転生令嬢は庶民の味に飢えている

柚木原みやこ(みやこ)

文字の大きさ
上 下
142 / 386
連載

寮に到着!

しおりを挟む
そうこうしているうちに特別寮に着いた。
馬車からミリアの荷物を降ろすと、お父様たちはそのまま屋敷へ帰っていった。
「くれぐれも身辺には気をつけるように」と一言を残して……
「……さ、さあミリア、中に入りましょう! 黒銀くろがね真白ましろ、荷物を運んでくれる?」
「うむ」
「はーい」
二人は入り口にまとめて置かれたトランクやボストンバッグを持ち、扉を開けてくれた。
「あ……あの、ありがとうございます」
そんな二人にミリアが恐縮しつつ、私と一緒に寮に入った。
ミリアがここに来ると決まったのが昨日のことなので、取り急ぎ必要なものだけをまとめてきたらしい。
また後日改めて取りに戻ると言うので、私の休みに合わせて一緒に帰ることにした。
私がインベントリに収納したらいいんだもんね。
ミリアと輝夜かぐやの魔力登録をして部屋に入ると、ようやくバスケットから解放された輝夜かぐやがんんーっと伸びをしてブルルッと身体を震わせた。
『はーやれやれ、やっと自由になれたよ』
輝夜かぐやは新居の様子が気になるようで、自由に室内を見回りはじめた。
ひとまず落ち着くまで輝夜かぐやは好きにさせておいて、ミリアを案内することにした。
「……で、ここがミリアの部屋ね」
ひととおり設備などを説明しながら奥へ進み、ミリア用の部屋に案内した。
黒銀くろがね真白ましろが自分たちの部屋はいらないと言うので、聖獣用の部屋をミリアの部屋として明け渡したのだけれど「まあ! こんな立派なお部屋は私にはもったいないです」と、ミリアが使用人棟に行くと言って聞かなかった。
私はなんとか説得して、ここで生活してもらうことになった。やれやれ……
ミリアの荷物を部屋に置き、荷ほどきもあるだろうからゆっくりするように言って、私は自室に戻ったのだけれど、しばらくしてからいつものお仕着せの服に着替えたミリアがお茶を入れてきた。
「もうミリアったら。ゆっくり荷ほどきすればいいのに……」
「大して荷物は持ってきていませんから。お気遣いありがとうございます」
と、ミリアはにっこりと笑って言った。
彼女は生真面目だから、こういう時に意外と頑固だ。
荷ほどきはきっと私が寝入ってからやるつもりなのだろう。
今日の就寝時間は少し早めにしようと決めて、お茶をいただくことにした。
「ふふ、ここでもミリアが淹れるお茶を飲めるなんて嬉しいわ」
昨日、ニール先生の淹れた紅茶があまりにも衝撃的だったこともあり、いつもの美味しいお茶にほっこりした。
「まあ、ありがとうございます。私も昨日はクリステア様がいらっしゃらない間、お世話ができなくてさみしいと思っておりましたから、こうして学園でもご一緒できて嬉しいです」
あらやだミリアったら、照れるじゃない。
二人してうふふ……と笑いあっていると、お部屋チェックに満足したらしい輝夜かぐやがやってきて、日当たりのいい窓際で寛ぎはじめた。
『やれやれ。アンタに置いていかれたからどうしてくれようと思ってたんだが、こんなに早くこっちに来ることになるとはねぇ……』
輝夜かぐやはくわぁ……とあくびをひとつするとくるりと丸まって、今にも寝落ちそうだ。
輝夜かぐやを置いていったのは悪かったと思ってるわよ。でも契約しているとはいえ、魔獣を連れて行くわけにはいかないじゃない。ましてや、今は黒猫のすがたなんだから。学園のペットの持ち込みは禁止されてるもの」
『誰がペットだい! アタシはね、今じゃこんなナリにされちまったが、誇り高き魔獣なんだ!』
フシャーッ!と怒る姿はどう見ても黒猫です。ありがとうございます。
「もう、ごめんってば……でもお父様が連れてきてもいいって言ったのなら、輝夜かぐやがここで生活する分には問題ないってことよね?」
「ええ、お館様がそのようにおっしゃっていました。輝夜かぐやが私にしがみついて離れないのをご覧になって『いいから、連れていきなさい』とおっしゃいまして。それでようやく離れたんですよ」
「へぇ……輝夜かぐやったら、そんなに置いてかれてさみしかったんだ?」
私がにやーっと笑って輝夜かぐやを見ると、フン!と顔を背けた。
『ア、アタシにだって魔力をいただく権利があるって言ったろ! この娘に着いてくるのは当然さ!』
尻尾をバン、バン! と床に打ち付けると『今日のメシは置いていった罰として豪華にしなよ!』と言って顔を背けたままま再び丸まってしまった。
「あ……そうだ。ご飯なんだけど……」
「はい。食堂までお供いたしますか?」
「ううん。入学までは寮に待機しているように言われたから、寮の一階にある会議室でいただいてるの。料理はアイテムボックスに入れられているから、それを食べることになっているのよ」
「そうでしたか。でしたら給仕は私がやりますね」
「ええ。でも……」
私が口籠ると、ミリアはピンときたようで、苦笑した。
「学園の食堂のメニューは、クリステア様のお口には合わないでしょうね」
「……そうなのよね……」
この会話だけ聞くと、私がとんでもないわがままお嬢様のように聞こえるけど、違うからね?
王国全体の水準で考えたら美食のほうだけど、あれよ、あれ。私が前世の記憶を取り戻した当初みたいな味。
食事情は以前より良くなっているはずなんだけどなぁ……改善されたのはレシピを購入した貴族や食事処だけなのかな?
まあ、今まであの料理で皆満足していたわけだから、わざわざレシピを購入してまで改善はしなかったってことなのかもしれない。
「できれば、今までのような食事を摂りたいのだけれど、難しいわよね……?」
とはいえ、あの料理を食べ続けるのは無理。できるだけお残しをしない程度に量を減らして、部屋で食べるしかないかな……
「……確か、聖獣様の食事は各々で手配することになっていましたよね?」
「え? ええ。材料は学園で手配してくれるそうよ。真白ましろ黒銀くろがねは私たちと同じものが食べられるから、私のと同じものを出してもらっているの」
「まずいけどね」
「うむ、主の料理が至高。あのようなものわざわざ食べたいとも思わぬが、主が耐えておるので我らもそれに倣っておる」
あわわ……やっぱり我慢して食べてたんだよね。ごめん、二人とも。
『はあ⁉︎ アンタのメシが食えないってのかい? 不味いメシ食わされるんなら何のためにここにきたってのさ⁉︎』
ふて寝していた輝夜かぐやも聞き捨てならないとばかりに抗議してきた。
いや別に輝夜かぐやはここで私の料理食べたらいいと思うよ……?
だって、白虎様や朱雀様も同席することもあるんだから、おっかなくて来れないんじゃないかな?
突然、ニャーニャーと抗議しはじめた輝夜かぐやを横目に、ミリアが言った。
「元々、黒銀くろがね様や真白ましろ様のお食事はクリステア様がご用意されていたのですから、ここでもそのようになさってもいいのではないでしょうか?」
「え?」
それってやってもいいことなの?
しおりを挟む
感想 3,386

あなたにおすすめの小説

【一話完結】断罪が予定されている卒業パーティーに欠席したら、みんな死んでしまいました

ツカノ
ファンタジー
とある国の王太子が、卒業パーティーの日に最愛のスワロー・アーチェリー男爵令嬢を虐げた婚約者のロビン・クック公爵令嬢を断罪し婚約破棄をしようとしたが、何故か公爵令嬢は現れない。これでは断罪どころか婚約破棄ができないと王太子が焦り始めた時、招かれざる客が現れる。そして、招かれざる客の登場により、彼らの運命は転がる石のように急転直下し、恐怖が始まったのだった。さて彼らの運命は、如何。

義母に毒を盛られて前世の記憶を取り戻し覚醒しました、貴男は義妹と仲良くすればいいわ。

克全
ファンタジー
「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。 11月9日「カクヨム」恋愛日間ランキング15位 11月11日「カクヨム」恋愛週間ランキング22位 11月11日「カクヨム」恋愛月間ランキング71位 11月4日「小説家になろう」恋愛異世界転生/転移恋愛日間78位

【短編】婚約破棄?「喜んで!」食い気味に答えたら陛下に泣きつかれたけど、知らんがな

みねバイヤーン
恋愛
「タリーシャ・オーデリンド、そなたとの婚約を破棄す」「喜んで!」 タリーシャが食い気味で答えると、あと一歩で間に合わなかった陛下が、会場の入口で「ああー」と言いながら膝から崩れ落ちた。田舎領地で育ったタリーシャ子爵令嬢が、ヴィシャール第一王子殿下の婚約者に決まったとき、王国は揺れた。王子は荒ぶった。あんな少年のように色気のない体の女はいやだと。タリーシャは密かに陛下と約束を交わした。卒業式までに王子が婚約破棄を望めば、婚約は白紙に戻すと。田舎でのびのび暮らしたいタリーシャと、タリーシャをどうしても王妃にしたい陛下との熾烈を極めた攻防が始まる。

側妃は捨てられましたので

なか
恋愛
「この国に側妃など要らないのではないか?」 現王、ランドルフが呟いた言葉。 周囲の人間は内心に怒りを抱きつつ、聞き耳を立てる。 ランドルフは、彼のために人生を捧げて王妃となったクリスティーナ妃を側妃に変え。 別の女性を正妃として迎え入れた。 裏切りに近い行為は彼女の心を確かに傷付け、癒えてもいない内に廃妃にすると宣言したのだ。 あまりの横暴、人道を無視した非道な行い。 だが、彼を止める事は誰にも出来ず。 廃妃となった事実を知らされたクリスティーナは、涙で瞳を潤ませながら「分かりました」とだけ答えた。 王妃として教育を受けて、側妃にされ 廃妃となった彼女。 その半生をランドルフのために捧げ、彼のために献身した事実さえも軽んじられる。 実の両親さえ……彼女を慰めてくれずに『捨てられた女性に価値はない』と非難した。 それらの行為に……彼女の心が吹っ切れた。 屋敷を飛び出し、一人で生きていく事を選択した。 ただコソコソと身を隠すつまりはない。 私を軽んじて。 捨てた彼らに自身の価値を示すため。 捨てられたのは、どちらか……。 後悔するのはどちらかを示すために。

ここは私の邸です。そろそろ出て行ってくれます?

藍川みいな
恋愛
「マリッサ、すまないが婚約は破棄させてもらう。俺は、運命の人を見つけたんだ!」 9年間婚約していた、デリオル様に婚約を破棄されました。運命の人とは、私の義妹のロクサーヌのようです。 そもそもデリオル様に好意を持っていないので、婚約破棄はかまいませんが、あなたには莫大な慰謝料を請求させていただきますし、借金の全額返済もしていただきます。それに、あなたが選んだロクサーヌは、令嬢ではありません。 幼い頃に両親を亡くした私は、8歳で侯爵になった。この国では、爵位を継いだ者には18歳まで後見人が必要で、ロクサーヌの父で私の叔父ドナルドが後見人として侯爵代理になった。 叔父は私を冷遇し、自分が侯爵のように振る舞って来ましたが、もうすぐ私は18歳。全てを返していただきます! 設定ゆるゆるの、架空の世界のお話です。

兄がやらかしてくれました 何をやってくれてんの!?

志位斗 茂家波
ファンタジー
モッチ王国の第2王子であった僕は、将来の国王は兄になると思って、王弟となるための勉学に励んでいた。 そんなある日、兄の卒業式があり、祝うために家族の枠で出席したのだが‥‥‥婚約破棄? え、なにをやってんの兄よ!? …‥‥月に1度ぐらいでやりたくなる婚約破棄物。 今回は悪役令嬢でも、ヒロインでもない視点です。 ※ご指摘により、少々追加ですが、名前の呼び方などの決まりはゆるめです。そのあたりは稚拙な部分もあるので、どうかご理解いただけるようにお願いしマス。

余命宣告を受けたので私を顧みない家族と婚約者に執着するのをやめることにしました

結城芙由奈@コミカライズ発売中
恋愛
【余命半年―未練を残さず生きようと決めた。】 私には血の繋がらない父と母に妹、そして婚約者がいる。しかしあの人達は私の存在を無視し、空気の様に扱う。唯一の希望であるはずの婚約者も愛らしい妹と恋愛関係にあった。皆に気に入られる為に努力し続けたが、誰も私を気に掛けてはくれない。そんな時、突然下された余命宣告。全てを諦めた私は穏やかな死を迎える為に、家族と婚約者に執着するのをやめる事にした―。 2021年9月26日:小説部門、HOTランキング部門1位になりました。ありがとうございます *「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています ※2023年8月 書籍化

公爵令嬢はアホ係から卒業する

依智川ゆかり
ファンタジー
『エルメリア・バーンフラウト! お前との婚約を破棄すると、ここに宣言する!!」  婚約相手だったアルフォード王子からそんな宣言を受けたエルメリア。  そんな王子は、数日後バーンフラウト家にて、土下座を披露する事になる。   いや、婚約破棄自体はむしろ願ったり叶ったりだったんですが、あなた本当に分かってます?  何故、私があなたと婚約する事になったのか。そして、何故公爵令嬢である私が『アホ係』と呼ばれるようになったのか。  エルメリアはアルフォード王子……いや、アホ王子に話し始めた。  彼女が『アホ係』となった経緯を、嘘偽りなく。    *『小説家になろう』でも公開しています。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
番外編を閲覧することが出来ません。
過去1ヶ月以内にレジーナの小説・漫画を1話以上レンタルしている と、レジーナのすべての番外編を読むことができます。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。