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お野菜ゴーロゴロ
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届いた食材を皆で手分けして厨房のパントリーや冷蔵室に運んだ。
その後ニール先生は、魔獣たちに食事を与えるために自室へ戻っていった。
魔獣たちのケージが自室と研究棟の二箇所に分かれているため、少しの間不在になるそうだ。
……ニール先生ってば、どれだけの数の魔獣を使役しているんだろうか。
「魔獣って、ニール先生のようにたくさん使役できるものなのかしら?」
「さあ……どうでしょう? ……ああ、そういえば、ニール先生は昔から、こっそり小さな魔獣を持ち込んだ生徒が実家に送り返せない場合、その魔獣を預かっていらっしゃいました。当時は確か研究棟で生徒と一緒に世話をしていましたから、今でもおそらくそうなのでしょう」
ニール先生を見送った後、私が思わず疑問をポツリともらすと、ミリアがそう教えてくれた。
貴族の中には小さな魔獣をペットにしている人もいるそうで、こっそり寮に持ち込む生徒が毎年必ず何人かいるそう。
そこで、ニール先生が定期的にあのお猿さんを使って持ち込んでいないか毎年チェックしてるんですって。
本当ならある程度寮生の入寮か終わったところで抜き打ちでしているそうなんだけど、今回はたまたまセイの入寮日にお猿さんを連れていたためにバレて、チェックを強化したところへ運悪く私がひっかかってしまい、現在に至るってわけよね。
はじめこそ「うわー、バレちゃった! もうおしまいだわ……!」なんて思ったりもしたけれど、今となっては特別寮に入ったことでこうして料理も堂々とできるわけだから結果オーライってやつ?
私は手早く割烹着を身につけ、共布の三角巾を頭に巻いてキュッと結んだ。
「さてと、それじゃあ作りますか!」
今日のところは無難にポトフに決定。
大食らいの聖獣様ばかりだから、寸胴鍋二つ用意して、材料を素材に合わせて適宜下ごしらえしていく。これは朱雀さまとミリアが手伝ってくれた。
黒銀と真白はセイの監督のもと、食堂スペースのテーブルを拭いたり、人数分の椅子を揃えてもらったりしている。
あのね、朱雀様ってば食べる専門かと思いきや意外と包丁上手でびっくりしたよ!
「ふふ、これは度々毒殺されかけていた主のために作っていたことがありましたの。他の者が作ったものは食べられないとおっしゃって……」
ふふ、と懐かしそうに語る朱雀様の笑顔は誇らしそうで、でもちょっぴり切なそうだった。
セイではない、昔の主人を思い出しているのだろう。
「あー、そんなこともあったよなぁ。俺らが毒味すりゃいいって言ったんだけど、俺らにそういうことはさせたくないっつってなぁ」
白虎様はそう言いながら包丁とじゃがいもを手に取ると、スルスルと皮を剥いていった。
えっ白虎様も意外と上手……
「俺らはこういうのはまあ、できねぇこともないけど、味付けがなぁ……」
「ええ、そうでしたわね。味付けが……」
二人して、ふぅ、とため息を吐いた。
「野菜を切ったり剥いたり、それと肉や魚をただ焼くだけならまあいい。しかし、味付けとなると全員が微妙でなぁ……」
「ええ、それに量も多すぎたり少なかったり……難しいですわね、料理って。クリステア様を尊敬いたしますわ」
「ええ……⁉︎」
下ごしらえをする様子を見ていても、そんなにおかしなことはしてないよね……普段料理してない割には上手な手捌きだと思うけれど……
「クリステア様? このくらいでよろしいですかしら?」
ぼんやり考え事をしていた私は朱雀様の声にハッとして顔を上げた。
「あっ、は……いぃ?」
朱雀様の目の前の大きなカゴいっぱいに、カットされたニンジンが山盛りになっていた。
「おう! こっちはこれでいいか?」
「え、はい……ええぇ?」
これまたきれいに皮が剥かれカットされたじゃがいもが山盛りになっていた。
「こっ、これ……もしかして、今日届いた分、全部……ですか?」
「そうですわ。皆様これくらいお食べになるでしょう?」
「おう! 俺はあればあるだけ食うぜ!」
いやいやいや。
聖獣の皆様はそうかもしれませんけれど。
今までそんなに食べてませんでしたよね?
そもそも魔力がメインのエネルギー源で、料理はおやつみたいなもんだよね?
ちょっとでよかったんじゃないの?
……っていうか、毎日この人数でこの量作るのは大変過ぎるってば!
「……こんなには使わないと思いますから、とりあえず必要な分以外は預かっておきますね」
私はそう言って、余剰分のにんじんとじゃがいもをインベントリに収納した。
「え……っ? それだけですの?」
「そりゃないぜ! たくさん食べられるように頑張ったんだぞ?」
私はそれぞれに抗議してくる二人をジロっと睨んだ。
「あのですね、あれは数日分の食材だったんです。一食分ではありません!」
「そんな……」
「えぇー? いいだろ、もうちょっと増やしても。皆で全部食うって!」
まったく、どれだけ食べるつもりなのか。
「ダメです。ちなみにこれは青龍様と玄武様の分も含まれてますからね」
「そ、そんなぁ!」
「そりゃねぇぜ、お嬢! 俺の取り分が減っちまう! あいつら引きこもってんだからいらねえって!」
こ、この二人は……!
呆れていたら、白虎様の頭上に拳くらいの大きさの氷塊がゴンッと落ちてきた。
「いでっ⁉︎」
「あら、まあ」
ゴロン、と床に落ちた氷の塊をよく見ると、亀の形をしていた。
「これって……?」
「あー……、玄武の仕業だな、こりゃ……すまん、言いすぎた」
白虎様は頭を撫でながらどこに向けてというわけでもなく謝罪した。
「……?」
「クリステア様、今のは玄武がこのバカトラに抗議したのですわ。玄武、私も悪かったですわ。ごめんなさいね」
その瞬間に氷の亀は溶けて消えた。
謝罪を受け入れたってことなのかしら。
「あの、白虎様……大丈夫ですか?」
「あー、うん。平気だ。もっと怒ってたらあの大きさじゃすまねぇし」
え、もっと大きな氷の亀さんが落ちてくるってこと……⁉︎
……できるだけ玄武様を怒らせないようにしようっと。
---------------------------
9/10(木)はコミカライズ版「転生令嬢は庶民の味に飢えている」(作画:住吉文子先生)の更新日ですのでお楽しみに!
その後ニール先生は、魔獣たちに食事を与えるために自室へ戻っていった。
魔獣たちのケージが自室と研究棟の二箇所に分かれているため、少しの間不在になるそうだ。
……ニール先生ってば、どれだけの数の魔獣を使役しているんだろうか。
「魔獣って、ニール先生のようにたくさん使役できるものなのかしら?」
「さあ……どうでしょう? ……ああ、そういえば、ニール先生は昔から、こっそり小さな魔獣を持ち込んだ生徒が実家に送り返せない場合、その魔獣を預かっていらっしゃいました。当時は確か研究棟で生徒と一緒に世話をしていましたから、今でもおそらくそうなのでしょう」
ニール先生を見送った後、私が思わず疑問をポツリともらすと、ミリアがそう教えてくれた。
貴族の中には小さな魔獣をペットにしている人もいるそうで、こっそり寮に持ち込む生徒が毎年必ず何人かいるそう。
そこで、ニール先生が定期的にあのお猿さんを使って持ち込んでいないか毎年チェックしてるんですって。
本当ならある程度寮生の入寮か終わったところで抜き打ちでしているそうなんだけど、今回はたまたまセイの入寮日にお猿さんを連れていたためにバレて、チェックを強化したところへ運悪く私がひっかかってしまい、現在に至るってわけよね。
はじめこそ「うわー、バレちゃった! もうおしまいだわ……!」なんて思ったりもしたけれど、今となっては特別寮に入ったことでこうして料理も堂々とできるわけだから結果オーライってやつ?
私は手早く割烹着を身につけ、共布の三角巾を頭に巻いてキュッと結んだ。
「さてと、それじゃあ作りますか!」
今日のところは無難にポトフに決定。
大食らいの聖獣様ばかりだから、寸胴鍋二つ用意して、材料を素材に合わせて適宜下ごしらえしていく。これは朱雀さまとミリアが手伝ってくれた。
黒銀と真白はセイの監督のもと、食堂スペースのテーブルを拭いたり、人数分の椅子を揃えてもらったりしている。
あのね、朱雀様ってば食べる専門かと思いきや意外と包丁上手でびっくりしたよ!
「ふふ、これは度々毒殺されかけていた主のために作っていたことがありましたの。他の者が作ったものは食べられないとおっしゃって……」
ふふ、と懐かしそうに語る朱雀様の笑顔は誇らしそうで、でもちょっぴり切なそうだった。
セイではない、昔の主人を思い出しているのだろう。
「あー、そんなこともあったよなぁ。俺らが毒味すりゃいいって言ったんだけど、俺らにそういうことはさせたくないっつってなぁ」
白虎様はそう言いながら包丁とじゃがいもを手に取ると、スルスルと皮を剥いていった。
えっ白虎様も意外と上手……
「俺らはこういうのはまあ、できねぇこともないけど、味付けがなぁ……」
「ええ、そうでしたわね。味付けが……」
二人して、ふぅ、とため息を吐いた。
「野菜を切ったり剥いたり、それと肉や魚をただ焼くだけならまあいい。しかし、味付けとなると全員が微妙でなぁ……」
「ええ、それに量も多すぎたり少なかったり……難しいですわね、料理って。クリステア様を尊敬いたしますわ」
「ええ……⁉︎」
下ごしらえをする様子を見ていても、そんなにおかしなことはしてないよね……普段料理してない割には上手な手捌きだと思うけれど……
「クリステア様? このくらいでよろしいですかしら?」
ぼんやり考え事をしていた私は朱雀様の声にハッとして顔を上げた。
「あっ、は……いぃ?」
朱雀様の目の前の大きなカゴいっぱいに、カットされたニンジンが山盛りになっていた。
「おう! こっちはこれでいいか?」
「え、はい……ええぇ?」
これまたきれいに皮が剥かれカットされたじゃがいもが山盛りになっていた。
「こっ、これ……もしかして、今日届いた分、全部……ですか?」
「そうですわ。皆様これくらいお食べになるでしょう?」
「おう! 俺はあればあるだけ食うぜ!」
いやいやいや。
聖獣の皆様はそうかもしれませんけれど。
今までそんなに食べてませんでしたよね?
そもそも魔力がメインのエネルギー源で、料理はおやつみたいなもんだよね?
ちょっとでよかったんじゃないの?
……っていうか、毎日この人数でこの量作るのは大変過ぎるってば!
「……こんなには使わないと思いますから、とりあえず必要な分以外は預かっておきますね」
私はそう言って、余剰分のにんじんとじゃがいもをインベントリに収納した。
「え……っ? それだけですの?」
「そりゃないぜ! たくさん食べられるように頑張ったんだぞ?」
私はそれぞれに抗議してくる二人をジロっと睨んだ。
「あのですね、あれは数日分の食材だったんです。一食分ではありません!」
「そんな……」
「えぇー? いいだろ、もうちょっと増やしても。皆で全部食うって!」
まったく、どれだけ食べるつもりなのか。
「ダメです。ちなみにこれは青龍様と玄武様の分も含まれてますからね」
「そ、そんなぁ!」
「そりゃねぇぜ、お嬢! 俺の取り分が減っちまう! あいつら引きこもってんだからいらねえって!」
こ、この二人は……!
呆れていたら、白虎様の頭上に拳くらいの大きさの氷塊がゴンッと落ちてきた。
「いでっ⁉︎」
「あら、まあ」
ゴロン、と床に落ちた氷の塊をよく見ると、亀の形をしていた。
「これって……?」
「あー……、玄武の仕業だな、こりゃ……すまん、言いすぎた」
白虎様は頭を撫でながらどこに向けてというわけでもなく謝罪した。
「……?」
「クリステア様、今のは玄武がこのバカトラに抗議したのですわ。玄武、私も悪かったですわ。ごめんなさいね」
その瞬間に氷の亀は溶けて消えた。
謝罪を受け入れたってことなのかしら。
「あの、白虎様……大丈夫ですか?」
「あー、うん。平気だ。もっと怒ってたらあの大きさじゃすまねぇし」
え、もっと大きな氷の亀さんが落ちてくるってこと……⁉︎
……できるだけ玄武様を怒らせないようにしようっと。
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9/10(木)はコミカライズ版「転生令嬢は庶民の味に飢えている」(作画:住吉文子先生)の更新日ですのでお楽しみに!
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