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大丈夫! ……大丈夫?

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オークの件は、レオン様から厳重注意を受けたものの、どうにかなりそうで本当によかったぁ……
レオン様は王家と契約している聖獣なのに、本当なら国に報告すべき私たちの聖獣契約のことを何故か内緒にしてくれているよのね。
レオン様曰く「国民の暮らしに大きな影響さえなきゃ基本的に俺は動いたりしねぇよ。他の聖獣どもが誰と契約しようが悪さしなけりゃ興味ねぇな」ですって。
確かに聖獣って、自分好みの魔力の持ち主にしか興味ないし、契約主が喜ぶことだけしかしようとしないものね。
オークの件も冒険者達でどうにかなる規模なら彼らに任せる予定で、冒険者ギルドが乗り出す前にとりあえず先行調査しようと思った矢先だったそうだし……
それを黒銀くろがね……私たちが殲滅してしまった、と。
実際にはそれなりの規模の集落ができていたから、黒銀くろがねが殲滅したことは結果オーライだったみたいだけど。
レオン様が申し出てくれなければ他領であるドーリス領で黒銀くろがねが暴れたことをどう説明するか困ったと思うのよね……ティリエさんが。
ま、まあとりあえずなんとかなったことだし、よかったよかった!

「……というわけで、安心して料理に専念できるわ!」
フンス!と鼻息荒く意気込む私を、シンは冷めた目で見ていた。もう、失礼ね。
「何が安心なんだか知らねーけど。まあ、はじめるか……で、何を作るんだ? ってか、解体からかよ……」
シンはため息混じりに言うと、解体前のオークを前に私の指示を待つ。
私達がいるのは、修練場裏手にある、ちょっとした広さの空き地。
館から少し離れたここなら、解体してもいいとお父様から許可をもらったのだ。
「今回は新作を作る予定なんだけど……内臓が必要なのよ」
「本当に内臓使うのかよ⁉︎ 貧民街スラムの奴らが食うからって、ありゃ貴族のお嬢様が食うようなもんじゃないぞ?」
確かに、貴族のお嬢様ならとてもじゃないけど食べられないでしょうね。
だがしかぁし!
前世の記憶がある私にはなんの障害にもならないのだ! ふはは!
「それはやってみないとわからないじゃない? さあ、解体をはじめてちょうだい!」
「はいは……て、おい? 終わるまで時間がかかるから屋敷に戻ってろよ。汚れるしグロいから見られたもんじゃねぇぞ?」
シンは私を追いやるようにシッシッと手を振った。んもー! 失礼極まりないわね!
「いいの、大丈夫。私も解体を覚えたいから見てるわ」
「絶対気分悪くなるからやめとけって。解体中は汚れるから倒れても運べねぇんだぞ?」
シンは私があまりのグロさに気を失うんじゃないかと心配しているようだけど、前世では「生命いのちをいただくことの大切さを学ぶ」ためのワークショップで豚やイノシシの解体動画を観た時だって、これが美味しいお肉になるんだ! と、頑張って最後までしっかり観たし、その後提供されたジビエ料理だってがっつりいただいたのだ。
今後美味しいごはんをいただくためにも、解体できる方がいいと思うのよね。
「大丈夫だってば。もし気分が悪くなるようなら、その前にちゃんと退散するから」
「主がこうまで言うのだ。何かあれば我が連れ帰るので遠慮なくやるがいい」
「くりすてあは、おれたちがみてるからもんだいない」
「そうそう! さあシン、やっちゃって!」
黒銀くろがね真白ましろの援護を受けた私が自信満々に言うと、シンは更に大きなため息をついた。
「はあ……俺は止めたからな。黒銀くろがね様に真白ましろ様はちゃんとお嬢を見ててくださいよ?」
シンはようやく私を説得するのを諦めたようで、解体用のナイフを手に取ったのだった。
「ええと、まずは血抜きからだな」
待ってました! 解体開始だー!

「内臓……内臓は傷つけないように……お願……い……!」
「ああもう、わかったから。ったく、だから言っただろ……黒銀くろがね様、早く連れて行ってください!」
「あいわかった。真白ましろよ、後は頼むぞ」
「……くりすてあのためだからしかたない。おれがせきにんもって、かいたいのしかたをおぼえるよ」
「ましろ……ごめんね……よろしくね……?」
「まかせて!」

そうして早々にギブアップした私は、黒銀くろがねに抱っこされ強制退場することになったのだった。
……やっぱ、テレビで観るのと、実際に目の前で解体されるのを見るのは違ったよ……うぷっ。
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