上 下
109 / 372
連載

大丈夫! ……大丈夫?

しおりを挟む
オークの件は、レオン様から厳重注意を受けたものの、どうにかなりそうで本当によかったぁ……
レオン様は王家と契約している聖獣なのに、本当なら国に報告すべき私たちの聖獣契約のことを何故か内緒にしてくれているよのね。
レオン様曰く「国民の暮らしに大きな影響さえなきゃ基本的に俺は動いたりしねぇよ。他の聖獣どもが誰と契約しようが悪さしなけりゃ興味ねぇな」ですって。
確かに聖獣って、自分好みの魔力の持ち主にしか興味ないし、契約主が喜ぶことだけしかしようとしないものね。
オークの件も冒険者達でどうにかなる規模なら彼らに任せる予定で、冒険者ギルドが乗り出す前にとりあえず先行調査しようと思った矢先だったそうだし……
それを黒銀くろがね……私たちが殲滅してしまった、と。
実際にはそれなりの規模の集落ができていたから、黒銀くろがねが殲滅したことは結果オーライだったみたいだけど。
レオン様が申し出てくれなければ他領であるドーリス領で黒銀くろがねが暴れたことをどう説明するか困ったと思うのよね……ティリエさんが。
ま、まあとりあえずなんとかなったことだし、よかったよかった!

「……というわけで、安心して料理に専念できるわ!」
フンス!と鼻息荒く意気込む私を、シンは冷めた目で見ていた。もう、失礼ね。
「何が安心なんだか知らねーけど。まあ、はじめるか……で、何を作るんだ? ってか、解体からかよ……」
シンはため息混じりに言うと、解体前のオークを前に私の指示を待つ。
私達がいるのは、修練場裏手にある、ちょっとした広さの空き地。
館から少し離れたここなら、解体してもいいとお父様から許可をもらったのだ。
「今回は新作を作る予定なんだけど……内臓が必要なのよ」
「本当に内臓使うのかよ⁉︎ 貧民街スラムの奴らが食うからって、ありゃ貴族のお嬢様が食うようなもんじゃないぞ?」
確かに、貴族のお嬢様ならとてもじゃないけど食べられないでしょうね。
だがしかぁし!
前世の記憶がある私にはなんの障害にもならないのだ! ふはは!
「それはやってみないとわからないじゃない? さあ、解体をはじめてちょうだい!」
「はいは……て、おい? 終わるまで時間がかかるから屋敷に戻ってろよ。汚れるしグロいから見られたもんじゃねぇぞ?」
シンは私を追いやるようにシッシッと手を振った。んもー! 失礼極まりないわね!
「いいの、大丈夫。私も解体を覚えたいから見てるわ」
「絶対気分悪くなるからやめとけって。解体中は汚れるから倒れても運べねぇんだぞ?」
シンは私があまりのグロさに気を失うんじゃないかと心配しているようだけど、前世では「生命いのちをいただくことの大切さを学ぶ」ためのワークショップで豚やイノシシの解体動画を観た時だって、これが美味しいお肉になるんだ! と、頑張って最後までしっかり観たし、その後提供されたジビエ料理だってがっつりいただいたのだ。
今後美味しいごはんをいただくためにも、解体できる方がいいと思うのよね。
「大丈夫だってば。もし気分が悪くなるようなら、その前にちゃんと退散するから」
「主がこうまで言うのだ。何かあれば我が連れ帰るので遠慮なくやるがいい」
「くりすてあは、おれたちがみてるからもんだいない」
「そうそう! さあシン、やっちゃって!」
黒銀くろがね真白ましろの援護を受けた私が自信満々に言うと、シンは更に大きなため息をついた。
「はあ……俺は止めたからな。黒銀くろがね様に真白ましろ様はちゃんとお嬢を見ててくださいよ?」
シンはようやく私を説得するのを諦めたようで、解体用のナイフを手に取ったのだった。
「ええと、まずは血抜きからだな」
待ってました! 解体開始だー!

「内臓……内臓は傷つけないように……お願……い……!」
「ああもう、わかったから。ったく、だから言っただろ……黒銀くろがね様、早く連れて行ってください!」
「あいわかった。真白ましろよ、後は頼むぞ」
「……くりすてあのためだからしかたない。おれがせきにんもって、かいたいのしかたをおぼえるよ」
「ましろ……ごめんね……よろしくね……?」
「まかせて!」

そうして早々にギブアップした私は、黒銀くろがねに抱っこされ強制退場することになったのだった。
……やっぱ、テレビで観るのと、実際に目の前で解体されるのを見るのは違ったよ……うぷっ。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

僕の家族は母様と母様の子供の弟妹達と使い魔達だけだよ?

闇夜の現し人(ヤミヨノウツシビト)
ファンタジー
ー 母さんは、「絶世の美女」と呼ばれるほど美しく、国の中で最も権力の強い貴族と呼ばれる公爵様の寵姫だった。 しかし、それをよく思わない正妻やその親戚たちに毒を盛られてしまった。 幸い発熱だけですんだがお腹に子が出来てしまった以上ここにいては危険だと判断し、仲の良かった侍女数名に「ここを離れる」と言い残し公爵家を後にした。 お母さん大好きっ子な主人公は、毒を盛られるという失態をおかした父親や毒を盛った親戚たちを嫌悪するがお母さんが日々、「家族で暮らしたい」と話していたため、ある出来事をきっかけに一緒に暮らし始めた。 しかし、自分が家族だと認めた者がいれば初めて見た者は跪くと言われる程の華の顔(カンバセ)を綻ばせ笑うが、家族がいなければ心底どうでもいいというような表情をしていて、人形の方がまだ表情があると言われていた。 『無能で無価値の稚拙な愚父共が僕の家族を名乗る資格なんて無いんだよ?』 さぁ、ここに超絶チートを持つ自分が認めた家族以外の生き物全てを嫌う主人公の物語が始まる。 〈念の為〉 稚拙→ちせつ 愚父→ぐふ ⚠︎注意⚠︎ 不定期更新です。作者の妄想をつぎ込んだ作品です。

婚約破棄の後始末 ~息子よ、貴様何をしてくれってんだ! 

タヌキ汁
ファンタジー
 国一番の権勢を誇る公爵家の令嬢と政略結婚が決められていた王子。だが政略結婚を嫌がり、自分の好き相手と結婚する為に取り巻き達と共に、公爵令嬢に冤罪をかけ婚約破棄をしてしまう、それが国を揺るがすことになるとも思わずに。  これは馬鹿なことをやらかした息子を持つ父親達の嘆きの物語である。

上司に「これだから若い女は」「無能は辞めちまえ!」と言われた私ですが、睡眠時間をちゃんと取れば有能だったみたいですよ?

kieiku
ファンタジー
「君にもわかるように言ってやろう、無能は辞めちまえってことだよ!」そう言われても怒れないくらい、私はギリギリだった。まともになったのは帰ってぐっすり寝てから。 すっきりした頭で働いたら、あれ、なんだか良く褒められて、えっ、昇進!? 元上司は大変そうですねえ。ちゃんと睡眠は取った方がいいですよ?

義妹の嫌がらせで、子持ち男性と結婚する羽目になりました。義理の娘に嫌われることも覚悟していましたが、本当の家族を手に入れることができました。

石河 翠
ファンタジー
義母と義妹の嫌がらせにより、子持ち男性の元に嫁ぐことになった主人公。夫になる男性は、前妻が残した一人娘を可愛がっており、新しい子どもはいらないのだという。 実家を出ても、自分は家族を持つことなどできない。そう思っていた主人公だが、娘思いの男性と素直になれないわがままな義理の娘に好感を持ち、少しずつ距離を縮めていく。 そんなある日、死んだはずの前妻が屋敷に現れ、主人公を追い出そうとしてきた。前妻いわく、血の繋がった母親の方が、継母よりも価値があるのだという。主人公が言葉に詰まったその時……。 血の繋がらない母と娘が家族になるまでのお話。 この作品は、小説家になろうおよびエブリスタにも投稿しております。 扉絵は、管澤捻さまに描いていただきました。

【短編】冤罪が判明した令嬢は

砂礫レキ
ファンタジー
王太子エルシドの婚約者として有名な公爵令嬢ジュスティーヌ。彼女はある日王太子の姉シルヴィアに冤罪で陥れられた。彼女と二人きりのお茶会、その密室空間の中でシルヴィアは突然フォークで自らを傷つけたのだ。そしてそれをジュスティーヌにやられたと大騒ぎした。ろくな調査もされず自白を強要されたジュスティーヌは実家に幽閉されることになった。彼女を公爵家の恥晒しと憎む父によって地下牢に監禁され暴行を受ける日々。しかしそれは二年後終わりを告げる、第一王女シルヴィアが嘘だと自白したのだ。けれど彼女はジュスティーヌがそれを知る頃には亡くなっていた。王家は醜聞を上書きする為再度ジュスティーヌを王太子の婚約者へ強引に戻す。 そして一年後、王太子とジュスティーヌの結婚式が盛大に行われた。

【完結24万pt感謝】子息の廃嫡? そんなことは家でやれ! 国には関係ないぞ!

宇水涼麻
ファンタジー
貴族達が会する場で、四人の青年が高らかに婚約解消を宣った。 そこに国王陛下が登場し、有無を言わさずそれを認めた。 慌てて否定した青年たちの親に、国王陛下は騒ぎを起こした責任として罰金を課した。その金額があまりに高額で、親たちは青年たちの廃嫡することで免れようとする。 貴族家として、これまで後継者として育ててきた者を廃嫡するのは大変な決断である。 しかし、国王陛下はそれを意味なしと袖にした。それは今回の集会に理由がある。 〰️ 〰️ 〰️ 中世ヨーロッパ風の婚約破棄物語です。 完結しました。いつもありがとうございます!

婚約破棄 ~家名を名乗らなかっただけ

青の雀
恋愛
シルヴィアは、隣国での留学を終え5年ぶりに生まれ故郷の祖国へ帰ってきた。 今夜、王宮で開かれる自身の婚約披露パーティに出席するためである。 婚約者とは、一度も会っていない親同士が決めた婚約である。 その婚約者と会うなり「家名を名乗らない平民女とは、婚約破棄だ。」と言い渡されてしまう。 実は、シルヴィアは王女殿下であったのだ。

《勘違い》で婚約破棄された令嬢は失意のうちに自殺しました。

友坂 悠
ファンタジー
「婚約を考え直そう」 貴族院の卒業パーティーの会場で、婚約者フリードよりそう告げられたエルザ。 「それは、婚約を破棄されるとそういうことなのでしょうか?」 耳を疑いそう聞き返すも、 「君も、その方が良いのだろう?」 苦虫を噛み潰すように、そう吐き出すフリードに。 全てに絶望し、失意のうちに自死を選ぶエルザ。 絶景と評判の観光地でありながら、自殺の名所としても知られる断崖絶壁から飛び降りた彼女。 だったのですが。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
番外編を閲覧することが出来ません。
過去1ヶ月以内にレジーナの小説・漫画を1話以上レンタルしている と、レジーナのすべての番外編を読むことができます。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。