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仕上がりました!
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そんなこんなでマリエルちゃんはホットドッグを5本も平らげた。
「はふぅ……、美味しかったあぁ。もう食べられないぃ……」
明らかにぽっこりと出たお腹を撫でつつ、ソファでくつろいでいるマリエルちゃんは、呆れたように見つめる黒銀と真白の視線も物ともしない。
『まりえる、たべすぎ』
『うむ。動けぬようになるまで食べるとは……』
「だってぇ……クリステアさんの作るご飯が美味しいから仕方なくないですか? 登山家がそこに山があれば登りたくなるように、美味しいものがあれば食べたくなるのが人情ってものじゃないですか」
いやそれ例えがよくわからないから。
美味しいって言ってくれるのは嬉しいけどね。
『トザンカというのはよくわからんが、主の料理が美味いというのは同意する』
『だね』
「あはは、皆ありがとう。だけど、マリエルさんやっぱり食べすぎよ? 制服が入らなくなったらどうするの」
そう、食べ過ぎて体型が変わると体に合わせて作った制服が入らなくなるじゃない。
「大丈夫ですって。ちゃーんと対策してるの、忘れた?」
「ああ……そうだったわね」
マリエルちゃんは前世でコスプレイヤーだった経験を活かして、制服に色々と改造を加えていたのだった。
貴族のご令嬢が権威を示すためにゴテゴテと飾り付ける改造とは違い、密かにウエスト調整できたり、内ポケットなどをたくさんつけたりと実用的な改造を施していた。
そういえば私も、ウエスト調整のアイデアをいただいたんだったわ。
「……それでも、調整できるのにも限度があるんだから気をつけてね?」
「う……で、でもいざとなったらお直しは自分でできるし」
「そういう問題じゃないから。マリエルさんのシルエットが変わったら、ご飯あげませんからね?」
「う、は、はぁい……」
往生際の悪いマリエルちゃんにしっかりと釘を刺し、緑茶と羊羹を出した。
マリエルちゃんの羊羹は気持ち薄めにして。
「え? あれ? クリステアさん、これ……」
真白や黒銀に出された分とは明らかに違う厚みに戸惑うマリエルちゃんを華麗にスルーし、緑茶をすする。
「あの、クリステアさ……」
「ん? 何かしら?」
「ナ、ナンデモナイデス……」
マリエルちゃんは口ごもると、ちびちびと薄い羊羹を食べ始めた。
よしよし。私の料理のせいでマリエルちゃんの体型を変えさせるわけにはいかないもの。
「そうそう。制服と言えば、今日仕立て上がってくる予定なのよね」
「えっ、今頃? 届くのが遅くない? エリスフィード家ともなれば、どんな魔改造制服だろうが超特急で仕上がってきそうなものなのに」
確かに、貴族の中でも高位であるエリスフィード家の令嬢の制服ともなれば「どこの家よりも早く仕上げてお持ちします!」となるんだけどね……
でもきっと、どこの家も「うちのをどこよりも早く!」と言っているだろうから、私は「特に急がないから丁寧な仕事をしてほしい」とお願いしたのだ。
ミシンのないこの世界、しっかりとした縫製の仕立服はお高いのだ。超特急で作って雑な仕立てになるよりは、ゆっくり丁寧に仕立てて欲しい。
もちろん、我が家に納めるものだから変なものは納められないと、超特急でも良い仕立て上がりになるのかもしれないけれど、そのために職人の皆さんがしなくてもいい苦労をさせることになりそうだもの。そんなことでブラックな職場環境にさせるわけにはいかない。
それに、入学まで時間はあるのだから急ぐ必要なんてないと思うのよね。むしろ、あまり早くに納品されるとそれを見たお母様が「やっぱり、簡素過ぎやしないかしら……?」とさらなる装飾を施しそうだから、届くのはギリギリの方がいいと思ったのだ。
そうマリエルちゃんに言うと「あぁ……」と納得したような表情を見せた。
ありがとう、理解者がいて嬉しいよ……
魔改造のヤバさにマリエルちゃんと共感していると、ミリアがやってきた。
「クリステア様、制服が納品されたそうなのですが……」
「あら、もうそんな時間?」
「あっ、長々とお邪魔してごめんなさい! 帰りますね!」
私はマリエルちゃんが慌てて帰ろうとするのを引き止めた。
「せっかくだから、仕立て上がった制服を見ていかない? マリエルさんの改良点もどんな風にできたかチェックして欲しいわ」
「えっ……でも……いいの?」
「もちろんよ! さ、行きましょう」
マリエルちゃんがいてくれた方が、お母様もあれこれと余計な追加注文をしないと思うし……
私はマリエルちゃんと一緒に仕立て屋のサリーが待つ応接室に向かった。
「クリステア様、大変お待たせいたしました。お時間をいただいた分、良いものに仕立て上がったと思いますわ」
「わあ……」
サリーが自信満々に見せたそれは、想像通り……いや、それ以上に良いものだった。
「すごい……なんて丁寧な仕立て。あっこんなところに隠し刺繍が! 素敵!」
マリエルちゃんは自作レイヤーだった前世を思い出したのか、袖や裾の刺繍や細かな細工に目を輝かせながら観察していた。
うんうん。金糸や銀糸でギラギラの刺繍は絶対にしたくなかったので、同色の糸でさりげなく入れてもらったのよね。
試着してみると、締め付けもなく程よくフィットしていい感じだった。
「わあ……クリステアさん素敵! 上品だし、とっても可愛いです!」
私が着替えて衝立から出てくるなりマリエルちゃんが歓声をあげた。
「ええ……いいのではないかしら。ねえ、サリー?」
おおっと、お母様は少し物足りない様子だけれど、マリエルちゃんの反応を見て何も言えない様子。やっぱりマリエルちゃんを連れてきてよかった……!
「ええ、とてもお似合いですわ!」
サリーも満足げな様子で細かな部分をチェックしていた。
「ありがとう、とても気に入りましたわ。良い仕事をしていただいてありがとうございます」
私がお礼を言うと、サリーは首を振り、深々と礼をした。
「こちらこそ、満足のいく仕事をさせていただき本当にありがとうございました。それに……あのウエストを調整するアイデアは素晴らしいですわ! あれなら、何度もサイズ直しをする必要がなくなりますもの」
サリーもマリエルちゃんのように目を輝かせて言った。
「ああ、あれは彼女のアイデアなんです。私も良いものを作っていただくのだから長く着たくて、彼女のアイデアを使わせていただいたのですわ」
私はそう言ってマリエルちゃんを紹介すると、サリーがすごい勢いでマリエルちゃんに詰め寄った。
「まあ……! 貴女があれを? よかったら、私の店であのアイデアを使わせていただけないかしら? もちろん、アイデア料はお支払いしますわ!」
「へあっ⁉︎ え、あ、あの……は、はい!」
マリエルちゃんはタジタジとしながらもビジネスとなると気持ちが切り替わったようで使用料など細かな取り決めを後日するようサリーさんと約束していた。
「そうですか、貴女がメイヤー男爵様の……近々お伺いいたしますわね」
「ええ、よろしくお願いいたします」
サリーはそう約束すると、お母様が新しいドレスを注文したいようだったので、私たちは応接室を出たのだった。
「はあ……びっくりした」
「ふふ、よかったわね」
「ええ、思わぬところでお小遣い稼ぎができそうだわ」
うふふと笑うマリエルちゃんは完全に商人の顔をしていた。たくましい……
「はあ。制服も届いたし、あとは入学式を待つだけね」
そう、私達はもうじきアデリア学園に入学するのだ。
「あら、その前に入寮しなくちゃいけないわよ?」
そうだった。王都の館に慣れる前に、学園の寮に入寮するのだった。
「……入寮かぁ」
なんだかんだで真白と黒銀のことをどうすればいいのか決めかねたままなのだ。
お父様やお兄様は「どうせ聖獣契約のことは早々にばれてしまうので気にするだけ無駄だ」と言うのだけど……できれば知られないで済めばその方がいいんだけどなぁ。
「はあ……なるようにしかならないよね」
「え?」
「なんでもない。今度会うのは学園で、かしら?」
「そうね。学園生活、楽しみましょうね! じゃあ、また。学園で!」
「ええ、また」
私はマリエルちゃんを乗せた馬車を見送ると、自室へと戻った。
いよいよ、学園に入学かあ……
真白と黒銀のことは心配だけれど、お父様やお兄様がどうにかしてくれると信じるしかない。
ああ、どうか平穏な学園生活ができますように……!
---------------------------
更新遅くなりまして申し訳ありませんでしたー!
これで本年の更新は最後になります。
2019年は続刊も出していただいた上に、コミカライズまで……怒涛の一年間でした!
書き始めた当初は、まさかこんなことになるとは思ってもいなかったので、今でも夢なんじゃないのかと思うほどです。
それもこれも、読んでくださっている皆様のおかげです。
本当にありがとうございます!
来年も頑張りますので、よろしくお願いいたします。
更新はこれで最後ですが、Twitterの方でちょこっとだけ呟いたりはあるかもしれません。年末年始も原稿してますので、あまり頻繁には呟かないかもしれま……せんが……
それでは皆様、良いお年を……
「はふぅ……、美味しかったあぁ。もう食べられないぃ……」
明らかにぽっこりと出たお腹を撫でつつ、ソファでくつろいでいるマリエルちゃんは、呆れたように見つめる黒銀と真白の視線も物ともしない。
『まりえる、たべすぎ』
『うむ。動けぬようになるまで食べるとは……』
「だってぇ……クリステアさんの作るご飯が美味しいから仕方なくないですか? 登山家がそこに山があれば登りたくなるように、美味しいものがあれば食べたくなるのが人情ってものじゃないですか」
いやそれ例えがよくわからないから。
美味しいって言ってくれるのは嬉しいけどね。
『トザンカというのはよくわからんが、主の料理が美味いというのは同意する』
『だね』
「あはは、皆ありがとう。だけど、マリエルさんやっぱり食べすぎよ? 制服が入らなくなったらどうするの」
そう、食べ過ぎて体型が変わると体に合わせて作った制服が入らなくなるじゃない。
「大丈夫ですって。ちゃーんと対策してるの、忘れた?」
「ああ……そうだったわね」
マリエルちゃんは前世でコスプレイヤーだった経験を活かして、制服に色々と改造を加えていたのだった。
貴族のご令嬢が権威を示すためにゴテゴテと飾り付ける改造とは違い、密かにウエスト調整できたり、内ポケットなどをたくさんつけたりと実用的な改造を施していた。
そういえば私も、ウエスト調整のアイデアをいただいたんだったわ。
「……それでも、調整できるのにも限度があるんだから気をつけてね?」
「う……で、でもいざとなったらお直しは自分でできるし」
「そういう問題じゃないから。マリエルさんのシルエットが変わったら、ご飯あげませんからね?」
「う、は、はぁい……」
往生際の悪いマリエルちゃんにしっかりと釘を刺し、緑茶と羊羹を出した。
マリエルちゃんの羊羹は気持ち薄めにして。
「え? あれ? クリステアさん、これ……」
真白や黒銀に出された分とは明らかに違う厚みに戸惑うマリエルちゃんを華麗にスルーし、緑茶をすする。
「あの、クリステアさ……」
「ん? 何かしら?」
「ナ、ナンデモナイデス……」
マリエルちゃんは口ごもると、ちびちびと薄い羊羹を食べ始めた。
よしよし。私の料理のせいでマリエルちゃんの体型を変えさせるわけにはいかないもの。
「そうそう。制服と言えば、今日仕立て上がってくる予定なのよね」
「えっ、今頃? 届くのが遅くない? エリスフィード家ともなれば、どんな魔改造制服だろうが超特急で仕上がってきそうなものなのに」
確かに、貴族の中でも高位であるエリスフィード家の令嬢の制服ともなれば「どこの家よりも早く仕上げてお持ちします!」となるんだけどね……
でもきっと、どこの家も「うちのをどこよりも早く!」と言っているだろうから、私は「特に急がないから丁寧な仕事をしてほしい」とお願いしたのだ。
ミシンのないこの世界、しっかりとした縫製の仕立服はお高いのだ。超特急で作って雑な仕立てになるよりは、ゆっくり丁寧に仕立てて欲しい。
もちろん、我が家に納めるものだから変なものは納められないと、超特急でも良い仕立て上がりになるのかもしれないけれど、そのために職人の皆さんがしなくてもいい苦労をさせることになりそうだもの。そんなことでブラックな職場環境にさせるわけにはいかない。
それに、入学まで時間はあるのだから急ぐ必要なんてないと思うのよね。むしろ、あまり早くに納品されるとそれを見たお母様が「やっぱり、簡素過ぎやしないかしら……?」とさらなる装飾を施しそうだから、届くのはギリギリの方がいいと思ったのだ。
そうマリエルちゃんに言うと「あぁ……」と納得したような表情を見せた。
ありがとう、理解者がいて嬉しいよ……
魔改造のヤバさにマリエルちゃんと共感していると、ミリアがやってきた。
「クリステア様、制服が納品されたそうなのですが……」
「あら、もうそんな時間?」
「あっ、長々とお邪魔してごめんなさい! 帰りますね!」
私はマリエルちゃんが慌てて帰ろうとするのを引き止めた。
「せっかくだから、仕立て上がった制服を見ていかない? マリエルさんの改良点もどんな風にできたかチェックして欲しいわ」
「えっ……でも……いいの?」
「もちろんよ! さ、行きましょう」
マリエルちゃんがいてくれた方が、お母様もあれこれと余計な追加注文をしないと思うし……
私はマリエルちゃんと一緒に仕立て屋のサリーが待つ応接室に向かった。
「クリステア様、大変お待たせいたしました。お時間をいただいた分、良いものに仕立て上がったと思いますわ」
「わあ……」
サリーが自信満々に見せたそれは、想像通り……いや、それ以上に良いものだった。
「すごい……なんて丁寧な仕立て。あっこんなところに隠し刺繍が! 素敵!」
マリエルちゃんは自作レイヤーだった前世を思い出したのか、袖や裾の刺繍や細かな細工に目を輝かせながら観察していた。
うんうん。金糸や銀糸でギラギラの刺繍は絶対にしたくなかったので、同色の糸でさりげなく入れてもらったのよね。
試着してみると、締め付けもなく程よくフィットしていい感じだった。
「わあ……クリステアさん素敵! 上品だし、とっても可愛いです!」
私が着替えて衝立から出てくるなりマリエルちゃんが歓声をあげた。
「ええ……いいのではないかしら。ねえ、サリー?」
おおっと、お母様は少し物足りない様子だけれど、マリエルちゃんの反応を見て何も言えない様子。やっぱりマリエルちゃんを連れてきてよかった……!
「ええ、とてもお似合いですわ!」
サリーも満足げな様子で細かな部分をチェックしていた。
「ありがとう、とても気に入りましたわ。良い仕事をしていただいてありがとうございます」
私がお礼を言うと、サリーは首を振り、深々と礼をした。
「こちらこそ、満足のいく仕事をさせていただき本当にありがとうございました。それに……あのウエストを調整するアイデアは素晴らしいですわ! あれなら、何度もサイズ直しをする必要がなくなりますもの」
サリーもマリエルちゃんのように目を輝かせて言った。
「ああ、あれは彼女のアイデアなんです。私も良いものを作っていただくのだから長く着たくて、彼女のアイデアを使わせていただいたのですわ」
私はそう言ってマリエルちゃんを紹介すると、サリーがすごい勢いでマリエルちゃんに詰め寄った。
「まあ……! 貴女があれを? よかったら、私の店であのアイデアを使わせていただけないかしら? もちろん、アイデア料はお支払いしますわ!」
「へあっ⁉︎ え、あ、あの……は、はい!」
マリエルちゃんはタジタジとしながらもビジネスとなると気持ちが切り替わったようで使用料など細かな取り決めを後日するようサリーさんと約束していた。
「そうですか、貴女がメイヤー男爵様の……近々お伺いいたしますわね」
「ええ、よろしくお願いいたします」
サリーはそう約束すると、お母様が新しいドレスを注文したいようだったので、私たちは応接室を出たのだった。
「はあ……びっくりした」
「ふふ、よかったわね」
「ええ、思わぬところでお小遣い稼ぎができそうだわ」
うふふと笑うマリエルちゃんは完全に商人の顔をしていた。たくましい……
「はあ。制服も届いたし、あとは入学式を待つだけね」
そう、私達はもうじきアデリア学園に入学するのだ。
「あら、その前に入寮しなくちゃいけないわよ?」
そうだった。王都の館に慣れる前に、学園の寮に入寮するのだった。
「……入寮かぁ」
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お父様やお兄様は「どうせ聖獣契約のことは早々にばれてしまうので気にするだけ無駄だ」と言うのだけど……できれば知られないで済めばその方がいいんだけどなぁ。
「はあ……なるようにしかならないよね」
「え?」
「なんでもない。今度会うのは学園で、かしら?」
「そうね。学園生活、楽しみましょうね! じゃあ、また。学園で!」
「ええ、また」
私はマリエルちゃんを乗せた馬車を見送ると、自室へと戻った。
いよいよ、学園に入学かあ……
真白と黒銀のことは心配だけれど、お父様やお兄様がどうにかしてくれると信じるしかない。
ああ、どうか平穏な学園生活ができますように……!
---------------------------
更新遅くなりまして申し訳ありませんでしたー!
これで本年の更新は最後になります。
2019年は続刊も出していただいた上に、コミカライズまで……怒涛の一年間でした!
書き始めた当初は、まさかこんなことになるとは思ってもいなかったので、今でも夢なんじゃないのかと思うほどです。
それもこれも、読んでくださっている皆様のおかげです。
本当にありがとうございます!
来年も頑張りますので、よろしくお願いいたします。
更新はこれで最後ですが、Twitterの方でちょこっとだけ呟いたりはあるかもしれません。年末年始も原稿してますので、あまり頻繁には呟かないかもしれま……せんが……
それでは皆様、良いお年を……
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