上 下
150 / 345
連載

何を作ろうかな?

しおりを挟む
解体スペースの問題はどうにか解決した。
よし、次は実際に料理を……と、思ったけれど、ミリアがまだ帰ってきていない。
肝心の材料がなければ作りようがないのだ。
こんなことなら、作りおきだけじゃなくて食材もある程度インベントリに入れておくべきだったなあ。
そしたら「ミリアに頼んで手配しておいた」とごまかして料理を始められたのに。
さすがに調理済みの料理を出したら「いつの間に⁉︎」と疑われるだろうし。
それに、和食が恋しくなった時のために和食中心に作り置きしておいたから、私やセイたちはともかくニール先生にいきなり和食を出すのはハードルが高いわよね。
はあ、味噌や醤油といったヤハトゥールの調味料なら大体揃えてるんだけどなぁ……ほら、海に行った時みたいに現地で手に入れた食材を使って料理する機会が今後無いとも限らないでしょう?
今度からは玉ねぎやじゃがいものような和食以外にも使える食材もちゃんとインベントリに入れておくことにしよう。

「クリステア嬢。バステア商会の品で必要なものがあれば提供しよう」
私が調理台の前でここに何をどう置こうかあれこれと考えていると、セイが申し出てくれた。
「自分もできるかぎり手伝うつもりだが、我々は料理に関して不慣れだから、せめて食材の提供くらいさせてほしい」
セイはすまなそうに言う。
領地ではお客様だから手伝ってもらうことはなかったし、バステア商会ではヤハトゥールの若様としてお世話されていただろうから料理する機会は皆無だったんじゃないかな?
白虎様たちはどう見ても食べる専門だし。
「材料は学園が手配してくださるそうですからセイ様が負担する必要はございませんわ。配膳などできることからお手伝いしていただけると助かります」
「わかった。できることを少しずつ増やせるよう努力する」
私の言葉にセイはほっとした様子だ。
料理したことない子に無理に手伝わせたりしませんってば。
「私たちは学生なのですから、一番は勉学です。私もできることしかしませんから気負わないでくださいね」
「うむ」
「あっ、でも急遽必要なものがあればお願いするかもしれませんわ」
樽買いしているお味噌や醤油は、よっぽどのことがない限り切らしたりはしないと思うけれど、いざヤハトゥールで扱う独特な調味料を学園経由で手配するとなったらいつ届くかわからないものね。
後で学園に請求してもらうにしても、欲しいものが欲しい時に手に入らないなんて事態は避けたいところだ。
「おう、それは俺らにまかせとけ! サクッと取りに行ってやっから」
「ええ、私どもが確実にお届けしますわ。他にもお手伝いすることがありましたらなんなりとおっしゃってくださいましね」
白虎様と朱雀様が満面の笑顔で請け負ってくださったけれど、それぞれの言葉の後に「美味しいごはんのためなら!」と心の中で叫んでいるに違いない。
「あはは……その時はよろしくお願いいたしますね」
ニール先生はそんな私たちのやりとりを見て「君たち、ずいぶん仲良くなったんだねぇ。聖獣契約しているもの同士だからかな?」と感心していた。
おっと、前から知っているせいか気やすさがにじみ出ていたのだろうか。
「契約している聖獣様は、独占欲から他の聖獣が近寄ると攻撃的になると聞いていたけど、そんなこともないようだし。むしろクリステア嬢に懐いているようでもある」
ギクッ!
聖獣契約ってそういえばそういうものだったっけ。
最近こそ落ち着いてきたけれど、元々黒銀くろがね真白ましろはその傾向が強いものね。
白虎様たちはヤハトゥールの次代の帝になる者を護るという盟約にそって行動しているからか、独占欲らしい独占欲は感じないけれど……だから余計に気安く見えるのかも。
「あ? そりゃ俺たちや主の分までメシ作ってくれるってんだから、感謝するのは当たり前だろ? 礼を欠くようなことをしたら主に恥を欠かせちまう」
「そうですわ。我々は主にふさわしい存在でなければなりませんもの。当然のことですわ」
へえ。ただの食いしん坊かと思っていたけれど、そんな風に考えて動いてたんだ。
「……そうかぁ……! やっぱり聖獣様の行動原理は契約者ってことなんだね!」
ニール先生が興奮気味にメモを取り始めた横でドヤ顔をしている白虎様たちが私を見てウインクしている。
同時に『どうだ? うまいことごまかしただろ?』と白虎様の念話が聞こえた。
……主人を思っての行動なんだと感心していたのに台無しだよ!

「クリステア様、お待たせいたしました」
そうこうしているうちにミリアが戻ってきた。
「今、裏に食材を運ばせておりますので、もう少しお待ちくださいね」
ミリアはそう言って、ニール先生と一緒に奥の扉の魔力登録に向かった。
よおし、食材は届いたし、何を作ろうかな。
ニール先生は和食未体験だろうから、今日のところは無難なところでポトフでも作ろうかしら。
パンはかたいのしかなさそうだから、薄くスライスして温めてチーズをのせようか。
私はメニューとその段取りを考えながら、そっとインベントリからきれいな割烹着を取り出したのだった。
しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

超克の艦隊

歴史・時代 / 連載中 24h.ポイント:8,657pt お気に入り:63

奪ったのではありません、お姉様が捨てたのです

恋愛 / 完結 24h.ポイント:198pt お気に入り:5,488

義妹の身代わりに売られた私は大公家で幸せを掴む

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:3,436pt お気に入り:932

姉は暴君

恋愛 / 完結 24h.ポイント:7pt お気に入り:76

【完結】パパじゃないけどパパが好き!(作品240604)

恋愛 / 完結 24h.ポイント:688pt お気に入り:4

婚約破棄をされたら、お兄様に溺愛されていたと気付きました

恋愛 / 完結 24h.ポイント:35pt お気に入り:2,800

転生チートは家族のために~ユニークスキルで、快適な異世界生活を送りたい!~

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:20,569pt お気に入り:3,283

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。