上 下
148 / 345
連載

ごめんなさい!

しおりを挟む
「……様! クリステア様!」
ミリアの呼ぶ声が聞こえてきて、私はうっすらと目を開けた。
「クリステア様! 気がつかれましたか! ……よかった」
ミリアがほっとした様子で私を見つめていた。
「……ミリア? 私……」
「厨房の冷蔵室の中を見た途端に倒れられたのですよ。ご気分はいかがですか? 医師を呼びましょうか?」
そうだ。冷蔵室の中にあったオークの生首を見て、気を失ったんだ。
「いいえ、大丈夫よ。ええと、ここは……」
周囲を見渡して確認すると、どうやら私は談話室のソファーに寝かされていたようだ。
黒銀くろがね真白ましろには、気軽に転移しないように言い聞かせておいたから、ニール先生の前では転移しなかったのね、きっと。それに、部屋は結界魔法が施されているから、直接転移はできないと思われるから、手っ取り早くここに寝かせたのだろう。
そういえば、黒銀くろがね真白ましろの姿が見当たらないわね。
普段ならこんな時、べったりと側から離れないと思ったのに……
黒銀くろがね真白ましろはどこ?」
私が尋ねると、ミリアは心配そうに厨房の方角に目を向けた。
「あの……クリステア様をひとまずここへ運んでから、ニール先生を締め上げるとおっしゃって、私にまかせて厨房へ向かわれました」
「ええっ⁉︎」
締め上げるって、怖い想像しかできないんだけど⁉︎
「偶然セイ様と白虎様が降りていらっしゃいましたので、同行なさっていますが……」
あ、そうなの? それなら少しは安心かな……いや、安心するのはまだ早いな。
「とりあえず厨房に向かいましょう」
私はミリアを伴い、急いで厨房に戻った。
黒銀くろがね真白ましろ!」
「主! 大丈夫か⁉︎」
「くりすてあ!」
私が厨房に戻ると、ニール先生が冷蔵室の扉を庇うように立ち塞がり、それを黒銀くろがねたちが取り囲んでいた。
私が声をかけると二人はすぐさま私の元へ駆け寄ってきた。
「ええ、大丈夫よ。心配かけてごめんなさい」
「主、ここは我らがどうにかするから部屋に戻って休むといい」
「おれ、へやまでついていこうか?」
二人は心配そうに私の顔を覗き込む。
どうにかって、どうする気なのよ? むしろ私は、それを止めに来たんだってば!
「大丈夫。さっきはびっくりしちゃっただけよ。それより、これはいったいどういう状況なの?」
「クリステア嬢! ああ、よかった! お願いだよ、これは誤解なんだ! 決して君に害をなそうとしたわけじゃないよ!」
ニール先生は冷蔵室の前で扉を守りながらも足をガクガクと震わせながら半泣きで叫んだ。
「我らを謀ろうとしても無駄だ。主を脅かそうなどと……この痴れ者め」
「ヒッ!」
ニール先生は黒銀くろがねが放つ威圧に小さく悲鳴を上げたので、私はあわてて止めた。
黒銀くろがね、やめなさい! ニール先生は悪くないわ!」
「しかし、此奴のせいで主は倒れたのではないか」
「中に何が入っているのかわからないのに不用意に扉を開けた私に落ち度があったのよ。ニール先生が中を片付ける前だったんだから仕方ないことだわ」
「しかし……」
「でも、くりすてあがたおれちゃったのは、こいつがなかにへんなものをいれてたから、だよね?」
「へっ変なものじゃないよ⁉︎ これは今日、僕の魔獣に与える予定だったんだ!」
ニール先生は私の静止にほっとしたのもつかの間、真白ましろの言葉に必死に抗議した。
うへぇ……あの生首、魔獣のごはんだったの⁉︎
「クリステア嬢が来てくれてよかった。さっきからこの二人が今にもニール先生に襲いかかりそうだったんだ」
セイは私が来たことでほっとしたようだった。
「こいつらを俺一人で止めんのは流石に骨が折れるから、来てくれて助かったぜ」
白虎様もやれやれといった様子ながらも、さりげなくニール先生と黒銀くろがねたちの間に立ち、用心しているようだった。
「セイ様、白虎様。お気遣いいただきありがとうございます。ニール先生、勝手に扉を開けてしまい申し訳ありませんでした。そして、黒銀くろがね真白ましろがご迷惑をおかけいたしました」
私が深々と頭を下げると、黒銀くろがね真白ましろが慌てて私の前に立つ。
「主! 主がそのようなことすることはない!」
「くりすてあはわるくない!」
私は頭を上げると、二人を交互に見つめる。
黒銀くろがね真白ましろ。私が倒れて心配してくれたのはとても嬉しいわ、ありがとう」
私はにっこりと二人に向かって微笑み、それから、真剣な表情で続ける。
「でもね、思い込みや勘違いでニール先生を一方的に責めて傷つけてはいけないわ。そして、あなたたちが間違っていたら、主人である私が責任をとらなくてはならないの。私たちがここで生活する以上、そのルールは守らなくてはいけないの」
「……すまなかった。主が倒れて気が動転した」
「……ごめんなさい」
黒銀くろがね真白ましろは、ニール先生に向き直り、しょんぼりした様子で謝罪した。
「い、いやぁ……いいんだよ。誤解さえ解ければ……は、はは……。僕も、誰も開けないと思って油断してたのが悪かったんだし……」
まったくだよ。でも急遽厨房を明け渡すようにせっついたのは私だし、ニール先生もそんなにいきなり何もかもできるわけじゃないんだから、これは不幸な事故ってやつなのだ。うん、仕方なかった。
「先生、申し訳ありませんが、これからは皆のための食材を入れることになるのですから、あんな状態で入れておくのはやめてくださいね?」
「は、はい……え? 皆?」
ひきつり笑いで答えたニール先生は私の言葉に疑問を持ったようだった。
「はい、これから皆さんの食事はできる限りが私が準備いたしますから」
私はにーっこりと、満面の笑顔で答えた。
もうね、こそこそ私たちの分だけ作るより、皆の分も作ったらいいじゃん? って思うわけですよ。
館でも大量に料理してたんだから、これだけの人数なんて別に苦にならないし。
皆で食べたほうが美味しいし!
「……というわけで、皆さん。これから厨房ここの大掃除をしますよ!」
私はパンパン!と手を叩いて宣言した。
こらこら、白虎様。あからさまに喜んだり嫌がったりしないでくださいよね⁉︎
働かざるもの、食うべからずですからね!

---------------------------
さて、ついに8/13(木)からコミカライズ版「転生令嬢は庶民の味に飢えている」の連載が再開いたしました!
皆様お読みいただけましたでしょうか?
黒銀くろがね真白ましろのあのシーンがついに……おっと、未読の方は是非お読みくださいね!
コミカライズ版は毎月第二木曜日更新予定ですのでお楽しみに!
しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

超克の艦隊

歴史・時代 / 連載中 24h.ポイント:8,230pt お気に入り:62

奪ったのではありません、お姉様が捨てたのです

恋愛 / 完結 24h.ポイント:205pt お気に入り:5,488

義妹の身代わりに売られた私は大公家で幸せを掴む

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:3,542pt お気に入り:932

姉は暴君

恋愛 / 完結 24h.ポイント:7pt お気に入り:76

【完結】パパじゃないけどパパが好き!(作品240604)

恋愛 / 完結 24h.ポイント:887pt お気に入り:4

婚約破棄をされたら、お兄様に溺愛されていたと気付きました

恋愛 / 完結 24h.ポイント:35pt お気に入り:2,800

転生チートは家族のために~ユニークスキルで、快適な異世界生活を送りたい!~

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:20,207pt お気に入り:3,285

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。