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強者、ミセス・ドーラ
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ミセス・ドーラは私達にお茶を手際よくサーブしてからニール先生の隣に座った。
「さあどうぞ。まったく、お茶菓子もないなんて。ごめんなさいね」
「いえ、お構いなく……いただきます」
正直さっきから喉が乾いていたので遠慮なくいただくことにした。
……とてもニール先生が淹れたのと同じ茶葉を使ったとは思えないほど香り高く美味しい。なんだか初めて飲んだとは思えないような飲みやすさだった。
「クリステアさん、契約者がこの特別寮に入るのには理由があるのですが、その理由はわかりますか?」
「え、ええと……聖獣の居場所がないから、でしょうか?」
私が女子寮に入寮した場合、人型が男性の姿である真白と黒銀は当然入れないだろう。
ましてや、聖獣の姿は尚更よね。
だから、真白達の魔力供給は、契約のことがバレるまでこっそりと〝通い〟でするしかないかなと思っていたんだ。
「ええ、それも理由のひとつね。聖獣様や魔獣を伴って他の生徒との寮生活は難しいでしょう。妙ないざこざで事故に発展してもいけません。貴女やニール先生のように、契約者の皆さんは己の契約獣の扱いに慣れていても、他の生徒はどう対応したらよいのか皆目見当もつきませんからね」
確かに。仮に私が契約していなかったとして、他のご令嬢が契約者だったとしたらどう対応したらいいのかわからなかったかもしれないわ。
まあ、その契約獣がもふもふ聖獣や魔獣なら、どうにか触らせてもらえるよう契約者とお近づきになろうと全力で頑張るけど。
……あ、そんな風に近寄ってくる人達を避けるためでもあるのかしら……はは。
「過去、自分のほうが主人として相応しいのだと思い込んだ生徒が、すでに契約を交わしていた魔獣を奪おうと契約者である生徒に怪我を負わせ、それに逆上した契約獣に襲われたという事件がありました。その魔獣はとても契約者の生徒に懐いていたから、主人を傷つけられ、怒りに我を忘れたのです……。ちょっかいをかけた生徒はなんとか命は取り止めましたが、そのまま退学になりました」
「ええっ?」
契約した魔獣を奪うなんて、そんなことできるの? 無理でしょ⁉︎ 傷つけられたらそりゃ怒るでしょ……真白と黒銀が怒りに我を忘れたらと思うと……怖い考えになってしまった。
「愚かな。我らが主人と認めたからにはそう軽々しく鞍替えするわけがなかろう。まあ、魔獣はどうなのかはわからんがな」
「だよね。そんなことかんがえるばかをしゅじんにするわけない」
黒銀、真白、同調して怒るのはやめよう……?
「え……あら、まあ! 私ったらてっきりお二人は侍従か護衛の方とばかり……」
ミセス・ドーラは驚きに目を見開き、黒銀と真白を見つめた。
「そうなんだよ! すごいだろう⁉︎ どちらも人化した聖獣様なんだ! それだけで高位の存在だってわかるだろう? それがこの学園に集うなんて、こんな機会は滅多にないことだと思わないかい⁉︎」
ニール先生は興奮した様子でミセス・ドーラに力説していた。
「ニール先生は少しお静かになさっていてくださる? まったく、学生の頃から研究のことになると周りが見えなくなるのは悪い癖ですよ?」
「うっ……はい」
ミセス・ドーラにギロリと睨まれたニール先生は大人しくソファに座り直した。
「よろしい。ごめんなさいね、騒がしくしてしまって」
ミセス・ドーラ、強い……!
これからニール先生絡みで何かあったら、ミセス・ドーラに相談しよう、うん。
「そう……クリステアさん、その若さで複数契約なんてすごいのね」
ミセス・ドーラは微笑みながら褒めてくれると、黒銀と真白がうんうんと頷いた。
「うむ。我が主と認めたのだからな」
「くりすてあだからけいやくしたんだよ」
「まあまあ、クリステアさんは契約者として優れた資質をお持ちなのね。頼もしいこと」
「あ……ありがとうございます」
んもー、二人とも! 嬉しいけど恥ずかしいじゃないの! 機嫌がよくなって何よりだけど、お願いだから大人しくしててよね⁉︎
「あらあら、話が逸れてしまいましたね。ごめんなさい。説明したように、愚かなことを考える生徒がいないとも限らないのです。そういう事故を出さないため、そして契約獣が心安らかに過ごせるように契約者のための特別寮が作られました。契約獣によっては獣舎が必要な場合がありますからね。そういった設備も備えているのですよ」
「そうなのですか……」
確かに、同じ寮内だとトラブルが起きやすいかもしれないから契約者は隔離しておくほうが安全なのかもしれない。
「あの、この特別寮に入る理由はわかりましたが、ここの寮監はミセス・ドーラではないのですよね?」
「ええ。私は女子寮の寮監をしておりますから。特別寮はその特性上、男女同じ寮となりますが、それぞれが独立した出入り口となっていますから安心なさいね。現在使用している部屋以外の鍵は私が管理しているので、それを持ってきたのですよ」
「特別寮は僕が寮監を兼任しているから、何かあれば僕になんでも相談していいよ。特に聖獣のことなんかはどんな些細なことでも相談してほしいな!」
ニール先生はにこやかにそういうけれど、相談っていうより、単に先生が聖獣に興味があるからってだけだよね⁉︎
先生には悪いけど、あんまり相談したくないかな……
「……寮が違うからミセス・ドーラにご相談してはいけないのでしょうか?」
「えっ? クリステア嬢、僕に……」
「いいえ、かまいませんよ。女性でなくては相談しづらいこともあるでしょうし、必要ならニール先生にもご報告しますから。それでよろしいですね?」
「え、あ、はあ……はい」
さすがミセス・ドーラ。ニール先生をジロリと睨んだだけで黙らせた。
「ちょっと待ってください。現在、在校生に契約者はいないはずです。ということは、この寮にニール先生とクリステアだけということになるのでは? それは身内として看過できません!」
今まで黙って聞いていただけのお兄様が怒りを隠さずに発言した。
……え、この特別寮に私達とニール先生だけ……?
そ、それは毎日質問攻めに合いそうで嫌だあぁ!
---------------------------
コミカライズ版「転生令嬢は庶民の味に飢えている」(作画:住吉文子先生)最新話が13日(木)に更新されています!
3月下旬にはコミックス1巻も刊行予定です!
無料で読める今のうちにぜひお楽しみくださいね( ´ ▽ ` )♪
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「クリステアさん、契約者がこの特別寮に入るのには理由があるのですが、その理由はわかりますか?」
「え、ええと……聖獣の居場所がないから、でしょうか?」
私が女子寮に入寮した場合、人型が男性の姿である真白と黒銀は当然入れないだろう。
ましてや、聖獣の姿は尚更よね。
だから、真白達の魔力供給は、契約のことがバレるまでこっそりと〝通い〟でするしかないかなと思っていたんだ。
「ええ、それも理由のひとつね。聖獣様や魔獣を伴って他の生徒との寮生活は難しいでしょう。妙ないざこざで事故に発展してもいけません。貴女やニール先生のように、契約者の皆さんは己の契約獣の扱いに慣れていても、他の生徒はどう対応したらよいのか皆目見当もつきませんからね」
確かに。仮に私が契約していなかったとして、他のご令嬢が契約者だったとしたらどう対応したらいいのかわからなかったかもしれないわ。
まあ、その契約獣がもふもふ聖獣や魔獣なら、どうにか触らせてもらえるよう契約者とお近づきになろうと全力で頑張るけど。
……あ、そんな風に近寄ってくる人達を避けるためでもあるのかしら……はは。
「過去、自分のほうが主人として相応しいのだと思い込んだ生徒が、すでに契約を交わしていた魔獣を奪おうと契約者である生徒に怪我を負わせ、それに逆上した契約獣に襲われたという事件がありました。その魔獣はとても契約者の生徒に懐いていたから、主人を傷つけられ、怒りに我を忘れたのです……。ちょっかいをかけた生徒はなんとか命は取り止めましたが、そのまま退学になりました」
「ええっ?」
契約した魔獣を奪うなんて、そんなことできるの? 無理でしょ⁉︎ 傷つけられたらそりゃ怒るでしょ……真白と黒銀が怒りに我を忘れたらと思うと……怖い考えになってしまった。
「愚かな。我らが主人と認めたからにはそう軽々しく鞍替えするわけがなかろう。まあ、魔獣はどうなのかはわからんがな」
「だよね。そんなことかんがえるばかをしゅじんにするわけない」
黒銀、真白、同調して怒るのはやめよう……?
「え……あら、まあ! 私ったらてっきりお二人は侍従か護衛の方とばかり……」
ミセス・ドーラは驚きに目を見開き、黒銀と真白を見つめた。
「そうなんだよ! すごいだろう⁉︎ どちらも人化した聖獣様なんだ! それだけで高位の存在だってわかるだろう? それがこの学園に集うなんて、こんな機会は滅多にないことだと思わないかい⁉︎」
ニール先生は興奮した様子でミセス・ドーラに力説していた。
「ニール先生は少しお静かになさっていてくださる? まったく、学生の頃から研究のことになると周りが見えなくなるのは悪い癖ですよ?」
「うっ……はい」
ミセス・ドーラにギロリと睨まれたニール先生は大人しくソファに座り直した。
「よろしい。ごめんなさいね、騒がしくしてしまって」
ミセス・ドーラ、強い……!
これからニール先生絡みで何かあったら、ミセス・ドーラに相談しよう、うん。
「そう……クリステアさん、その若さで複数契約なんてすごいのね」
ミセス・ドーラは微笑みながら褒めてくれると、黒銀と真白がうんうんと頷いた。
「うむ。我が主と認めたのだからな」
「くりすてあだからけいやくしたんだよ」
「まあまあ、クリステアさんは契約者として優れた資質をお持ちなのね。頼もしいこと」
「あ……ありがとうございます」
んもー、二人とも! 嬉しいけど恥ずかしいじゃないの! 機嫌がよくなって何よりだけど、お願いだから大人しくしててよね⁉︎
「あらあら、話が逸れてしまいましたね。ごめんなさい。説明したように、愚かなことを考える生徒がいないとも限らないのです。そういう事故を出さないため、そして契約獣が心安らかに過ごせるように契約者のための特別寮が作られました。契約獣によっては獣舎が必要な場合がありますからね。そういった設備も備えているのですよ」
「そうなのですか……」
確かに、同じ寮内だとトラブルが起きやすいかもしれないから契約者は隔離しておくほうが安全なのかもしれない。
「あの、この特別寮に入る理由はわかりましたが、ここの寮監はミセス・ドーラではないのですよね?」
「ええ。私は女子寮の寮監をしておりますから。特別寮はその特性上、男女同じ寮となりますが、それぞれが独立した出入り口となっていますから安心なさいね。現在使用している部屋以外の鍵は私が管理しているので、それを持ってきたのですよ」
「特別寮は僕が寮監を兼任しているから、何かあれば僕になんでも相談していいよ。特に聖獣のことなんかはどんな些細なことでも相談してほしいな!」
ニール先生はにこやかにそういうけれど、相談っていうより、単に先生が聖獣に興味があるからってだけだよね⁉︎
先生には悪いけど、あんまり相談したくないかな……
「……寮が違うからミセス・ドーラにご相談してはいけないのでしょうか?」
「えっ? クリステア嬢、僕に……」
「いいえ、かまいませんよ。女性でなくては相談しづらいこともあるでしょうし、必要ならニール先生にもご報告しますから。それでよろしいですね?」
「え、あ、はあ……はい」
さすがミセス・ドーラ。ニール先生をジロリと睨んだだけで黙らせた。
「ちょっと待ってください。現在、在校生に契約者はいないはずです。ということは、この寮にニール先生とクリステアだけということになるのでは? それは身内として看過できません!」
今まで黙って聞いていただけのお兄様が怒りを隠さずに発言した。
……え、この特別寮に私達とニール先生だけ……?
そ、それは毎日質問攻めに合いそうで嫌だあぁ!
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