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大丈夫かなぁ?

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あれから、ニール先生が聖獣についてあれこれ質問してきた。
だけど、私の知識なんて先生とさほど変わらないし、なんなら文献を読み漁っているニール先生のほうが詳しいんじゃないだろうか。
当の本人……じゃない、聖獣である黒銀くろがね真白ましろは「お前の好奇心を満たすためになぜわざわざ自分のことを話さねばならんのだ」とけんもほほろに突っぱねていた。
ニール先生がしょんぼりしていてかわいそうだけど、色々とやらかしていることを考えたら同情もできないので、今後の頑張りで信頼を得てほしい。
……難しいかもしれないけど。
私たちはまだ未練たっぷりのニール先生を振り切って部屋に戻ったのだった。

『遅かったじゃないか。さぞかし美味いもんを食ってたんだろうね』
輝夜かぐやは私たちの帰りを待っていたようで、ソファーの真ん中でふん! と拗ねた様子で丸まっていた。
「やあね、輝夜かぐやと同じものしか食べてないわよ。ニール先生に輝夜かぐやのことを話してたの」
『アタシの? いったい何を話してたってのさ』
輝夜かぐやは自分が話題にされていたと聞いて、胡散臭げに頭を持ち上げた。
輝夜かぐやがここにいられるよう寮監のニール先生に許可を取ったのよ」
『許可ぁ? どこにいようがアタシの勝手だろ?』
「ここではそんなわけにいかないの。輝夜かぐやがその姿じゃなきゃ檻に入れられていたかもしれないんだから」
『はあ⁉︎ なんでアタシが檻に入んなきゃいけないのさ! 冗談じゃない!』
輝夜かぐやは私の言葉にバッと立ち上がり、フシャーッと毛を逆だてた。
「まあまあ、落ち着いて。ちゃんと許可を得たから大丈夫。暴れたりしないなら寮内を歩いてもいいそうよ」
『……なんだ。それならそうと早くお言いよ。びっくりして損した』
檻に入らなくていいとわかると、ほっとした様子で座り込んだ。
「ニール先生は輝夜かぐやがナイトウォーク・レオパードじゃないかって言っていたのだけど、そうなの?」
私は輝夜かぐやの隣に座り、落ち着かせるように背中を撫でながら聞いた。
『どうだったかねぇ。そんな風に呼ばれていたかもしれないが、アタシはアタシさ。そんなもんどうだっていいさね』
輝夜かぐやは気持ちよさそうに目を細めつつ、香箱座りになって大人しく撫でられている。かわいい。
ニール先生は希少種だと言っていたけれど、輝夜かぐや本人も興味がなさそうだから、あまり詳しいことはわからなさそう。
私はこのままの輝夜かぐやで十分満足なのでそれでもかまわないんだけど。
「寮内を歩き回るのは許可されたけれど、寮から出たらどうなるかわからないから出ないようにね」
寮内でもニール先生に捕まったら面倒なことになりそうだけど。
そうならないように私がいる時にニール先生と会わせておいたほうがいいかもしれないなぁ。
『学園ってのはガキどもがわんさかいるんだろ? そんなところにこんな姿でうろついたら、ろくでもないことになるのは想像がつくさ。誰がわざわざそんなところに行くもんか』
心底面倒臭そうに話すところを見るに、何かあったのだろうか。
『アンタみたいなのが寄ってたかってやってくるかもと考えただけでゾッとするね。面倒なのはアンタだけで十分だ』
輝夜かぐやがフン! と鼻を鳴らすと、黒銀くろがね輝夜かぐやの首根っこを掴んで持ち上げた。
『な、なにすんだい! お離しよ!』
「主の傍にいるのが面倒なら、白虎らの部屋にでも放り込んでやろうか?」
『ヒッ! あ、あいつらのとこなんかやだよ! お離し! お離しったら!』
黒銀くろがね、やめなさい! いじめやケンカはダメって言ってるでしょう?」
「我は主のことが不満ならば他所へ行けと提案しておるだけだ」
黒銀くろがねが鼻白んだ様子で手を離すと、輝夜かぐやはふわっと着地するや否や、ダッシュで逃げていった。
白虎様たちのところに送られたら、朱雀様と一緒におもちゃにされるのが目に見えているから無理もない。
「もう! 黒銀くろがねったら。輝夜かぐやがかわいそうでしょう?」
私がめっ!と注意すると、黒銀くろがね真白ましろが私の両隣に座った。
「主に生意気な口を聞くからだ。彼奴は主の契約獣たる自覚が足らぬ」
「そうだよ。くりすてあをばかにするやつはおれたちがゆるさないんだからね!」
黒銀くろがねは私の頭を撫でながら、真白ましろは私の肩にもたれかかりながら言う。
どうやら私が輝夜かぐやを撫で回していたのが気に入らなかったようだ。
聖獣の独占欲の強さは本能からくるものなのでどうしようもないようだけれど、同じ主人を持つ契約獣同士仲良くしてほしいなぁ。
「これから同じ寮で生活するのだから、輝夜かぐやにはおいおい慣れてもらうしかないけれど、無理強いはしないように」
私がインベントリからブラシを取り出しながら言うと、二人は即座に聖獣の姿に戻った。
『……しかたあるまい』
『はぁい』
まったく、現金なんだから。私は膝によじ登ってきた真白からブラッシングを始めた。
黒銀くろがねが不満そうに見ているけれど、輝夜を脅かした罰として今回は後回しだ。
「明後日には入学式なんだから、変な騒ぎは起こしちゃだめよ。ニール先生を脅したりとか、そういうのもなし」
『脅してなどおらぬ。奴が主に対して不敬ゆえわからせておるだけのこと』
「だから、それがダメなの。そもそも先生なんだから不敬も何もないでしょう」
『でもあいつ、ちょっとへんだよ? せんせいってみんなあんななの?」
ニール先生が変なのは否定しない。
そして学園に所属している先生方が皆あんな感じなわけじゃない……と思いたい。
「先生が皆ニール先生のような方だとは思わないけれど……ニール先生は聖獣や魔獣とか、興味のあることに夢中になるとちょっと周りが気にならなくなるタイプみたいね」
いわゆるオタクというか、研究者気質っていうか……よくあれで先生が務まるなぁ……と思う。
でも先生以外に何かできる職業があるだろうかというと……なさそうだなぁ。
魔獣や聖獣に関する知識なら、普通の人よりは知識があるようだし。研究者や学者としてやっていくのが一番な気がする。
生徒としては、もう少し先生らしくしてほしいところだけど。
私はため息を吐きながらブラッシングを続けるのだった。
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