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許可していただけますか?

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「ご報告が遅くなり申し訳ございませんでした。残る一体は魔獣なのですが……」
「魔獣⁉︎ 聖獣じゃなくて⁉︎ クリステア嬢は魔獣とも契約してるのかい⁉︎」
ニール先生は興奮気味にガタッと立ち上がりかけたものの、黒銀くろがねたちが睨んでいることに気がついたようで、そのままそっと座り直した。やれやれ。
「ええ、その……今は魔導具で大型化できないように魔力を一定に保つようにしているため、黒猫の姿になっているのですが、元は大型の真っ黒な魔獣で……」
「魔導具で猫の姿に⁉︎ いったいどうしてそんなことを……? それにしても、魔力不足で猫の姿になる大型の黒い魔獣……もしかしたらナイトウォーク・レオパードかな……?」
さすがに三度目はなかったものの、ニール先生は興味津々の様子でぶつぶつと呟いていた。
輝夜かぐやって、先生の言っているナイトウォーク・レオパードって種族なのかしら。なんだかかっこいい名前ね。
「ナイトウォーク・レオパードは大型の猫を思わせる姿をした獰猛な魔獣でね。全身真っ黒で夜の闇に溶け込み獲物を狩るんだ。文献ではその毛並みの美しさから、貴族がこぞって毛皮を欲しがったために冒険者が狩りまくって一時期かなり数が減ったという希少種だよ」
「そうなのですか……」
へえぇ……確かに、輝夜かぐやの毛皮は、出会った当初こそ魔力不足と栄養不足で煤けていたけれど、日々の栄養たっぷりごはんとブラッシングのおかげで今やツヤッツヤのピッカピカだ。
毛皮を欲しがる貴族の気持ちはわからないでもないけれど、あの素敵な毛並みは健康的に生きていているからこそ保たれる美しさなのだ。皆わかってないわ!
「魔導具で大型化できないようにしていると言ったね? どうしてわざわざそんなことを?」
「それは……」
私は、輝夜かぐやが私の魔力目当てに襲ってきたものの、なんとか返り討ちにして生け捕りにしたこと、そのまま放逐するわけにもいかず、さりとて殺処分もしたくないので、たまたまお父様が所有していた魔導具の条件を書き換えて輝夜かぐやに装着することで無力化させたということをざっくりと説明した。
そして、その経緯で契約したも同然であると指摘され契約に至ったことも。
「なんと……クリステア嬢は魔獣をも従える能力を持っているのかい? すごいな」
「いえそんな……たまたま、そう、たまたま運がよかっただけですわ」
前世の相撲の技として知られている「ねこだまし」が効いたとか、催淫作用がある媚薬きのこを手にしていたとか、色んな偶然が重なっただけだ。
ちょっと説明しづらかったからそのあたりは割愛させてもらったけど。
「しかしどうしてそんな魔導具を所有していたんだい?」
「それは、私が生まれつき魔力量が多かったために魔力暴走を起こしかねないと危惧した父が、いざという時のために魔力を抑える魔導具の製作をマーレン師に依頼したのです。結局、使うことはなかったのですが、それが使えるとのことでしたので、条件の書き換えと所有者の変更をして……」
私がそう説明すると、ニール先生は目を丸くした。
「マーレン先生作の魔導具⁉︎ なるほど……それなら……しかし、マーレン先生も魔獣に使えるとは思ってもみなかっただろうねぇ……僕もまさか魔力制御リングにそんな使い道があるだなんて思いもしなかったよ」
……そもそも魔獣を生け捕りにして魔力を削ごうとする人なんていませんからね。
いや、ここにいた。私だ。
「そうかぁ……ナイトウォーク・レオパードは危険だから、普通なら檻の中での飼育しか許可できないんだけど、現状、ただの黒猫の姿なら……攻撃力は元のままってことはないんだよね?」
「はい、普通の猫と大差ないかと。悪意を持って攻撃しようとすると魔力が限界近くまで減るようにしています。もちろん、命に関わるようなことであれば反撃はできるようにしていますけれど」
「え……それって、ちょっとかわいそうじゃないかな?」
「私は命を奪われかけたのです。殺処分しないかわりに、今後他者を危険に晒させないための、必要な措置ですわ」
「ええ……? それじゃ本来の姿にはなれないのかい?」
「はい。本来の姿では危険ですから」
「せっかく希少な魔獣を……もったいない……いやでもこれはこれで貴重な資料になるかも……」
ニール先生はあからさまにがっかりした様子でぶつぶつと呟いているけれど、うちの子を研究対象になんてさせませんからね⁉︎
……後でニール先生が輝夜かぐやをいじり倒そうとしたらしっかり反撃できる仕様に書き換えておこうかな……?
「ニール先生、それではその魔獣……輝夜かぐやはこのまま私の部屋にいてもよろしいでしょうか?」
「へ? ……あ、そうだね。ただの猫ならまあ問題ないと思うよ。ただし、外には連れ歩かないこと。他の生徒は自宅にペットを置いてきている子たちもいるから。その子たちの気持ちも考えてあげてね」
「あ……」
……そっか、そうだよね。
私の場合は聖獣契約者として特別寮にいるからそのついでってことでお目こぼしいただいたようなものだ。
普通なら屋敷に強制送還か、ニール先生の研究室行きなのよね。
他の生徒から「えこひいきだ!」なんて言われてもおかしくないわけで。
「はい。気をつけます」
「とはいえ、問題行動さえなければ寮内は自由に行動させても構わないよ」
「ありがとうございます」
「なんなら、今からここに連れてきても……」
「いえ、人見知りする子ですので。環境に慣れるまではちょっと」
さてはいじり倒そうとしてるな?
そうはさせませんよ?
「ええー……そうなのかい? 残念だなあ」
「申し訳ございません」
人見知りっていうのは嘘だけど、今ここには白虎様や朱雀様がいるからね。
輝夜かぐやは絶対来ないと思うよ。
とはいえ、在学中はここで過ごすわけだし、輝夜かぐやにもこの環境に慣れてもらわないといけないわよね。
せっかく寮内でも自由に過ごせる許可も得たことだし。
……あれ? そういえばニール先生の魔獣の姿って見ないな。あのお猿さんとか。
「あの、ニール先生の指摘する魔獣はどこにいるのですか?」
「ん? 自室と研究室にいるよ? 僕の自室にいる魔獣は部屋から出ないようにしてるんだ。掃除や料理の補充にくるメイドにいたずらしたもんだから、ミセス・ドーラから禁止令が出てねぇ」
ニール先生はへらぁ、と笑うけれど、いくら小さくても魔獣なんだから、そりゃあいたずらされたら怖がるでしょうよ。
あのお猿さんは黒銀くろがね真白ましろを前に怯えていたのに、ニール先生には『ばか!』とか悪態ついていたし。
ひょっとしたら相手によってはいたずら者なのかもしれないわね。
「そういえば、君たちが来てからあの子たちえらくおとなしくてねぇ。もしかして、あの子たちも寮内に人が増えたから人見知りしてるのかな?」
ニール先生は、あはは……と笑っているけれど、それは多分、自分より格上の神獣や聖獣がぞろぞろいるから怯えてるだけなんだと思うよ。
輝夜かぐやだって、黒銀くろがね真白ましろ相手なら虚勢はりつつも一緒にいられるけれど、白虎様や朱雀様のような神獣相手だと毛を逆だてて逃げ出したりしてたもの。
今だって部屋で大人しくしてるのはお二人がいるからだし。
とはいえ、それを教えるとしつこく質問責めになりそうなのでお口チャックしてようっと。
「また今度僕の魔獣たちを紹介するから、近いうちにナイトウォーク・レオパード……ええと、カグヤだっけ? その子にも会わせてくれないかな?」
「ええまあ、落ち着きましたら……」
私はホホホ……と適当に笑ってごまかして、お茶をにごした。
とりあえず輝夜かぐやについてはニール先生の許可ももらえたことだし、入寮に関する心配ごとはあらかた解決した……のかな?
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