転生令嬢は庶民の味に飢えている

柚木原みやこ(みやこ)

文字の大きさ
上 下
161 / 386
連載

入学式前日

しおりを挟む
フレンチトーストを食べ終えた私たちは、ニール先生に明日の入学式に関する説明をするからと引き止められてしまった。
仕方がないので食堂に留まり、ミリアの淹れてくれた紅茶をいただきながらニール先生が食事を終わるのを待っていた。
その間、先生が「パンがこんなに柔らかいだなんて。うわぁ……美味しい、これは美味しいよ!」とか「このスープ、澄んでいるのになぜこんなに味が複雑なんだい⁉︎」なんて言いながらあっという間に飲み干し、いそいそとお代わりをしにいくのを眺めていた。
正直、美味しいと言っていただけるのは嬉しい。だけど、いよいよ明日に迫った入学式の話をはやく聞きたいんですよ……!
現在、学生たちの好奇の目にさらされないよう特別寮に引きこもることを余儀なくされている身としては、はやく学園内のことが知りたいし、お兄様やマリエルちゃんにも気兼ねなく会えるようになりたいのだ。
二人とも、私がここにいるのを他の生徒(主に貴族)に悟られないよう、入学式までは訪問させないとミリアを通じてミセス・ドーラから連絡があったし。
お兄様がここを出入りしていたら、いまだに女子寮に入寮していない私が特別寮にいるのでは? ……てことは、私が聖獣契約者だ! と気づく人がいるかもしれない……いや、私はすでにバレているんじゃないかと思ってるんだけど。
だってほら、入寮日にお兄様と一緒の馬車で来たし、ニール先生に見つかった時だって目撃者多数だったんだから。
お兄様ならきっと周囲の詮索も難なくあしらえるだろう。だけど、マリエルちゃんはそういうわけにいかない。
マリエルちゃんは男爵令嬢だから、自分より高位の貴族や先輩に無理やり聞き出されないとも限らないものね。
寮内で入学式の前にあれこれと変な噂が広がらないようにとの配慮なのだろう。
「ふう……美味しかったよ。ごちそうさま。さあ、明日の話をしようか」
ようやく満腹になったらしいニール先生が、ミリアから紅茶を淹れてもらい、笑顔で切り出した。
「明日はいよいよ入学式だ。君たちは他の生徒たちと一緒に……と言いたいところだけど、そういうわけにもいかないからね。他の生徒とは違う席を用意したよ」
「え……それはなぜですか?」
できれば他の生徒の後ろのほうで目立たない席ならそれでもいいのだけど、なんだか嫌な予感がする。
「聖獣契約者も魔獣契約者も長いこといなかったからね。長く学園に在籍している研究生や教師ならいざ知らず、今の在学生は聖獣契約がどういうものなのか理解していない者が多いはずだ」
確かに、聖獣契約なんてそうホイホイできるもんじゃないってのは、マーレン先生やニール先生が長年あれだけ熱心に頑張ったにも拘らず、契約どころか出会うことすらできなかったことからもわかるわね。
「だから、君たちに変なちょっかいをかけて大事にならないように、式の出席者に君たちのことを紹介することになったんだ」
「「ええ⁉︎」」
ニール先生の爆弾発言に、私とセイが同時に声をあげた。
「しょ、紹介って……一体何を……?」
「ん? 壇上に上がって、君たち聖獣契約者に変なことしないようにね? って言うだけだよ?」
えええええええ⁉︎
「ちょ、ちょっとそれはいかがなものかと……」
「どうしてだい? 初めにきちんとした説明がないと、君だけじゃなく他の生徒が困ることになるだろう?」
それはそうかもしれないけど、そんな悪目立ちしたくないんですけどぉ⁉︎
「先生、僕はそのようなことで目立つのは好みません。クリステア嬢もそうじゃないかな?」
「え、ええ! そうですわ! 私は一般の生徒と同等の扱いを希望します!」
セイの発言に乗っかるように私も異を唱えた。
「そうは言ってもねぇ。変な憶測を呼ぶより、君たちが契約者だってことをはっきりさせておくほうが親切だと思うよ。僕としても学園内で生徒が死ぬのを見たくないし」
「えっ」
「魔獣契約にしろ、聖獣契約にしろ、契約者に危害を加えた者には容赦ないからねぇ。ついうっかり、なんてことがないとも限らない……ですよね?」
ニール先生が物騒なことを言いながら、白虎様や黒銀たちに視線を移した。
「……まあなぁ。俺らは契約者を護るのが使命みたいなモンだからな。軽く蹴散らせるような奴らならいいが、主人を害するようなことがあれば容赦するつもりはねぇよ?」
「そうですわねぇ。あるじに仇なす不埒者など、灰も残さず焼き尽くせば問題ありませんわよね?」
「うむ。主を傷つける者は我が八つ裂きにしてやろうぞ」
「くりすてあをいじめるやつは、すりつぶすだけ、だよ!」
あわわわわ。なんて物騒なことを⁉︎
あれだけ口を酸っぱくして人を傷つけちゃダメって言ってるでしょおぉ!
「……とは言え、俺たちがやり過ぎることで主人の立場が悪くなるのは本意じゃねぇからな。俺たちが前面に立つことで牽制になるなら見せ物になってやろうじゃねぇか」
「不本意ですけれど、仕方ありませんわね」
「……む、そうか。ならば仕方あるまい」
「くりすてあのためなら、いいよ?」
「皆……!」
怖いこと言いながらも、なんだかんだと私たちのために我慢してくれるんだから……ありがとう、皆。
「えっ? 聖獣の皆様は入学式についてこなくていいですよ? そんなことしたら大騒ぎになりそうですし」
私が感動していると、ニール先生があっけらかんと言い放った。
……は? え? 今、皆でいいこと言ってたのに⁉︎
「入学式の終盤で、聖獣契約者である彼らにちょっかい出さないようにって注意喚起するだけだからねぇ。だから、君たちだけで壇上に上がってね」
えっ、私とセイだけ? それは嫌ですけど⁉︎
「いやいやいや。俺らの話聞いてたか? せっかく出る気になったのによぉ」
「そうですわ。私たちの決意が無駄になるじゃありませんの!」
「護りもなく主だけというのは承服しかねる」
「おれは、くりすてあといっしょに、いる!」
皆が口々に不満を漏らすのを、ニール先生がタジタジになっていた。
「いやその、だってですね? これだけの聖獣様が一堂に会するなんて王宮でもないことだから、大騒ぎになるかと」
「知るか。それを押さえるのがお前らの仕事だろ?」
「ちょ、そんなこと言われても……」
ニール先生が皆に詰め寄られ、私たちに助けを求めるように懇願の目を向けている。
私とセイは顔を見合わせてため息を吐くと、ニール先生を助けるべく仲裁に向かうのだった。
しおりを挟む
感想 3,380

あなたにおすすめの小説

余命宣告を受けたので私を顧みない家族と婚約者に執着するのをやめることにしました

結城芙由奈@コミカライズ発売中
恋愛
【余命半年―未練を残さず生きようと決めた。】 私には血の繋がらない父と母に妹、そして婚約者がいる。しかしあの人達は私の存在を無視し、空気の様に扱う。唯一の希望であるはずの婚約者も愛らしい妹と恋愛関係にあった。皆に気に入られる為に努力し続けたが、誰も私を気に掛けてはくれない。そんな時、突然下された余命宣告。全てを諦めた私は穏やかな死を迎える為に、家族と婚約者に執着するのをやめる事にした―。 2021年9月26日:小説部門、HOTランキング部門1位になりました。ありがとうございます *「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています ※2023年8月 書籍化

生前SEやってた俺は異世界で…

大樹寺(だいじゅうじ) ひばごん
ファンタジー
旧タイトル 前世の職業で異世界無双~生前SEやってた俺は、異世界で天才魔道士と呼ばれています~ ※書籍化に伴い、タイトル変更しました。 書籍化情報 イラストレーター SamuraiG さん 第一巻発売日 2017/02/21 ※場所によっては2、3日のずれがあるそうです。  職業・SE(システム・エンジニア)。年齢38歳。独身。 死因、過労と不摂生による急性心不全…… そうあの日、俺は確かに会社で倒れて死んだはずだった…… なのに、気が付けば何故か中世ヨーロッパ風の異世界で文字通り第二の人生を歩んでいた。 俺は一念発起し、あくせく働く事の無い今度こそゆったりした人生を生きるのだと決意した!! 忙しさのあまり過労死してしまったおっさんの、異世界まったりライフファンタジーです。 ※2017/02/06  書籍化に伴い、該当部分(プロローグから17話まで)の掲載を取り下げました。  該当部分に関しましては、後日ダイジェストという形で再掲載を予定しています。 2017/02/07  書籍一巻該当部分のダイジェストを公開しました。 2017/03/18  「前世の職業で異世界無双~生前SEやってた俺は、異世界で天才魔道士と呼ばれています~」の原文を撤去。  新しく別ページにて管理しています。http://www.alphapolis.co.jp/content/cover/258103414/  気になる方がいましたら、作者のwebコンテンツからどうぞ。 読んで下っている方々にはご迷惑を掛けると思いますが、ご了承下さい。

「デブは出て行け!」と追放されたので、チートスキル【マイホーム】で異世界生活を満喫します。

亜綺羅もも
ファンタジー
旧題:「デブは出て行け!」と追放されたので、チートスキル【マイホーム】で異世界生活を満喫します。今更戻って来いと言われても旦那が許してくれません! いきなり異世界に召喚された江藤里奈(18)。 突然のことに戸惑っていたが、彼女と一緒に召喚された結城姫奈の顔を見て愕然とする。 里奈は姫奈にイジメられて引きこもりをしていたのだ。 そんな二人と同じく召喚された下柳勝也。 三人はメロディア国王から魔族王を倒してほしいと相談される。 だがその話し合いの最中、里奈のことをとことんまでバカにする姫奈。 とうとう周囲の人間も里奈のことをバカにし始め、極めつけには彼女のスキルが【マイホーム】という名前だったことで完全に見下されるのであった。 いたたまれなくなった里奈はその場を飛び出し、目的もなく町の外を歩く。 町の住人が近寄ってはいけないという崖があり、里奈はそこに行きついた時、不意に落下してしまう。 落下した先には邪龍ヴォイドドラゴンがおり、彼は里奈のことを助けてくれる。 そこからどうするか迷っていた里奈は、スキルである【マイホーム】を使用してみることにした。 すると【マイホーム】にはとんでもない能力が秘められていることが判明し、彼女の人生が大きく変化していくのであった。 ヴォイドドラゴンは里奈からイドというあだ名をつけられ彼女と一緒に生活をし、そして里奈の旦那となる。 姫奈は冒険に出るも、自身の力を過信しすぎて大ピンチに陥っていた。 そんなある日、現在の里奈の話を聞いた姫奈は、彼女のもとに押しかけるのであった…… これは里奈がイドとのんびり幸せに暮らしていく、そんな物語。 ※ざまぁまで時間かかります。 ファンタジー部門ランキング一位 HOTランキング 一位 総合ランキング一位 ありがとうございます!

ここは私の邸です。そろそろ出て行ってくれます?

藍川みいな
恋愛
「マリッサ、すまないが婚約は破棄させてもらう。俺は、運命の人を見つけたんだ!」 9年間婚約していた、デリオル様に婚約を破棄されました。運命の人とは、私の義妹のロクサーヌのようです。 そもそもデリオル様に好意を持っていないので、婚約破棄はかまいませんが、あなたには莫大な慰謝料を請求させていただきますし、借金の全額返済もしていただきます。それに、あなたが選んだロクサーヌは、令嬢ではありません。 幼い頃に両親を亡くした私は、8歳で侯爵になった。この国では、爵位を継いだ者には18歳まで後見人が必要で、ロクサーヌの父で私の叔父ドナルドが後見人として侯爵代理になった。 叔父は私を冷遇し、自分が侯爵のように振る舞って来ましたが、もうすぐ私は18歳。全てを返していただきます! 設定ゆるゆるの、架空の世界のお話です。

婚約破棄の後始末 ~息子よ、貴様何をしてくれってんだ! 

タヌキ汁
ファンタジー
 国一番の権勢を誇る公爵家の令嬢と政略結婚が決められていた王子。だが政略結婚を嫌がり、自分の好き相手と結婚する為に取り巻き達と共に、公爵令嬢に冤罪をかけ婚約破棄をしてしまう、それが国を揺るがすことになるとも思わずに。  これは馬鹿なことをやらかした息子を持つ父親達の嘆きの物語である。

【完結】魔物をテイムしたので忌み子と呼ばれ一族から追放された最弱テイマー~今頃、お前の力が必要だと言われても魔王の息子になったのでもう遅い~

柊彼方
ファンタジー
「一族から出ていけ!」「お前は忌み子だ! 俺たちの子じゃない!」  テイマーのエリート一族に生まれた俺は一族の中で最弱だった。  この一族は十二歳になると獣と契約を交わさないといけない。  誰にも期待されていなかった俺は自分で獣を見つけて契約を交わすことに成功した。  しかし、一族のみんなに見せるとそれは『獣』ではなく『魔物』だった。  その瞬間俺は全ての関係を失い、一族、そして村から追放され、野原に捨てられてしまう。  だが、急な展開過ぎて追いつけなくなった俺は最初は夢だと思って行動することに。 「やっと来たか勇者! …………ん、子供?」 「貴方がマオウさんですね! これからお世話になります!」  これは魔物、魔族、そして魔王と一緒に暮らし、いずれ世界最強のテイマー、冒険者として名をとどろかせる俺の物語 2月28日HOTランキング9位! 3月1日HOTランキング6位! 本当にありがとうございます!

兄がやらかしてくれました 何をやってくれてんの!?

志位斗 茂家波
ファンタジー
モッチ王国の第2王子であった僕は、将来の国王は兄になると思って、王弟となるための勉学に励んでいた。 そんなある日、兄の卒業式があり、祝うために家族の枠で出席したのだが‥‥‥婚約破棄? え、なにをやってんの兄よ!? …‥‥月に1度ぐらいでやりたくなる婚約破棄物。 今回は悪役令嬢でも、ヒロインでもない視点です。 ※ご指摘により、少々追加ですが、名前の呼び方などの決まりはゆるめです。そのあたりは稚拙な部分もあるので、どうかご理解いただけるようにお願いしマス。

子持ち主婦がメイドイビリ好きの悪役令嬢に転生して育児スキルをフル活用したら、乙女ゲームの世界が変わりました

あさひな
ファンタジー
二児の子供がいるワーキングマザーの私。仕事、家事、育児に忙殺され、すっかりくたびれた中年女になり果てていた私は、ある日事故により異世界転生を果たす。 転生先は、前世とは縁遠い公爵令嬢「イザベル・フォン・アルノー」だったが……まさかの乙女ゲームの悪役令嬢!? しかも乙女ゲームの内容が全く思い出せないなんて、あんまりでしょ!! 破滅フラグ(攻略対象者)から逃げるために修道院に逃げ込んだら、子供達の扱いに慣れているからと孤児達の世話役を任命されました。 そりゃあ、前世は二児の母親だったので、育児は身に染み付いてますが、まさかそれがチートになるなんて! しかも育児知識をフル活用していたら、なんだか王太子に気に入られて婚約者に選ばれてしまいました。 攻略対象者から逃げるはずが、こんな事になるなんて……! 「貴女の心は、美しい」 「ベルは、僕だけの義妹」 「この力を、君に捧げる」 王太子や他の攻略対象者から執着されたり溺愛されながら、私は現世の運命に飲み込まれて行くーー。 ※なろう(現在非公開)とカクヨムで一部掲載中

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
番外編を閲覧することが出来ません。
過去1ヶ月以内にレジーナの小説・漫画を1話以上レンタルしている と、レジーナのすべての番外編を読むことができます。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。