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入学式の朝

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外が明るくなり始めた頃、いつも通り目が覚めた私は、日課の朝ヨガをひと通り済ませ、軽く身支度をしてから真白ましろ黒銀くろがねを伴って食堂に向かった。
輝夜かぐやも連れて行こうとしたけれど「あいつらもくるんだろ? 絶対やだね!」と言い捨てて、ベッドの下に隠れてしまった。
白虎様や朱雀様もずっとこの寮にいるんだから、いつまでもこの部屋に引きこもっているわけにはいかないし、覚悟を決めたらいいのに……
まあ、朱雀様に捕まったが最期、着せ替え人形にされるのが目に見えているから余計に嫌なんだろうけど。気持ちはわからないでもない。
「おはようございます」
食堂ではミリアがテキパキと働いていた。
朝は私がマイペースに動きたいこともあり、他のことをしてもらっている。
私より早く起きているミリアは、手早く自室を整えてから先に食堂でテーブルセッティングなどをしてくれているのだ。
「おはようミリア。さてと、今朝の朝食は何にしようかしら」
食材のストックを確認しながらメニューを考える。
うーむ、パンがあるからこれを使っちゃいたいけど、またフレンチトーストというのもなぁ……
あ、あれがいいかもしれない。
黒銀くろがね、パンをこのくらいの厚さでスライスしてくれるかしら」
「心得た」
真白ましろはこの卵を割ってミルクと混ぜ合わせてくれる?」
「うん!」
二人に仕事を任せてから、私はベーコン、茹でてストックしておいたほうれん草、きのこなどの野菜をインベントリから取り出し、適当な大きさにカットしてから炒め合わせた。
「主、このくらいあれば大丈夫か?」
黒銀くろがねがスライスしたパンを持ってきた。
「ええ、ありがとう。じゃあ、これをフライパンに敷き詰めてくれる?」
「うむ」
フライパンを数個黒銀くろがねに頼んでから、炒め合わせた具材をボウルに移す。
「くりすてあー、これでいい?」
「ありがとう、真白ましろ。じゃあこれはこれと混ぜ合わせて……と」
真白ましろにお願いしていた卵液と具材を混ぜ合わせる。
「主、できたぞ」
「ありがとう」
黒銀くろがねによって隙間なくきれいにパンが敷き詰められたフライパンを受け取り、そこに卵液を流し入れた。
「後は、薄くスライスしたチーズを乗せて……と」
準備が終わったフライパンに蓋をして、魔導コンロにかけ弱火で焼いていく。
「おはよう、クリステア嬢。遅くなってすまない」
「おはよーっす」
「おはようございますわ」
朝の稽古を終えたらしいセイたちが食堂にやってきた。
「おはようございます。もう少しで焼き上がりますから」
「何か手伝うことはないか?」
「そうですね……スープを作りたいので、この野菜を食べやすいサイズに切っていただけますか?」
残り野菜を集めてセイたちに渡す。
フライパンの蓋をそっと開け、焼き加減を確認しつつ、インベントリからコンソメスープのストックを取り出して火にかける。
「こんなものだろうか?」
セイたち三人によってあっという間にカットされた野菜を受け取り、軽く炒め合わせて火を通してから鍋に入れた。
そうこうしているうちにフライパンの中身がいい頃合いになったので、各々でスープをよそってもらい、席についた。
「今朝はパンキッシュにしてみました」
そう、今朝はパンを使ってキッシュを作ってみた。
土台から作るのは面倒だし、パンを消費したかったからね。
「いただきます!」
切り分けたパンキッシュを皆が奪い合うように取り、食べ始める。
「美味い!」
「これは……カリカリに焼けたパンの部分と、ふんわりとした卵とのバランスが素晴らしいですわね。野菜やベーコンが口の中で調和して、とても美味しいですわぁ……」
「うん、これは意外と食べ応えがあるな。スープも具沢山で美味い」
よかった、これなら野菜もたくさん摂れるし、朝食メニューにぴったりよね。
「おはよぅ……うん? いい匂いだねぇ」
ニール先生がボサボサの頭で食堂に入ってきた。
今日は入学式があるからか、少し早めに起きたようで、まだ眠たそうに欠伸をしていた。
「おはようございます。スープはあちらにありますよ」
「はーい……おお、これも美味しそうだねぇ。いやぁ、クリステア嬢のおかげで食生活が充実してるよ。このままじゃ太っちゃいそうだなぁ」
ニール先生は嬉しそうにスープをよそいながら言うけれど、元々が痩せすぎの気がするから、もう少し太ってもいいと思う。
多分、研究に没頭して食べない日もあったんじゃないだろうか。
私がここにいる間はしっかり目を光らせておかないと。
「いよいよ今日は入学式だけど、遅れないように早めに出る支度をしておくようにね。僕はこの後すぐに出るから、着替えを終えたら談話室にいるようにね」
「「はい」」
ニール先生はスープとキッシュをきっちりおかわりしてから部屋に戻っていった。
皆で洗い物を済ませてから、支度のためにそれぞれの自室に戻った。

「……うん。これでいいわね」
制服に着替えた私は、姿見の前でくるりと回って確認した。
「クリステア様、大変お似合いですわ」
「うむ、よく似合っておる」
「くりすてあ、かわいい!」
「ありがとう、皆」
皆に褒められてこそばゆく感じながら、微笑んだ。
「ですが、クリステア様……まだ足りません」
「えっ?」
足りないって、何が?
「こちらを……」
そう言ってミリアが差し出したのは、レースたっぷりの付け袖や付け襟だ。
「ええ……?」
お母様を説得するために提案したとはいえ、あまり派手にはしたくない私としてはあえて視界に入れていなかったそれらをずずいっと差し出され、思わず後退りしてしまった。
「せっかく最高級のレースを使って作ったのですから、せめて入学式や式典の際はお使いください」
「う……」
「全く使われていないと奥様に知られたら、次に制服を作るときは有無を言わせず……」
「付けます」
お母様にバレたら、次に制服を作るときはゴテゴテに盛りに盛られた魔改造制服にされてしまうに違いない。そのことを思えば、入学式や他の式典限定でつけるくらいならなんてことない。
私は渋々ながら、ミリアに付け襟や付け袖を装着してもらった。
「できました。素敵ですわ」
「ありがとう」
渋々とはいえ、これはこれで可愛いのだ。
袖口から覗くたっぷりレースは、きらりと煌めく宝石があしらわれたカフスで留めてある。
付け襟は控えめにしてもらったので、襟元ももたつかない。
「うん。式典ならこういうのもいいわね」
「奥様はずっと付けていただきたいと思っていると思いますけど……」
「そうだけど、授業中は邪魔になりそうだもの」
「クリステア様はもう少し着飾ってもよいと思いますよ?」
ミリアが残念そうにため息をついているけれど、前世が地味だったこともあり、シンプルイズベストという思いが染み付いているのだから仕方ない。
これでも派手になったほうだと思うんだよね。
可愛い子を見たら着飾らせたい! とは思うけれど、自分が着飾りたいかというとそうじゃない。そういう性分なのだから諦めてほしいとしか。
とはいえ、いざ可愛い格好をしてみれば満更でもないのだから、我ながら現金なものだと思う。
「ずっとこんな恰好でいるのは肩が凝りそうだもの。たまにならいいわよ、たまにならね」
「あまりに簡素な装いばかりですと、奥様に話が伝わることもありますからね」
「う……っ、き、気をつけるわ」
そうなのよねぇ……お母様の情報網って意外と侮れないのよね。
お茶会ではいったいどんな噂をされているのかと思うと恐ろしい……
いずれはお茶会という名の情報戦に参戦しなくてはならないと思うと少し気が重いわぁ。
根が単純な私に腹芸ができるとは思えないからね。
はあ……今からそんなことで思い悩んでいても仕方ないよね、うん。
とりあえずは、今日の入学式を無事に終えないと。
ついに聖獣契約だってことが公になってしまうのだから、これからは気をつけて過ごさないといけないのだから。
「クリステア様、そろそろ談話室に移られたほうがよろしいかと」
「そうね」
私は再び姿見でチェックをしてから談話室に向かった。
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