上 下
154 / 372
連載

何を作ろうかな?

しおりを挟む
解体スペースの問題はどうにか解決した。
よし、次は実際に料理を……と、思ったけれど、ミリアがまだ帰ってきていない。
肝心の材料がなければ作りようがないのだ。
こんなことなら、作りおきだけじゃなくて食材もある程度インベントリに入れておくべきだったなあ。
そしたら「ミリアに頼んで手配しておいた」とごまかして料理を始められたのに。
さすがに調理済みの料理を出したら「いつの間に⁉︎」と疑われるだろうし。
それに、和食が恋しくなった時のために和食中心に作り置きしておいたから、私やセイたちはともかくニール先生にいきなり和食を出すのはハードルが高いわよね。
はあ、味噌や醤油といったヤハトゥールの調味料なら大体揃えてるんだけどなぁ……ほら、海に行った時みたいに現地で手に入れた食材を使って料理する機会が今後無いとも限らないでしょう?
今度からは玉ねぎやじゃがいものような和食以外にも使える食材もちゃんとインベントリに入れておくことにしよう。

「クリステア嬢。バステア商会の品で必要なものがあれば提供しよう」
私が調理台の前でここに何をどう置こうかあれこれと考えていると、セイが申し出てくれた。
「自分もできるかぎり手伝うつもりだが、我々は料理に関して不慣れだから、せめて食材の提供くらいさせてほしい」
セイはすまなそうに言う。
領地ではお客様だから手伝ってもらうことはなかったし、バステア商会ではヤハトゥールの若様としてお世話されていただろうから料理する機会は皆無だったんじゃないかな?
白虎様たちはどう見ても食べる専門だし。
「材料は学園が手配してくださるそうですからセイ様が負担する必要はございませんわ。配膳などできることからお手伝いしていただけると助かります」
「わかった。できることを少しずつ増やせるよう努力する」
私の言葉にセイはほっとした様子だ。
料理したことない子に無理に手伝わせたりしませんってば。
「私たちは学生なのですから、一番は勉学です。私もできることしかしませんから気負わないでくださいね」
「うむ」
「あっ、でも急遽必要なものがあればお願いするかもしれませんわ」
樽買いしているお味噌や醤油は、よっぽどのことがない限り切らしたりはしないと思うけれど、いざヤハトゥールで扱う独特な調味料を学園経由で手配するとなったらいつ届くかわからないものね。
後で学園に請求してもらうにしても、欲しいものが欲しい時に手に入らないなんて事態は避けたいところだ。
「おう、それは俺らにまかせとけ! サクッと取りに行ってやっから」
「ええ、私どもが確実にお届けしますわ。他にもお手伝いすることがありましたらなんなりとおっしゃってくださいましね」
白虎様と朱雀様が満面の笑顔で請け負ってくださったけれど、それぞれの言葉の後に「美味しいごはんのためなら!」と心の中で叫んでいるに違いない。
「あはは……その時はよろしくお願いいたしますね」
ニール先生はそんな私たちのやりとりを見て「君たち、ずいぶん仲良くなったんだねぇ。聖獣契約しているもの同士だからかな?」と感心していた。
おっと、前から知っているせいか気やすさがにじみ出ていたのだろうか。
「契約している聖獣様は、独占欲から他の聖獣が近寄ると攻撃的になると聞いていたけど、そんなこともないようだし。むしろクリステア嬢に懐いているようでもある」
ギクッ!
聖獣契約ってそういえばそういうものだったっけ。
最近こそ落ち着いてきたけれど、元々黒銀くろがね真白ましろはその傾向が強いものね。
白虎様たちはヤハトゥールの次代の帝になる者を護るという盟約にそって行動しているからか、独占欲らしい独占欲は感じないけれど……だから余計に気安く見えるのかも。
「あ? そりゃ俺たちや主の分までメシ作ってくれるってんだから、感謝するのは当たり前だろ? 礼を欠くようなことをしたら主に恥を欠かせちまう」
「そうですわ。我々は主にふさわしい存在でなければなりませんもの。当然のことですわ」
へえ。ただの食いしん坊かと思っていたけれど、そんな風に考えて動いてたんだ。
「……そうかぁ……! やっぱり聖獣様の行動原理は契約者ってことなんだね!」
ニール先生が興奮気味にメモを取り始めた横でドヤ顔をしている白虎様たちが私を見てウインクしている。
同時に『どうだ? うまいことごまかしただろ?』と白虎様の念話が聞こえた。
……主人を思っての行動なんだと感心していたのに台無しだよ!

「クリステア様、お待たせいたしました」
そうこうしているうちにミリアが戻ってきた。
「今、裏に食材を運ばせておりますので、もう少しお待ちくださいね」
ミリアはそう言って、ニール先生と一緒に奥の扉の魔力登録に向かった。
よおし、食材は届いたし、何を作ろうかな。
ニール先生は和食未体験だろうから、今日のところは無難なところでポトフでも作ろうかしら。
パンはかたいのしかなさそうだから、薄くスライスして温めてチーズをのせようか。
私はメニューとその段取りを考えながら、そっとインベントリからきれいな割烹着を取り出したのだった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

僕の家族は母様と母様の子供の弟妹達と使い魔達だけだよ?

闇夜の現し人(ヤミヨノウツシビト)
ファンタジー
ー 母さんは、「絶世の美女」と呼ばれるほど美しく、国の中で最も権力の強い貴族と呼ばれる公爵様の寵姫だった。 しかし、それをよく思わない正妻やその親戚たちに毒を盛られてしまった。 幸い発熱だけですんだがお腹に子が出来てしまった以上ここにいては危険だと判断し、仲の良かった侍女数名に「ここを離れる」と言い残し公爵家を後にした。 お母さん大好きっ子な主人公は、毒を盛られるという失態をおかした父親や毒を盛った親戚たちを嫌悪するがお母さんが日々、「家族で暮らしたい」と話していたため、ある出来事をきっかけに一緒に暮らし始めた。 しかし、自分が家族だと認めた者がいれば初めて見た者は跪くと言われる程の華の顔(カンバセ)を綻ばせ笑うが、家族がいなければ心底どうでもいいというような表情をしていて、人形の方がまだ表情があると言われていた。 『無能で無価値の稚拙な愚父共が僕の家族を名乗る資格なんて無いんだよ?』 さぁ、ここに超絶チートを持つ自分が認めた家族以外の生き物全てを嫌う主人公の物語が始まる。 〈念の為〉 稚拙→ちせつ 愚父→ぐふ ⚠︎注意⚠︎ 不定期更新です。作者の妄想をつぎ込んだ作品です。

婚約破棄の後始末 ~息子よ、貴様何をしてくれってんだ! 

タヌキ汁
ファンタジー
 国一番の権勢を誇る公爵家の令嬢と政略結婚が決められていた王子。だが政略結婚を嫌がり、自分の好き相手と結婚する為に取り巻き達と共に、公爵令嬢に冤罪をかけ婚約破棄をしてしまう、それが国を揺るがすことになるとも思わずに。  これは馬鹿なことをやらかした息子を持つ父親達の嘆きの物語である。

上司に「これだから若い女は」「無能は辞めちまえ!」と言われた私ですが、睡眠時間をちゃんと取れば有能だったみたいですよ?

kieiku
ファンタジー
「君にもわかるように言ってやろう、無能は辞めちまえってことだよ!」そう言われても怒れないくらい、私はギリギリだった。まともになったのは帰ってぐっすり寝てから。 すっきりした頭で働いたら、あれ、なんだか良く褒められて、えっ、昇進!? 元上司は大変そうですねえ。ちゃんと睡眠は取った方がいいですよ?

義妹の嫌がらせで、子持ち男性と結婚する羽目になりました。義理の娘に嫌われることも覚悟していましたが、本当の家族を手に入れることができました。

石河 翠
ファンタジー
義母と義妹の嫌がらせにより、子持ち男性の元に嫁ぐことになった主人公。夫になる男性は、前妻が残した一人娘を可愛がっており、新しい子どもはいらないのだという。 実家を出ても、自分は家族を持つことなどできない。そう思っていた主人公だが、娘思いの男性と素直になれないわがままな義理の娘に好感を持ち、少しずつ距離を縮めていく。 そんなある日、死んだはずの前妻が屋敷に現れ、主人公を追い出そうとしてきた。前妻いわく、血の繋がった母親の方が、継母よりも価値があるのだという。主人公が言葉に詰まったその時……。 血の繋がらない母と娘が家族になるまでのお話。 この作品は、小説家になろうおよびエブリスタにも投稿しております。 扉絵は、管澤捻さまに描いていただきました。

【短編】冤罪が判明した令嬢は

砂礫レキ
ファンタジー
王太子エルシドの婚約者として有名な公爵令嬢ジュスティーヌ。彼女はある日王太子の姉シルヴィアに冤罪で陥れられた。彼女と二人きりのお茶会、その密室空間の中でシルヴィアは突然フォークで自らを傷つけたのだ。そしてそれをジュスティーヌにやられたと大騒ぎした。ろくな調査もされず自白を強要されたジュスティーヌは実家に幽閉されることになった。彼女を公爵家の恥晒しと憎む父によって地下牢に監禁され暴行を受ける日々。しかしそれは二年後終わりを告げる、第一王女シルヴィアが嘘だと自白したのだ。けれど彼女はジュスティーヌがそれを知る頃には亡くなっていた。王家は醜聞を上書きする為再度ジュスティーヌを王太子の婚約者へ強引に戻す。 そして一年後、王太子とジュスティーヌの結婚式が盛大に行われた。

【完結24万pt感謝】子息の廃嫡? そんなことは家でやれ! 国には関係ないぞ!

宇水涼麻
ファンタジー
貴族達が会する場で、四人の青年が高らかに婚約解消を宣った。 そこに国王陛下が登場し、有無を言わさずそれを認めた。 慌てて否定した青年たちの親に、国王陛下は騒ぎを起こした責任として罰金を課した。その金額があまりに高額で、親たちは青年たちの廃嫡することで免れようとする。 貴族家として、これまで後継者として育ててきた者を廃嫡するのは大変な決断である。 しかし、国王陛下はそれを意味なしと袖にした。それは今回の集会に理由がある。 〰️ 〰️ 〰️ 中世ヨーロッパ風の婚約破棄物語です。 完結しました。いつもありがとうございます!

婚約破棄 ~家名を名乗らなかっただけ

青の雀
恋愛
シルヴィアは、隣国での留学を終え5年ぶりに生まれ故郷の祖国へ帰ってきた。 今夜、王宮で開かれる自身の婚約披露パーティに出席するためである。 婚約者とは、一度も会っていない親同士が決めた婚約である。 その婚約者と会うなり「家名を名乗らない平民女とは、婚約破棄だ。」と言い渡されてしまう。 実は、シルヴィアは王女殿下であったのだ。

《勘違い》で婚約破棄された令嬢は失意のうちに自殺しました。

友坂 悠
ファンタジー
「婚約を考え直そう」 貴族院の卒業パーティーの会場で、婚約者フリードよりそう告げられたエルザ。 「それは、婚約を破棄されるとそういうことなのでしょうか?」 耳を疑いそう聞き返すも、 「君も、その方が良いのだろう?」 苦虫を噛み潰すように、そう吐き出すフリードに。 全てに絶望し、失意のうちに自死を選ぶエルザ。 絶景と評判の観光地でありながら、自殺の名所としても知られる断崖絶壁から飛び降りた彼女。 だったのですが。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
番外編を閲覧することが出来ません。
過去1ヶ月以内にレジーナの小説・漫画を1話以上レンタルしている と、レジーナのすべての番外編を読むことができます。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。