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入学式前日

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フレンチトーストを食べ終えた私たちは、ニール先生に明日の入学式に関する説明をするからと引き止められてしまった。
仕方がないので食堂に留まり、ミリアの淹れてくれた紅茶をいただきながらニール先生が食事を終わるのを待っていた。
その間、先生が「パンがこんなに柔らかいだなんて。うわぁ……美味しい、これは美味しいよ!」とか「このスープ、澄んでいるのになぜこんなに味が複雑なんだい⁉︎」なんて言いながらあっという間に飲み干し、いそいそとお代わりをしにいくのを眺めていた。
正直、美味しいと言っていただけるのは嬉しい。だけど、いよいよ明日に迫った入学式の話をはやく聞きたいんですよ……!
現在、学生たちの好奇の目にさらされないよう特別寮に引きこもることを余儀なくされている身としては、はやく学園内のことが知りたいし、お兄様やマリエルちゃんにも気兼ねなく会えるようになりたいのだ。
二人とも、私がここにいるのを他の生徒(主に貴族)に悟られないよう、入学式までは訪問させないとミリアを通じてミセス・ドーラから連絡があったし。
お兄様がここを出入りしていたら、いまだに女子寮に入寮していない私が特別寮にいるのでは? ……てことは、私が聖獣契約者だ! と気づく人がいるかもしれない……いや、私はすでにバレているんじゃないかと思ってるんだけど。
だってほら、入寮日にお兄様と一緒の馬車で来たし、ニール先生に見つかった時だって目撃者多数だったんだから。
お兄様ならきっと周囲の詮索も難なくあしらえるだろう。だけど、マリエルちゃんはそういうわけにいかない。
マリエルちゃんは男爵令嬢だから、自分より高位の貴族や先輩に無理やり聞き出されないとも限らないものね。
寮内で入学式の前にあれこれと変な噂が広がらないようにとの配慮なのだろう。
「ふう……美味しかったよ。ごちそうさま。さあ、明日の話をしようか」
ようやく満腹になったらしいニール先生が、ミリアから紅茶を淹れてもらい、笑顔で切り出した。
「明日はいよいよ入学式だ。君たちは他の生徒たちと一緒に……と言いたいところだけど、そういうわけにもいかないからね。他の生徒とは違う席を用意したよ」
「え……それはなぜですか?」
できれば他の生徒の後ろのほうで目立たない席ならそれでもいいのだけど、なんだか嫌な予感がする。
「聖獣契約者も魔獣契約者も長いこといなかったからね。長く学園に在籍している研究生や教師ならいざ知らず、今の在学生は聖獣契約がどういうものなのか理解していない者が多いはずだ」
確かに、聖獣契約なんてそうホイホイできるもんじゃないってのは、マーレン先生やニール先生が長年あれだけ熱心に頑張ったにも拘らず、契約どころか出会うことすらできなかったことからもわかるわね。
「だから、君たちに変なちょっかいをかけて大事にならないように、式の出席者に君たちのことを紹介することになったんだ」
「「ええ⁉︎」」
ニール先生の爆弾発言に、私とセイが同時に声をあげた。
「しょ、紹介って……一体何を……?」
「ん? 壇上に上がって、君たち聖獣契約者に変なことしないようにね? って言うだけだよ?」
えええええええ⁉︎
「ちょ、ちょっとそれはいかがなものかと……」
「どうしてだい? 初めにきちんとした説明がないと、君だけじゃなく他の生徒が困ることになるだろう?」
それはそうかもしれないけど、そんな悪目立ちしたくないんですけどぉ⁉︎
「先生、僕はそのようなことで目立つのは好みません。クリステア嬢もそうじゃないかな?」
「え、ええ! そうですわ! 私は一般の生徒と同等の扱いを希望します!」
セイの発言に乗っかるように私も異を唱えた。
「そうは言ってもねぇ。変な憶測を呼ぶより、君たちが契約者だってことをはっきりさせておくほうが親切だと思うよ。僕としても学園内で生徒が死ぬのを見たくないし」
「えっ」
「魔獣契約にしろ、聖獣契約にしろ、契約者に危害を加えた者には容赦ないからねぇ。ついうっかり、なんてことがないとも限らない……ですよね?」
ニール先生が物騒なことを言いながら、白虎様や黒銀たちに視線を移した。
「……まあなぁ。俺らは契約者を護るのが使命みたいなモンだからな。軽く蹴散らせるような奴らならいいが、主人を害するようなことがあれば容赦するつもりはねぇよ?」
「そうですわねぇ。あるじに仇なす不埒者など、灰も残さず焼き尽くせば問題ありませんわよね?」
「うむ。主を傷つける者は我が八つ裂きにしてやろうぞ」
「くりすてあをいじめるやつは、すりつぶすだけ、だよ!」
あわわわわ。なんて物騒なことを⁉︎
あれだけ口を酸っぱくして人を傷つけちゃダメって言ってるでしょおぉ!
「……とは言え、俺たちがやり過ぎることで主人の立場が悪くなるのは本意じゃねぇからな。俺たちが前面に立つことで牽制になるなら見せ物になってやろうじゃねぇか」
「不本意ですけれど、仕方ありませんわね」
「……む、そうか。ならば仕方あるまい」
「くりすてあのためなら、いいよ?」
「皆……!」
怖いこと言いながらも、なんだかんだと私たちのために我慢してくれるんだから……ありがとう、皆。
「えっ? 聖獣の皆様は入学式についてこなくていいですよ? そんなことしたら大騒ぎになりそうですし」
私が感動していると、ニール先生があっけらかんと言い放った。
……は? え? 今、皆でいいこと言ってたのに⁉︎
「入学式の終盤で、聖獣契約者である彼らにちょっかい出さないようにって注意喚起するだけだからねぇ。だから、君たちだけで壇上に上がってね」
えっ、私とセイだけ? それは嫌ですけど⁉︎
「いやいやいや。俺らの話聞いてたか? せっかく出る気になったのによぉ」
「そうですわ。私たちの決意が無駄になるじゃありませんの!」
「護りもなく主だけというのは承服しかねる」
「おれは、くりすてあといっしょに、いる!」
皆が口々に不満を漏らすのを、ニール先生がタジタジになっていた。
「いやその、だってですね? これだけの聖獣様が一堂に会するなんて王宮でもないことだから、大騒ぎになるかと」
「知るか。それを押さえるのがお前らの仕事だろ?」
「ちょ、そんなこと言われても……」
ニール先生が皆に詰め寄られ、私たちに助けを求めるように懇願の目を向けている。
私とセイは顔を見合わせてため息を吐くと、ニール先生を助けるべく仲裁に向かうのだった。
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