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食事は美味しくいただきましょう

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私はニール先生の行動に疑問を持ちつつも、きっとこれは突っ込んだらダメなやつだ……と本能で察知したので、そのままおとなしく食事を続けることにした。
ニール先生はメモを取り終えたようで、ムフー!っと満足げな表情を浮かべてペンを置き、再びスプーンを手にした。
「いやあ……聖獣様と言っても、行動は人とそんなに変わらないというか……思ったより感情豊かなんだねぇ」
ええ、そうですね。食事に関しては理性的だったことなんてありませんから。特に白虎様。
「感情豊かかどうかは個体差があるだろ。それに、長いこと人間と一緒に過ごしてりゃ主人に影響されることだってあるしな」
白虎様がオムレツをぱくつきながら言う。
確かに。玄武様みたいに面倒くさがりだと感情の起伏は少なそうだし、個体差はあるわよね。
黒銀くろがね真白ましろは今回初めての聖獣契約だから主人わたしの影響は受けていないだろうけれど、白虎様たちは歴代の帝候補の守護をしてきた四神獣の皆様はどうだったんだろう?
「個体差や主人の影響……! 人が聖獣様に影響を及ぼすことがあるっていうのかい⁉︎」
「いやそりゃわかんねぇけど……っておい、聞いてねぇな?」
ニール先生は再びメモにかじりつきになってしまった。だめだこりゃ。
夢中になっちゃうとなりふり構わない人って前世でもいたけど、ニール先生もそのタイプみたい。
私はため息を吐きつつ先生に声をかけた。
「……ニール先生、食事中は食事に集中してください。メモは後でも書けますよね?」
せっかくのオムレツやポトフ、温かいうちに食べてほしい。
子どもじゃないんだから、マナー違反だってことくらいわかってるでしょうに。
ニール先生って、学園での生活が長い上に特別寮や研究棟に篭りきりだからか、どうも常識はずれっていうか。
研究者というよりオタクっていうか……
夢中になるものがあるっていうのはいいことなんだけど、日常生活にはメリハリが必要だと個人的には思うから、そこんとこはちゃんとけじめをつけてほしいわけで。
「え……うん、そうだね。でももう少しで終わ……」
「主がそう言っておるのだ。早くそれを片付けねば我が燃やすぞ」
「ひえっ! わわ、わかりましたあっ!」
黒銀くろがねがジロリと睨みをきかせながら言うと、ニール先生は慌ててメモを仕舞った。
「そんなの、もんどうむようでもやせばいいのに」
「えっ⁉︎  そ、それは勘弁してほしいかなぁ⁉︎」
真白ましろの辛辣なセリフに、ニール先生はメモを仕舞ったポケットを守るように手で隠した。
黒銀くろがね真白ましろ、怖いこと言わないの。ニール先生、申し訳ありません。……私、温かいものは温かいうちに召し上がるのが美味しく食べる秘訣だと思っておりますの。折角頑張って作ったものを美味しく食べていただけない方に差し上げたくはございません」
私がそういうと、ニール先生はハッとした表情になって「め、面目ない……」と言って、おとなしく食べはじめた。よしよし。
「燃やすことでしたら、私におまかせくださればよろしいですわ。対象を絞って燃やすことなど造作もありませんもの。例えポケットの中だろうと、きれいに消し炭にして差し上げましてよ」
朱雀様はそう言ってホホ……と優雅に笑って席を立つと、お皿を持って鍋に向かった。
物騒なこと言いながらおかわりかーい!
「ま、あんな紙切れ消滅させる方法なんていくらでもあるわな。そのまま書かせてんのは俺たちの主人が止めてないからだ。勘違いするなよ? 俺たちが消滅させられるのは紙だけじゃねぇからな」
「ひえっ……! わ、わかりましたぁ‼︎」
白虎様はそう言ってニール先生がガタガタと震えている横を鼻歌交じりに通り過ぎて朱雀様の後ろに並んだ。
……って、またおかわりすんのかーい!
「トラ、朱雀。ニール先生は我らの師となる方だ。無礼な口をきくんじゃない」
私が内心で突っ込み疲れしていると、セイがスプーンを置いて二人に注意した。
「……失礼いたしましたわ」
「わかったよ。……悪かったな」
「え……あっはい! あの、元はと言えば僕が悪かったんだから謝罪の必要は……」
セイの言葉を受けて朱雀様と白虎様が謝罪をするとニール先生は慌てた様子でそれを止めようとした。すると、セイがカタン、と立ち上がった。
「ニール先生。僕の契約聖獣が失礼な態度をとって申し訳ありませんでした。……ですが、先生も我々の師に相応しい言動を望みます」
「あ……はい。気をつけマス……」
セイはそのままお皿を持って鍋に向かった。……セイ、お前もかーっ!
鍋いっぱいに作ったポトフは、あっという間に空になったのだった。

食後は、ミリアにお願いして紅茶を入れてもらい、談話室で皆でいただくことにした。
「いやはや、本当に申し訳ない……」
ニール先生は小さく縮こまりながら紅茶をすすっていた。
長年聖獣契約者が入寮することはなく、魔獣を使役するニール先生以外に魔獣を使役する生徒もあまりいなかったそうで、何年も先生一人で寮生活をしていたとのこと。
魔獣を持ち込む生徒は毎年必ず数名いるそうだけれど、ペットとして飼えるような愛玩用になる小さな魔獣が殆どなのだそう。
ペットの魔獣は可愛いけれど、その為に特別寮に入寮して孤立することになると聞けば、ほぼ全員が入寮を拒否し、家に戻すか、それが難しい場合ニール先生の研究棟に預けて、預け賃の代わりに研究や世話の協力をすることで特別寮入りを回避していたそうだ。
「いやぁ、小さくても魔獣だし、特別寮に入ってもいいよって一応個別に説明してるんだけどねぇ……皆、僕の勧誘に乗らないんだよねぇ……なぜかなぁ?」
ニール先生は首を傾げているけれど、先輩方の気持ちはよくわかる。
ニール先生のことだ、きっと魔獣&聖獣愛に溢れたトークを浴びせ倒して、ドン引きさせたに違いない。その一員に見られたくなければなんとしても回避しようとするでしょうね。
私たちの場合は問答無用だったわけだけれど、真白ましろ黒銀くろがねを屋敷に戻したり研究棟に預けたりなんて論外だ。屋敷に帰したところで、二人のことだからこっそり転移して戻ってきそうだし。
「本来魔獣の持ち込みは禁止なのですからいいじゃないですか」
セイはそう言ってニール先生をなだめようとしている。いや、よくない。よくないのよ。
私の部屋には輝夜かぐやがいるんだもの。いいかげんニール先生に申告しなきゃいけないよね。
私は覚悟を決めた。
「あの……ニール先生。実は私の部屋にもう一体……」
「えっ⁉︎ まさか三体も聖獣契約を⁉︎」
「黙って主の話を聞け」
ニール先生が前のめりになったのを、黒銀くろがねがデコピンで押し戻した。
「痛……っ⁉︎ ……ッ、イタタタ……」
ニール先生はソファの背もたれにのけぞるようにもたれかかり、額を手で覆って痛みに耐えている。い、痛そう。
黒銀くろがね! 暴力はやめなさい!」
「なに、主に飛びかからんばかりだったのでな。我は主を護るために行動に出たまで」
「くろがねがやらなきゃ、おれがやってた」
「もう! 真白まで。先生が私たちに危害を加えるわけがないでしょう?」
黒銀くろがねたちには後でしっかり叱っておかないと。
「いいや、お嬢。身近にいる人間が敵に変わる瞬間なんていくらでもあるんだ。邪な思いで近寄るものを排除しようとするのは俺らの本能みたいなもんだから黒銀くろがねの行動を責めてやるな」
「そうですわね。あの程度で済ませているのですから問題ないですわよ。不躾に近づく輩が悪いのですわ」
「えええ……?」
そんなこと言われても……この認識は改めさせないと、私のボッチ度が加速しそうだからちゃんと言い聞かせないと。
「そ、そうなのか……クリステア嬢驚かせて申し訳ない。で、もう一体っていうのは……?」
痛みから生還したニール先生は、あんな目にあっても新たな存在に対しての好奇心が抑えきれないようで、恐る恐る聞いてきた。
ニール先生の魔獣や聖獣に対する想いは、ゾンビ並にしつこいね……
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