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ここでもできるかな?
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確かに、今までどおり私たちの食事を自分で作れるのならそれが一番いいのよねぇ……
「でも、学園は集団生活を学ぶところでもあるのだし、私だけがそんな勝手をするわけにはいかないんじゃないかしら。女子寮に入る前に特別寮に入ることになってしまったけれど、そもそも寮生活において自分が料理したいだなんて、そんなわがままを言ってはいけないでしょう?」
だから、いざという時のために、とインベントリに大量の備蓄をしてきたんだもの。
貴族のお嬢様たちはサロンでお茶会を開いたりすることもあるので、紅茶やちょっとしたお菓子の持ち込みは許されている。
まあ、私のようにご飯だのオーク汁だのどら焼きだの持ち込む人はいないと思うけれど、インベントリ内にあるのだから見咎められることもないし。
なんならマリエルちゃんやセイたちを招待してお茶会と称して定期的にご飯会をしてもいいかも、なんて密かに考えていたのだ。
でも、備蓄ばかり食べて寮で食事をしなければ、心配されるか怪しまれるだろう。
ましてや、特別寮では私たちの他にはセイたちやニール先生しかいないからなあ。
ニール先生にはすぐに私たちがろくに食べてないことは気づかれてしまうだろうし、白虎様たちは私たちがこっそり備蓄している料理を食べているのは即座にバレるからきっと黙っていないに決まってる。
「ええ、本来でしたら個人で食事を別に用意させるのは認められません。ですがクリステア様の場合、聖獣の皆様のお世話を理由にご自身で料理する必要があると学園に申請すれば許可されるのではないでしょうか?」
「えっ? そうなの?」
「公爵令嬢自ら料理するというのは非常に珍しいことですが、それが聖獣様のためであるとなれば……。クリステア様が料理なさることはすでに貴族の皆様の間でも周知されていることもありますから」
……まあ、そうね。その点については今更よね。
たとえそれが悪評だろうと、料理していた実績が今回は説得材料になってくれたらいいんだけど。
「……クリステア様、少しここを離れてもよろしいでしょうか? ミセス・ドーラに相談してみます。これからお世話になるのでご挨拶もしたいですし」
「ああ、そうね。ミセス・ドーラにお会いするのは久しぶりなのでしょう? じゃあ手土産も必要よね。これを持っていって」
私はインベントリからどら焼きを取り出しミリアに渡した。
「ありがとうございます! ミセス・ドーラは甘いものには目がない方なのできっと喜ばれます」
ミリアはそう言って、手早く身支度を整えてからミセス・ドーラの元へ向かった。
『くりすてあがここでもりょうりできるようになったらいいね』
聖獣姿に戻った真白が私の隣に座ったので、インベントリからブラシを取り出してブラッシングをはじめる。
「そうね、そうなれば嬉しいわね。でも、許可されなくてもおおっぴらにしなければ、部屋のミニキッチンで料理はできるんだから大丈夫よ」
『何なら我が主が手ずから作ったものが食いたいと学園に直談判するが?』
黒銀もブラッシング待機の姿勢で私の足元に寝そべった。
「やあねぇ、そこまでしなくても貴方たちが食べる分はインベントリにたっぷりあるから問題ないわ。それに、ミリアは何の根拠もなくあんなこと言ったりしないから、きっといい報告をもらえるはずよ」
私はミリアの帰りを待ちながら、ゆっくりとブラッシングを続けた。
「ただいま戻りました」
輝夜のブラッシングを終えたところでミリアが戻ってきた。
「おかえり、ミリア! どうだった?」
待ってましたとばかりに立ち上がって出迎えた私に、ミリアは柔らかく微笑んだ。
「ミセス・ドーラがどら焼きを大変喜んでいらっしゃいましたよ。それから彼女に相談しましたところ、聖獣様のお世話のためであれば問題ないでしょう、とおっしゃいました」
「本当に? やったぁ!」
私が淑女らしさのかけらもなく手放しで喜ぶのをミリアが遠慮がちに遮った。
「ですが、寮の食堂用の厨房での料理はできないそうです。材料は申請すれば準備していただけるそうですが……」
「十分よ! ありがとう!」
「あの……でしたら、どこで料理なさるおつもりですか? ここのキッチンでは手狭ではありませんか?」
「え? そんなことはないと思うけど……あ、でもミリアも使うわよね。どうしようかしら」
ミリアは私のお世話係としてきたのだから、ミリアの仕事場でもあるミニキッチンをたまに借りるだけならともかく、占領するわけにはいかないか。すっかりここで料理すればいいやと思っていたからなぁ。どこで料理しよう……?
うーん、と思案する私に、ミリアがおずおずと答えた。
「私のことはお気になさる必要はございませんが……あの、ミセス・ドーラから特別寮には専用の厨房があると伺いまして」
「専用の?」
「はい。ですが、今まで特別寮にはニール先生がいらっしゃるだけでしたので……」
「なるほど、ニール先生は料理なんてしないから、使われてないってことね? うーん、てことはまず掃除からかぁ……」
多少埃が積もってようが、クリア魔法でどうにかなる程度ならいいけど。
ああそうだ、ミニキッチン同様設備も古いかもしれないから、お父様に頼んで魔導具を寄贈してもらわないといけないわ。
「あ、あのですね。その厨房なのですが……どうも現在はニール先生の解体部屋になっているそうなのです」
「……え? 解体……部屋?」
「はい。ニール先生の使役している魔獣の餌のための解体部屋になっていると……過去にニール先生が学園に申請して許可を得た上でしているのだそうですが……」
「えええええ⁉︎」
ああ、そういえば、解体に使っているとかそんなこと言っていた気がする!
転寮のゴタゴタですっかり忘れてた。
「ニール先生を立ち退かせることができたらそこを使ってもよいでしょう、とのことなのですが……」
「そ、そう……」
「ニール先生の解体部屋」って聞いただけで、結構スプラッタでおどろおどろしいのを想像してしまう。うっぷ。
あんな紅茶を淹れたりするような人が厨房をきれいに使っているとは考えられないんだよね……
たとえ明け渡してもらったとしてもまともに使えるようになるのかな?
だ、大丈夫かなぁ……?
「でも、学園は集団生活を学ぶところでもあるのだし、私だけがそんな勝手をするわけにはいかないんじゃないかしら。女子寮に入る前に特別寮に入ることになってしまったけれど、そもそも寮生活において自分が料理したいだなんて、そんなわがままを言ってはいけないでしょう?」
だから、いざという時のために、とインベントリに大量の備蓄をしてきたんだもの。
貴族のお嬢様たちはサロンでお茶会を開いたりすることもあるので、紅茶やちょっとしたお菓子の持ち込みは許されている。
まあ、私のようにご飯だのオーク汁だのどら焼きだの持ち込む人はいないと思うけれど、インベントリ内にあるのだから見咎められることもないし。
なんならマリエルちゃんやセイたちを招待してお茶会と称して定期的にご飯会をしてもいいかも、なんて密かに考えていたのだ。
でも、備蓄ばかり食べて寮で食事をしなければ、心配されるか怪しまれるだろう。
ましてや、特別寮では私たちの他にはセイたちやニール先生しかいないからなあ。
ニール先生にはすぐに私たちがろくに食べてないことは気づかれてしまうだろうし、白虎様たちは私たちがこっそり備蓄している料理を食べているのは即座にバレるからきっと黙っていないに決まってる。
「ええ、本来でしたら個人で食事を別に用意させるのは認められません。ですがクリステア様の場合、聖獣の皆様のお世話を理由にご自身で料理する必要があると学園に申請すれば許可されるのではないでしょうか?」
「えっ? そうなの?」
「公爵令嬢自ら料理するというのは非常に珍しいことですが、それが聖獣様のためであるとなれば……。クリステア様が料理なさることはすでに貴族の皆様の間でも周知されていることもありますから」
……まあ、そうね。その点については今更よね。
たとえそれが悪評だろうと、料理していた実績が今回は説得材料になってくれたらいいんだけど。
「……クリステア様、少しここを離れてもよろしいでしょうか? ミセス・ドーラに相談してみます。これからお世話になるのでご挨拶もしたいですし」
「ああ、そうね。ミセス・ドーラにお会いするのは久しぶりなのでしょう? じゃあ手土産も必要よね。これを持っていって」
私はインベントリからどら焼きを取り出しミリアに渡した。
「ありがとうございます! ミセス・ドーラは甘いものには目がない方なのできっと喜ばれます」
ミリアはそう言って、手早く身支度を整えてからミセス・ドーラの元へ向かった。
『くりすてあがここでもりょうりできるようになったらいいね』
聖獣姿に戻った真白が私の隣に座ったので、インベントリからブラシを取り出してブラッシングをはじめる。
「そうね、そうなれば嬉しいわね。でも、許可されなくてもおおっぴらにしなければ、部屋のミニキッチンで料理はできるんだから大丈夫よ」
『何なら我が主が手ずから作ったものが食いたいと学園に直談判するが?』
黒銀もブラッシング待機の姿勢で私の足元に寝そべった。
「やあねぇ、そこまでしなくても貴方たちが食べる分はインベントリにたっぷりあるから問題ないわ。それに、ミリアは何の根拠もなくあんなこと言ったりしないから、きっといい報告をもらえるはずよ」
私はミリアの帰りを待ちながら、ゆっくりとブラッシングを続けた。
「ただいま戻りました」
輝夜のブラッシングを終えたところでミリアが戻ってきた。
「おかえり、ミリア! どうだった?」
待ってましたとばかりに立ち上がって出迎えた私に、ミリアは柔らかく微笑んだ。
「ミセス・ドーラがどら焼きを大変喜んでいらっしゃいましたよ。それから彼女に相談しましたところ、聖獣様のお世話のためであれば問題ないでしょう、とおっしゃいました」
「本当に? やったぁ!」
私が淑女らしさのかけらもなく手放しで喜ぶのをミリアが遠慮がちに遮った。
「ですが、寮の食堂用の厨房での料理はできないそうです。材料は申請すれば準備していただけるそうですが……」
「十分よ! ありがとう!」
「あの……でしたら、どこで料理なさるおつもりですか? ここのキッチンでは手狭ではありませんか?」
「え? そんなことはないと思うけど……あ、でもミリアも使うわよね。どうしようかしら」
ミリアは私のお世話係としてきたのだから、ミリアの仕事場でもあるミニキッチンをたまに借りるだけならともかく、占領するわけにはいかないか。すっかりここで料理すればいいやと思っていたからなぁ。どこで料理しよう……?
うーん、と思案する私に、ミリアがおずおずと答えた。
「私のことはお気になさる必要はございませんが……あの、ミセス・ドーラから特別寮には専用の厨房があると伺いまして」
「専用の?」
「はい。ですが、今まで特別寮にはニール先生がいらっしゃるだけでしたので……」
「なるほど、ニール先生は料理なんてしないから、使われてないってことね? うーん、てことはまず掃除からかぁ……」
多少埃が積もってようが、クリア魔法でどうにかなる程度ならいいけど。
ああそうだ、ミニキッチン同様設備も古いかもしれないから、お父様に頼んで魔導具を寄贈してもらわないといけないわ。
「あ、あのですね。その厨房なのですが……どうも現在はニール先生の解体部屋になっているそうなのです」
「……え? 解体……部屋?」
「はい。ニール先生の使役している魔獣の餌のための解体部屋になっていると……過去にニール先生が学園に申請して許可を得た上でしているのだそうですが……」
「えええええ⁉︎」
ああ、そういえば、解体に使っているとかそんなこと言っていた気がする!
転寮のゴタゴタですっかり忘れてた。
「ニール先生を立ち退かせることができたらそこを使ってもよいでしょう、とのことなのですが……」
「そ、そう……」
「ニール先生の解体部屋」って聞いただけで、結構スプラッタでおどろおどろしいのを想像してしまう。うっぷ。
あんな紅茶を淹れたりするような人が厨房をきれいに使っているとは考えられないんだよね……
たとえ明け渡してもらったとしてもまともに使えるようになるのかな?
だ、大丈夫かなぁ……?
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