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改めて聖獣ってすごい存在なのねと

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「まあ、なんだ。結局すぐにバレちまったけど、こうして美味いメシが食えるのは不幸中の幸いってやつだな!」
「ええ……本当に……至福の時ですわぁ」
白虎様は、にぱっと笑っておにぎりをぱくつき、朱雀様はとろけるような笑顔で黙々と食べていた。
「馬鹿者。クリステア嬢はこれからが大変なんだ。それなのに飯を集るとは情けない……すまない、クリステア嬢」
「気にしないで、セイ。貴方もあまり食が進んでなかったでしょう? さあ、食べて食べて」
私は申し訳なさそうに頭を下げるセイに笑顔で料理を勧め、私は皆の分のお茶を煎れて対面のソファに座った。
「セイたちも災難だったわね。私もまさかこんなに早く見つかるとは思わなかったわ」
「ありゃしょうがねぇよ。弱い魔物は得てして臆病で、過剰なまでに強者の存在に敏感だ。まあ、そうでないと逃げ切れないからな。俺たちだって、まさかあんなのが学園にいるだなんて思わねぇしよ」
白虎様が肩を竦めて言う。
そういえば、輝夜かぐやも白虎様たちのことおっかないって隠れて、怯えてたものね。
「そうですわね。そもそもあのように小さく弱きものの存在など、私たちは気にしたりしませんもの。大抵はあちらが逃げてしまいますし。今回の誤算はニールとやらが使役しているために逃げなかった……いえ、逃げられなかったと言うのが正しいですかしら」
「逃げられなかった?」
ひととおり食べ終わって満足したのか、ゆっくりとお茶をすすった朱雀様が私の疑問にこくりと頷いた。
「ええ。あの猿は契約獣ではなく使役獣ですわね。我々のように契約するのではなく、力で隷属し使役しているようですわ。我々を見ても逃げなかったのは魔法で離れないように命令していたからかと」
朱雀様の言によると、あのティミッドモンキーは魔物界(?)でも最弱の種だそうで。
それ故に脅威を素早く察知し、最速で逃げるのが得意なんだって。
それなのに、自分たちがいるのに逃げることなく騒ぎ立てたのは逃げたくても逃げられないように魔法か何かで離れられないようにしていたのではないかというのが朱雀様の見解だった。
確かに、私たちの時も悲鳴を上げるばかりで逃げ出したりはしなかった。
ニール先生には念話が聞こえていなかったみたいだけど、先生のことを『バカ』って言って背中側に移動して先生を盾にしていたような気はするけど……せめてもの抵抗ってやつだったのかしら。
「ニールとやらは、あの猿の性質を利用して索敵に使っているのだろう」
黒銀くろがねが、忌々しそうに言うと食事を終えた白虎様がゆったりとソファに座り直してお茶を手にして言った。
「そうみたいだな。毎年何かしら魔物だのペットだのを無許可で持ち込む奴がいるから定期的に見回ってるって奴が言ってた」
あー……そりゃ見つからないわけがないわ。
だからお兄様もあの時諦めたような態度だったんだ。
遅かれ早かれ見つかるって、そういうことだったのね……
「まあ、契約のことを黙ってたから面倒なことになっちまったけど、入学は拒まれなかったし、国への報告も学園長がうまいことやってくれたみてぇだから、お前たちもそんな心配すんなって!」
遠い目をしていた私に、白虎様がウインクしながらそう励ましてくれた。
そう言われても、明日両親まで呼び出されて学園長と面談しなくてはならない私としては心配するなと言われても無理な話で。
「そういえば、セイ。白虎様たちとの契約については学園長にどのように説明したの?」
セイはヤハトゥールを統べる帝の、いわゆるおとだねってやつで、秘密裏に武家の子として育てられていたのだけれど、セイの存在を知る正妃に命を狙われていたのだ。
正妃の子である長子……セイの腹違いの兄は病弱で、自分の息子を帝にしたい正妃がセイを亡きものにしようとしていた。
帝になる気などなかったセイは、義理の父の勧めでヤハトゥールを出奔し、海を渡って遠くこのドリスタン王国に留学生として入学するためにやってきたのだ。
セイが学園に入学できる年齢になるまではとツテを頼ってヤハトゥールと懇意にしている我が領地に本店があるバステア商会に身を寄せていた。そこへ私がヤハトゥールの品を探しに行ったところで出会ったんだけど……
その時は追っ手の目をくらますために女装……いや、変装のために女の子の着物を身に纏っていたから、すっかり騙されて女の子だと思ってたのよね……だから、男の子だって知った時は本当に驚いたもの。
そこまでして正妃の追っ手から逃れようとしていたのに、ヤハトゥールを発つ時に現れた白虎様をはじめとした四神獣の皆様がセイに契約を迫ったからさあ大変。
四神獣は次期帝を護るための存在だったからだ。
いつまで経っても息子の元へ四神獣が現れないことに焦った正妃が確実を期してセイの命を未だに狙っているっていうのに……
「ドリスタン王国ではヤハトゥールの継承の条件は知られていない。だから、俺が次期帝になるかもしれないってことは伏せてある。だから、トラたちのことは高貴な方から俺の護衛として遣わされ、仮に契約している関係だと伝えている」
「たまたま顕現してたのが俺と朱雀だけだったからな。全員揃ってるのをあのババアが知ったらセイの身がやばいから、青龍と玄武は隠密行動に専念してもらうことになってる」
「私は護衛兼侍女として仕えていることになってますの」
なるほど。高貴な方、すなわち帝が白虎様と朱雀様をセイのボディガードとしてつけたということにしたのね。仮に契約って……聖獣契約って、そういうのアリなのかしら?
まあヤハトゥールの場合、帝は地脈を司る神龍と契約して国民からすれば神様のような存在になるらしいので、その神様が命令したんだし、その対象を護るためには契約が必要ってことであれば納得……かな?
「そういうわけで、俺の場合、ドリスタン王国の聖獣契約とは少し意味合いが違うのだと学園長には説明してある。だから、ヤハトゥールからの留学生である俺にちょっかいをかけると護衛のこいつらが黙ってないぞって国へ報告したはずだ」
「そ。ドリスタン王国の王族と契約しているのは獅子だけだろ? いくら奴が強くても、俺たち二人を相手にしたらどうなるかわかるよな? ってね」
「な……なるほどです……ね?」
脅しかよ! とツッコミたくなるのをグッと堪えた私、えらい。
「しかし、ここへきてクリステア嬢の聖獣契約か明るみになったことで均衡が崩れてしまうかもしれんな……」
「あっ……」
私が契約している真白ましろ黒銀くろがねの存在でパワーバランスが崩れてしまい、セイの立場が弱まってしまった。
「まあ! あるじったら、問題ありませんわ。私たちが総員で争うことにでもなれば、この王都など焦土と化してしまいますから、愚か者でもない限り無益に争うよりも友好を深めるほうを選ぶのが得策とわかりますもの」
「だよなぁ。ドリスタン王国がアホでないことを祈るぜ」
「は……はは……」
王都が焦土と化すって、どんだけなのよ⁉︎
今更ながら、聖獣ってものすごく強大な力を持ってるんだと実感し、内心震えた私なのだった。
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