなら安心だわぁ。
それに、特別寮に他寮の生徒の出入り禁止になってから連絡も取れなかったから……ちょっと心細かったのよね。
「ニール先生がおっしゃっていた迎えとはお兄様のことだったのですね。詳しく聞かされていなかったものですがら驚きましたわ」
「ああ、それは……僕が内緒にしてもらっていたんだ。クリステアを驚かせようと思ってね」
お兄様がいたずらが成功したとばかりに微笑んだ。
「もう! お兄様ったら……確かに驚きましたけど、安心いたしました。知らない方だったらどうしようと思っていたのですもの」
「はは、クリステアは人見知りだからね。でも学園生活を送るには人見知りは治さないといけないよ」
……自分では人見知りじゃないと思ってるけど……新年のパーティーではなぜか遠巻きにされたし、王宮内で迷子になったりで他の子と仲良くなる暇がなかっただけだし。
マリエルちゃんと仲良くなってからは他に友人を作ろうと積極的にならなかったこともあって、お兄様から人見知り認定されちゃったのかしらね。
「はい。学園ではたくさん友人ができるとよいのですが……でも、マリエルさんとセイ様がお友達になってくださったから寂しくありませんわ」
私がそう言うと、お兄様はやっとセイに目を向けた。
「やあ、セイ君。君も入学おめでとう。君もこれから学園でたくさん友人を作るといい」
「……ありがとうございます、エリスフィード先輩。後輩になるのですから、僕のことはセイと呼び捨てで構いません。ええ、クリステア嬢とも同じ寮のよしみで親しくさせていただいています」
「……そう。ああ、僕のことはノーマンと呼んでくれて構わないよ。他に友人ができなかったり、困ったことがあれば僕を頼るといい」
「そうさせていただきます、ノーマン先輩」
……な、何かしら。なんだか二人の間で火花が散っているように見えたけど……気のせいよね?
「さあ、遅れるといけない。馬車を用意させているから急ごう」
お兄様が優雅に手を差し伸べたので、私は手を合わせてお兄様とともに玄関に向かい、セイは無言で私たちに続いた。
「あの、お兄様。黒銀や真白は……」
「ひとまずここで留守番だね。何かあっても彼らは転移で来れるだろう? 今日は契約者の発表だけで大騒ぎになるだろうから彼らの紹介は様子を見てからということになっているんだ」
「そうですか……」
「待て。我らに関することなのに主を矢面に立たせるのは如何なものかと思うが?」
「おれたちはくりすてあのけいやくじゅうなんだから、いっしょにいるのが、ほんらいあるべきすがた」
諦めきれない二人が食い下がる。
まあね、どうせ契約者だって発表されるならまとめてしちゃえばいいのにって私も思うよ。
でもどっちの姿で? と思うと迷いが生じる。
本当なら聖獣姿の二人を紹介すべきだけど、いきなり講堂内に聖獣とはいえ獣の姿で現れたらパニックになるかもしれないし。
そうかといって、人型の姿ならいいかというとそうでもない。
聖獣や高位の魔獣が人型になれるってことは、一部の人を除いてあまり知られていないことみたいだから……
代々国王陛下と契約しているレオン様だって人型になれるけれど、おおっぴらにしていないようで、私も初めてお会いした時に知ってびっくりしたものね。
黒銀や真白と契約している私ですら驚いたのだから、その事実を知らない人が真白たちを見たらパニックになるかもしれないわね。
人の姿をした聖獣や魔獣が人の暮らしの中に紛れている可能性だって考えられるわけだから。
「まあいいじゃねぇか、黒銀。俺らとしちゃ人前にはあーんま出たくねぇからな。大人しく留守番しとくさ」
白虎様が黒銀の肩に手を回し、ガッチリホールドした。
「むっ! おぬし何をする⁉︎ 離さんか!」
「まあまあ、お二人とも。主の晴れ姿を拝見できないのは残念ですけれど、ここは学園。人の子が治める場ですもの。彼らの決め事に一応は従いましょう?」
朱雀様が婉然と微笑みながら、真白の肩に手を置いた。
一応って、どういうことですか⁉︎ 場合によっては従わないよ? って暗に言ってません⁉︎
「……そうしていただけるとこちらとしても助かります。さ、行こうクリステア。……セイも」
「え、ええ……真白、黒銀。何かあったら呼ぶから。お留守番お願いね?」
憤懣遣る方無い様子の二人と、貼り付けたような笑顔の二人を残して、私たちは馬車に乗り込んだ。
うう、不安しかないよぅ……
---------------------------
12月10日(木)はコミカライズ版「転生令嬢は庶民の味に飢えている」の更新日です!
今回はモフモフ好きさんには見逃せない回ですのでチェックをお忘れなく!
そしてさらに! その頃に文庫版「転生令嬢は庶民の味に飢えている」二巻が発売予定です!
文庫版には書き下ろし番外編が収録されておりまして、一巻はミリア視点のお話でしたが、
二巻の今回はオネエロフなギルドマスター、ティリエさん視点のお話になっております。
よろしければお読みくださいね!
更新や文庫の発売については、当日Twitterでもお知らせ予定です。
よろしくお願いいたします!
セイは男子の制服をきっちりと着込み、髪は組み紐で後ろに一つにまとめていた。
シックな紺色ベースの配色の、光沢感が美しい組み紐はセイによく似合っていた。
「セイの制服は標準のままなのね」
生地は良いものを使っているようだけれど、仕様は平民のそれと変わらないようだった。
「ああ、別に服にこだわりはないからな。クリステア嬢はその……似合ってる」
セイは少し顔を赤らめて言った。
このくらいの年頃の男の子って女の子を褒めるのは照れちゃうよねぇ。うんうん。
それでも頑張って褒めてくれるのだから、セイは入学してから女の子にモテちゃうかもね。
おセイちゃんの時はきれいなお着物姿だったからてっきりおしゃれさんなのかと思っていたけれど、着物に関しては朱雀様のこだわりが強かったみたいで、セイ自身は服装に頓着しないタイプみたい。もったいない。
「ありがとう。私としてはもっと控えめでもいいと思うのだけど……家格的にそれなりの格好をしなくてはいけないのですって。面倒よね」
「あら! クリステア様は可愛らしいのですから、それでも控えめだと思いますわ! まあまあ! なんて繊細で素敵なレースなのかしら。あらこの刺繍も素晴らしいですわね……!」
朱雀様がすかさず近寄ってきて、レースや刺繍をしっかりチェックし始めた。
「あはは……」
「ニール先生はかなり前に出かけたよ。そろそろ俺たちの迎えがくる頃だと思う」
「そう……どんな方が迎えにいらっしゃるのかしら」
学園の職員かな? 怖い人じゃないといいなぁ。
「……主、迎えが来たようだ」
黒銀が気配を察知して談話室の扉に視線を向けた。
「私、見てまいります」
ミリアがサッと玄関ホールに向かうのを見送りながら、いよいよだと気合が入った。
程なくして扉が開き、ミリアが中に入ってきて大きく扉を開いた。
続いて入ってきたのは……
「やあ、クリステア。迎えにきたよ。入学おめでとう」
「お兄様⁉︎」
笑顔のお兄様だった。
「クリステアの迎えは僕が適任だろうって学園長が仰ったんだ。殿下も一緒に行きたそうにしていたけれど、殿下は入学式の指揮をとらなくてはいけないからね。先に会場に向かっていただいたよ」
よ、よかったー! お兄様がついていてくださるのなら安心だわぁ。
それに、特別寮に他寮の生徒の出入り禁止になってから連絡も取れなかったから……ちょっと心細かったのよね。
「ニール先生がおっしゃっていた迎えとはお兄様のことだったのですね。詳しく聞かされていなかったものですがら驚きましたわ」
「ああ、それは……僕が内緒にしてもらっていたんだ。クリステアを驚かせようと思ってね」
お兄様がいたずらが成功したとばかりに微笑んだ。
「もう! お兄様ったら……確かに驚きましたけど、安心いたしました。知らない方だったらどうしようと思っていたのですもの」
「はは、クリステアは人見知りだからね。でも学園生活を送るには人見知りは治さないといけないよ」
……自分では人見知りじゃないと思ってるけど……新年のパーティーではなぜか遠巻きにされたし、王宮内で迷子になったりで他の子と仲良くなる暇がなかっただけだし。
マリエルちゃんと仲良くなってからは他に友人を作ろうと積極的にならなかったこともあって、お兄様から人見知り認定されちゃったのかしらね。
「はい。学園ではたくさん友人ができるとよいのですが……でも、マリエルさんとセイ様がお友達になってくださったから寂しくありませんわ」
私がそう言うと、お兄様はやっとセイに目を向けた。
「やあ、セイ君。君も入学おめでとう。君もこれから学園でたくさん友人を作るといい」
「……ありがとうございます、エリスフィード先輩。後輩になるのですから、僕のことはセイと呼び捨てで構いません。ええ、クリステア嬢とも同じ寮のよしみで親しくさせていただいています」
「……そう。ああ、僕のことはノーマンと呼んでくれて構わないよ。他に友人ができなかったり、困ったことがあれば僕を頼るといい」
「そうさせていただきます、ノーマン先輩」
……な、何かしら。なんだか二人の間で火花が散っているように見えたけど……気のせいよね?
「さあ、遅れるといけない。馬車を用意させているから急ごう」
お兄様が優雅に手を差し伸べたので、私は手を合わせてお兄様とともに玄関に向かい、セイは無言で私たちに続いた。
「あの、お兄様。黒銀や真白は……」
「ひとまずここで留守番だね。何かあっても彼らは転移で来れるだろう? 今日は契約者の発表だけで大騒ぎになるだろうから彼らの紹介は様子を見てからということになっているんだ」
「そうですか……」
「待て。我らに関することなのに主を矢面に立たせるのは如何なものかと思うが?」
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まあね、どうせ契約者だって発表されるならまとめてしちゃえばいいのにって私も思うよ。
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本当なら聖獣姿の二人を紹介すべきだけど、いきなり講堂内に聖獣とはいえ獣の姿で現れたらパニックになるかもしれないし。
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聖獣や高位の魔獣が人型になれるってことは、一部の人を除いてあまり知られていないことみたいだから……
代々国王陛下と契約しているレオン様だって人型になれるけれど、おおっぴらにしていないようで、私も初めてお会いした時に知ってびっくりしたものね。
黒銀や真白と契約している私ですら驚いたのだから、その事実を知らない人が真白たちを見たらパニックになるかもしれないわね。
人の姿をした聖獣や魔獣が人の暮らしの中に紛れている可能性だって考えられるわけだから。
「まあいいじゃねぇか、黒銀。俺らとしちゃ人前にはあーんま出たくねぇからな。大人しく留守番しとくさ」
白虎様が黒銀の肩に手を回し、ガッチリホールドした。
「むっ! おぬし何をする⁉︎ 離さんか!」
「まあまあ、お二人とも。主の晴れ姿を拝見できないのは残念ですけれど、ここは学園。人の子が治める場ですもの。彼らの決め事に一応は従いましょう?」
朱雀様が婉然と微笑みながら、真白の肩に手を置いた。
一応って、どういうことですか⁉︎ 場合によっては従わないよ? って暗に言ってません⁉︎
「……そうしていただけるとこちらとしても助かります。さ、行こうクリステア。……セイも」
「え、ええ……真白、黒銀。何かあったら呼ぶから。お留守番お願いね?」
憤懣遣る方無い様子の二人と、貼り付けたような笑顔の二人を残して、私たちは馬車に乗り込んだ。
うう、不安しかないよぅ……
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12月10日(木)はコミカライズ版「転生令嬢は庶民の味に飢えている」の更新日です!
今回はモフモフ好きさんには見逃せない回ですのでチェックをお忘れなく!
そしてさらに! その頃に文庫版「転生令嬢は庶民の味に飢えている」二巻が発売予定です!
文庫版には書き下ろし番外編が収録されておりまして、一巻はミリア視点のお話でしたが、
二巻の今回はオネエロフなギルドマスター、ティリエさん視点のお話になっております。
よろしければお読みくださいね!
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