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面会希望

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「料理を許可されたのは嬉しいけれど、まさか厨房が解体部屋になってるなんて……困ったわ」
この特別寮で解体しようと思えば、掃除しやすい作りになっている厨房を使うのが一番なんだろうけど、魔物の世話をするために解体の必要があるなら、中庭の一部を解体小屋にするとか他に手はあったでしょうに。厨房として再生できるのか不安だわ……というか、そもそもニール先生が明け渡してくれるのかも怪しいし。
「とりあえずニール先生に交渉してみるしかないわね。その後の掃除が大変そうだけれど……」
元が厨房なんて想像もできないほど悲惨な状態になっているのではなかろうかと思うと……ううっ。掃除したとしても使う気になれるかな。
「お掃除は私が頑張りますから大丈夫です。クリステア様は交渉を頑張ってくださいませ……あら?」
頼もしい発言をしたミリアが何かに気づいたその視線の先を見ると、魔導電話の魔石の一つがチカチカと光っていた。
「この石は……ニール先生?」
うげ、噂をすれば。でもちょうどよかった、これから交渉してみようかな。
私は光る魔石に触れて魔力を流した。
「はい」
『あっ、クリステア嬢かい? お父上はまだいらっしゃるかな? 聖獣様について色々お聞きしたいことがあるんだけど』
「……両親でしたら、私たちをここまで送ってすぐに屋敷へ帰りましたよ」
呑気なニール先生の言葉に脱力しつつも答える。
『ええ~⁉︎ そうなのかい⁉︎ それは残念だなぁ。今度ぜひレオン様についてお聞きたいと伝えてくれるかな?』
お父様の様子を思うに、そんな機会が来ることはないと思うのだけど。
「伝えるだけはいたしますけど……あの、用件はそれだけですが、でしたら……」
『あっ、そうそう! 君に面会希望みたいだよ? 寮の前で女生徒がうろうろしてたから何かと思って声をかけたら、君がここにいないかと訊ねられてね』
「え? 女生徒が面会?」
厨房のことを交渉しようと思ったのに、いきなりの面会希望?
『うん、マリエとかいう名前だったかな?』
「マリエ? ……あっ!」
マリエルちゃんだ!
『知り合いかい? 特別寮に簡単に人を入れるわけにはいかないから、外で待たせているんだけど……』
「友人です! 寮に入れてもいいでしょうか?」
特別寮に来たのは突然のことだったから、マリエルちゃんに知らせる暇がなかったのよね。
『いいけど……出入り口の扉の横にある防犯用の鏡で外の様子を見ることができるから、ちゃんと相手を確認するようにね。談話室を使うといいよ』
「鏡?」
「クリステア様。使い方は私が存じておりますから、下へ向かいましょう」
「わかりました。失礼します」
ミリアがこそっと伝えてきたので、私はコクリと頷いてから、ニール先生との通話を終了した。
「ミリア、行きましょう」
「かしこまりました」
私たちが慌てて出ようとすると聖獣の姿で寛いでいた真白ましろ黒銀くろがねも人化してついてきた。
「まりえるがきたの?」
「そういえばあの娘も学園に入学するのだったか」
「そうよ。同じ寮に入るはずだったんだけど、私たちのことが知られてしまってそのままここに来ることになったでしょう? マリエルさんに知らせる間もなかったから心配させちゃったかも」
急いで階下へ向かい、出入り口に着いた。
ニール先生の言ったとおり、扉の横に姿見があった。横には来客用のコートハンガーなんかも置いてあったから、ただの身だしなみチェック用の鏡かと思っていたのだけど、防犯用の鏡だったらしい。
「普段は普通の鏡ですが、この魔石に触れると……」
「あっ……マリエルさん!」
ミリアが鏡の右側の縁に飾りのように付いていた魔石に触れると、外の様子が鏡に映し出された。見れば、扉の向こうにいるマリエルちゃんが、所在なさげに周囲をきょろきょろしていた。
私が確認したと頷いて見せると、ミリアは鏡の左側の縁にある魔石に触れて鏡に戻した。
「マリエルさん!」
扉を開けて声をかけると、マリエルちゃんが抱きついてきた。
「クリステアさぁん! やっぱりここにいたぁ!」
私はふえぇ、と泣きそうな顔をしたマリエルちゃんを宥めつつ、談話室に通した。
「それにしても、私がよくここにいるってわかったわね」
ミリアにお茶の用意を頼み、ようやく落ち着いた様子のマリエルちゃんに聞いた。
「だって、クリステアさんがいつまで経っても寮に来ないから心配してたところに、今年は聖獣契約者が二人も入学した、しかもどちらも複数契約らしいって噂になってて……契約者が二人って聞いてびっくりしたけど、そのうちの一人はきっとクリステアさんだと思って来てみたの」
うへぇ……もう他寮で噂になってるの⁉︎
どこまで知られてるのか気になるけど、知るのが怖い気もする……
そんなことを考えているうちにミリアがお茶を持ってきたので、それを受け取ってから荷物を片付けるようにと言って部屋に戻らせた。
マリエルちゃんや真白ましろたちにお茶受けとしてクッキーを出すと、嬉しそうに食べはじめた。
「それでね、特別寮に来てみたはいいものの、ここは関係者以外入れないって聞いてたからどうしようかとまごついてたら、ここの寮監の先生に声をかけられたの」
「ニール先生ね。魔物学の講師なのだけど、正門でそのニール先生と使役する魔物がいて、早々に見つかっちゃったのよ」
「そうだったんだ……災難だったね」
「いずれ知られるとは聞かされていたけれど、こんなに早く知られるとは思わなかったわ……それで、女子寮に入る前にそのままここに連れてこられたってわけ。私もあまりの急展開についていけなくて、マリエルさんに知らせられなかったの。ごめんなさいね、心配かけちゃって……」
「ううん、そんなことになってたなら仕方ないわよ。それどころじゃなかったでしょう? 大変だったんだから。私こそ押しかけちゃってごめんなさい」
「ううん、私こそ……」
謝罪合戦になりかけたところで、はたと我に返り、お互いに顔を見合わせてわらった。
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