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学園長との面談

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私たちは、ニール先生に続いて廊下の突き当たりにある学園長室の扉の前に立った。
……と同時に、ニール先生がノックもせずバンッ!といきなりドアを開けた。
えええええ?
「やあ、パメラ。昨日から急な面会予約が続いて悪かったね。もう入っても大丈夫かな?」
いや、ニール先生。既にズカズカと入ってますから。
そこは若干広めの部屋で、こちらから見て右手にソファーなどの応接セット、左手には重厚感のある執務机が置かれ、そこに髪をアップにし、銀縁の眼鏡をかけた女性が座っていた。
え、この方が学園長?
いやいや、ニール先生はパメラって呼んでたし……いくらなんでも学園長に対して気安すぎない?
それに、先に来ているはずのお父様やお母様の姿が見えないし……
私が両親の姿を探していると、パメラと呼ばれた女性がスッと席を立った。
「学園長は先ほどからエリスフィード公爵夫妻とお話し中です。……ニール先生、入室前にノックしなさいとあれほど言っているではありませんか。貴方はもう一度生徒たちと一緒にマナーを学び直す必要があるようですわね」
彼女はハア……とため息をつきながらツカツカと机から離れ、部屋の奥……私たちから見て正面にあるドアの前まで移動した。
どうやら、ここは学園長室の控えの間で、そのドアの向こうが本当の学院長室らしい。そしてこの女性は学園長の秘書のようだ。
彼女はレースなどの装飾を極力抑えた、カチッとしたシンプルなドレスを身につけているけれど、コルセットで締め上げたウエストは折れそうに細く、胸やお尻はバーン!とハリがあって……なんというか、真面目そうに見えて妖艶な美人秘書!って感じだった。
そりゃこんだけスタイルよければ装飾なんていらないよね……私は下を向いて、その視界の良さにため息をつきそうになるのを辛うじて堪えた。
いやいや、私には未来という名の希望があるのだ。
「まあまあ。そんなことしなくてもパメラは魔法でドアの向こうにいるのが僕だってわかってるんだからいいじゃない」
ニール先生がそう言ってヘラッと笑うと、ツカツカと部屋の奥へ進み、私はあわててその後に遅れないよう続いた。
パメラと呼ばれたその女性は片眉を上げ、眼鏡に手を添えながらニール先生を睨んだ。
「私が外の人物が誰なのかを知っていようと関係ありません。礼儀の問題です。まったく……学園長がお待ちですよ」
彼女はニール先生に対する小言は諦めた様子で、奥のドアをノックし、中に向かって声をかけた。
「学園長。ニール先生が生徒同行でいらっしゃいました」
「入りなさい」
ドアの向こうから返事が聞こえたと同時に、パメラがスッとドアを開け身を引いた。
「失礼します」
ニール先生に続いて奥の部屋に入ると、そこは控えの間よりさらに広い空間だった。
天井も高く、豪華な応接セットに大きな執務机、壁一面はぎっしりと本が詰め込まれた書棚になっていて、その手前にある大きな作業台らしきテーブルには、書きかけの魔法陣や古い巻物、素材などが雑多に置かれていた。
「クリステア」
聞き覚えのある声に名前を呼ばれて目を向けると、お父様とお母様がソファーに座ってこちらを見ていた。
「お父様、お母様……」
「おお、クリステア嬢、久しぶりじゃの。学園に来て早々に保護者呼び出しとは、お前さんもついとらんのう」
「マーレン師⁉︎」
お父様達の対面の席に座って呵呵と笑うのは、領地で魔法学を教わっていたマーレン師だった。
……後ろ姿が見覚えのある輝きだなぁ、とは思ったけど、まさかここにマーレン師がいるとは思わなかったよ……
「マ、マーレン先生!」
裏返ったような声が聞こえ、隣にいるニール先生を見ると、ガチガチに緊張した様子で立っていた。
「うん? ニールか? ……おぬし、まーだ学園におったんか。王宮勤めがしたいとか言っとらんかったかの?」
「は、はあ……希望は出していたのですが、推薦状がいただけなくて……」
マーレン師の疑問に、ニール先生がしょんぼりして答える。
「そうじゃろうて。おぬしの場合、聖獣様にお会いしたい、できればお世話係になりたいという動機じゃからのぅ。そりゃ誰も不安要素しかないおぬしを推薦したいもんはおらんじゃろ」
「そ、そんなぁ……」
マーレン師が髭をなでつつ、うんうんと頷きながら言うのでニール先生は涙目だった。
……王宮勤めの志望動機が国を護る聖獣レオン様に会いたい、なんならお世話したいって……普段のニール先生を知る人ならそりゃ推薦したくないって気持ちになるだろうなぁ。
下手なことしてレオン様の機嫌を損ねでもしたら、ニール先生の首ひとつじゃすまない気がするもの……こわっ!
「まあまあ、マーレン殿。ニール君は魔物に関しての知識は並外れておるのですから、学園でその才を十分に発揮してくれたらよいのですよ」
「が、学園長おぉ~!」
涙目だったニール先生が感激した様子で見つめるその先にいたのは、いかにも魔法使いといったローブを纏った、長~いお髭のダンディな老紳士だった。
「私がこのアデリア学園の学園長をしているエドモンド・ファーガソンだ。君が、エリスフィード公爵の愛娘のクリステア嬢かな?」
穏やかな笑みにボーッと見惚れかけたけど、お母様の視線にハッとした私は、気を取り直して淑女の礼カーテシーをした。
「大変失礼をいたしました。エリスフィード公爵が娘、クリステアでございます」
足の先まで神経を行き渡らせ、きれいな挨拶をしてみせた。
よし、これならお母様に後から怒られたりはしないはず。これ以上、お小言の種を増やすわけにはいかない。
「ふむ、さすがはエリスフィード公爵家の御息女といったところかな。美しい礼だ」
「恐れ入ります」
お母様の満足げな笑みを見るに、どうやら合格点だったみたいね。ふう、よかった。
「さて、早速だが本題に入ろうか」
座りなさい、と学園長に促され、ニール先生はマーレン師の隣に、学園長はお父様とマーレンの間に、そして私は学園長と向かい合うように座った。
黒銀くろがね真白ましろは座るのを固辞して私の背後に立つ。
いよいよだ。
私はギュッと手を握りしめ、姿勢を正した。
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