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さあさあさあ!

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完成したオークレバーの竜田揚げを前にご満悦の私の傍で、シンは不審そうに竜田揚げを見ながら手順などをメモしていた。
「内臓に下味をつけて揚げるとか……こんなもん美味いのか? ったく、相変わらず変なことするよな……」
変とはなんだ失敬な。
私は目分量で適当に料理を作るから、シンは後でおさらいも兼ねて実際に作りながら大体の分量を書き出しているそう。
そうして完成したレシピはエリスフィード家に在籍する王都と領地の料理長達に共有され、公爵家として外に出しても問題ないレシピは私とシンの共同名義で商業ギルドに売りに出される。
そして、その売り上げは私とシンの収入になるのだ。
私はただ食べたいものを作っているだけでしっかりとしたレシピとして完成させてくれたのはシンだから、売り上げ全部シンに渡しても良かったんだけど、手柄を横取りしたみたいだからとシンが嫌がるので山分けということにして、今でもそれが続いている。今となっては私も自由に使えるお小遣いが増えてありがたいのだけれど。
私はそれをバステア商会で買うための軍資金にしているのである。ふふふ。
まあ、最近はエリスフィード家の予算で食材を買っているので最近はあまり使い道はないんだよねぇ。
だから、今は食器とかお茶とか、そういう細々としたもので良いものを買うようにしている。
他には、ガルバノおじさまに道具作りをお願いする時の依頼料として貯めているのだけれど、ガルバノおじさまは私の作ったご飯が依頼料だと言って、お金は受け取ってくれない。
仕方ないのでヤハトゥール酒をおまけに差し入れすることにしたんだけど、おじさまのお仕事の依頼料って、もっと高いと思うから他にもお返しできないか考えないとね……おっと、話が脱線しちゃったわ。
とりあえず、シンが今書いているレシピは材料がアレなので、売りに出されることはないだろうな。レバーの他にも薬草扱いの生姜とか使ってるし。
竜田揚げ美味しいのになぁ、残念。
でも内臓料理はゲテモノ料理と受け止められるだろうから、「悪食令嬢」の名が確固たるものになりかねないので秘密のレシピにせざるを得ないよね……?
うーん、レバーは好き嫌いが分かれる食材ではあるけれど、女性が不足しがちな鉄分補給に最適だから貧血でバタバタと倒れがちな貴族のご令嬢の皆さんにこそ食べて欲しい食材なんだけどなぁ。
ぼんやりと考え事をしている間に、シンがレシピをメモし終えたようで書きとめた用紙の横にそっとペンを置いた。
「……こんなもんかな。手順はこれで間違いないか?」
「どれどれ? ……うん、いいんじゃないかしら。ああそうね、米粉は片栗粉でもいいし、どちらも入手が難しいなら小麦粉で代用してもいいかもね。ちょっと仕上がりに差は出るかもしれないけれど」
「わかった。確かに、魔法で米を粉にするのなんて、お嬢しかいないだろうしな」
シンがメモを追加しつつニヤリと笑った。
うぐぐ、確かにそうかもしれないけれど……反論の余地がないのが悔しい。
「さ、さあ、作った人の特権である試食よ! 熱々のうちにいただきましょう」
……なんて、インベントリに入れておくから熱々のままなんだけどね?
気分よ、気分。
「え……いや、俺はちょっと遠慮したいかな……」
シンったら、顔を引きつらせて断るとか失礼だと思うわよ?
「いやいや、内臓って言っても、それ……肝だろ? ……いいのかよ」
「大丈夫よ、毒なんてないし」
私はジリジリと後退するシンの目の前にオークレバーの竜田揚げの乗った皿をずずいっと差し出す。
「いや毒が無いのは知ってる。量が少ないんだから、俺より黒銀くろがね様や真白ましろ様にやってくれ」
「二人の分は確保してあるから大丈夫よ。さあさあさあ! 料理人たるもの、味を確かめないでどうするの!」
「うっ……わかったよ。食えばいいんだろ」
シンは覚悟を決めて竜田揚げを一切れつまみ上げると、思い切ったように目をギュッと閉じて口に放り込んだ。


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コミカライズ版「転生令嬢は庶民の味に飢えている」(作画:住吉文子先生)毎月第二木曜日に更新!今月は14日です( ´ ▽ ` )お楽しみにー!
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