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すてきな朝食
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翌朝、いつものように早起きした私は、朝食の準備をするべくミリアや黒銀たちを連れて階下へ向かった。
私はそのまま厨房に入り手早く割烹着を身につけ、クリア魔法をかけながら朝食のメニューをどうしようか考える。
「さてと、朝食は簡単にしたいところだけど……」
そろそろ和食が恋しくなりはじめたものの、私やセイたちならいざ知らず、ニール先生にいきなり味噌汁やご飯を出すのは厳しいだろう。
……となると、洋食になるわけだけれど、昨日オムレツやポトフにしたこともあり、またオムレツというのは避けたい。ふむ。
「クリステア様、食材が届いていました」
ミリアが食材受け渡しの小部屋から荷物を抱えて戻ってきた。
それを見た黒銀がサッとミリアから荷物を受け取り、調理台の側まで運んでくれた。
意外と紳士なところがあるんだよね。
「ありがとう。ミリアはテーブルセッティングをお願い。どれどれ……」
木箱を覗くと、中にはパンやバター、追加で頼んでいた卵や野菜などが詰まっていた。
「ふむふむ……これだけあれば朝食には十分ね。でも……」
このカチカチの丸パンはいただけない。朝から顎を鍛える趣味はないのだ。
「よぉし、パンはスライスして……と。う、堅い……」
「主、我がやろう」
「お願いできる? このくらいの厚みに切ってほしいの」
「承知した」
黒銀は私からパンナイフを受け取り、堅いパンを難なくカットしていった。
私はその間に牛乳を取り出し、カットし終わったパンをバットに敷き詰め、牛乳を流し込んだ。
牛乳をパンに吸わせている間に卵をボウルに割り入れ、溶いておく。
「ねえ、くりすてあ。おれもてつだう!」
「真白は……そうね、このレタスを一枚ずつ剥がして洗って、食べやすい大きさにちぎってくれる?」
「わかった!」
レタスと大きめのボウルを渡すと、真白は張り切ってバリバリと剥がし始めた。
私は横目でそれを確認しながらトマトを洗い、くし切りに。直前に盛り付けるためインベントリに収納しておく。
「おお、もう吸い込んでる」
パンが牛乳をすっかり吸い込んだので、卵液を入れたバットにパンを入れ、片面に卵液が染み込んだのを確認してからひっくり返してもう片面にも卵液を吸わせる。
こうすれば、時間をかけずにフレンチトーストが作れるのだ。
今回はおかずフレンチトーストにするので砂糖は入れていないけど、牛乳に混ぜておけばデザートとして楽しめるわ。
あとはベーコンを食べやすい大きさにカットし、熱したフライパンにバターを落とし、パンとベーコンに火を通す。
パンにいい感じに焼き目がついたら、ベーコンやチーズをのせて蓋をして、チーズがとろけたら完成。
レタスやトマトと一緒に盛り付けていたところで、セイたちが食堂に入ってきた。
「おはようございます、皆様」
私が厨房から挨拶すると、セイたちは慌てて駆け寄ってきた。
「おはよう、クリステア嬢。遅くなってすまない」
「おっす、お嬢。すまん、稽古してたら遅くなっちまった」
「おはようございますわ。何かお手伝いすることはございまして?」
「そうですねぇ、準備はあらかた終わりましたので……」
あとはインベントリからこっそりコンソメスープでも出せばいいかなと思っていたので今のところすることはないかな?
「では、皿洗いなどは俺たちがしよう」
「げ、皿洗いかぁ……」
「白虎は何枚もお皿を割ってしまうから、食堂の掃除でもなさいな」
「うー……わかった」
白虎様は皿洗いが苦手なのか。まあ、雑なタイプなのでお皿を割りまくるのは容易に想像できるわね。
「え、あの後片付けは私が……」
テーブルを拭いていたミリアが、皆の会話を聞きつけ駆け寄ってきた。
「あら、貴女はここ以外でもクリステア様の身の回りのお世話があるのですから、そちらに集中なさい。それが貴女の仕事ですわよ」
「え、でも……」
「働かざる者食うべからず。私たちが心おきなくクリステア様のお料理を堪能できるよう貴女も協力してくださる?」
「は……はい。それでは、よろしくお願いいたします」
朱雀様にそこまで言われてしまってはそれ以上何も言えなくなってしまい、ミリアはペコリと礼をしてテーブルセッティングに戻った。
「……ということで、後片付けは俺たちがする」
成り行きを見守っていたセイが私に向き直ってそう言うので「じゃあ、お願いします」と言うしかなかった。
「よっしゃ、そうと決まればメシだメシ! 今日の朝メシは何だ?」
切り替えの早い白虎様は期待に瞳をキラキラさせ、身を乗り出さんばかりに私を見た。
「は……はい、今朝はこちらをお召し上がりください」
私はそう言いながらカウンター越しにフレンチトーストを盛り付けたプレートを渡した。
それからコンソメスープの入った寸胴鍋をインベントリから取り出し、人数分の深めのお皿やカトラリー、トレイをカウンター前のテーブルに置いた。
「スープはご自身でよそってくださいね。お代わりも同様です」
今後はセルフサービスでお願いすることにした。他の貴族がいるわけではないし、上げ膳据え膳にする必要なんてないからね。
「主、私がお注ぎしましょうか?」
「いや、いい。自分でやるから問題ない」
「かしこまりましたわ」
朱雀が給仕を申し出たけれど、セイはそれを断り、慣れない様子でスープを注いでいた。
「はあ……少しはお世話させてくださらないと、私、物足りませんわ」
「……いつまでも子どもではないのだから、世話などいらぬ」
「お着物も着てくださらないし」
「もう変装は必要ない」
「たまには気分転換によいのではありませんこと?」
「くどい」
「はあ……残念ですわぁ」
そんな会話を繰り広げながら、セイたちは席に着いた。
白虎様は会話に参加はしていなかったけれど、私と目が合うとにやりと笑った。……嫌な予感。
「お嬢がいるからいいんじゃね?」
うわあああ! 白虎様のばか! なんって余計なことをー!
「……! 白虎ったら、たまにはいいことを言いますわね。クリステア様? 今日はお時間ありまして?」
朱雀様は善は急げとばかりに、目を輝かせて私を見た。
「ええと、あの、入学式に備えて準備がございますから、ちょっと……」
あれでしょ? また着せ替えごっこなさるおつもりでしょう?
あれこれとコーディネートを考えるのは楽しいけれど、着せられるほうは大変なのよね……
「そうだぞ、朱雀。入学式を目前にして遊んでいる暇などなかろう」
「そうですわね……ではまた今度お誘いしますわね」
「はは……ささ、温かいうちにお召し上がりくださいね。私は次を焼いてますので」
私は曖昧に返事をしてから、残りの分を焼いていく。
「では申し訳ないが、先にいただこう」
セイの言葉を合図に皆それぞれに「いただきます」と手を合わせてから食べ始めた。
「……うっま! 甘いのもいいけど、こっちのが俺は好きだな。チーズがとろけたところと、端っこのカリッと焼けたところどっちもうめぇ」
「……確かに。甘いのは甘いので美味いが、こちらはデザートではなく食事として成立しているのがいい」
「ああん……卵で柔らかくなったパンが力強いベーコンを受け止め、さらにとろとろなチーズがそれを包み込んで……なんて包容力なのかしらぁ……」
三人三様といった感じで食レポを繰り広げている。朱雀様、ニール先生がいないからって油断しすぎてません?
「くりすてあ、つぎはおれたちのぶん!」
「はいはい真白、ちょっと待っててね」
「ふあぁ……おはよう。皆早いねぇ」
「おはようございます。ニール先生、少しお待ちくださいね」
私は慌ててフレンチトーストの仕上げにかかるのだった。
---------------------------
10月8日(木)にコミカライズ版「転生令嬢は庶民の味に飢えている」第10話が更新されております!
白虎様とセイがお好きな方はお見逃しなく!
追記
感想の返信に関して、変更点を近況ボードに上げております。ご確認いただけますと幸いです……
私はそのまま厨房に入り手早く割烹着を身につけ、クリア魔法をかけながら朝食のメニューをどうしようか考える。
「さてと、朝食は簡単にしたいところだけど……」
そろそろ和食が恋しくなりはじめたものの、私やセイたちならいざ知らず、ニール先生にいきなり味噌汁やご飯を出すのは厳しいだろう。
……となると、洋食になるわけだけれど、昨日オムレツやポトフにしたこともあり、またオムレツというのは避けたい。ふむ。
「クリステア様、食材が届いていました」
ミリアが食材受け渡しの小部屋から荷物を抱えて戻ってきた。
それを見た黒銀がサッとミリアから荷物を受け取り、調理台の側まで運んでくれた。
意外と紳士なところがあるんだよね。
「ありがとう。ミリアはテーブルセッティングをお願い。どれどれ……」
木箱を覗くと、中にはパンやバター、追加で頼んでいた卵や野菜などが詰まっていた。
「ふむふむ……これだけあれば朝食には十分ね。でも……」
このカチカチの丸パンはいただけない。朝から顎を鍛える趣味はないのだ。
「よぉし、パンはスライスして……と。う、堅い……」
「主、我がやろう」
「お願いできる? このくらいの厚みに切ってほしいの」
「承知した」
黒銀は私からパンナイフを受け取り、堅いパンを難なくカットしていった。
私はその間に牛乳を取り出し、カットし終わったパンをバットに敷き詰め、牛乳を流し込んだ。
牛乳をパンに吸わせている間に卵をボウルに割り入れ、溶いておく。
「ねえ、くりすてあ。おれもてつだう!」
「真白は……そうね、このレタスを一枚ずつ剥がして洗って、食べやすい大きさにちぎってくれる?」
「わかった!」
レタスと大きめのボウルを渡すと、真白は張り切ってバリバリと剥がし始めた。
私は横目でそれを確認しながらトマトを洗い、くし切りに。直前に盛り付けるためインベントリに収納しておく。
「おお、もう吸い込んでる」
パンが牛乳をすっかり吸い込んだので、卵液を入れたバットにパンを入れ、片面に卵液が染み込んだのを確認してからひっくり返してもう片面にも卵液を吸わせる。
こうすれば、時間をかけずにフレンチトーストが作れるのだ。
今回はおかずフレンチトーストにするので砂糖は入れていないけど、牛乳に混ぜておけばデザートとして楽しめるわ。
あとはベーコンを食べやすい大きさにカットし、熱したフライパンにバターを落とし、パンとベーコンに火を通す。
パンにいい感じに焼き目がついたら、ベーコンやチーズをのせて蓋をして、チーズがとろけたら完成。
レタスやトマトと一緒に盛り付けていたところで、セイたちが食堂に入ってきた。
「おはようございます、皆様」
私が厨房から挨拶すると、セイたちは慌てて駆け寄ってきた。
「おはよう、クリステア嬢。遅くなってすまない」
「おっす、お嬢。すまん、稽古してたら遅くなっちまった」
「おはようございますわ。何かお手伝いすることはございまして?」
「そうですねぇ、準備はあらかた終わりましたので……」
あとはインベントリからこっそりコンソメスープでも出せばいいかなと思っていたので今のところすることはないかな?
「では、皿洗いなどは俺たちがしよう」
「げ、皿洗いかぁ……」
「白虎は何枚もお皿を割ってしまうから、食堂の掃除でもなさいな」
「うー……わかった」
白虎様は皿洗いが苦手なのか。まあ、雑なタイプなのでお皿を割りまくるのは容易に想像できるわね。
「え、あの後片付けは私が……」
テーブルを拭いていたミリアが、皆の会話を聞きつけ駆け寄ってきた。
「あら、貴女はここ以外でもクリステア様の身の回りのお世話があるのですから、そちらに集中なさい。それが貴女の仕事ですわよ」
「え、でも……」
「働かざる者食うべからず。私たちが心おきなくクリステア様のお料理を堪能できるよう貴女も協力してくださる?」
「は……はい。それでは、よろしくお願いいたします」
朱雀様にそこまで言われてしまってはそれ以上何も言えなくなってしまい、ミリアはペコリと礼をしてテーブルセッティングに戻った。
「……ということで、後片付けは俺たちがする」
成り行きを見守っていたセイが私に向き直ってそう言うので「じゃあ、お願いします」と言うしかなかった。
「よっしゃ、そうと決まればメシだメシ! 今日の朝メシは何だ?」
切り替えの早い白虎様は期待に瞳をキラキラさせ、身を乗り出さんばかりに私を見た。
「は……はい、今朝はこちらをお召し上がりください」
私はそう言いながらカウンター越しにフレンチトーストを盛り付けたプレートを渡した。
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「スープはご自身でよそってくださいね。お代わりも同様です」
今後はセルフサービスでお願いすることにした。他の貴族がいるわけではないし、上げ膳据え膳にする必要なんてないからね。
「主、私がお注ぎしましょうか?」
「いや、いい。自分でやるから問題ない」
「かしこまりましたわ」
朱雀が給仕を申し出たけれど、セイはそれを断り、慣れない様子でスープを注いでいた。
「はあ……少しはお世話させてくださらないと、私、物足りませんわ」
「……いつまでも子どもではないのだから、世話などいらぬ」
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「もう変装は必要ない」
「たまには気分転換によいのではありませんこと?」
「くどい」
「はあ……残念ですわぁ」
そんな会話を繰り広げながら、セイたちは席に着いた。
白虎様は会話に参加はしていなかったけれど、私と目が合うとにやりと笑った。……嫌な予感。
「お嬢がいるからいいんじゃね?」
うわあああ! 白虎様のばか! なんって余計なことをー!
「……! 白虎ったら、たまにはいいことを言いますわね。クリステア様? 今日はお時間ありまして?」
朱雀様は善は急げとばかりに、目を輝かせて私を見た。
「ええと、あの、入学式に備えて準備がございますから、ちょっと……」
あれでしょ? また着せ替えごっこなさるおつもりでしょう?
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「そうだぞ、朱雀。入学式を目前にして遊んでいる暇などなかろう」
「そうですわね……ではまた今度お誘いしますわね」
「はは……ささ、温かいうちにお召し上がりくださいね。私は次を焼いてますので」
私は曖昧に返事をしてから、残りの分を焼いていく。
「では申し訳ないが、先にいただこう」
セイの言葉を合図に皆それぞれに「いただきます」と手を合わせてから食べ始めた。
「……うっま! 甘いのもいいけど、こっちのが俺は好きだな。チーズがとろけたところと、端っこのカリッと焼けたところどっちもうめぇ」
「……確かに。甘いのは甘いので美味いが、こちらはデザートではなく食事として成立しているのがいい」
「ああん……卵で柔らかくなったパンが力強いベーコンを受け止め、さらにとろとろなチーズがそれを包み込んで……なんて包容力なのかしらぁ……」
三人三様といった感じで食レポを繰り広げている。朱雀様、ニール先生がいないからって油断しすぎてません?
「くりすてあ、つぎはおれたちのぶん!」
「はいはい真白、ちょっと待っててね」
「ふあぁ……おはよう。皆早いねぇ」
「おはようございます。ニール先生、少しお待ちくださいね」
私は慌ててフレンチトーストの仕上げにかかるのだった。
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10月8日(木)にコミカライズ版「転生令嬢は庶民の味に飢えている」第10話が更新されております!
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