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ある意味懐かしい味
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ダイニングテーブルを見ると、人数分の料理がトレイにセットされ、各席に置かれていた。
どうやら寮の食堂で提供されるのをそのまま持ってきたみたい。
「聖獣様の分の量が足りないようなら、この魔法箱に予備があるからね。こいつは時間停止機能付きだから、熱々が食べられるよ。入学式まで食事を摂る時はここに入れておくから各自で取り出して食べるようにね」
ニール先生は席の横に置いてある箱にポンと手を乗せた。
魔法箱は、インベントリのように空間拡張された魔導具だ。
領地の冒険者ギルドのギルドマスターであるティリエさんが持っている魔法袋と同じような機能のもので、インベントリのように必ずしも時間停止機能があるわけではないのだ。多少時間経過は緩やかになるようだけれどね。
時間停止機能付きになると値段が跳ね上がるらしく、それくらいなら容量の大きいもののほうが重宝されると以前マリエルちゃんから雑談の中で聞いたことがある。
どちらにしてもお高い品であることには変わりないのだけれど。
それなのに、そこにあるのは貴重な時間停止機能付きらしい。
「いやー、これが活用できてよかった。このアイテムボックスは僕が研究に没頭すると食事を摂るのを忘れちゃうもんだから、ミセス・ドーラがこのままでは僕や使役している魔物達が餓死しかねないと学園に掛け合ってくれたんだよね。……まあ、単に魔法箱の購入費用を学園に立て替えてもらっただけで、僕が月々使用料として分割払いで給料から差し引かれてるんだけどね……あはは」
……せ、世知辛いなぁ。
あはは~……と乾いた笑いを浮かべるニール先生には気の毒だけれど、魔法箱のおかげでニール先生や使役獣の食生活を支え、今さらにこうして役立っているので、先生は是非とも返済を頑張ってほしい。
ニール先生にエールを送りながら、テーブルの奥に座るニール先生を挟んで右手側にセイたちが、左手側に私たちが席についた。
……これが、寮の食事かぁ。
トレイには、ギトギトに油が浮かんだスープ、かたいパン、香辛料や塩で濃く味付けされ焼きすぎのお肉の塊がドーン!といった具合で並んでいた。
いやー……久々にこういうの見たわ。
我が家の料理は出汁やそれに付随する旨味のことを知って以来、それを上手に使うようになったから、今ではここまでごってりしたメニューは作らなくなっていたのよね。
私も魔力循環が上手くなったから、魔力を補うためにカロリーの高いこてこて料理が必要なくなったし。
私は恐る恐るスープから手をつけた。
「い……いただきます」
うう……味そのものは悪くないんだけど、油っこい。
パンも我が家のパンに比べたらかたいので、スープに浸して食べることにした。
「どうだい? 美味しくないだろう?」
ハッとニール先生を見ると、苦笑しつつお肉と格闘していた。
「エリスフィード公爵家の料理は美味だと聞いてるよ」
「いえ、そんなことは……」
ありますけど。
「エリスフィード公爵家のクリステア嬢のレシピといえばかなりの人気なんだそうだ
ね」
「そ、そうなんですか……」
「クリステア嬢の在学中に食堂の改善を期待したいところだね」
「はは……そうですね」
何? 遠回しに改善しろって要求されてるみたいな気がするんだけど⁉︎
一介の生徒にそういうこと言っちゃダメでしょお?
「ああそうだ、クリステア嬢。今日は学園長が不在だったから行けなかったけど、明日の午前中に君の聖獣契約の報告に行くから君も同席してね。ご両親もいらっしゃるから」
ニール先生が「明日は雨だから」みたいにシレッと告げてきたので、一瞬理解できなかった。
「……ッ! ゲホッ! え、あの? 明日……ですか?」
学園長に報告⁉︎ しかもお父様たちも同席して⁉︎
「そうだよ? あ、聖獣のお二方もね」
ニール先生はなんてことないように答えてお肉を頬張った。
「多分、その時に君の侍女も来ると思うから、それまでは自分で身の回りのこと頑張ってね。……大丈夫だよね?」
「え、あの、はい。それは大丈夫ですけど……」
ちょ、待って? 入学前に、契約のことがバレた挙句保護者呼び出しって……!
「いやー、学園長も大変だよね。今日セイくんの件で報告するために登城したのに、また行かなきゃいけないんだもんねぇ」
「えっ」
「ああ、今日学園長が不在なのは、セイくんが聖獣契約していることを王宮に報告するためだったんだ。セイくんの場合、留学生だから国が手出しするのはまずいし、その対策も兼ねてだね」
セイを見ると苦笑気味に頷いた。
「あの……私のことも報告されるのでしょうか?」
「そりゃあ、そうだよ。聖獣契約は国に報告の義務があるからね」
「そんな……」
早過ぎる。学園に入学したらなんとかなると思ってたのに、こんなに早く知られちゃうなんて。
「まあ、明日は学園長への報告と、君の今後についての相談だね」
「……今後、ですか?」
「そう。国への報告は義務だからしかたないけど、聖獣契約者として将来君がどうしたいかを学園長やご両親と一緒に確認するんだよ。セイくんの場合、保護者不在ってこともあるから本人の希望を確認して国にその意向を報告しに行ったのさ」
「そう……ですか」
「まあ、そんなに気負わないでね。明日の朝、また出る時間を教えるから」
ニール先生はそう言って食事を続けた。
「わかり、ました……」
……てことは、まだ希望があるってこと?
『……おい、お嬢。後で話があるからニールが部屋に引っ込んでからこっそり談話室に来い』
突然白虎様の念話が聞こえた。
パッと顔をあげると、セイや白虎様たちはこちらを気にすることなく食べていた。
『お嬢、聞こえてただろ? また後でな』
『は……はい』
私はぐるぐるといろんなことを考えながら、目の前の料理と格闘するのだった。
---------------------------
いつも庶民の味をお読みいただき、ありがとうございます。
拙作が原作のコミカライズ版1巻(作画:住吉文子先生)が3月31日に発売いたしました。
それに伴いWEBで連載していた分は1話のみ無料公開となっております。
元気に動き回るクリステアや白黒コンビをぜひお手元でお楽しみくださいね!
そして、4月7日頃、文庫版の一巻が発売になります!
内容は書籍版と同じですが、こちらはおまけの書き下ろし番外編を収録しています。
クリステアの侍女、ミリア視点のお話です。ミセス・ドーラも出てますよ(小声)
書店で見かけた際はよろしくお願いします~( ´ ▽ ` )
どうやら寮の食堂で提供されるのをそのまま持ってきたみたい。
「聖獣様の分の量が足りないようなら、この魔法箱に予備があるからね。こいつは時間停止機能付きだから、熱々が食べられるよ。入学式まで食事を摂る時はここに入れておくから各自で取り出して食べるようにね」
ニール先生は席の横に置いてある箱にポンと手を乗せた。
魔法箱は、インベントリのように空間拡張された魔導具だ。
領地の冒険者ギルドのギルドマスターであるティリエさんが持っている魔法袋と同じような機能のもので、インベントリのように必ずしも時間停止機能があるわけではないのだ。多少時間経過は緩やかになるようだけれどね。
時間停止機能付きになると値段が跳ね上がるらしく、それくらいなら容量の大きいもののほうが重宝されると以前マリエルちゃんから雑談の中で聞いたことがある。
どちらにしてもお高い品であることには変わりないのだけれど。
それなのに、そこにあるのは貴重な時間停止機能付きらしい。
「いやー、これが活用できてよかった。このアイテムボックスは僕が研究に没頭すると食事を摂るのを忘れちゃうもんだから、ミセス・ドーラがこのままでは僕や使役している魔物達が餓死しかねないと学園に掛け合ってくれたんだよね。……まあ、単に魔法箱の購入費用を学園に立て替えてもらっただけで、僕が月々使用料として分割払いで給料から差し引かれてるんだけどね……あはは」
……せ、世知辛いなぁ。
あはは~……と乾いた笑いを浮かべるニール先生には気の毒だけれど、魔法箱のおかげでニール先生や使役獣の食生活を支え、今さらにこうして役立っているので、先生は是非とも返済を頑張ってほしい。
ニール先生にエールを送りながら、テーブルの奥に座るニール先生を挟んで右手側にセイたちが、左手側に私たちが席についた。
……これが、寮の食事かぁ。
トレイには、ギトギトに油が浮かんだスープ、かたいパン、香辛料や塩で濃く味付けされ焼きすぎのお肉の塊がドーン!といった具合で並んでいた。
いやー……久々にこういうの見たわ。
我が家の料理は出汁やそれに付随する旨味のことを知って以来、それを上手に使うようになったから、今ではここまでごってりしたメニューは作らなくなっていたのよね。
私も魔力循環が上手くなったから、魔力を補うためにカロリーの高いこてこて料理が必要なくなったし。
私は恐る恐るスープから手をつけた。
「い……いただきます」
うう……味そのものは悪くないんだけど、油っこい。
パンも我が家のパンに比べたらかたいので、スープに浸して食べることにした。
「どうだい? 美味しくないだろう?」
ハッとニール先生を見ると、苦笑しつつお肉と格闘していた。
「エリスフィード公爵家の料理は美味だと聞いてるよ」
「いえ、そんなことは……」
ありますけど。
「エリスフィード公爵家のクリステア嬢のレシピといえばかなりの人気なんだそうだ
ね」
「そ、そうなんですか……」
「クリステア嬢の在学中に食堂の改善を期待したいところだね」
「はは……そうですね」
何? 遠回しに改善しろって要求されてるみたいな気がするんだけど⁉︎
一介の生徒にそういうこと言っちゃダメでしょお?
「ああそうだ、クリステア嬢。今日は学園長が不在だったから行けなかったけど、明日の午前中に君の聖獣契約の報告に行くから君も同席してね。ご両親もいらっしゃるから」
ニール先生が「明日は雨だから」みたいにシレッと告げてきたので、一瞬理解できなかった。
「……ッ! ゲホッ! え、あの? 明日……ですか?」
学園長に報告⁉︎ しかもお父様たちも同席して⁉︎
「そうだよ? あ、聖獣のお二方もね」
ニール先生はなんてことないように答えてお肉を頬張った。
「多分、その時に君の侍女も来ると思うから、それまでは自分で身の回りのこと頑張ってね。……大丈夫だよね?」
「え、あの、はい。それは大丈夫ですけど……」
ちょ、待って? 入学前に、契約のことがバレた挙句保護者呼び出しって……!
「いやー、学園長も大変だよね。今日セイくんの件で報告するために登城したのに、また行かなきゃいけないんだもんねぇ」
「えっ」
「ああ、今日学園長が不在なのは、セイくんが聖獣契約していることを王宮に報告するためだったんだ。セイくんの場合、留学生だから国が手出しするのはまずいし、その対策も兼ねてだね」
セイを見ると苦笑気味に頷いた。
「あの……私のことも報告されるのでしょうか?」
「そりゃあ、そうだよ。聖獣契約は国に報告の義務があるからね」
「そんな……」
早過ぎる。学園に入学したらなんとかなると思ってたのに、こんなに早く知られちゃうなんて。
「まあ、明日は学園長への報告と、君の今後についての相談だね」
「……今後、ですか?」
「そう。国への報告は義務だからしかたないけど、聖獣契約者として将来君がどうしたいかを学園長やご両親と一緒に確認するんだよ。セイくんの場合、保護者不在ってこともあるから本人の希望を確認して国にその意向を報告しに行ったのさ」
「そう……ですか」
「まあ、そんなに気負わないでね。明日の朝、また出る時間を教えるから」
ニール先生はそう言って食事を続けた。
「わかり、ました……」
……てことは、まだ希望があるってこと?
『……おい、お嬢。後で話があるからニールが部屋に引っ込んでからこっそり談話室に来い』
突然白虎様の念話が聞こえた。
パッと顔をあげると、セイや白虎様たちはこちらを気にすることなく食べていた。
『お嬢、聞こえてただろ? また後でな』
『は……はい』
私はぐるぐるといろんなことを考えながら、目の前の料理と格闘するのだった。
---------------------------
いつも庶民の味をお読みいただき、ありがとうございます。
拙作が原作のコミカライズ版1巻(作画:住吉文子先生)が3月31日に発売いたしました。
それに伴いWEBで連載していた分は1話のみ無料公開となっております。
元気に動き回るクリステアや白黒コンビをぜひお手元でお楽しみくださいね!
そして、4月7日頃、文庫版の一巻が発売になります!
内容は書籍版と同じですが、こちらはおまけの書き下ろし番外編を収録しています。
クリステアの侍女、ミリア視点のお話です。ミセス・ドーラも出てますよ(小声)
書店で見かけた際はよろしくお願いします~( ´ ▽ ` )
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