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えっ? ここに?

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「ん? 各部屋にはメイドがお茶を淹れるための魔導コンロを備えた小部屋があるよ。使用するには魔石が必要だけど」
ニール先生の話によると、特別寮はセキュリティの関係で各部屋の出入り口が独立していることから、メイドの移動の手間を減らすため各部屋にミニキッチンを備えているそう。
「それに、厨房は……無くもない、けど……」
「けど?」
「僕が解体用に使ってるからあんまりきれいな場所とは言い難いんだよねぇ……」
私はてへっ☆と笑ってごまかすニール先生を思わずジト目で見つめた。
……あの紅茶の淹れ方を鑑みるに、その厨房と言う名の現・解体部屋は凄まじい状態なんじゃなかろうか。
……近づかないのが賢明な気がする。
とりあえずそのミニキッチンを見てからどうするか考えることにしよう。
「……そうですか。では、その小部屋というのは私が使っても大丈夫でしょうか?」
「それは構わないけど……メイド用だから設備は簡素だよ? ……うーん、そうだねぇ、セイくんは身の回りの世話は朱雀様がするそうだからまあいいかと思ってたんだけど、クリステア嬢は公爵令嬢なんだし、僕らと同じようにってわけにはいかないか。せめて一人くらいは特別寮専属のメイドを回して貰わないと。うーん、特別寮ここに馴染めるような適任がいるかなぁ……」
ニール先生が頭を掻きながら呟いていたところに、ミセス・ドーラが戻ってきた。
「クリステアさん、荷物はお部屋に運び終わりましたよ。空部屋は定期的に掃除しているからそのまま使えます。荷ほどきはご自身でなさいね」
ミセス・ドーラはそう言いながら私に鍵を手渡した。
「は、はい……」
私は、部屋に運び込まれたであろう荷物の山を想像してげんなりした。
基本的に私が必要と思っているものはインベントリに収めているからしまう必要はないけれど、お父様やお母様が持たせてくれた荷物が山ほどあるのだ……
貴族用の部屋に入る予定だったこともあり、それなりに広さがあるもんだから、あれも持ってけ、これがないと困るかもしれない、これはいざという時に役に立つはず!……などと言ってあれこれ持たせようとしたから、厳選するのに苦労したのだ。
私は何が学園生活に必要なのかよくわからなかったのでミリアに丸投……いやおまかせしたんだけど、最後は自分で何が必要かしっかり確認してくださいね、と釘を刺されてしまった。
仕方なく渡されたリストを見ると、ミリアが厳選したはずなのに荷物はほとんど減っていなかった。
……要は、ミリアもなんだかんだ言って過保護だった、と。
仕方なく私はこんなに部屋に入るわけがないし、インベントリに仕舞い込んだって使わないから! と心を鬼にして減らしに減らしまくったのだ。
あまりにすっきりさせ過ぎたもんだから、逆にやり過ぎだ! と皆に呆れられ、せめてこれだけでも持っていきなさい! と譲歩されてさらに厳選しまくって元の三分の一の量まで減らすことに成功? したのだった。
とはいえそれでも多いから、不要なものはインベントリに収納しておこうと思う。
だって、片付けるの面倒なんだもの……
学生なんだし、ドレスなんてたくさんいらないよ。
基本装備は制服でいいじゃない……
他にも友人と部屋でお茶する時の為に状況に応じて茶器を十数セットだの、招待状を出すためのレターセットだのと、それがTPOに合わせて必要な数があるからあれもそれもこれも……と膨れ上がるというね。
いやわかりますよ?
淑女たるもの、TPOに相応しい品をコーディネイトしてゲストを完璧にもてなすものだってのは。
でもさあ、私達学生じゃん?
最低限あるもので、できる限り心尽くしのおもてなしができたらそれでよくない?
……ていうかね、そんな気取ったお茶会より、気心の知れた友人とカフェでおしゃべりしながら美味しいスィーツをシェアしたりしたいの! そういうのが夢なの!
マリエルちゃんと同じ寮になったら、こっそりパジャマパーティーとかするの夢だったのになぁ……
……いかん、話が逸れた。
とにかく、なんだかんだで荷物が多かったから、すぐに使う予定のない荷物は先に送っていたのだ。
荷物にはエリスフィード公爵家の紋章入りで封印魔法がかけてあるから、私が魔法を解除して開封するまでは中身を見られたり盗まれたりする心配はないのだけれど、封印にあからさまに紋章が使われているから、運び出される荷物が私のものだと周囲にはバレバレだと思うのよね……今頃女子寮では色んな噂が飛び交ってるんじゃないかな。
うん、これは入学式まで引きこもっていた方が良さそう。はは……
私が遠い目をしていると、ニール先生がミセス・ドーラに質問していた。
「あの、ミセス・ドーラ。特別寮に回せるメイドはいませんか? クリステア嬢付きにしたいのですが……」
「そうねぇ。事前にわかっていればなんとかしましたが、今から再編成するのは難しいと思いますよ。クリステアさんが入る予定だった部屋付きのメイドは他の部屋も担当していますし……それに聖獣様方がこれだけいらっしゃる中では、何か粗相をしてしまわないかと緊張して、仕事にならないのではないかしら……」
ミセス・ドーラは困ったようにため息をついた。
学園の寮生活では、基本的に自分のことは自分でやるのが原則だけれど、貴族の子女はなかなかそうもいかないことが多い。だから部屋付きのメイドとしてある程度のお世話をしてくれる専属メイドをつけることも可能なんだけど、それにはそれ相応のお金がかかる。
我が家の財力を考えれば、たいした負担にもならないけれど、四六時中部屋の側で待機されてしまうと真白ましろ黒銀くろがねが忍び込めないかもしれないから、本当に最低限のことだけしてもらえたら、あとは自分でやりますと渋る両親を説得したのだ。
まあ正直な話、ある程度自分のことは自分でできるし、そもそも知らないメイドさんに出入りされたくないしなー……いくらセキュリティばっちりでもそれじゃ意味なくなっちゃう気がする。
貴族って、メイドとか使用人のことを空気みたいに考えてるところがあるよね……
それに、聖獣の強大な力を持っていると思えば、機嫌を損ねやしないかと心配になるもの無理はないのはわかる。
誰だってそんな地雷だらけのところで働くのは嫌だろう。
ニール先生にひとまず自分でなんとか頑張ってまますと言おうとしたその時、ミセス・ドーラが思い出したように顔を上げて私を見た。
「……そういえば、クリステアさん?」
「はっはい!」
「ミリアはまだ貴女の侍女として働いているのかしら?」
「えっ?」
ミリア? なぜミセス・ドーラがミリアを知っているの?
「は、はい。ミリアは私付きの侍女ですが……ミリアをご存知なのですか?」
「ええ、それはもちろん。彼女もここの卒業生ですからね。よく覚えていますよ」
「そうなのですか……」
そっか、ミリアも多少は魔力があるから学園に在籍してたんだっけ。
よくよく考えたらミリアって、私の先輩だったんだね。
「彼女は貴女が学園に在籍中、王都の屋敷に待機しているのではなくて?」
「ええ、そうですわ」
ミセス・ドーラはいたずらっぽい笑顔を向けて言った。
「では、彼女にここへ呼んではどうかしら?」
「えっ! ミリアを?」
この特別寮に⁉︎
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