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悲鳴の正体

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『イヤアアアァ! 助ケテーッ! 殺サレルウウウゥ!』
馬車の外では、誰かがずっと途切れることなく悲鳴を上げ続けていた。
いったい何なの⁉︎ 馬車の外で何が起きてるっていうの⁉︎
思わぬ事態に動揺している私と違って、お兄様は落ち着いた様子で外の様子を伺っていた。
「あー……よりにもよってニール先生か」
お兄様がポツリと呟いた。
え? よりにもよってって何? どういうこと⁉︎
『イヤアアアァ! ヤメテエェ! 殺サナイデエェ!』
外からは未だに悲鳴が響き渡っていた。
それなのに、窓の外に見える生徒達は不思議そうにこちらを遠巻きに見ながら通り過ぎているだけで、私はそのことに違和感を覚えた。
「……喧しい猿め。いい加減その煩い口を閉じんか。八つ裂きにされたいか?」
黒銀くろがねが向こうにいるであろう声の主に低い声で小さくボソッと言うや否や『ヒッ』と小さな悲鳴をあげ、大人しくなった。
ちょ、黒銀くろがね⁉︎ 穏やかでない発言はやめようよ⁉︎
黒銀くろがね、どうしたの?」
「いや、喧しい猿がキィキィと煩かったのでな」
「……猿?」
猿って、あのお猿さん?
私が疑問に思っていると馬車のドアがスッと開いた。
黒銀くろがねが咄嗟にドアの前に立ち塞がると、その隙間から男性がひょこっと顔を出した。
「やあ、ノーマン君の馬車だったんだね。休暇はゆっくりできたかい?」
明るい緑の瞳をお兄様に向け、人懐こい笑顔で声を掛けてきたその男性は、金茶色の長い髪を無造作にひとつにまとめ、生成りのシャツに皮のジャケットを羽織り、黒のトラウザーズで全体的にラフな印象だった。
「馬車の紋章でわかっているでしょうに、わざとらしい……ええ、休暇はゆっくりさせていただきましたよ。それで? もう行ってもいいですか?」
お兄様がため息混じりに答えているけれど、普段人当たりのいいお兄様がこんな冷たい態度で接するなんて珍しい。
「いやいや、つれないなぁ。用件はこれからだよ。それに、そこにいるご令嬢を紹介してくれないのかい?」
顔を覗かせたままの男性の視線がこちらを向いた。
……ものすごく興味津々です、みたいな目でこちらを見てるんですけど?
「……今年入学する、妹のクリステアです。クリステア、こちらは魔物学の教師で召喚術を指導するニール先生だよ」
「あ……っ! あの、妹のクリステアですわ。こんなところから失礼いたします」
いきなり紹介され、慌てて挨拶する。
「ニールです。よろしくね。さて、挨拶も済んだところで少しお話があるんだけど。僕も馬車にお邪魔していいかな?」
「……しかたありませんね。クリステア、こちらにおいで」
にっこりと、でも有無を言わせぬ様子のニール先生の様子に、お兄様はひとつため息をつき、私をお兄様の隣の席に呼び寄せた。
私が慌ててお兄様の隣に座ると、黒銀くろがねは渋い顔で体を引いた。
そこへニール先生がにこにこと馬車に乗り込んできた。
「すまないね。いやあ、さすがエリスフィード公爵家の馬車だ。豪華だねぇ」
車内を見渡す先生のその背中には小さなお猿さんがプルプルと震えながらしがみついていた。
大きな目と耳で、ちょっとメガネザルに似ていてかわいい!
お猿さんはその大きな目を目一杯見開き、ニール先生の背中にぎゅうぎゅうとしがみついていた。
「いたたたた、ちょ、髪掴むのやめて! ほら、おいで」
ニール先生は手を伸ばしてお猿さんを抱こうとするけれど、お猿さんは私達からできるだけ距離を取ろうとニール先生を盾にして隠れていた。
ああん、かわいいからよく見たいのに……!
『バカ! ヤダ! 殺サレルウゥ!』
……え? お猿さんが喋った?
「あー、もう。ごめんね? さっきからこいつがキーキー煩くて」
ニール先生が無理矢理お猿さんを背中から剥ぎ取り、皮のジャケットの懐に押し込むと、お猿さんはササッ!と素早く潜り込んでチラッと顔を覗かせた。か、かわいい!触りたーい!
「こいつは僕の使い魔で、ティミッドモンキーって魔物なんだ」
なんと、このお猿さん魔物だったんだ⁉︎
使い魔ってことは、先生の契約獣ってこと?
「こいつは名前の通りとても臆病でね。その分危機察知能力に長けているから索敵に向いているんだ」
へえ……でもあんなに騒いでたら魔物に気付かれちゃって、むしろ索敵には不向きだと思うんだけどな。
「普段は教え込んだ合図で魔物や標的の存在を知らせるんだけど……ここまで取り乱すって珍しいんだよね」
ニール先生が懐のお猿さんをポンポンと叩くとビクッとしてプルプル震えていた。
……え。それって……
「こいつがこんなに怯えるってことは、この馬車にあるってことなんだけど……心当たりはあるよね?」
ニール先生はにっこりと笑って私達を見つめた。
……え、心当たりって。
ありまくりですけど……まさか⁉︎
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