転生令嬢は庶民の味に飢えている

柚木原みやこ(みやこ)

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不安しかない……

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結局、入学式の終盤で私たちだけが壇上に上がり「聖獣契約者の二人に変なちょっかい出さないように。じゃないと大変なことになるよ?」と全生徒に注意喚起することとなってしまった。えええ……?
私のレシピが世間に広まり、なんとか悪食令嬢の汚名を返上できたと思っていたのに、今度は聖獣契約者として大々的に知られてしまうのか……
いや、学園に入学したら聖獣契約していることはいずれバレてしまうと聞かされていたし、それは仕方ないことだと理解しているけれど、まさか入学式の壇上で公表されてしまうだなんて思いもよらないじゃない⁉︎
「はあ……入学早々それじゃ、誰も近寄ってこないだろうし、お友達なんてできっこないわ……」
自室で聖獣の姿に戻った真白ましろ黒銀くろがねをもふりながら盛大にため息をついた。
『友人なら白虎らの主、それにマリエルとやらがいるではないか』
『まりえるたちじゃだめなの?』
「そういうわけじゃないけど……学園には大勢の生徒がいるのに、友人と呼べる人がセイとマリエルちゃんだけで、それ以外の人からは遠巻きにされるだなんてさみしいでしょう? それに……」
同じ聖獣契約者のセイはともかく、マリエルちゃんが私と一緒にいたら孤立しちゃうかも知れないし、それを恐れて離れていっちゃうかもしれないじゃない。
それが怖くて仕方ない。
私は不安な気持ちを隠すために真白ましろをギュッと抱きしめ、黒銀くろがねの毛並みに顔を埋めた。
「クリステア様、恐れながらそれはないと思います」
「え?」
ミリアが珍しくきっぱりと言い切ったので、私が思わず顔を上げて彼女のほうを見た。
「聖獣契約者のクリステア様とお近づきになって、将来自分の立場を優位にしようと、これから大勢の方が押し寄せてくるでしょう。その中で、クリステア様が信頼できる方を見つけるのは困難なことでしょう。遠巻きどころか、取り巻きになろうと擦り寄る方々を遠ざけ、孤独になるかもしれません」
「そ……」
そんなわけがない、と言いそうになったけれど、ミリアの真剣な表情を見て、本当にあり得ることなのだと理解した。
確かに、聖獣契約者はこの国では取り込む代わりにと言ってはなんだけど、優遇されることが多い。
それは、高官として王宮に士官することだったり、王族や高位の貴族のもとに嫁ぐことだったりと様々だけれど。
それを思えば、聖獣契約者に取り入っておけば自分にも美味しいことがあるかもしれない、と擦り寄る輩が増えるのは想像に難くない。
「そういう意味では、セイ様やマリエル様以外に親しい友人を作るのは難しいことかもしれません」
「うう……」
悪食令嬢として遠巻きにされないですむはずが、聖獣契約者として取り入ろうとする人たちを遠ざけることになろうとは。
思いもよらぬ展開に、一気に明日の入学式に臨むのが憂鬱になってしまった。
「クリステア様にとって、これから友人作りは困難なことかもしれません。ですが、困難だからこそ、在学中にできた友人は一生の財産になるかもしれませんよ?」
私は思わず情けない顔をしていたのかもしれない。
ミリアは私の傍にひざまづき、そっと私の頭を撫でた。
ミリアが私付きの侍女として我が家にやってきてから、おっとりとしたその雰囲気のミリアを姉のように慕いベッタリだった時期があり、その時はこんな風に頭を撫でてもらうのがとても好きだった。
他の使用人に示しがつかないからきちんと使用人として接しなさい、とお母様に叱られてからは人前では甘えることはなくなったけれど、私が落ち込んでいる時にはこうして甘やかしてくれていた。
前世の記憶が戻り、聖獣契約をしてからはこういった機会はめっきり減っていた。
ミリアから見て、今の私は相当落ち込んで見えるのだろう。
ミリアにしがみついて、甘えて泣いてしまいたい気持ちになってしまったけれど、いつまでも泣いてどうにかしてもらうような子どもじゃないんだから、しっかりしなくちゃ。
「ありがとう、ミリア。大切な友人を作れるよう頑張るわ」
「不安にさせるようなことをお話して申し訳ございません。私の在学中、やはり高位の貴族の方に取り入ろうとする生徒が多く、不信感から誰も彼も遠ざけ孤独に過ごされた方や、増長して取り巻きを増やし権力を振りかざすような愚かな方もいらっしゃいました」
そうね、聖獣契約者じゃなくても格上の貴族に取り入って優位に立とうとするとか、テンプレ中のテンプレだもの。
私はそんなのいらない。悪食令嬢から悪役令嬢にシフトするだけじゃない。
「ですが、クリステア様ならきっと、素敵な友人ができるに違いありませんわ」
「ふふ、そうだといいわね」
「まずは、今のご友人であるセイ様やマリエル様を大切になさいませ。今の友人関係を蔑ろにする方に良き友人ができることはありませんからね」
「ええ、そうね。ありがとうミリア。もう大丈夫」
私がそう言うと、ミリアはにっこりと微笑み、私をキュッと抱きしめてから立ち上がった。
「紅茶が冷めてしまいましたね。淹れなおしましょう」
「あ、それなら緑茶にしてちょうだい。どら焼きを出すわ。ミリアも一緒に食べましょう?」
「まあ、ありがとうございます。それではすぐにご用意しますね」
私はミリアがミニキッチンに向かうのを見送り、ゆっくり立ち上がった。
『くりすてあ、へいき?』
「ええ、大丈夫。明日はもう入学式なんだからへこたれてなんていられないわ。頑張って友達をたくさん作るんだから!」
『主、辛い時は我らにちゃんと言うのだぞ?』
「ありがとう、黒銀くろがね。その時はちゃんと言うわね」
『うむ。主の憂いの原因は我らが疾く消し去るのでな』
『しょあくのこんげんは、てっていはいじょ!』
「ちょ、ちょっと! 物騒なことは絶対しないでよ⁉︎」
私は相変わらず極端な発言の二人に「しちゃダメなこと」を一から根気よく説明し、すっかり気満々の二人を説得するのに苦労したのだった。
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